55「クロス城の地下」
城の中は薄暗くひんやりとした空気に包まている。
何十年も人が入っていないため生活感がまるでない。
新しい家に引っ越して来たような無機質な雰囲気が漂っていた。
外を見やると雨が窓を激しく叩いている。
アンデッドと戦っている間に雨脚が強くなっていたのだ。
「気持ちの悪いところね」
「何か出そうな雰囲気ですわ」
エリザとルーンはしきりに辺りを見回しながら警戒している。
それは無理もない。
城の中は薄暗く湿度が高い。
外は激しい雨で時折雷が光っている。
如何にもお化けが出そうな条件が揃っているのだ。
「出るって何が出るんだよ?」
「そんなの決まっているじゃない。お化けよ」
「ガハハハ。エリザは臆病だな。お化けなんて出たら、この大剣で切り裂いてやるよ」
怖がるエリザを尻目にガルドは豪快に笑いながら城の奥へ入って行く。
周りには鎧を身に着けた騎士の像が通路を挟むように一列に並んでいる。
どうやらこの奥に主室があるようだ。
と、ガルドの大剣の先が騎士の像に触れて兜がゴロリと転げ落ちる。
「ギャッ!」
ガルドは思わず驚いてカエルを踏みつぶしたような悲鳴を上げる。
その様子を冷ややかな目で見ていたエリザが呆れたように呟く。
「何よ、ガルドだって怖いんじゃない」
「こ、怖いなんてあるか。ちょっと驚いただけだ」
今のはウケる。
単細胞のガルドにも怖いものがあったとは。
不意を突かれたので驚きもいっそうなのだろう。
ガルドは胸に手をあてて呼吸を整えていた。
「あなた達、そんなところで遊んでないで早く来てよ。置いてくわよ」
「待てよ」
プリムは迷わず通路を通り抜け奥の部屋に入って行く。
部屋の中に入ると赤い絨毯が敷かれた床の上に豪華な大きな木製のテーブルが置いてある。
椅子は両側に8脚設置され、中央にひときわ豪勢な椅子が置かれていた。
「ここは応接間のようだな」
「さすがはクロス城の応接間ね。飾られてあるものはみんな高価そうなモノばかりだわ」
「何でここのモノは盗賊に取られていないんだ?」
ガルドが当たり前のことをプリムに尋ねる。
確かに何十年も人がいないのなら盗賊が侵入していてもおかしくない。
外のアンデッドが見張り番の役割を果たしていたからと言えばそうかもしれないが。
しかし、アンデッドが出現するのは太陽の光が届かない時だけだ。
晴れた昼間なら城へ簡単に入り込める。
他に何かあるのか。
そう考えている私を遮るかのようにプリムが答えた。
「そんなの決まっているじゃない。この城には騎士の亡霊が出るのよ」
「亡霊?」
「そうよ。昔に、この城を守っていた騎士が死にきれずに亡霊になったのよ」
成仏できない魂と言うのは幽体となって辺りを彷徨う。
執着する想いが強いほど思念となって生き続けるのだ。
この城に出る騎士の亡霊も報われぬ思いを抱えながら亡くなったのだろう。
「それはちょっと厄介だな。亡霊は実態を持たないから物理攻撃が効かない。ガルドは苦戦を強いられるぞ」
「実態を持たないって、死神戦の時と同じような状況になるってことか」
ガルドは難しい顔をしながら腕を組んだ。
まあ、エリザとルーンがいるから問題ないが。
それでも戦力が落ちるのは否めない。
死神戦の時は他の冒険者達もいたから撃破することができたのだが。
今回はどうなることやら。
「ちょっと、あなた。そんな所で難しい顔をしていないで、ここのテーブルをどかして」
「何だよ、俺か?ちっ、しょうがないな」
ガルドはテーブルをどかすと絨毯を剥いで床の扉を持ち上げた。
「ここから地下へ行けるわ」
「暗いな。エリザ、魔法でランプに火を灯してくれ」
「わかったわ」
エリザは指先に意識を集中させて炎を灯してランプに火を点けた。
攻撃魔法は詠唱が必要だが、小さいものならば魔力を集中させるだけで済む。
ほとんど魔力は消費しないで使えるのが特徴だ。
「じゃあ行くわよ」
プリムを先頭に私達は地下へ通じる階段を降りて行く。
地下通路は縦横3メートルほどで壁はまっさら。
装飾は施されておらず人工的に造られたもの。
歩きやすいように壁も床も石畳みで覆われている。
「何でこんな地下通路を造ったのかしら?」
「緊急時の避難用の通路だろう。城は狙われやすいからな」
と、プリシアが私の腕を掴みすり寄って来る。
「どうしたプリシア?」
「怖いの」
「ガハハハ。怖いだって。プリシアの柄じゃないだろ」
「単細胞のガルドにはわからないよ」
馬鹿にして来るガルドに舌を出してブー垂れる。
「ちょっと、プリシア。タクトにくっつき過ぎじゃない?」
「だって、怖いんだから仕方ないでしょ」
「離れなさいよ」
「嫌よ」
エリザとプリシアは掴みかかって取っ組み合いになる。
こんな所へ来てまでしょうもない争いをするなんて。
私はプリムを促して構わず前へ進んで行った。
「賑やかなお仲間達ね」
「いつもこんな感じさ。まあ、明るいのはいいけどな」
「ふ~ん。仲間を作るとそんな楽しいことがあるのね」
私の言葉を実感したようにプリムはニコリと頷く。
「プリムは仲間いないのか?」
「私は冒険者じゃないからね。それにシーフなんて家業していると中々仲間ができなくて」
盗賊はパーティーでは使いづらい職業なため冒険者達の仲間になることが少ない。
攻撃に優れている訳でもないし、魔法が使える訳でもない。
秀でているのは盗みのスキルのみ。
まあ、偵察などの依頼では力を発揮できるが。
それでも戦力として認めることが難しい。
なので盗賊は盗賊達で集まり盗賊団を形成することが多いのだ。
そんな話を続けているうちにだいぶ深いところまでやって来た。
通路は一本道で部屋などは設けられていない。
時折、広い空間へ出るが道は一本道だった。
「亡霊が出ると言ったわりには何もいないわね」
「そうでもないらしいですわ。前を見てください」
目の前から青白い騎士の亡霊が集団で近づいて来る。
後を振り返ると同じように騎士の亡霊達が近づいて来ていた。
「いつ後ろをとられたんだ?」
「そんなの知らないわよ」
「みんな、固まれ!」
私達は背中を合わせながら身構え体制を整える。
その間に戦術帳を開き確認した。
――騎士の亡霊――
種類:群れで行動する亡霊
全長:1.7メートル
知性:低い
耐性:なし
弱点:炎と光の魔法に弱い
特徴①:実態を持たない
特徴②:宙に浮いている
生息場所:クロス城の地下
倒し方:実体化させてから倒す
戦い方としては死神戦と同じだ。
まず、動きを止めてから実体化させる。
そして一気に攻撃して打ち破る。
しかし、この狭い空間では下級魔法しか使えない。
上級魔法など使おうものなら城と共に崩れ去ってしまう。
それにガルドの奥義も使えそうにもない。
プリシアの爆弾もしかりだ。
どうする……。




