49「負けの戦術」
ブレックス国王の前で騎士達に膝まづかされ頭を垂れる。
ブレックス国王は玉座に座りながらタクトを見降ろす。
「お前が策士タクトか。随分と若いな」
「国王直々の招集命令なんて何かあったのですか?」
「質問をするのは私だ」
騎士達は私の頭を押さえつけて床に押し付ける。
「アラジンを追い払ったのは事実か?」
「はい」
「どんな戦術で打ち勝ったのだ?」
「砂漠地帯でデラグレイブを放ち地獄アリを目覚めさせました。その混乱に乗じてアラジンは逃亡しました」
「奇を衒った作戦だな」
ブレックス国王は薄笑いを浮かべて関心する。
正直、アラジン戦は戦術と言うよりもなり行に近かった。
周囲を包囲された状態で突破口を開くには意外な手が必要だったのだ。
まあ、運よく地獄アリが暴れてくれたから勝つことができたのだが。
「私はお前を買っている。ぜひ、私に力を貸して欲しい」
「力?」
「魔獣が目覚めたことは知っているな。魔獣討伐のため各国が部隊を編制する。そこでお前に我が軍の部隊を指揮してもらいたいのだ」
やはり要求は軍事関係だったか。
ここで要求を断ったら私は投獄されるだろう。
しかし、今の私の力量では軍隊の指揮なんてとれないのも事実。
何か理由をつけて逃れられるのが一番だな。
「国王様の願いはありがたいのですが、まだ、私は未熟者ゆえお力には沿えません」
「何を言っているのだ。これは願いではなく命令だ。お前に反論する余地はない」
噂にたがわぬ独裁者だ。
よくこんな手法で反発する民衆がでないものだ。
それだけ恐怖政治を敷いているからなのだろうか。
それにしても、これで逃げ道はなくなってしまったな。
どうするか……。
「お前には特別に我が軍の軍師の地位を与える。戦力強化に努めてくれ」
「戦力強化と言いましても陸上で陣形を組むだけでは軍の強化できません。実戦経験を積むためにもモンスター討伐の命を与えてください」
「ふっ。まあ、軍といっしょなら逃げるわけにもいかないな。いいだろう。お前にモンスター討伐の命を与えよう」
「ありがたき幸せ」
私の狙いはこうだ。
より強力なモンスターの討伐に出掛けて部隊を敗北させる。
そして、混乱に乗じて逃げるのだ。
軍人を犠牲にするのは心苦しいが、これも戦い。
実際の聖戦になれば数えきれないほどの犠牲を出すだろう。
誰も血を流さずに勝てる戦いなどないのだ。
私はブレックス国王の一部隊を率いてヴェールズの港へ向かった。
部隊の人数は全部で30名。
部隊でも一軍と呼ばれる精鋭が揃った部隊だ。
もちろん私を監視するための使者も同行している。
そこが抜かりのないブレックス国王の手腕だ。
「タクト。無事だったのね。その人達は?」
「心配はいらない。ブレックス国王軍だ」
「軍人なんか引き連れて、どいうつもりだよ」
ガルドが心配するのも無理はない。
これだけの部隊を従えていたら誤解もされる。
私がブレックス国王に下ったと思っているのだろう。
「訳あって、この者達と同行することになった」
「同行って。いっしょにモンスター討伐に連れて行くつもりでしょうか?」
「そう言うことだ」
私の言葉にエリザ達は不安げな顔を浮かべる。
「それはいいが、料金は上がるぜ」
「それも大丈夫だ。全部、ブレックス国王が受け持ってくれる」
「まあ、旦那がそう言うならいいですけど」
船長も不安を隠せないようだ。
何せ30名ほどの騎士が集まっているのだから仕方ない。
これまでにも航海の経験は豊富だが、軍隊を乗せた経験などない。
貿易船も軍人がいれば軍艦に変わってしまうのだ。
「それじゃあ出航しますぜ」
「サウスブルーまで頼む」
「了解」
私達を乗せた大型船はサウスブルーを目指して出航した。
サウスブルーまでの道のりは大型船で5日。
サラーニャ地方よりのサウスブルーは遠いのだ。
しかし、波も穏やかで気候がいい。
嵐に巻き込まれることはほとんどない海域だ。
「タクト、軍人になっちゃったのかしら?」
「サンドリア王都の紋章もつけていましたしね」
「じゃあ、私達の仲間じゃなくなるってこと?」
エリザ達は口々に不安をぶちまける。
その横でガルドはいびきをかいて寝ていた。
「私もこれくらい図太くなれたらよかったのに」
「エリザさんは今のままでちょうどいいですわ」
「おい、お前達。タクトが呼んでいるぞ」
マルクが船室までエリザ達を呼びに来た。
「何かしら?」
「行ってみればわかるよ。それより、お前も起きろ!」
マルクは足蹴にガルドの頭を蹴って起こす。
ガルドは寝ぼけ眼で頭を掻いていた。
甲板に出るとダクトが騎士達を集合させて待っていた。
「やっと来たな」
「何よ。急に呼び出して」
「作戦会議だ」
作戦会議と言っても勝利を掴むためのものではない。
部隊が敗北するための戦術を立てるのだ。
ここでどんな戦術をとるかによって犠牲者が変わる。
あまり犠牲は出したくないのだが、今は目を閉じるしかない。
まずは、ブレックス国王の手から逃れるのが第一だ。
「私達が次に狙うのがオクトパスだ」
――オクトパス――
種類:単体で行動する大型の軟体生物。
全長:20メートル
知性:低い
耐性:氷系と雷系の魔法に耐性がある
弱点:炎の魔法に弱い
特徴①:耐衝撃性がある弾力のある表皮に覆われている
特徴②:逃げる時に墨を吐いて姿を隠す
生息場所:サウスブルー
倒し方:海面上にあげて炎で焼き払う
普段はサウスブルーの海底に潜んでいるのだが、時折、海面に出て来ては行商船を襲うと言われている。
これまでにも冒険者達が討伐に向かったのだが、返り討ちにあってしまった。
何せ耐性持ちのモンスターだけに戦い憎いのだ。
まあ、今の私にはこの手のモンスターがちょうどいいのだけど。
「で、どんな戦術で戦うんだ?」
よく聞いてくれました。
「まずは部隊を3つに分ける。そして波状攻撃を仕掛ける」
「その狙いは?」
使者は疑うような目つきで質問をして来る。
私が歯向かわないか確認しているようだ。
もちろん狙いは部隊の全滅。
それは隠しておいて、もっともらしいことを答える。
「波状攻撃を仕掛けることでオクトパスの八本もある足に対抗するためだ。一斉に攻撃を仕掛けてもオクトパスの八本の足で阻まれてしまう。だから、波状的に攻撃することで懐に飛び込むのだ」
波状攻撃を仕掛けてもオクトパスの八本の足に阻まれるだろう。
何せ耐衝撃性のある表皮に覆われているのだ。
騎士達の剣ではオクトパスを切り裂けない。
「懐に飛び込んだら、どうするんだ?」
「そしたらオクトパスの視覚を奪う」
視覚を奪えばオクトパスは暴れるだろう。
暴れ回り船を沈めるかもしれない。
その時に騎士達が巻き込まれれば全滅は近い。
「オクトパスの弱点は何だ?」
使者が最もなツッコッミを入れて来る。
ブレックス国王の息がかかっているだけに抜かりがない。
「オクトパスは炎の魔法に弱い」
「炎の魔法か。ならば、そいつが使えな」
使者はエリザを見やりながら呟く。
エリザはハッとしたように私を見つめる。
私は安心しろと言わんばかりに静かに頷いた。
「オクトパスの視界を奪ったらエリザの炎の魔法で攻撃をする。もちろんガルドとプリシアにも攻撃に参加してもらう」
「任せておけ。オクトパスなんて俺の紅蓮剣で焼き払ってやるぜ」
ガルドは腕まくりをしてガッツポーズをとる。
まあ、ガルド達には思う存分暴れてもらうのが最良だ。
あくまで使者にばれないように部隊の全滅を誘うのだから本気を出してもらわなければならない。
ガルド達には本心を隠しておくのがいいな。
「この戦術ならば確実にオクトパスは倒せる」
「さすが策士だ。俺達だけだったら、こんな戦術は考えられない」
「ブレックス国王が一目置くだけのことはあるな」
「よーし、やってやるぞ」
私の言葉を信じた騎士達に迷いはないよう。
互いに手を取り合って気持ちを高める。
その様子を見ていたら後ろ指刺された気持ちになる。
こいつらに恨みはないが仕方がない。
これも戦いなのだ。




