60「白銀の十字架」
私達はデスフラワーが毒ガスを吐くギリギリのラインまで間合いを詰める。
ガルドとプリシアを前衛にエリザ、ルーンと続く。
「みんな。準備はいいな」
「おうよ。いつでも大丈夫だ」
「こちらも準備が出来ています」
私が後方から確認をするとガルド達はこちらを向いて大きく頷く。
準備はOKだ。
後はタイミングが肝心。
進軍するのが早すぎてもダメ。
遅すぎても毒ガスの餌食になってしまう。
エリザが詠唱を終えるタイミングで進軍しなければならない。
「よし、エリザ。詠唱をはじめてくれ」
「わかったわ」
エリザは両手を突き出して魔法の詠唱をはじめる。
その横でガルドとプリシアが武器を構えながら待つ。
そして、
「空を駆ける旋風、風神の目となりて、大地を飲み込め『サンドストーム!』」
「ガルド、プリシア。今だ!」
魔法陣が浮かび上がり中から小さな竜巻が出現する。
辺りの空気を撒き込み大きくなりながらデスフラワーに向かって飛んで行く。
その陰に隠れるようにガルドとプリシアが進撃をはじめる。
デスフラワー達は危険を感知して花から毒ガスを放出しはじめた。
どす黒い毒ガスが辺り一帯に漂い始める。
その毒ガスを吸い込みながら砂嵐がかき消して行く。
すると、砂嵐が通過した場所にひとつの道が出来上がった。
ガルドとプリシアはその道を通って一気に間合いを詰める。
「焼き尽くせ!『紅蓮剣!』」
ガルドは空高く飛び上がると紅蓮の炎を纏った大剣をデスフラワーにぶち込む。
デスフラワーは業火に焼かれながら苦しそうに悶える。
間髪入れずにプリシアが爆弾を放つ。
「燃えちゃって!『火炎弾!』」
プリシアの手から離れた爆弾がデスフラワーにぶつかると四方八方に炎が飛び散る。
周りにいたデスフラワーにも炎が飛び移り燃えはじめる。
すると、他のデスフラワーが毒ガスを放出しはじめた。
徐々にガルド達の周りを取り囲み広がって行く。
「畜生。囲まれた!」
「ルーン。解毒魔法の準備だ!」
ルーンは両手を合わせながら魔法の詠唱をはじめる。
「ゲホゲホ。少し肺に入ったぜ」
「ガルド、攻撃を続けるよ」
「おうよ」
ガルドとプリシアは毒ガスを吸いながら必殺技を放つ。
しかし、毒の浸透する力が強くガルド達から活力が奪われて行った。
「ルーン!」
「混濁に染まりし吾子の、瞳より零れし雫で、かの者を浄化せよ『アンチデット!』」
光の魔法陣が浮かび上がるとガルドとプリシアの胸の辺りに光の粒子が集まる。
そしてキラキラと輝きながらデスフラワーの毒を浄化して行った。
「おっしゃー!回復完了。続けて行くぜ!『紅蓮剣!』」
ガルドは紅蓮の炎を纏った大剣を振り回しながらデスフラワーを焼き払う。
続くようにプリシアが攻撃を仕掛ける。
「燃えちゃって!『火炎弾!』」
プリシアの放った火炎弾がデスフラワーを焼いて行く。
それに逆らうかのようにデスフラワーは毒ガスをまき散らす。
すぐさまルーンのアンチデットで二人を解毒する。
そのループでデスフラワーの3分の1を焼き尽くすことが出来た。
「よし、エリザとどめの魔法を頼む」
「わかったわ」
エリザは詠唱をしながら少しづつ間合いを詰めて行く。
毒ガスが届かないギリギリのラインまで近づいて。
その間もガルド達は攻撃の手を緩めない。
そのおかげで毒ガスの濃度が薄まって来た。
「我に宿りし魔神の力、蒼き炎は空を燃やし、紅の炎は大地を焦がす、その力は根源成り『エクスプロード!』」
赤く染まった空からエネルギーの塊がゆっくりと降りて来る。
デスフラワーの所まで来ると蒼炎に燃える球体がエネルギーを圧縮させる。
次の瞬間、まぶしい閃光が辺りを覆い尽くすと轟音を立てながら圧縮されたエネルギーが解放された。
爆風が辺りを飲み込みながら円弧上に広がって行く。
デスフラワーは一瞬で灰と化し、大地に大きな赤茶けたクレーターを造った。
「すざましいな。エクスプロードの威力は」
「デスフラワーが一瞬で灰になっちゃったよ」
エリザの魔法に関心しているガルド達をよそにプリムは腰を抜かして座り込んでいる。
「本当にデスフラワーを倒しちゃうなんて……」
「まあ、これが私達の実力ね」
エリザは誇らしげに両手を腰に当てて自慢した。
「よし、デスフラワーは殲滅出来たな。これでマネチェの村も安泰だ」
「ありがとう、タクト。村のみんなも喜ぶわ」
「しかし、デスフラワーからは何も採れないんだな。マリンクラブとかみたいに甲羅やハサミでも採れたら小遣い稼ぎが出来るのに」
「毒を持ったモンスターだからな。体が毒で汚染されていて役には立たないよ。まあ、それでも報酬は頂けるんだから良しとしないとな」
ガルドは少し不満そうだったが私の言葉に納得したよう。
デスフラワーはマネチェに来たついでに討伐したものだから棚から牡丹餅と同じ。
毒を持ったモンスター戦も経験できたし経験値アップには繋がった。
「周辺にデスフラワーの種子がないか確認してからマネチェへ戻ろう。一つでも残したらまた大繁殖してしまうからな」
私達は周辺をくまなく探してデスフラワーの種子を一つ残らず焼き払った。
マネチェの村へ戻るとプリムの母親と村長が首を長くして待っていた。
「お母さん、ただいま!」
「プリム!大丈夫だったの?」
「タクト達、すごかったのよ!百も下らないデスフラワーを一瞬で焼き払っちゃって」
プリムは母親に抱き着きながら興奮して説明をする。
「先ほどの爆発がそうでしたか」
「村から見えたの?」
「見えたも何も何事かと皆が騒いでおった」
エクスプロードは使いどころを間違えるととんでもないことになるな。
気をつけよう。
「村長。デスフラワーは一掃した。これで一安心だ」
「そうかい。何とお礼を言っていいものか」
「俺達は人助けでやったことだ。気にするな」
村長は深々と頭を下げながら恐縮していた。
「それじゃあ、私達はこれで」
「もう帰っちゃうの?」
「シグの街で待っている奴がいるんでな」
「なら、私も連れて行って?役に立つからさ」
「プリム!」
プリムは母親の制止を振り切って私に縋りつく。
麒麟戦ではお世話になったが、役に立つと言われても困ってしまう。
シーフは戦闘ではほとんど役に立たない。
パーティバランスもあるしここは考えどころだ。
私が腕を組みながら考え込んでいるとプリムがすり寄って来た。
「いいでしょ、タクト?仲間にして損はないから」
すると、エリザが口を開く。
「いいんじゃない。子供がもうひとり増えたって何も変わらないわよ」
「エリザ、それどう言う意味?私が子供だって言いたいの?」
「あら、違ったかしら?」
エリザの心無い言葉にムッとしてブー垂れるプリシア。
まあ、足軽な仲間がいても足手まといにはならないだろう。
戦闘メインではなく補助的なことに役立ってもらおう。
「よし、わかった。プリムを仲間にしよう」
「ありがとう、タクト」
「プリム、皆さんに迷惑をかけないようにね」
「わかってるって。そうだ、これお母さんに預けるね」
プリムは裏酒場のマスターからもらった白銀の十字架を差し出す。
すると、プリムの母親はプリムの腕に手を添えると突き返した。
「これはプリムが持っていなさい。きっと役に立つから」
「うん。わかった」
プリムは白銀の十字架を首に下げる。
私はおもむろに白銀の十字架のことを尋ねた。
「この十字架はもしかして聖女の?」
「お若いのによくご存じで」
プリムの母親は目を細めて遠目を見やる。
「私の家は代々聖女の家系でした。その十字架は聖女の魔道具で魔法を強化させる働きを持っていますの。しかし、祖母の代で聖女は終わってしまいました」
「それはどうしてですか?」
「聖女は純潔な血筋でないと継承できないものなのです。私は祖母のレイチェルととある方との間に生まれた子です。もともと血筋の確かな婚約者がいたのですが、不慮の事故でなくなってしまったのです。その後でとある方と知り合い恋に落ちました」
プリムの祖母にそんな過去があったとは。
少し突っ込んだ質問をしてしまったようだ。
プリムははじめて聞いたことのように目をぱちくりさせている。
「なんか余計なことを聞いてしまったようですね」
「いいんです。いずれプリムにも打ち明けようと考えておりましたから」
「おばあちゃんにそんな過去があったなんて」
プリムは純粋な聖女ではないけれど、レイチェルの血を引いている。
麒麟戦で見せた力もプリムの中で眠っていたものなのかもしれない。
「それではプリムをよろしくお願いします」
「わかりました」
私達は馬車に乗り込みマネチェの村を後にした。
プリムは少し名残惜しそうに手を振る母親を見送った。




