63「雨の中の戦い」
ポイズントードはじわりじわりと近づいて来る。
馬車を取り囲むように私達の逃げ道をなくす。
グーグーと鳴く声が余計に不気味さを現していた。
「タクト、まだかよ。これじゃあ、あいつ等の思う壺になってしまうぜ」
「もういいだろう。エリザ、魔法を頼む」
エリザは両手を突き出すと魔法の詠唱をはじめる。
と、ポイズントードは何かを察したように動きを止める。
「気づかれたんじゃないのか?」
今さら気づいてももう遅い。
もう既にエリザの魔法エリアに入っているのだ。
エリザの魔法は間髪入れずに発動された。
「零氷が紡ぎし雫、氷雪の飛礫となりて、空間を切り裂け『ダイヤモンドダスト!』」
空気中の雨粒が冷たい氷と化し冷気を放つ。
そして、パチパチと小さな破裂音を出しながらポイズントードを凍らせて行った。
「よし、ガルド、プリシア!総攻撃だ!」
「待ってました!食らいやがれ!『爆裂剣!』」
ガルドの大剣がポイズントードを捉えると爆炎を放ちながら切り裂く。
しかし、分厚いポイズントードの肉に阻まれて弾かれてしまう。
「何だよこいつ。俺の爆裂剣を弾きやがったぞ!」
さずがは衝撃耐性を持っているだけのことはある。
ガルドの爆裂剣も精度が高まっているのにも関わらず弾くなんて。
これでは倒すのに時間がかかり過ぎてしまう。
エリザの魔法にもタイムリミットがあるのだ。
あいにくポイズントードは冬眠状態に入っている。
チャンスは今しかない。
「ルーン。アシットレインでポイズントードの防御力を落としてくれ!」
「わかりましたわ。大いなる大地に降り注ぐ雨よ、蒼き酸の飛礫となりて、かの者を洗い流せ『アシットレイン!』」
ルーンを中心に魔法陣が浮かび上がると空から青い酸の雨が降り注ぐ。
氷を溶かしながらポイズントードを洗い流すように肉を爛れさせた。
「よし、ガルド!プリシア!とどめをさせ!」
「よし、今度こそ。くらえ!『爆裂剣!』」
ガルドの大剣がポイズントードを捉えて爆炎を放つ。
大剣は分厚い肉に阻まれて途中で止まったが、ガルドは強引に大剣を振り下ろした。
「うぉぉぉらぁっ!」
血飛沫を上げながらポイズントードは真っ二つに裂けて沈黙する。
アシットレインをかけても、これだけの抵抗力を持ってるとは。
ルーンのアシットレインの精度を高める必要があるな。
「今度は私の番。さっくりやっちゃて!『鉄鎖裂弾!』」
プリシアはポイズントードの口の中へ爆弾を投げこむ。
すると、ブスンと鈍い音を立てて鉄の刃がポイズントードの体を切り裂いた。
ガルドの爆裂剣とは違い、プリシアの鉄鎖裂弾は効果的だ。
いくら耐衝撃性のある分厚い肉を持ってるからと言って、内部まではカバーできない。
内側を狙えば思った以上の効果を期待できるのだ。
ガルドとプリシアは次々とポイズントードを狩って行く。
それでも魔法が切れる前に狩れたのは半分だった。
「タクト。ダイヤモンドダストの効果が切れるわ」
「わかった。ガルド、プリシア、戻って来い!」
私達は再び馬車を中心に集まって構える。
魔法の効果が切れるとポイズントードは静かに目を開けてグーグーと唸り出す。
その様子を見ていたカイザルが口を開いた。
「まだ、半分も残っているじゃないか。これからどうするんだ?」
次のダイヤモンドダストを放つまでには魔力回復の時間が必要だ。
まともに戦っても耐衝撃性のある分厚い肉に阻まれる。
それに毒を持った舌に絡まれれば、大ダメージを食らってしまう。
「よし、ルーン。グラシスの魔法でポイズントードの動きを封じてくれ」
「大地よりい出し伊吹よ、漆黒の鎖となりて、かの者を絞殺せ『グラシス!』」
ルーンが両手を合わせて魔法を詠唱するとポイズントードの足元に魔法陣が浮かび上がる。
そして大地から無数のツタが何本も伸びて来てポイズントードに絡みついた。
ポイズントードはもがきながら必死に逃れようとするが、もがけばもがくほどツタはキツク締まって行った。
「よし、ガルド、大車輪でポイズントードを切り裂け!」
「こんな奴らに奥義を使うまでもないぜ」
「斬撃の大車輪ならポイズントードに大ダメージを与えられる」
「仕方ない。見せてやるよ、俺の奥義を!奥義!『大車輪!』」
ガルドは高く飛び上がると大剣を立てて回転しながらポイズントードに切りかかる。
その姿はその名のごとく大車輪。
ポイズントードを真っ二つに切り裂くとライン上にいた他のポイズントードも切り裂いて行く。
一太刀で3匹のポイズントードを仕留めることが出来た。
「俺の手にかかればこんなものだ」
ガルドは大剣を肩に担ぎ決め台詞を呟く。
その雄姿からはゆるぎない自信が溢れていた。
ガルドの大車輪も精度が高まって来たようだ。
もっと経験を積めばこの上ない力になりうる。
今後に期待しよう。
「ガルドばっかり、ずるいわ。私だってやれるんだから!」
「待て、プリシア!そいつらは冬眠状態に入っていないんだぞ!」
プリシアはポイズントードに近づくと口の中へ爆弾を放り投げようとする。
すると、ポイズントードが口を開けて毒の舌をプリシアの足に絡ませてきた。
「キャッ!」
ポイズントードの舌からじわりと酸の毒が溢れ出して来る。
プリシアの衣服がじゅわっと音を立てながら白い煙を上げる。
しかし、鬼蜘蛛の糸で精製された衣服が酸を弾いていた。
耐水性のある鋼糸だから酸を防ぐことができたのだろう。
「プリシア、大丈夫か?」
「何とか。でも、これじゃあ攻撃は出来ないわ」
「おらぁ!」
すぐさまガルドがポイズントードの舌を断ち落とす。
「プリシアはそこで見ていろ。俺がまとめて狩ってやるぜ!」
ガルドは再び大車輪を放ちポイズントードを狩って行く。
直線状に放てる奥義だけにまとめてポイズントードを狩ることが出来た。
そして、ガルドは最後のポイズントートにとどめをさした。
「これで終わりだ」
「やっと終わったか。一時はヒヤヒヤしたぞ」
「高みの見物をしていたお前に言われたくない」
「へへへ。それは俺の性分なもんでね」
カイザルは悪びれた様子もなくニヤリと笑う。
さっきまで激しく振っていた雨も弱まり、雲の切れ間から太陽が顔を出す。
「それじゃあ先を急ぐぞ」
「それよりどこかで体を温めない。これじゃあ風邪を引いちゃうわ」
「仕方がない。どこか開けた場所で休もう」
私達は馬車に乗り込むと休息をとれる場所を探す。
森の中は危険なので森を抜けるまで馬車を走らせて。
そして森の出口まで来ると開けた場所で休息をとった。




