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51「オクトパス戦」

ハンマーヘッドの残骸にロープを撒きつけて海に投げ込む。

釣りの要領で一番下におもりをつけて間隔をあけて尾びれ、頭、切り身と。

巨大な鍋でもあればいい出しがとれそうだ。

オクトパスは普段、海底にいるお化けホタテなどの貝類を好んで食べる。

時に大型の魚を捕食することもあるが主食は貝類がほとんど。

切り身となったハンマーヘッドに食いつくかわからないがダメで元々。

当たりが来なかったら他の手を考えよう。


「後はオクトパスがかかるまで待つだけだ」

「本当にこんな仕掛けでオクトパスが釣れるのか?」

「オクトパスも生き物だ。食いつくはずさ」


不安げな様子のガルドを安心させるように私は断言した。

根拠は何もない。

ただ、この世界で生きてく以上、何かしら食さないといけない。

それはオクトパスも同じだろう。

全ての生き物は自然の摂理から逃れられないのだ。


エサを投げ込んでから一時間。

今だにアタリは来ない。

ガルドは大きな欠伸をしながら柱にもたれかかる。

騎士達も退屈そうに雑談をはじめていた。


「タクト、全然来ないじゃない。本当に大丈夫なの?」

「大丈夫さ。果報は寝て待てと言うだろ。慌てない慌てない」


と、海を監視していた船乗りのひとりが声を上げる。


「船長、ロープの先に泡が!」


船長は船乗りの所へ駆け寄って海を確かめる。

そして、私に向かって叫んだ。


「来たぞ!」

「やはり来たか」


私は船長の所へ駆け寄って魚影を確認する。

ガルド達も船縁に駆け寄って来て海を見やった。

オクトパスの姿は見えないが泡がいくつも登ってくる。

同時にロープがギリギリと音を立ててながら海に吸い込まれて行く。


「おい、お前達!反対側へ回れ!このままじゃ船が傾てしまうぞ!」


船長の言葉にガルド達は反対側の船縁に集まる。

それでも船は東側に傾いている。

ロープはギシギシと音を立てながらピーンと張り詰める。

おそらく海底からオクトパスがよじ登って来ているのだろう。


「船長、この船大丈夫か?だいぶ傾いているぞ」

「このくらいなら大丈夫だ。それよりもオクトパスが現れたら頼むぞ」

「任せておけ。こっちにはタクトがいるんだ。大船に乗ったつもりでいろ」


ガルドは意気揚々と船長に言い放つ。

それを受けるかのようにロープがギリギリと鈍い音を立る。

そしてにょろっと太いオクトパスの長い足が甲板に上がって来た。


「オクトパスだ!」


騎士達の間からどよめきが起こる。

それも無理はない。

姿を現したオクトパスは規格外の大きさだったのだ。


「こいつ、本当にオクトパスだよな。見るからに30メートルぐらいはありそうだぞ」


オクトパスは手足をマストに絡みつけて船によじ登って来る。

その重さで船は大きく揺れ動いた。


「何にせよ、こいつを討伐しなければならない。お前達いいか!」


私の号令に騎士達は血気つきながら剣を引き抜いて空に翳す。


「第一陣!構え!」


騎士達が横一列にならび剣を構える。

オクトパスの様子を伺いながら指示を出す。


「よし、今だ!かかれ!」

「うぉぉぉぉ!」


騎士達はオクトパスに突っ込んで行くとオクトパスの手足に剣を突き刺す。

それに対抗するようにオクトパスは手足を大きく振って騎士達を吹き飛ばす。

その様子を見て第二陣と第三陣の騎士達から騒めきが起こる。

無理もない。

立ち向かって行った騎士達は一撃で吹き飛ばされてしまったのだ。

私は騎士達を鼓舞するように叫ぶ。


「怯むな、お前達!戦いはこれからだ。第二陣、構え!」


第二陣の騎士達は横一列になって剣を構える。

そして私の合図でオクトパスに突っ込んで行った。

第二陣の騎士達もオクトパスの手足に剣を突き立てる。

しかし、分厚いオクトパスの表皮に阻まれて致命傷を与えられない。

第二陣の騎士達もオクトパスの手足に吹き飛ばされてしまった。

その内の数名は海へ投げ出されてしまう。


私の考え通りにことが進んでいる。

そもそもオクトパスをただの剣で倒そうとするのに無理がある。

ガルドのように必殺技を使えれば話も変わって来るが。

ブレックス国王が認める騎士なのだが、明らかに戦力不足。

対人戦なら力を発揮できるようだが、モンスター戦にはからっきしだ。


「第三陣!構え!」


第三陣の騎士達は青い顔をしながら後ろにたじろぐ。

戦況に驚いて尻もちをつく者や剣を投げ出す者まで現れている。


「何を怯んでいる!お前達はサンドリア王国の騎士なのだろう!剣をとれ!」


私は騎士達に気合を入れ直す。

すると、ガルドが私に詰め寄った。


「こいつらに任せておけない。タクト、俺に指示を出してくれ!」


それはできない。

これはあくまで負けるための戦いなのだ。

ガルドの気持ちは痛いほどわかるが、心を鬼にしなければならない。


「第三陣!かかれ!」


私の号令と共に第三陣の騎士達がオクトパスに突っ込んで行く。

結果は言うまでもなく、オクトパスの手足に阻まれて吹き飛ばされる始末。

それにしても騎士達は弱すぎる。

本当にブレックス国王のお眼鏡にかかった騎士達なのか?

その時、ハッと気づく。

これは私を試すためブレックス国王が仕掛けた罠じゃないかと。

使者に目をやると薄笑いを浮かべている。

間違いない。

ブレックス国王は私にレベルの低い騎士を預けて、その手腕を確かめようとしているのだ。

レベルの低い騎士達でも勝利を納めることができたなら本物だと。

食えない奴だ。


騎士達はオクトパスに必死に応戦する。

しかし、間合いを詰めることも、致命傷を与えることもできない。

そればかりが怪我人が続出して指揮が低下している。


「タクトさん。このままではみんなやられてしまいますわ。指示はまだですか?」

「まだだ」

「タクト!本気で言っているの。あいつらが束になっても敵わない相手よ!」


不安げなルーンと相対するようにエリザが強い剣幕で私に掴みかかる。

私は視線を逸らして答えを返す。

すると、ルーンが


「なら、せめて回復だけでも」


そう言って回復魔法で怪我人の治療を施す。

いくら回復しても結果は見えているが、ルーンは何もせずにはいられないのだろう。

優しい性格のルーンだから仕方ない。

それと相反して鬼のように見えるのは私だろう。

残っている騎士達に気合を入れ直す。


「サンドリア王国の騎士の誇りを見せてみろ!」


残っている騎士達は互いに顔を見合わせて頷く。

そして剣を手に取ると横一列に整列する。


「よし、第四陣!かかれ!」


騎士達はオクトパス目がけて突進していった。

しかし、オクトパスの手足に吹き飛ばされて海に投げ出される。

オクトパスは船縁にしがみつきながら船を大きく揺らす。

このまま船ごと海に沈めようとしているようだ。


「もう、我慢できない。タクト、行かせてもらうぞ」

「私も」

「ガルド、エリザ。まて!」


ガルドは私の制止を振り切ってオクトパスに突っ込んで行く。

エリザはエリザで、魔法の詠唱に入った。


「いつものタクトらしくない」


プリシアにも疑われてしまっている。

いつもの私なら的確な指示を皆に与えて勝利を導く。

それが、今は無茶な戦術で皆の命を危険にさらしているのだ。

この戦いはブレックス国王の手から逃れるための演出でしかない。

しかし、それだけで本当にいいのか。

この騎士達にも家族がいる。

妻がいて子供がいて父親の帰りを待ちわびているはずだ。

それが家に戻らないとなったら家族は悲しみに明け暮れる。

私の加減ひとつで生死が決まるのだ。

見殺しにはできない……それが今の私の答えだ。


「ガルド!紅蓮剣でオクトパスの手足を断て!」

「おうよ。はじめからそのつもりだ!」


続いてエリザに指示を出す。


「エリザ!エクスプロードでオクトパスを吹き飛ばせ!」

「やっとやる気になったのね」


傍にいたプリシアも指示を要求して来る。

プリシアには重要な役割がある。

少々危険だがプリシアにしかできないことだ。


「プリシアは覚えた鉄鎖裂弾をオクトパスの口の中に放り込むんだ!」

「任せてよ。私の必殺技を見せてあげるわ」


プリシアはオクトパスの様子を伺いながら間合いを詰めて行く。

その前方ではガルドがオクトパスと交戦していた。


「てめえなんざ焼きダコにしてやるぜ。食らいやがれ!『紅蓮剣!』」


ガルドは高く飛び上がると炎を纏った大剣をオクトパス目がけて突き刺す。

すると、紅蓮の炎がオクトパスを燃え上がらせた。

オクトパスはたまらずにもがき暴れる。

周りにいた騎士達をなぎ倒しながら。

ダメージは大きいようだ。

すかざす詠唱をはじめたエリザが魔法を放つ。


「みんな離れて!我に与えし魔神の力、蒼き炎は空を燃やし、紅の炎は大地を焦がす、その力は根源成り『エクスプロード!』」


空から赤色の光がオクトパスを捉える。

同時に光の線を伝うようにエネルギーの塊が降りて来る。

そして、オクトパスの中心で蒼炎に燃える球体がエネルギーを圧縮させる。

次の瞬間、まぶしい閃光が辺りを覆い尽くすと轟音を立てながら圧縮されたエネルギーが解放された。

爆風が辺りを飲み込みながら広がって行く。

私達は船の縁にしがみつきながら爆風をしのいだ。


「なんて威力だ……」


誰もが口々に、そう呟いた。

魔法を放ったエリザも驚いて尻もちをついている始末。

エクスプロードをまともに食らったオクトパスは頭の半分が吹き飛んでなくなっていた。

オクトパスは身の危険を感じて海に逃げ込もうとする。


「プリシア!頼む!」

「さっくりやっちゃって!『鉄鎖裂弾!』」


プリシアは一瞬の隙をついてオクトパスの口の中に爆弾を投げ込む。

オクトパスはそのまま海に逃げ込んで行く。

そして爆弾が破裂するとオクトパスの体から無数の鉄の刃が飛び出て来た。


「やった!」


プリシアが歓喜の声を上げると、周りにいた騎士達も歓喜の声を上げた。

私はエリザ達を見やりながらグッドの合図を送る。

オクトパスは沈黙したまま波に揺られていた。


「やるじゃないか。さすがは策士と言ったところか」


使者が当然かのように手を叩きながら近づいて来る。

それは称賛と言うよりも労いの意味合いが強い。


「さて、ヴェールズに戻るぞ」


私は沈黙したまましばらく考え込む。

そして、静かに口を開いて言った。


「私達はこれからサラーニャへ向かう。船長、シグへ進路を向けてくれ」

「お、おう」

「貴様!どういうつもりだ!ブレックス国王に歯向かうつもりか!」


使者は興奮しながら私の襟首を掴みあげる。

そもそもブレックス国王の僕になったつもりはない。

私の腕を確かめるために仕組んだ、この戦いは頂けない。

騎士達のことをただの駒としか見ていないのだろう。

そんな相手とは取引できないのが本心だ。


「船長、シグへ頼む」

「わかった。よし、お前ら、騎士達を引き上げた後、サラーニャのシグへ向かう!」


船長の合図で船乗り達は海上で漂っている騎士達を拾い上げる。

ルーンは怪我人の治療にあたっていた。


「お前の負けだ。この船にお前の言うことを聞く奴はひとりもいない」

「くぅ……」


騎士達はブレックス国王の命令よりも助かったことを噛み締めている。

もし、私がこの戦いの真実を伝えたのなら騎士達は間違いなく使者を血祭りにあげるだろう。

だが、私はあえて口を噤む。

それは使者へ貸しを作るためだ。

ブレックス国王の力の及ばないサラーニャへ辿り着ければそれでいい。

そのためにも今はシグへ向かうことが先決だ。


「ブレックス国王に歯向かったことを後悔させてやる」

「言ってろ。船の上じゃ国王もやって来れないだろ」


ガルドは後ろ手に使者を掴みながら倉庫へ連れて行った。


「本当にいいんだな」

「ああ、頼むよ」

「よし、主舵いっぱい!シグへ向けて出航だ!」


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