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45「鬼蜘蛛の巣」

ヴェールズの街から南東に進むこと半日。

砂漠地帯を抜けると景色が一変として樹々の生い茂るスタンリーの森まで辿り着く。

スタンリーの森はヴェールズとマルセイの中間地点あたりにある。

森の名は、かつてその地を納めていたスタンリー伯爵が由来と言われている。


「ノーベン地方に、こんな森があるなんて知らなかったぜ」

「ノーベン地方はほとんど砂漠に覆われているが、南側の一部は緑で覆われている。そんなことも知らないのか?」


無知なガルドを馬鹿にするような目で見やるダルク。

子供の割にやたらと態度がデカい。

ガルドをまるで年下のように扱っている。

当のガルドはさほど気にしていない様子。

ここは大人の余裕を見せつけているようだ。


「それよりお前。年下の癖に態度でかくないか?」

「俺様はお前達の主だぞ。偉そうにして何が悪い」

「ガルドさんの負けですわね」


ルーンは二人を見やりながらクスクスと笑った。


「タクト。お腹空いた。あのリンゴ食べていい?」

「おい、お前!それは売り物だぞ。勝手に食べるな!」


お腹を摩りながら荷台を見やるプリシアにダルクは凄い剣幕で叱りつける。


「ひとつぐらいいいじゃない?」

「ひとつだと?お前にリンゴの価値がわかるのか?このリンゴは50個で10ゴールドしたんだぞ。それがひとつでも欠けたら10ゴールドの価値はなくなるんだ」

「ケチ」


プリシアは唇を尖らせてブー垂れる。

ダルクの言い分は正当だが、何もそこまでムキになることもない。

リンゴひとつくらい欠けたところで売値に大差はつかないだろう。

運んでいる道中で腐ってしまうリンゴもあるくらいだし。

儲けは多少減ってしまうが、多少だ。

まあ、実施訓練で一位を目指しているダルクには届かない言い分だが。


「ぷっ。何だこれ?」


ダルクが頻りに何かを手で払いう仕草をする。


「どうしたダルク?」

「どうしたもこうしたもないよ。何だよこの宙を漂ってるやつは」


辺りを見回すが何も見えない。

しかし、ダルクは頻りに何かを手で払いのけていた。

すると、ガルドの顔にも何かが張り付く。


「うぷっ。何んだこれ?顔に何かついたぞ」


太陽の光に照らされて透明な糸のようなものがそこら中に張り巡らされているのが見えた。


「それは蜘蛛の糸だ!」

「蜘蛛の糸だって?こんな太い蜘蛛の糸なんかあるものか」

「ガルド、動くな!その糸は鬼蜘蛛の糸だ。暴れると居場所がばれる。静かにしていろ」

「そんなこと言ったってよ。気持ち悪くてしかたない」


私の制止を振り切ってガルドは顔についた鬼蜘蛛の糸を剥がす。

すると、糸を伝いながら鬼蜘蛛の群れが姿を現した。


「おい、周りを取り囲まれているぞ」

「どうやら鬼蜘蛛の巣に入り込んでしまったみたいだ」


――鬼蜘蛛――

種類:単体で行動する大型の昆虫。

全長:3メートル

知性:普通

耐性:なし

弱点:炎の魔法に弱い

特徴①:森で巣をはって獲物がかかるのを待つ

特徴②:毒の牙を持っている

生息場所:スタンリーの森

倒し方:巣を焼き払っておびき出す


いくら巣に入り込んだとはいえ、鬼蜘蛛が群れで行動しているとは驚きだ。

獲物がかかるのを待つタイプのモンスター故の性か。

獲物を確実に仕留めようとする魔物の本能が働いているのかもしれない。


「おい、タクト。何を呑気に構えているんだよ。はやく指示をくれ」

「お、おう」


私は戦術帳を眺めながら、どう作戦を立てようかこまねいていた。

何せ今はエリザがいない。

鬼蜘蛛の弱点をついた攻撃は立てられない。

すると、鬼蜘蛛がダルクに向かって糸を吐いた。


「うわぁ!」

「ダルク!」


ダルクは鬼蜘蛛の糸に巻かれて繭玉のような姿に変わる。

ひょこんと出ている顔は皺くちゃに歪んでいた。


「おい、お前ら!何とかしろ!俺様はお前らの主だぞ!」


鬼蜘蛛は糸を巻き取りながら繭玉のダルクを引き寄せる。

見かねたガルドが大剣を振りかざして鬼蜘蛛の糸を断とうとするが。

鬼蜘蛛の弾力のある糸に阻まれて弾き飛ばされてしまう。


「何だ、この糸は!全然切れないじゃないか!」

「ガルド。鬼蜘蛛の糸を切ろうとしても無駄だ。鬼蜘蛛の糸は鋼糸と呼ばれるくらい強度が高い」

「じゃあ、どうやって鬼蜘蛛を倒すんだよ」


ガルドの紅蓮剣が効果的だが、下手に攻撃しようものなら鬼蜘蛛達の糸で繭玉にされてしまう。

まずは鬼蜘蛛達の動きを止めなくては……。


「ルーン!グラシスの魔法で鬼蜘蛛達の動きを止めてくれ!」

「わかりましたわ。大地よりい出し伊吹よ、漆黒の鎖となりて、かの者を絞殺せ『グラシス!』」


鬼蜘蛛の下の大地が輝き無数のツタが何本も伸びて来る。

そして、鬼蜘蛛の手足を捉えようとするが……。

鬼蜘蛛はするりと身を翻し、糸を伝い樹の上に逃げてしまった。


「外された」

「グラシスの魔法が外されるなんて」

「鬼蜘蛛は思っている以上に素早くて頭が切れるようだ」

「何を関心しているんだよ、タクト。このままじゃダルクが食われちまうぞ」


グラシスの魔法で捕まえられた鬼蜘蛛は数匹。

他の鬼蜘蛛は糸の上で悠々とこちらを見降ろしている。

グラシスが使えないとなると、他の魔法で鬼蜘蛛の動きを止めなければ。


「ダリオ、今、助けてあげるからね。切り裂け『爆裂弾!』」


プリシアが鬼蜘蛛目がけて爆裂弾を放つ。

しかし、鬼蜘蛛はサッサっと身をかわして爆裂弾を避けた。

すると、何もない場所で爆裂弾は虚しく爆発する。


「当たらない」


鬼蜘蛛の俊敏さはケタ違い。

今まで戦って来たモンスターの中でも秀でている。

鬼蜘蛛に備わっている危険感知能力の賜物と言ったところだろうか。

攻撃が当たらないんじゃやりようがない。

まずは鬼蜘蛛の動きを止めなければ。


「ルーン。スロウで鬼蜘蛛の動きを鈍らせてくれ!」

「魔力が回復するまで、少し時間をください」


時の魔法は全般的に他の魔法よりも魔力を多く消費する。

スロウは中級の魔法だが、他の魔法の上級クラス並。

連続して放てず、ここぞと言う時に使う魔法だ。


「仕方がない。ガルド、紅蓮剣で鬼蜘蛛の巣を焼き払え!」

「よっしゃー、任せておけ。俺の剣技をくらえ!必殺、『紅蓮剣!』」


ガルドは大剣を掲げながら赤く燃え滾る紅蓮の炎を纏った大剣を振り回す。

すると、炎に焼かれた鬼蜘蛛の糸は溶けるように消えて行く。

まるで熱を加えた時の綿あめのような感じだ。

ガルドの大剣で切れなかった鬼蜘蛛の糸も熱にはからっきし。

鬼蜘蛛達は糸の上でざわつきながら新しい糸を飛ばして足場を作る。

高く、より高い所を目指して糸を張って行った。


「ガルドさん、ありがとうございます。魔法の準備ができました」

「よし、ルーン!スロウの魔法を頼む!」

「時の狭間よりいでし御霊、かの者を時空の歪みに引き落とせ『スロウ!』」


鬼蜘蛛の傍に魔法陣が浮かび上がると白い鎖が伸びて来て鬼蜘蛛の体を締め付ける。

もがけばもがくほと鎖が絞めつけて、その動きを鈍らせた。

鬼蜘蛛はまるで時が止まったように鈍い。


「よし、ガルド、プリシア!鬼蜘蛛に総攻撃だ!」

「これで終わりにしてやる!『紅蓮剣!』」

「これなら外さないわ。切り裂け!『爆裂弾!』」


ガルドの紅蓮剣が鬼蜘蛛を捉え、プリシアの爆裂弾が鬼蜘蛛を切り裂く。

ガルドとプリシアは周りにいた鬼蜘蛛達を全て仕留めて行った。


「魔法が切れますわ」

「最後の一撃!焼き尽くせ!『紅蓮剣!』」


最後の一匹にガルドは渾身の一撃を食らわせる。

すると、鬼蜘蛛は紅蓮の炎に焼かれながら沈黙した。


「終わったな」

「手強かったですわね」


戦闘を終えて安堵しているとダリオが訴えて来た。


「おい、お前ら。俺様のことを忘れているだろ。早くここから下ろせ!」


ダリオは樹の上に吊るされていてまるで蓑虫状態。

お灸を添える意味でも、しばらくほっておく方がいいのだが。

ストーリーも進まないので助けることにする。


「ふー。危うくエサにされるところだったぜ」

「そのままエサになったほうがよかったんじゃない?」

「どういう意味だよ?」

「別に」


疑うような目つきでプリシアを見やるダリオはご立腹のよう。

そんな様子も気にすることなくプリシアは飄々としていた。


「よし、お前ら。鬼蜘蛛の糸を回収しろ!」

「何でそんなことしなくちゃいけないいだよ」

「お前は本当にバカだな。売るからに決まっているだろ」


ここへ来ての商売根性には頭が下がる。

子供と言えども油断はできない。

鬼蜘蛛の糸と言えば、私達の服にも使われている貴重な糸だ。

それを市場で売りに出せばどのくらいの価値がつくだろう。

リンゴどころじゃない価格で取引される。

ダリオはニヤニヤしながら鬼蜘蛛を見ていた。


「これでいいんだろ?」

「お前にしてはよくやった。よし、マルセイへ行くぞ!」


結局、鬼蜘蛛の糸はガルドほどの繭玉になった。

死骸となった鬼蜘蛛はそのままで、糸だけ抜き取った。

ダルクの言うには鬼蜘蛛は糸しか役に立たないそうだ。

死骸は他のモンスターのエサになるから、そのままにするのが普通。

鬼蜘蛛の繭玉を荷馬車に乗せて私達はマルセイへ向けて旅立った。


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