59「デスフラワー」
翌日、ルーンの薬のおかげでプリムの母親は体を起こすまで回復していた。
軽めの朝食を済ませると私達に村長を紹介してくれた。
村長はこの村に住んでから80年あまりを過ごして来た。
そのため村のことに精通していて何でも知っている博識だ。
村長の話によると、村に病気が蔓延しはじめたのは1ヶ月くらい前から。
ちょうど村の西にデスフラワーが群生しはじめた頃と一緒だと言う。
村長が言うにはデスフラワーが吐き出す毒に侵されたらしい。
山から吹き下ろす西風が通り抜けるマネチェ村は風の通り道だ。
風上からデスフラワーの毒が村に流れ込んで村の人達が侵されたのだろう。
――デスフラワー――
種類:群生する食虫植物。繁殖力が非常に高い。
全長:5メートル
知性:低い
耐性:なし
弱点:炎の魔法に弱い。移動できない。
特徴①:毒ガスを放出する。
特徴②:甘い匂いを出して獲物を誘う。
生息場所:マネチェ村の付近
倒し方:炎で焼き払う
デスフラワーは戦術帳にも掲載されているモンスター。
自らの力で移動は出来ず、繁殖する時に種を飛ばして生息地を変える。
種子は粘着質のある粘膜で覆われていて他のモンスターの体にくっつく。
他の植物と同じように自然界で生き抜いて来たデスフラワーの知恵だ。
まあ、モンスターと言うところが他の植物と違うところだが。
「なら、デスフラワーを討伐しないと、また病人が生み出されてしまうな」
「デスフラワーを討伐してくれるのかい?」
「あたり前だろ。俺達に任せておけ」
縋るように私達を見やる村長の肩を叩いてガルドが豪語した。
デスフラワーはいずれ討伐しようとしていたモンスターのひとつだからちょうどいい。
小遣い稼ぎに根絶やしにしてやろう。
「で、デスフラワーはどのあたりにいるんだ?」
「私が案内するよ」
「プリム!」
「お母さん、心配しないでよ。タクト達といれば安心だからさ」
プリムの母親は不安げな様子で私達を見やる。
プリムの母親にとってプリムは大事なひとり娘だ。
私達が一緒とは言え、モンスターの所に行くなんて気が気じゃないだろう。
私は気休めとはいかないが母親を安心させるように言った。
「プリムのことは私達に任せてください。けっして無茶はさせませんから」
「……」
「お母さん、何も言わないってことは賛成だよね」
「……無茶しないでよ」
「お母さん、大好き!」
母親の許しを得てプリムは母親に抱き着いた。
「デスフラワーを討伐に行くなら、これを持って行きなさい」
「何だこれ?」
「マスクでしょうか?」
「気休め程度にしかならんだろうが、ないよりマシだ」
村長は布で出来たマスクを差し出す。
機密性が低くないよりはマシ程度の布マスク。
顔半分が隠れるのは否めないが、ありがたく受け取った。
「よし、プリム。デスフラワーのところまで案内してくれ」
デスフラワーの群生地はマネチェ村からほんの目と鼻の先。
西側の草原地帯を埋め尽くすように群生している。
その数は50を下らない。
「思ったよりも多いわね」
「どうせ動けないんだろ。そんなに警戒しなくても大丈夫だぜ」
ガルドがデスフラワーに近づくとデスフラワーの花がぽわんと膨らみ出す。
そして、どす黒い毒ガスを花から放出しはじめた。
「うっ、何だよ。この匂い」
「ガルド、風上に逃げろ!毒ガスに侵されるぞ!」
私達は風下から風上にへ走って逃げる。
ガルドも慌てて風上に逃げた。
しかし、毒ガスを吸い込んだようでゲホゲホと咳払いをしていた。
「畜生。毒ガスを吸っちまったぜ。肺が焼けるように熱い」
「ガルドさん、解毒の魔法をかけますわ。混濁に染まりし吾子の、瞳より零れし雫で、かの者を浄化せよ『アンチデット!』」
光の魔法陣が浮かび上がると、ガルドの胸の辺りに光の粒子が集まる。
キラキラと輝きながら毒を浄化させて行く。
しばらくするとガルドの呼吸がだんだんと落ち着いて行った。
思ってた以上の解毒魔法の効果だ。
はじめて使ったわりにはうまく出来た。
これもルーンが普段から魔法の練習を怠らなかったからだろう。
「ふー。助かったぜ」
「初見の敵だ。ガルド、もう少し慎重に行動しろ」
「悪い悪い。あいつ等を紅蓮剣で燃やしてやろうかと思ってな」
ガルドにしては勘が良い方だ。
デスフラワーの弱点を狙った攻撃を考えていたなんて驚きだ。
ガルドもこれまでの戦いの中で戦いのセオリーを身に着けたのだろう。
それはとても心強いことだ。
「しかし、これでは近づけませんわ」
「魔法を放つにも、もうちょっと距離を縮めないと届かないわよ」
デスフラワーの毒ガス攻撃は広範囲に広がる。
炎の魔法で攻撃するにもある程度間合いを詰めないと効果がない。
風上から近づく手もあるが、風上はデスフラワーが群生していて近づけない。
デスフラワーは移動はしないが、その分危険感知の能力が高い。
エリア内に少しでも近づこうものなら惜しみなく毒ガスを放出する。
こんな条件でどう戦うかが課題だ。
ヒットアンドアウェイで毒ガスが放出される前に紅蓮剣で攻撃する方法もあるが、それではガルドの体力が持ちそうにない。
プリシアの火炎弾もしかりだ。
ここはエリザのエクスプロードでデスフラワーを一掃したいところだが、詠唱をしている間に毒ガスに侵されてしまう。
打つ手がない。
「タクト、そんなに難しい顔をして何かいい作戦はないのかよ?」
「ガルドさん、無理を言っても仕方ありませんわ。毒の持ったモンスターですもの、安易に近づけませんわ。風があちらに向かって吹いていれば、まだやりようはありますけれど」
それだ!
エリザのサンドストームならば風を巻き起こせる。
デスフラワーが毒ガスを吐いたら、サンドストームで毒ガスを払う。
そしてガルドとプリシアに近づかせて紅蓮剣と火炎弾でデスフラワーを焼き払う。
再びデスフラワーが毒ガスを吐いて来たらルーンのアンチデットで解毒を行う。
そのままガルドとプリシアでデスフラワーを焼き払い、ルーンのアンチデットで解毒。
そのループを繰り返す。
その間にエリザのエクスプロードでとどめをさす作戦だ。
みんなに危険が及ぶ作戦だが、これしか方法がない。
私は頭の中で立てた作戦をガルド達に説明をした。
「それしか方法がないなら仕方ないよな」
「私はタクトを信じてる」
「私の解毒魔法がカギを握りそうですわね」
「しんがりは任せてよ」
みんなの意見は一致した。
「よし、作戦開始だ!」




