62「森の中の魔物」
翌朝、シグの街の駅舎で馬車を借りて旅の準備をする。
まずは食料と水の確保だ。
水はエリザの魔法でもなんとかなるのだが、飲み水は普通の水がいいだろうと言うことになった。
それと解毒用の薬の確保。
毒を持ったモンスターが多い地域だけに念を入れておく方が無難だろう。
「準備は整ったな。よし、出発するぞ」
「タクト。モンスターの情報も仕入れておいた方がいいんじゃない?」
「そうだな。生息地ぐらいは押さえておいた方がいいかもな」
私とエリザはガルド達をその場で待たせてギルドへ向かった。
ギルドは朝からと言うのにたくさんの冒険者で賑わっていた。
「おい、聞いたかよ。デスフラワーを50体討伐した冒険者がいるんだってよ」
「マジかよ。どうやったら50体なんて倒せるんだ」
掲示板の前でひ弱そうな冒険者が私達の噂話をしている。
「眉唾じゃないのか。本当は1体だけしか倒してないのに話を盛ったとか」
「ありえるな。ガハハハ」
おいおい、お前達の耳はどうなっているんだ。
私達がそんなつまらない真似をするわけないだろう。
まあ、見た目から弱そうなキミ達なら考えられない訳でもないが。
「ねぇ、タクト。あいつらいいように言っているわよ」
「ほっておけ。どうせ本当のことを知ったって驚くだけだしな。それよりモンスターの情報を集めよう」
掲示板に掲載されているモンスターは、湿地帯に生息しているポイズントードにステップ地帯に生息している紅蓮サソリ。
その他は草原地帯に群生しているデスフラワーと。
名前を上げれば数は知れずだが、主なモンスターはこれくらいだろう。
他の地域と違って一体辺りの報酬も1万ゴールドと少ない。
それは群れで生息しているからだ。
「ヴェズベルト王都までは草原も湿地帯もステップ地帯も通るわね」
「これらのモンスターとは渡り合わないといけないってことだ」
と、私達の会話に割って入って来る冒険者がいた。
「お前達、ヴェズベルト王都まで行くのかよ?なら、俺が案内してやるぜ」
「誰だお前?」
「俺は冒険者のカイザルだ」
カイザルと名乗る男は見た目30代ぐらいのもさっとした男。
伸びた髭と襟足がだらしなさそうな感じを装っていた。
冒険者と自称した割には腰にさしているのは小剣ひとつ。
これでどうやってモンスターと渡り合っているのかいささか不思議である。
「タクト、こんな奴ほっておいて行きましょう」
「ああ」
「つれない奴らだな」
そそくさとその場から立ち去る私達を見やりながらカイザルがため息を吐いた。
「おい、タクト。随分、遅かったじゃないか?」
「変な奴に絡まれてさ。今、逃げて来たところ」
「変な奴?」
「それより情報は集まりましたか?」
「バッチリだ」
私達は馬車に乗るとシグの街を後にした。
その様子を物陰で見守っていたカイザルの気配など気づく訳もなく。
馬車は順調に進み2日目の朝を迎えていた。
草原地帯を越えミレーネの森の中に今いる。
森の名前の由来はアンナ女王が幼い頃仲の良かったの侍女からとったのだと言う。
何でもミレーネの森に生息している花が侍女の面影と重なったかららしい。
何とも素敵は話だ。
「旦那、雲行きが怪しくなって来ましたよ。これは一雨降りそうですね」
「なるべく急いでくれ。何か嫌な予感がする」
空を見やるとどんよりと鈍色の雲が覆い隠す。
私の不安を煽るかのように遠くの空からはゴロゴロと雷の音が聞えていた。
森の中に振る雨ならばやり過ごせそうな感じもするが、森と雨の組み合わせに一抹の不安を覚える。
それはジメジメしていたクロス城の墓場を想い出させるからだ。
さすがに森の中でアンデッドは出ないだろうが、警戒することに越したことはない。
しばらくすると雨は本降りとなり激しく幌を叩いた。
「こりゃ、前が見えない。これ以上、進むのは無理だな」
「仕方がない。木陰で雨をやり過ごそう」
ザアザアと降りしきる雨の中で私達は不安げに外を眺めていた。
「こんなところでモンスターと鉢合せしたらいやだな」
「嫌なこと言わないでよ、ガルド。本当に出たら怖いじゃない」
と、ザザザっと音を立てながら幌が揺れる。
「キャー、何?」
「おいおい、いきなり悲鳴とは随分な歓迎だな」
「お前は」
カイザルは合羽を羽織りながらずぶ濡れになっている。
そして不敵な笑みを浮かべると言って来た。
「もう忘れたのか。俺はカイザルだ」
「何しに来たんだ?」
「何しにって、あんたらが心配だったから着いてきたんだ」
「ずっとつけて来たのか?」
カイザルはニタリと笑いながら馬車に乗り込む。
「こんな降りになるとはな」
「タクト。そいつは誰だ?」
「こいつよ。シグの街で絡んで来た奴って」
「俺達に何か用なのか?」
ガルドの質問にカイザルは悪びれた様子もなく胡坐をかく。
神経が図太いと言うか遠慮がないと言うか、ガルドといい勝負だな。
それにしてもあまり気持ちのいいものでもないな。
私達のファンというならすこしは歓迎してもいいが、目的が何かわからない。
もし、私達を貶めるために着いて来たのだったとしたら容赦はしないけど。
「ここいらはポイズントードが出るんだよ」
「ポイズントードだって!湿地帯に生息しているんじゃないのか?」
「やつらはジメジメしたところを好むからな。こんな日の森の中じゃ奴らの格好の場所だ。耳を澄ませてみろ。聞こえるだろ。奴らの声が」
耳を澄ませてみても雨音しか聞こえない。
けれど、その中でグーグーと鈍い音がしている。
その音はひとつだけでなく馬車の周りからたくさんの音が鳴り響いていた。
「奴らが来たぜ。追い払わないと馬が飲まれてしまうぜ」
私達は雨の降りしきる中、馬車から飛び出す。
すると、森の木々の間からポイズントードが顔を出した。
その数はざっと見ても30はくだらない。
馬車を取り囲むように森の中に潜んでいる。
「タクト、不味いぞ。辺りを囲まれた」
「仕方がない。ここで戦うしかない」
私は戦術帳を取り出しポイズントードのページを確かめる。
――ポイズントード――
種類:群れで行動する巨大毒ガエル。
全長:3メートル
知性:低い
耐性:衝撃耐性
弱点:氷の魔法に弱い。体温が低下すると冬眠する。
特徴①:毒の舌を持っている。
特徴②:草陰に身を潜めて獲物を狙う
生息場所:湿地帯
倒し方:氷の魔法で体温を下げて動きを止める
まずはダイヤモンドダストで辺りを凍らせるのがいいだろう。
体温を下げポイズントードの活動を停止させたら総攻撃。
ガルドには爆裂剣を、プリシアには鉄鎖裂弾が効果的だ。
ルーンはもしもに備えての準備として控えていてもらう。
「私は?」
「プリムは待機だ」
「ちぇっ。私だってやれるのに」
活動停止しているポイズントード相手ならばプリムでも大丈夫だとは思うが万が一ってこともある。
ここは戦いに慣れている私達だけで作戦を遂行するのがいい。
「よし、みんな。できるだけポイズントードを引き寄せるんだ。ダイヤモンドダストが届く範囲までな」
「おとりは俺の十八番だぜ。任せておけ」
ガルドは降りしきる雨の中、森に向かって駆け出す。
そして威嚇するように大剣を振り回しながらポイズントードをけん制する。
ポイズントードはグーグーと唸りながら狙いを定める。
そして一瞬の隙をついてガルドの腕に舌を絡ませた。
「しまった!」
ガルドはもがきながら必死に舌を振り払おうとする。
しかし、暴れる度にポイズントードの舌からじんわりと毒が溢れ出す。
「うぉっ!腕が焼ける!」
「ポイズントードの毒には酸が含まれてるからな。ありゃ腕が溶けるぞ」
すかさずプリシアが鉄鎖裂弾をポイズントードの口の中に放り込む。
ガルドの腕を抑えていたポイズントードは串刺しになりながら沈黙した。
「ルーン。回復魔法を頼む。腕が焼けるように痛い」
「待っていてください、ガルドさん。天より零れし雫、清らかな息吹となりて、かの者に力を与えん『キュア!』」
光の粒子がガルドの腕に集まるとキラキラと輝きながら傷口を修復して行く。
焼けただれていた皮膚も痕が残らないくらい奇麗になった。
しかし、ポイズントードの毒に酸が含まれていたのは予想外だ。
ただの毒でも厄介なのに、それに加えて酸だなんて。
接近戦で惹きつけるのにも限界がある。
ここは間合いをとりながらポイズントードが近づいて来るまで待つのがいいかもしれない。
「よし、作戦変更だ!みんな一か所に集まれ!奴らが近づいて来るまで手出しはするな!」
「おいおい、馬車まで巻き込まなくてもいいだろうに」
カイザルは顛末を知っているかのようで呆れて言い放つ。
馬車の運転手と言うと悲鳴を上げて荷台に隠れて震えていた。
まあ、変に取り乱すより、そうしていてくれた方がこちらには都合がいいが。
私達は雨に打たれながらポイズントードが近づいて来るまで待った。




