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52「入港」

シグの港は騒然としていた。

予定になかった私達の船が入港したからだ。


「おい、どういうことだ。こんな船の入港予定はないぞ」

「知らないよ。おおかた海で迷ったんだろう」


港で入港管理者が集まり揉めている。


「おい、船長。何か揉めてるぞ。大丈夫なんだろうな。ここまで来て引き返すなんて俺は嫌だぞ」

「俺が話をつけて来る」


そう言うと船長は船を下りて入港管理者の所へ向かった。

貿易船は決まった航路を進むものだ。

定期船のように決まった日時に入港する。

その為、港では船の入港をスケジュールにまとめ管理している。

特に許容範囲の限られている小さな港では重要なことだ。


「俺達はヴェールズから来た者だ。サウスブルーでオクトパスに襲われて被害が出ている。船の修復が終わる間、港に泊めさせてくれ」

「そう言われてもな。スケジュールがびっちり埋まってるんだよ。こんな大型船を長い間、停泊させている余裕はないよ」

「そこを何とか頼むよ」


入港管理者は難しい顔をしながら言葉を噤む。

その様子から交渉がうまく進んでいないことは伝わって来た。


「おい、話がうまく進んでいないみたいだぞ」

「大丈夫だって。親方に任せておけば問題ないよ」

「マルク、お前いたのか。全然、見掛けなかったからヴェールズに残ったのかと思っていたぞ」


マルクはマリンクラブ戦での無茶な行動を咎められ、罰として倉庫番になったそうだ。

倉庫番ならそんなに危険な目にも合わないで済む。

船長ならではの愛情表現なのだろう。


しばしの間、船長は入港管理者と交渉を続けていた。

同じ船乗りとして、わざわざ頼って来た船乗りを無下に追い返す訳にもいかない。

かと言って、安易に了承すれば港が機能が低下してしまう。

入港管理者は難しい判断に迫られていた。


「頼むよ。停泊料はきっちり払う。三週間……いや二週間でもいい」

「うむ、二週間か……わかった。いいだろう。二週間だけ入港を認める」

「ありがとう。助かるよ」


しぶしぶ了承した入港管理者とは対照的に船長は満面の笑みを浮かべて喜ぶ。


「おい、入港の許可が下りたぞ」

「ほれみろ。俺の言った通りだろ」

「まあ、いずれにせよ入港の許可が下りたとこはありがたい」


私達は荷物をまとめ港へ下船して行く。

それに続くように騎士達も船を下りる。

その様子を見ていた入港管理者が船長に詰め寄った。


「おい、船長。サンドリア王国の騎士がいるなんて聞いていないぞ!入港は許可できない!」

「おいおい、今更何を言っているんだ。金は払っただろ」

「金なら返す。とっとと出て行ってくれ!」


サンドリア王国とヴェズベルト王国の間にはかつて戦争を起こしていた。

何でもヴェズベルト海域のサウスブルーにサンドリア軍が侵犯して来たからだ。

支配地域拡大のためにブレックス国王が軍を派遣したのだが、各国からの反発を受けることとなった。

戦いは半年間、続いたが補給の確保が難しかったサンドリア軍が敗北する形で終結した。

それ以降、サンドリア王国とヴェズベルト王国の関係は冷ややかなものに変わって行ったと言う。


「どうするんだ船長?」

「どうするもこうするも船を修復しないと出航は出来ない。それに船乗り達の休息も必要だ」

「サラーニャの人達はまだ、過去を引きずっている訳。しつこくない?」

「エリザ。声がデカい。聞こえたらどうするんだ」


エリザは口を尖らせてそっぽを向く。

その声が聞こえたのか入港管理者は鈍い顔を浮かべた。

いずれにせよこの問題は無視できない。

何か方法があればよいのだが……。


「おい、お前。その首から下げているメダルはグルンベルグ王国のものだな。何でお前がそれを持っている?」

「ああ、これか。これはダゼル国王から授かったものだ。旅の通行証代わりになると言ってな」


入港管理者は顔色を変えるとしばらく黙り込む。

そして、思わぬ言葉を口にした。


「そのメダルを持っているお前はグルンベルグ王都からの使者と認める。よって、入港を許可しよう」

「本当か?」

「だが、期間は二週間だぞ。それ以上は認めない。それとサンドリア軍の行動を監視することが条件だ」

「いいだろう」


何とか交渉がまとまり港に下船できた。

船長達、船乗りは船の修理に、サンドリア王国の騎士達は監視付きで港の宿屋に宿泊することに、私達は船が出港するまでの間、シグの街に滞在することになった。

私達のその足でギルドへ報告に向かう。

もちろんオクトパス討伐の報酬を頂くためだ。


報酬は依頼を受けたギルドでもらうのが普通なのだが、例外的に別のギルドでも報酬は受け取れることができる。

冒険者は拠点を移すことが多いので、移動途中で討伐したモンスターの報酬分ももらえる仕組みになっている。

それは世界各国のギルドが連盟を結んでいるからだ。

人間にとってモンスターが脅威であるがために締結された仕組みだ。


私はひとり受付に行き、オクトパス討伐の報告を済ませる。

受付の女性はニコリと笑いながら手続きを進め報酬を渡して来た。


「オクトパス一体で5万ゴールドになります」

「ありがとう」


オクトパスの討伐の知らせを聞いても顔色ひとつかえない受付の女性は慣れているのだろうか。

初上陸のサラーニャに出現するモンスターは強敵なものが多いのかもしれない。

私はさっそく掲示板で依頼内容を確かめた。


「デスフラワーにポイズントード、紅蓮サソリか……。みんな毒を持ちでしかも群れで行動するタイプか」


情報からは強敵とは呼べないモンスターばかりだ。

しかし、これまでと違うのは毒を持ったモンスターが多いってことだ。

ルーンにはまだ解毒の魔法は覚えてもらっていない。

これからの戦いを考えると解毒魔法は必須だな。


「おい、タクト。何をひとりで難しそうな顔をしているんだ?」

「おいしい依頼でも見つけたの?」

「いや、逆だよ。報酬が低いばかりで毒持ちのモンスターが多くてな」

「毒?毒になんか侵されたらイチコロじゃない。私は嫌よ」


エリザは青い顔をしながら両手で耳を塞ぎ首を横に振る。

私だって毒に侵されるのは避けたいところが本音。

しかし、経験を積むうえでも避けられない戦いになる。

どんなモンスターを相手にとっても不足なく戦えるだけの戦力が必要だ。

何せ魔獣クラスともなれば毒攻撃はあたり前。

そればかりか魔法耐性や衝撃耐性なんかも備えている。

私達はそんな奴らを相手にしなければならないのだ。


「話はそこまで。酒場に行って一杯やろうぜ。この街の地酒を楽しみたい」

「そうだな。旅の疲れを癒しに酒場へ行こう」


私達はシグの街の酒場へ足を運ぶ。

その様子をじっと見ていた人影に気づくこともなく。


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