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61「別れ」

シグの街へ戻るとマルク達が出港の準備をはじめていた。

二週間が経ち交渉の期限を迎えたためだ。

サンドリア王国の騎士達も乗船を済ませている。

これで厄介ごとがなくなると入港管理者はホッと胸を撫で下ろしていた。


「俺達、とんだ厄介者になちゃったな」

「マルク、気をつけて帰れよ」

「わかってるって」

「お前とは短い間だったが楽しかったぜ」

「お互いにな」


ガルドとマルクは拳を合わせて別れの挨拶をする。

マルクもこの旅で随分と大人になったようだ。


「じゃあ、マルク。元気でね」

「何だよ、泣いているのか?」

「泣いてなんかいないよ。ちょっと目にゴミが入っただけ」


プリシアは溢れる涙を拭いながらマルクと握手をする。


「それじゃあ、マルク。出航するぞ!」

「はいよ、親方!それじゃあな」


マルクは桟橋を掛けて行くと大型船に乗り込んだ。

感動的な私達の別れとは裏腹に監視役の使者は苦虫を噛み潰していた。

サンドリア王都に戻ってからどんな報告をするのか。

ブレックス国王の怒りをかうことは目に見えている。

まあ、ノーザンを離れれば私達に関係のない話だが。

私達はマルクの乗った船が見えなくなるまで見送った。


「良い奴だったな」

「何だか心がポカンと穴のあいたような感じがする」

「それだけプリシアの中でマルクの存在が大きかったってことだ」


私達はその足でギルドへ報告へ向かった。

ギルドで報告を済ませると受付の人は事後報告ですねと言って苦笑いを浮かべた。

事前報告でも事後報告でも問題ないのだが、手続き上の都合で事前の方が好まれる。

まあ、突然モンスターと出くわすこともあるから仕方ないのだが。


「デスフラワー討伐で50万ゴールドか。こいつは美味しい依頼だ」

「一体1万ゴールドで50体分だからな」

「危険を犯しただけのことはあるわね」

「金も入ったことだし一杯やりに行こうぜ」


私達は次の作戦会議をしに裏酒場へ足を運んだ。

デスフラワーを討伐してマネチェ村を救ってもまだ、誤解が解けていない。

相変らずシグの街の人達は私達をサンドリアの犬だと思っている。

受け入れてくれないなら受け入れてくれるところで飲むだけだが。


「ただいま、マスター」

「戻ったのかい」

「おい、マスター。例の奴を頼むよ」


ガルドはどかりとカウンターに腰を下ろして例の酒を頼む。

マスターはコクリと頷いて店で一番うまい酒を差し出す。

いつから顔馴染になったのだろうか。

酒のみにしかわからない目には見えない関係が形成されているのだろう。


「くぅー、こいつもいいな。お前達も飲んでみろよ」

「けど、盗品なんでしょ?」

「その酒は正規ルートから仕入れた酒だ。心配はしなくていいよ」

「それなら」


そう言ってエリザも酒を口に運ぶ。

クーっとおやじのような声を出して満足げな顔を浮かべる。


「これ美味しい」

「だろ。タクトも飲んでみろよ」


私とルーンも酒を楽しむ。

芳醇な香りが口いっぱいに広がると胸が焼けるように熱くなる。

体の隅々までアルコールが浸透していくかのよう。

プリシアは言うまでもなく先に酒を楽しんでいた。


「マスター、私にもちょうだい?」

「プリムにはまだ早い」

「えー、その子だって飲んでいるじゃない」


不服そうな顔を浮かべるプリムにプリシアはニヤリと笑う。

そして見せつけるかのように目の前で美味しそうに酒を飲んだ。

マスターの年齢判断の基準はよくわからないが、プリムのことを我が子のように思っているのだろう。

この際、プリシアにももっと自重してもらわないとな。

私はおもむろにプリシアのグラスを取り上げる。


「ちょっと、何するのよ、タクト!」

「プリシアも酒はお預けだ」

「ちょっと、そっちのと一緒にしないでよ。私は立派なレディーなんだから」

「そっちのとは何よ!あなただってペチャンコの癖に!」


プリシアとプリムはない胸のことで争いをはじめた。

レディーと言うのはそう言うことを言うのではない。

もっと大人な振る舞いをする人物のことを言うのだ。

その横で酔っぱらったエリザがガルドの酒瓶を取り上げる。


「ガルド、そのお酒をこっちによこしなさい」

「おい、エリザ。まだ、グラスに酒が入っているだろ?」


ガルドが酒瓶を取り上げようとするとエリザは必死になって酒瓶を守った。

これではお手本どころかエリザの方が子供に見える。

こう言う大人にならないようになと心の中で呟いた。


「それで、タクト。次もモンスターの討伐か?」

「サラーニャにはまだ来たばかりだ。情報収集をする意味でも他の場所に行こうかと考えている」

「そう言うことならヴェズベルト王都に行ってみるのが一番だ。この国は女王が統治していてな。騎士団も女性だけで構成された女騎士団があるくらいだぞ」

「女騎士団か。何だかエリザみたいなのがいっぱいいそうで怖いな」

「ちょっと!なんか言ったガルド!」


ベロンベロンに酔っ払ったエリザがガルドに噛みつく。

ガルドは面倒臭そうにエリザを押しやった。


「女性が活躍しているなんて理想的な都ですわね」

「まあ、その分男の肩身が狭くなっているんだけどな」


この世界はどの国も男性優位の世界だ。

国王も男性だし大臣も男性が多い。

戦いに出るのも男、行商に行くのも男。

男、男、男の社会だ。

その中で女王が統治しているサラーニャは珍しい国。

王位継承者に男子がいなかったため女王が王位を継承したのだが。

当初は従う者がおらず苦労したそうだ。


「アンナ女王はサウスブルーの戦いを制した実力者だ。今じゃアンナ女王に逆らう奴なんていないよ」


サウスブルーの戦いと言うのはサウスブルーの覇権を握ろうとしてブレックス国王が仕掛けて来た戦いだ。

ブレックス国王は自らの権力を拡大させるためにサウスブルーの領海侵犯をしたのがはじまりだ。

しかし、アンナ女王率いるヴェズベルト軍勢の猛攻であっけなく撃破されてしまった。

その敗因は補給に時間がかかり過ぎたことだ。

サウスブルーはサラーニャよりの海域。

ノーベン地方からは程遠い。

それが決め手となった。

その戦いを経てアンナ女王の支持が高まり国がひとつに纏まったのだと言う。


「アンナ女王か。一度、会ってみたいものだな」

「そうそう普通の冒険者がお目通りに敵う訳ないさ。まあ、方法がないって訳でもないけどな」

「それは?」


意味深な素振りをするマスターに食いつくように問いかける。


「聖女さ。アンナ女王は聖女を買っている。聖女とならば謁見も可能だろう」

「プリムのことか?」

「プリムは正当な継承者じゃないが、白銀の十字架を使いこなせる。それだけでも女王に会う資格は十分にあるよ」


私はまだ喧嘩をしているプリムを見やる。

プリムを出しに女王と会うのは気が引けるが、他に方法もない。

女王に謁見できればサラーニャのことも良く知れるはず。

私の視線に気づいたプリムがこちらを見返す。


「タクト、何か言った?」

「いいや何でもない」


プリムはきょとんとしながらプリシアと喧嘩の続きをした。


「タクトさん、次はアンナ女王に謁見することで決まりですか?」

「とりあえずヴェズベルト王都に向かってみよう。話はそれからだ」

「ヴェズベルト王都はここから東へ行ったところにあるウルネス湖の湖畔にある。馬車なら1週間の道のりだ」

「また、大旅行になりますわね」


私達は酒を楽しみながらマスターから聞ける情報を集めた。

マスター曰く、ヴェズベルトに行く道中にも難所があるらしいことがわかった。

馬車の冒険は、これまでにも経験積みだが準備が必要だ。

準備は翌朝に回すとして、今夜は酒を楽しんだ。


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