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48「立ち入り検査」

鬼蜘蛛討伐の報酬は全部で20万ゴールドになった。

1匹2万ゴールドで10匹分。

私達の財布はまた潤いを取り戻すのだが、これも海上戦へ向けての軍資金。

船のチャーターには大金がかかる。


宿屋へ戻るとエリザが旅の支度をしていた。


「エリザ。もう大丈夫なのか?」

「これ以上、みんなに迷惑はかけられないからね」


エリザは少し悲し気な目で外を見やる。

まだ大丈夫でないことはすぐにわかった。

実の父親を亡くしたのだ。

誰でも普通じゃいられない。

けれど、エリザの立場になって見れば、これ以上みんなに迷惑をかけることにも後めたさを感じるのも事実。

私達は何も問わずにエリザを受け入れた。


後でエリザから聞いた話だが、ドワルグと大喧嘩をして家を飛び出したそうだ。

ドワルグは仕事に明け暮れ家庭をないがしろにしていたらしい。

エリザはそれが許せなかったと言う。

母親は伏せがちになり家庭は崩壊して行ったと言う。

故郷に残して来た母親のことを今でも心配している。

機会があればエリザの故郷に行ってみるのもいいだろう。


「これからどうするの?」

「剣技や魔法も強化できたし海上戦へ向かう」

「どんなモンスターと戦うの?」

「それはギルドで決めよう」


私達はエリザを連れてギルドへ向かった。

相変らずギルドの中は冒険者達で賑わっている。

しかし、ノースブルー辺りに出掛ける冒険者は少なくなった。

ドワルゴの船の襲撃を受けての反応だ。

わざわざ強敵の潜んでいるノースブルーに出掛ける者はいない。

掲示板に貼られてある依頼も海関係の物が多く残っていた。


「ハンマーヘッド、3万ゴールド。オクトパス、5万ゴールド。クラーケン、10万ゴールドか」

「クラーケンの報酬はこの前よりも上がっていますね」

「ドワルゴの船の襲撃を受けてのものだ……す、すまない」

「気にしなくていいのよ、タクト。私はもう割り切っているから」


強がるエリザの目に光る物が見えた。

報酬は依頼の多さによっても変わって来る。

ドワルゴの船の襲撃はノースブルーを航海する商船にとっては脅威でしかないのだ。

いずれ戦う相手になるだろうが、今は目の前の戦いに集中しなければ。

私はひとつの依頼書を手に取るとガルド達に見せた。


「次はオクトパス戦だ」

「ハンマーヘッドより報酬が高いですけれど、大丈夫でしょうか?」

「サウスブルーの海はノースブルーと違って穏やかだ。はじめての海上戦をやるならば環境が安全な方がいい」

「それにガルドの船酔いも気にしなくてもいいしね」


プリシアが相槌を打ちながらニコリと笑う。

はじめての海上戦だから穏やかな海の方が安全だ。

ただでさえ慣れない船の上での戦いになるのだ。

それなりに準備をしなければならない。

以前のマリンクラブ戦の反省も交えて。


「本当に今度は大丈夫なんだろうな?」

「波が高くなければ船酔いの心配はない」


心配して顔を青くしているガルドに安心させる言葉をかける。

これも策士としては当然の配慮だ。

仲間の心理状態もメンタルするのが策士としての仕事。

策士はただ戦術を練るだけが仕事じゃないのだ。


「なら、また、マルク達に船をチャーターしてもらいましょう」


私たちはさっそく港に出向きマルクを探した。

港には騎士達が集まっていてものものしい雰囲気を漂っている。

私は港で作業していた男に尋ねた。


「いったい何があったんだい?」

「ブレックス国王の命令で荷物検査をしているんだよ。まったく嫌になっちゃうよな。ヴェールズには軍の干渉を受けない法律があるのにな」


ヴェールズは各国の港と貿易をしているため自由貿易をとっている。

税金も安く、商売がしやすい環境が整備されている。

それは国の干渉で貿易が左右されないようにするためだ。

もちろん法律が制定されていて港は守られているのだが。


「何だ、また来たのか。今度はどんな用だい?」

「マルク!」

「大型船をチャーターしようかと思ってな」

「何のモンスターを狩りに行くんだい?」

「オクトパスだ」

「なら、サウスブルーだな」


マルクは大型船の方を見やりながら船長を探す。

船長は騎士達に呼び止められて何やら話していた。


「親方!仕事だよ」

「おお、マルクか」

「何かあったのかい?」

「立ち入り検査だ」

「立ち入り検査?」


きょとんとしているマルクに船長が耳打ちする。


「旦那達はどこだ?」

「向こうで待っているよ」

「今はまずいから帰ってもらえ」

「どうしてだよ?」


小声でやりとりしているマルクと船長を見て騎士が問いかけて来た。


「お前達、何をしている」

「べ、別に何でもないですよ。ちょっと夕飯の相談をしていただけだ」

「まあ、いいだろう。だが、ブレックス国王に逆らったら命がないと思え」


騎士は捨て台詞を吐くと大型船の検査へ向かった。


「マルク、どうしたんだ?」

「旦那、ここにいちゃまずいぞ。奴らは旦那方を探しているんだ」

「何で騎士が俺達に用があるんだ?」


船長の話によるとブレックス国王が直々に命令を出したのだと言う。

以前、招集命令に従わなかった制裁のつもりなのか。

何の予告もなく港を立ち入り検査するなんて、やり方が強引過ぎる。

やはりブレックス国王を避けられないのだろうか。


「おい、お前!策士のタクトだな」

「あちゃー。見つかっちゃったよ」


船長が両手で顔を抑えながら呟いた。


「お前に召集命令が出ている。同行を願おうか」


騎士達はすかさず私達を取り囲んで逃げ道を塞ぐ。

今度ばかりは逃げられないようだ。

まあ、謁見するだけなら問題ないが。

この物々しい雰囲気からすると、それだけでは済まなそうだ。


「さあ、行くぞ」

「タクト」

「心配するなエリザ。すぐに戻って来る。それまで出航の準備をしていてくれ」


私は後ろ手に捕まれながら騎士に連れられてサンドリア王都へ向かった。

ブレックス国王が何を要求してくるのか、それは行ってからのお楽しみだ。



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