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57「幻獣麒麟」

私達は慎重に足を運びながら隠し部屋の前に来る。

そして恐る恐る手を伸ばして隠し部屋の中を確かめた。

すると、隠し部屋の奥から風圧が飛んで来た。


「くっ」


部屋の中に何かがいることは間違いない。

それが何なのかはわからないが。

私達はゆっくりと足を踏み出し隠し部屋の中に入っていた。


「あれは何だ?」


隠し部屋の中にいたそれにガルドは驚きの声を上げる。

そこにいたのは全長20メートルほどの幻獣麒麟。

馬のような体に紅蓮の炎を纏っている。

瞳は赤く、全てを見透かしているのうな深淵な目をしている。


幻獣とはこの世で生まれたものではない魔獣のこと。

知性が非常に高く、人語を理解し、話す。

現実と幻想の狭間で生き、こちらの世界には姿を現すことがほとんどないのだが。

しかし、何でこんなところに麒麟がいるのかは現時点では皆目つかない。

ただ、言えることは麒麟の後ろにある魔水晶を守っていることだけはわかった。


「あいつは麒麟と言う幻獣だ」

「何でそんなやつがここにいるんだよ」

「オマエタチハ、ナニモノダ」


麒麟が意識を通して頭の中に語りかけて来る。


「な、何だよ、こいつ。喋ったぞ」


ガルドは要領を得ていないようでひとり混乱している。

そんなことも構わず私は答えた。


「私は策士、タクト」

「オマエタチハ、ナニヲシニキタノダ」


麒麟は追いついたように、けれど深遠な目でこちらを見やる。

ここで素直に応えても麒麟の逆鱗を買うだろう。

なぜならば麒麟は魔水晶を守っているからだ。

私が答えをこまねていると麒麟は静かに頷く。


「コノマスイショウハ、オマエタチノテニハアマルモノダ。タチサレ」


私の心を読んだのか。

考えていることが筒抜けならば誤魔化しようがない。


「その魔水晶は私達が頂く」

「ワタシノケイコクヲムシスルナンテオロカナコトダ。ミヲモッテシルガイイ」


麒麟は身構えると戦闘態勢に入る。

私はすかさず間合いをとって身構えた。


「みんな構えろ!」


私達が戦闘態勢をとると同時に、麒麟は口を開き中から炎の塊を放ってくる。

すぐさま反応して攻撃を交わす。

麒麟が放った炎の塊が壁にぶつかり、壁をドロドロに溶かした。


「何だよ、こいつ。半端じゃない力を持っているじゃないか。あんなの食らったら一撃だぞ」


私は戦術帳を開き確かめる。

しかし、幻獣麒麟のページはどこにも見当たらなかった。

それもそのはず。

幻獣と出会う確率はほとんどない。

故に歴代の策士達も幻獣と戦ったことがないのだ。

そんな強敵を相手にどう戦うか。

この広さなら中級魔法ぐらいは使えるだろう。

まずは、戦いのセオリーに従って。


「エリザ、ダイヤモンドダストで麒麟の動きを封じてくれ」

「ダメでもともとよ。やってやるわ!」


麒麟は詠唱をはじめたエリザに向かって炎の塊を放つ。

私はすかさずエリザを庇って攻撃を交わす。


「大丈夫か、エリザ」

「何とか」

「これじゃあやりようがないですわ」


麒麟の口から飛び出す炎の塊は魔法じゃない。

だから、詠唱もいらず一瞬で放てる。

しかも破壊力は抜群。

これでは歩が悪い。

戦術も立たなければ戦いようがない。


「肉弾戦なら俺のお角だ。これでも食らいやがれ!奥義!『大車輪!』」


ガルドは高く飛び上がると大剣を立てて回転しながら麒麟に切りかかる。

しかし、麒麟は瞬時に攻撃を交わして後ろ足でガルドを蹴り飛ばした。


「うぉぉぉ!」


ガルドは壁まで吹き飛ばされて地面に倒れ込む。


「畜生。俺の奥義を交わすなんて」


これではなしの飛礫だ。

接近戦も中距離線も、麒麟の方が格段に上。

瞬時に放てる炎の塊に打つ術がない。

プリシアの爆裂霧弾で目をくらませても、気配が読まれているので効果がない。

逃げるのが一番だが、麒麟がみすみす逃がしてくれる訳もない。

絶体絶命だ。


「オロカナモノタチヨ。オマエタチノイノチヲモッテツグナエ」


麒麟が口を開き構える。

すると、プリムが白銀の十字架を掲げて私達の前に立ちはだかった。


「プリム、何をする気だ?」

「わからないけど、これが利くんじゃないかと思って」


白銀の十字架は魔水晶に反応し青白く光り出す。

そして青白い光を放つと麒麟を包み込んだ。


「グググ。ソレハッセイジョノジュウジカ。ナセ、オマエガソレヲツカイコナセルノダ」

「知らないわよ」


麒麟は必死に抵抗しながら後退する。

何か特別な力で押さえつけられているかのように。

プリムも両手で白銀の十字架を抑えていた。

そして、白銀の十字架は弾けて床に転げ落ちた。


「ハアハアハア。今のは何なの?」


プリムはその場にぺたりと座り込んで肩で息をしている。

麒麟も体を起こして激しく呼吸をしている。

よほど圧力がかかったのだろうか。

幻獣の麒麟を怯ませるなんてあの光はいったい何なのだ。


「プリム。大丈夫か?」

「私は何とか」

「とりあえず逃げるぞ」

「ダメよ。あの秘宝を持って帰らないと」

「そんなのに構っている暇はない。行くぞ」


私はプリムの手を強引に引っ張って隠し部屋から出る。

エリザ達も後に続く。

さっきの戦闘の影響か通路には騎士の亡霊はいなかった。

麒麟の放った炎の塊が通路を通り抜けたようで出口の壁が溶けていた。

おそらく麒麟の攻撃でやられたのだろう。


「今がチャンスだ」

「秘宝が」

「あきらめろ」


私達は通路を通って地上へ向かった。

あいにく麒麟は後を追い駆けて来ることはしなかったので無事に脱出できた。


「危うく死ぬところだったぜ」

「でも、秘宝が」

「何でそんなに秘宝にこだわるんだ?」


よくよくプリムに話を聞いてみるとマネチェの村の村人を助けたかったのだと言う。

マネチェの村で病が流行していて村の人達が次々と亡くなっているらしい。

秘宝があれば病気を治せると思っていたらしく、秘宝にこだわっていたのだ。

しかし、麒麟が守っていた秘宝は魔力を増強させる魔水晶と呼ばれる魔石。

貴重な魔石でドワーフの技術をもってしても造れない代物。

どうやって出来たのかは不明だが、この世界にはいくつかあると言われている。


「村の人達を助けるなら私達が力を貸すよ」

「本当?」

「ああ、本当だ」

「ありがとう」


プリムは目に涙を浮かべながら私に抱き着いた。

張り詰めていた緊張が解けたのかその顔は柔らかくほころんでいた。


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