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58「謎の病」

翌朝、私達はシグの街の薬屋に来ていた。

もちろん、それはプリムの村の村人を治癒するための薬草集め。

どのような病に侵されているのかわからないので、店にある薬草をあるだけ購入した。


「お前さん方。薬草を買い占めて店でも開くのかい?」

「まあ、そんなものだ」


改めて説明するものなんなので私は適当なことを言って誤魔化す。

薬屋の店主は不機嫌そうな顔をしていたが、それ以上聞いては来なかった。

薬草が売れればお金も入るし、薬屋としては商売になる。

まあ、新しい薬草を手に入れるまでの間は不便になるが。

私は代金を払うと薬草を箱ごと持って店の外に出た。


「そんなにたくさん買ったの?」

「この店にある薬草は全て抑えた。これだけあれば足りるだろ。ガルド、他の薬草も馬車に積んでくれ」

「あいよ」


馬車はシグの街の駅舎で借りて来たもの。

マネチェの村までは馬車で2日かかる。

薬草を運ぶにも馬車が必要なのだ。


「タクトさん、私も準備が出来ましたわ」

「アンチデットは?」

「覚えて来ましたわ」


ルーンには念のため解毒魔法のアンチデットを覚えてもらった。

アンチデットで村人の病気が治るのかはわからないが、覚えていて困るものでもない。

それにサラーニャには毒を持ったモンスターが多いだけにこれから役立つだろう。


「準備はいいでやすか?」

「準備は整った。出してくれ」

「じゃあ、マネチェの村に向けて出発しやす」


馬車の運転手は馬に鞭をいれて馬車を走らせる。

私達は馬車に揺られながらマネチェの村へ旅立った。


サラーニャの風景はどことなくグラハム地方を思わせるような景色だ。

緑豊かな平原が遠くまで広がっている。

その中に珍しい動植物が野原を駆け巡っている。

真っ赤な蝶や七色の小鳥、甘い匂いを漂わせている青い花。

南国の楽園と言った感じだ。


「平和だな」


シグの街を出てから1日。

これといったモンスターに出会うことなく順調に進んでいる。

マネチェまではあと半分の道のり。

このままモンスターと出くわすことがないことを祈りたい。


「それでプリムさん。村の人達はどのような症状なのでしょうか?」

「みんな血の気が引いたような青い顔をしてうなされているの。食事もほとんど喉を通らなくてやせ細っているわ」

「そうですか」


ルーンは難しい顔をして考え込む。

症状を聞いただけで病気がわかるのか。

知っている知識を総動員して原因を突き止めようとしているようだ。


「ルーン。何か心当たりはあるのか?」

「50年前に流行ったトッケシ病に症状が似ていますわ」


トッケシ病は50年ぐらい前に世界で流行した病。

食欲不振、嘔吐、下痢、発熱などの症状があり、とりわけ血の気が引いたように肌が青白くなるのが特徴的だ。

当初は効果的は薬がなかったのだが世界各国で新薬の開発に励み特効薬が作られた。

新薬の開発途中で用いられたキトキト草が効果的で人口的に栽培された。

キトキト草は山岳地帯に生息している植物で夏に白い花を咲かせる。

気温変化に強く、平地でも順応できるだけの生命力を持っていた。


「キトキト草なら薬屋で大量に仕入れたぞ」

「それなら安心ですわ」


急に馬車が泊まり運転手が言った。


「旦那、ここから湿地帯なので迂回しやすがいいでやすか?」

「湿地帯ならしょうがない。沼にハマっても仕方ないしな」

「ここの湿地帯にはポイズントードがいるから迂回して正解よ」


ポイズントードと言えばギルドの掲示板に掲載されてあった。

毒を持った大型のカエルで群れで活動するモンスターだ。

いずれ戦うことになるだろうが、今は生息場所だけでもわかったので良しとしよう。


馬車は湿地帯を西回りで迂回して行く。

東回りルートもあったのだが、大きな川を越えなければならないそうだ。

水浴びができそうだったが、今は先を急いでいるので諦めた。

風呂はマネチェ村で入ればいい。


「旦那、マネチェの村が見えて来やしたぜ」


前方を見やるとこじんまりとした街並みが見える。

モンスターの襲撃が少ないからだろうか、石造りの外壁見当たらない。

代わりに害獣避けの木の柵が街をぐるりと取り囲んでいた。


「のどかな所だな」

「いいところでしょ。モンスターも少ないし緑が豊かだし住むならお薦めよ」


隠居でもしたら、この村に別荘を立てるのも悪くはない。

鶏と豚と牛を飼って、畑で野菜作りに励む。

朝日が昇りはじめるころに畑でレタスを収穫し、鶏の卵を頂く。

朝食は採れたてのレタスと卵とハムでサンドウィッチを作る。

考えただけでも幸せな田舎ライフだ。

まあ、それはずっと先のことになるだろうけど。


「着きやしたぜ、旦那」

「お、おう、着いたか」


私がひとり妄想に耽っているうちにマネチェの村まで辿り着いた。

プリムは馬車から飛び降りると自宅へ駆けて行く。

馬車をその場に残して、プリムの後を追った。


「だだいま!お母さん、具合はどう?」

「プ、プリム……」

「お母さん、寝ていなきゃダメよ」


プリムは、ベッドから起き上がろうとした母親をベッドへ寝かせる。

プリムの話の通りプリムの母親はすっかりとやせ細り青白い顔をしていた。


「プリム。その方たちは?」

「紹介するね。この賢そうな人がタクト。こっちの美人さんがエリザ。その隣の清楚な人がルーン。私くらいの子がプリシア。そして、そのゴッツイのがガルド」

「おいおい、俺の紹介が雑じゃないか?」


ガルドは下唇を突き出しながら不満げな顔をする。

プリムの母親は私達を見やりながらにこりと微笑んだ。


「みんなプリムのお友達?」

「うん。まあ、そんなところかな。それよりお母さん。タクト達が薬草を持ってきてくれたの。これでお母さんも村の人達も良くなるわ」

「薬草だなんて。そんなもの頂けないわ」

「何言っているのよお母さん。タクト達はお金持ちだから大丈夫なの」

「なら、余計に頂けないわ。お返しするものもないし」


プリムの母親の謙虚な姿勢には感服するが、こういう場合は素直に受け取ってほしい。

あまりシブられても返って見返りを期待しているように見えて頂けない。

薬草を渡すのは純粋な気持ちで村人を助けたいからなのだ。


「遠慮しないでください。お母さんを救うのも村の人達も救うのも私達がそうしたいからなんです」

「ほら、タクトもそう言っているしね」

「でも……」


プリムの母親は最後までシブっていたがプリムの説得で納得した。

さっそくルーンは薬学書を見ながら薬草を磨り潰して行く。

ルーンはプリ―ストなる前は教会でシスターを目指しながら薬学書を愛読していたらしい。

シスターも手に職を持っていた方がいいと言うことで薬作りをはじめたそうだ。

そのおかげで今ではありとあらゆる病気に効く薬を作ることが出来る。

ルーンはプリムの母親の症状を見ながら薬草を煎じた。


「出来ましたわ。これを飲んでみてください」

「フーフー。ズズズ……」


プリムが差し出したお茶は深い緑色でドロドロとしている。

見るからに苦そうなお茶だ。

よほど苦かったのかプリムの母親は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。

用薬は口に苦しと言うのも頷ける。

これでプリムの母親は大丈夫だろう。


「お母さん、具合はどう?」

「ちょっと体が楽になった気がするよ」

「本当!よかった」


プリムは満足そうな顔を浮かべながら母親を抱きしめた。


「それではキトキト草7にヤクの根2、キルの実1の配合で薬を作りますわ。皆さん手伝ってください」


ルーンは薬草の選別と調合。

ガルドが薬草の磨り潰し係でエリザが煎じ係。

私とプリシア、プリムの三人は村の人達に薬を届ける係。

薬草作りは丸一日かかり、全てが終わった頃には辺りが真っ暗になっていた。


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