53「依頼」
酒場に就くとサンドリア王国の騎士達がもめ事を起こしていた。
「俺達に酒は出せないってのはどう言うことだ!」
「サンドリアは俺達の敵だ。敵に飲ませる酒はない!とっとと出て行け!」
胸ぐらを掴んで来たサンドリア王国の騎士の腕を振り払うと酒場のマスターは告げた。
他の酒場の客も同じようでつぶさに「出て行け」コールが湧き起る。
酒場の客は足でリズムを刻みながら出て行けコールを繰り返す。
その迫力に襲われたサンドリア王国の騎士達はたじろいでいた。
「何だ、何だ。こんなところで喧嘩か?」
ガルドは酒場の客をのけながらカウンターに腰を掛ける。
「おい、マスター。この店で一番うまい酒をくれ」
「お前さん達だな。あいつらと一緒に来たってのは?ここはサラーニャだ。サンドリアの犬に飲ませる酒はない!」
「おい、おやじ!俺に酒を飲ませないつもりか!」
ガルドは大きな手で酒場のマスターを掴みあげる。
酒場のマスターは手足をバタバタさせながらもがいていた。
「おい、ガルド。止めておけ。ここでもめ事を起こせば船長達に迷惑がかかる」
「しかしよ。酒が飲めないんだぞ」
「しかたないわよ。ここでは私達も邪魔者扱いなんだから」
残念そうに呟いて店の外に出るエリザを追って私達も店を後にした。
サンドリア王国の騎士達も仕方なさそうに店を出て行く。
しかし、行動制限がかかっているのにも関わらず酒場に来るなんて何を考えているのか。
サンドリア軍の中でも一番下っ端のようだから情勢に疎いのだろう。
宿屋へ向かう私達の後ろから誰かが声をかけて来た。
「ねえ、あなた達。お酒が飲みたいんでしょ?なら、いいところ連れて行ってあげるわ」
振り返るとマントを羽織ったプリシアぐらいの少女が立っていた。
髪と瞳は鮮やかな水色で可愛らしい感じの女の子だ。
冒険者なのだろうか、腰に小剣を携えていた。
「誰だよ、お前?」
「私はプリムよ。それよりお酒が飲みたいんでしょ?」
「そうだけど」
「なら、ついて来て」
プリムは背中を見せると街の裏路地に向かって歩き出す。
私達はお互いに顔を見合わせてから後に着いて行く。
この先に何があるのか、プリムを信用していいのかわからないが。
しかし、年はもいかない少女がひとりで何ができると言うのか。
小さな不安を抱えながらプリムの後を追った。
しばらく進むと人も立ち寄らないような錆びれた裏路地へ辿り着く。
そしてボロ屋の前で足を止めるとプリムは辺りを見回しながら人がいないか確かめる。
「こっちよ」
プリムはボロ屋に入って行きおもむろに床をこじ開けた。
中から地下へ通じる階段が現れてプリムは迷わず階段を降りて行く。
私達は階段の様子を確認しながら入るのをためらっていた。
すると、プリムは、
「早く来てよ。誰かに見つかっちゃうでしょ」
少し焦ったように手招きして私達を呼んだ。
人に見つかってはマズイところへ連れて行こうとしているのか。
怪しい。
けれど、ここまで来て引き返すのもなんだ。
私達は誘われるまま階段を降りて行った。
階段の下にはこじんまりとした部屋があって客らしき人物がカウンターで酒を飲んでいた。
「プリム。客人かい?」
「そうよ。マスター、この人達に一番おいしいお酒を頼むわ」
マスターはグラスを磨きながらジロリと私達を見やる。
そしてプリムの注文通り一番うまい酒を出して来た。
ガルドはグラスを手に取り酒の香りを確かめる。
そして、一口口に運ぶと舌で酒を味わった。
「こいつは本物だ」
「でしょ。ここのお酒は巷で流通していないお酒ばかりなの」
「盗品か?」
マスターはあからさまに大きな咳払いをする。
プリムはしくじったと言わんばかりに舌をぺろりと出しておどけた。
「それよりもあなた達も飲んでみなさいよ」
「私は盗んだお酒なんて頂けませんわ」
「私もパス。後で何が起こるかしれたもんじゃないわ」
「私は飲む!マスター、私にもちょうだい」
少しはエリザ達を見習えと言いたくなるところだが。
盗品とはどういうことか。
私はプリムに尋ねてみた。
「キミは盗賊かい?」
「盗賊ってのとはちょっと違うわ。私はシーフよ」
「ガハハハ。シーフも盗賊だろ」
バカウケしているガルドはお腹を抱えて馬鹿にする。
それにちょっとムッとしたプリムはガルドを無視して話す。
「盗賊って言うのは人を襲って金品をせしめる連中のことを言うの」
「なら、シーフは何なんだ?」
「シーフって言うのは人を襲ったり殺したりしないの。けれど、金品は盗むけどね」
「何だよそれ。盗賊と同じじゃないか。ガハハハ」
ガルドの言う通り盗賊とシーフは同じものだ。
けれど、プリムの中で何かが二つを分けて捉えているのだろう。
盗賊とは別格の存在としてのシーフ。
それはプリムの誇りなのかも、決意なのかもしれない。
「それで。私達をここへ連れて来て目的は何なんだい?」
「実は、あなた達に頼みがあって」
「やっぱり来たわね。初対面の人間に随分、気前がいいとは思っていたのよ」
エリザは疑るような眼差しでプリムを睨みつける。
「で、頼みってのは何なんだい?」
「シグの街の外れにクロス城の跡地があるんだけど、その地下に眠っていると言われている秘宝をとって来て欲しいの」
「そんなの自分で行けばいいだろ、盗賊なんだし」
「自分で行ければ行っているわよ!」
ガルドのツッコミにプリムは苛立ちながらムキになる。
プリムの話によるとクロス城の周りにはモンスターが多くて近づけないそうだ。
そればかりか、地下には騎士の亡霊も現れると言う。
私達がこの話に乗る必要などないが、戦いの経験を積むうえでも悪くはない話だ。
「タクト。まさか、依頼を受けるつもり?私は嫌よ。ただ働きなんて」
「お礼ならするわ。その代り、秘宝を持ってきたらの話だけどね」
「タクトさん。私もこの話は断るべきじゃないかと思いますわ。情報が少なすぎますし、モンスターがどの程度の強さなのかもわかりません」
確かにルーンの言うことにも一理ある。
これまでは事前にギルドから情報をもらって来た。
その為、戦う前に作戦を考える準備が出来た。
しかし、今回はそうはいかない。
プリムの話ではクロス城の周りはモンスターが多いってことと、騎士の亡霊が出るってことだけだ。
これだけの情報では戦術は立てられない。
それでも私はチャンスだと考えていた。
「わかった。依頼を受けようじゃないか」
「本当ですか、タクトさん?」
「タクト、何を考えているのよ。そんな小娘の色香に惑わされたの?」
不安な顔を浮かべながら問いただして来るエリザ達を尻目に交渉を進める。
「クロス城はシグの街から南東へ行ったところにあるわ。私が案内するから」
「プリム、これを持って行け」
酒場を後にしようとするプリムの身を案じて酒場のマスターがマジックアイテムを渡す。
それは精霊の加護に包まれた白銀の十字架。
災いを遠ざける力が備わっているらしい。
お守り程度のものだろうがないよりはマシだ。
プリムは白銀の十字架を首にかけると私に言った。
「それじゃあついて来て」




