44「実施訓練」
「学校か。俺も行ってみたいな」
「ガルドは給食目あてでしょ?」
「ハハハ……。バレたか」
エリザのツッコミに照れながら頭を掻くガルド。
飲む、食うはガルドの十八番だから仕方ない。
ガルドでなくとも給食目的で学校へ通う子供も多い。
貧困の差が激しい、この街ならではの背景も関係しているが。
裕福な家庭の子供は小さい頃から贅沢をする。
一方で貧しい家庭の子供は今日のご飯の心配をしていなくちゃならない。
だから、給食のある学校は子供達の楽園なのだ。
と、街の大通りの片隅で人だかりが出来ていた。
「もう、ひと勝負だ!」
「金はあるのか?」
「金ならある。この通り」
ダルクはポケットから銀貨を三枚テーブルに叩きつける。
博打のオヤジは銀貨を手に取るとテーブルに重ねて置き直す。
そして、サイコロを二つ持ってカップの中に入れると激しく揺すってテーブルの上に置いた。
「さあ、どっちだい?」
「うーん。さっきが半だったから、今度は丁だ!」
「いいのかい?変えるなら今のうちだぞ」
「うーん……それでいい!」
博打のオヤジは静かにコップを上げる。
中にはサイコロが3と4の目を出していた。
「3、4の半!」
「畜生!また外した」
悔しがるダルクを尻目に博打のオヤジは銀貨を懐に仕舞う。
ニヤリと口元を緩ませながらしたり顔を浮かべる。
「おい、ダルク。こんな所で何をやっているんだ?」
「何って見ればわかるだろ。賭けだよ」
「賭けって金はどうしたんだ?」
私はダルクの右腕を掴んで問いただす。
「俺様が稼いだ金だ。どう使おうが俺様の勝手だろ」
「何だいあんた。そいつの知り合いか?どうだい。あんたも賭けてみるか?」
「八百長をしている賭けごとをわざわざするバカはいないだろう」
「何だと、この野郎!俺が八百長をやってるだって!」
博打のオヤジは勢いよく立ち上がり私の胸ぐらを掴みあげる。
すると、スッとガルドが前に出て来て博打のオヤジの肩を叩いた。
「な、何だよ、あんた」
「喧嘩なら俺が買うぞ」
ガルドは冷ややかな目で博打のオヤジを下目に見やる。
その覇気を恐れたのか博打のオヤジは手を緩めた。
「今日は店じまいだ。みんな帰った帰った」
「おい。俺様の銀貨は?」
「そんなの知るか!」
ギャラリーと博打のオヤジは街の中へ消えて行った。
「畜生。あのオヤジ。八百長なんてやってやがったのか。どりで当たらない訳だ」
財布を握りしめて悔しがるダルク。
賭け事なんて当たるも八卦、当たらぬも八卦だ。
稼ぐならまっとうなことをして稼いだ方が気分がいい。
「ところでタクト。何であのオヤジが八百長をやってるって気づいたんだよ?」
「鎌をかけてみただけさ。大抵、賭け事をしている連中は八百長をする奴が多いからな」
「あてずっぽうだったのか」
そう言うこと。
それよりだ。
「何で賭け事なんかしていたんだ、ダルク?」
「そんなの金が欲しいからに決まっているだろ」
「それなら仕事をすればいいだろ」
「お前、そんな図体していて頭が悪いな。子供の仕事の世話をしてくれる気前のいい大人なんていないよ!」
ダルクの言い分は最もだ。
いくら商人の学校に通っているからと言って子供に仕事を任せる大人はいない。
子供がいくら頑張ったところで気がしれているし、何かあった時に責任を問われるからだ。
「そうだ!お前ら冒険者だよな?俺様に雇われてみないか?」
「雇うってどういうことだよ?」
「今度、学校で商売の実施訓練があるんだ。品物を持ってマルセイの街へ行商へ行く。その護衛として雇ってやろうって言ってるんだ」
「何だよ。それが人にものを頼む態度か?」
「お前じゃ話にならない。そっちの。どうだい?」
ダルクの提案に私は腕を組んでしばらく考え込む。
エリザの件で私達は冒険を止めている。
エリザは相変わらず落ち込んでいて冒険を出来る様子でもない。
時間はたっぷりあるし付き合ってみるのも悪くはないだろう。
「よし、護衛役を買おうじゃないか」
「本当か?よっしゃー!一番は俺様が頂いた」
ダルクの喜びようからしてもただの実施訓練じゃないようだ。
おそらく売り上げを競わせているのだろう。
その方がみんな真剣に取り組むから、学校側からしたら一石二鳥だ。
「それじゃあ、明日の朝、出発するから市場まで来てくれ」
「わかった」
「タクトさん。そんな約束をしていいのですか?」
「エリザはしばらく動けない。時間もあるし気分転換にいいじゃないか」
「護衛だなんて面白そう。楽しみ」
私のその軽い決断が思いもよらぬ結果を招くとはこの時は知るよしもなかった。
朝の市場は昼間とは違って活気に満ち溢れている。
たくさんの行商人達が仲買人と交渉をしている。
基本的に商品の相場は決まっているのだが、季節によっても価格が変動する。
旬を迎えた野菜や魚介類、穀類などが変動しやすい。
そればかりではなくモンスターの素材も高値がつきやすいのだ。
「おい、お前達。こっちだこっち」
人だかりの中からダルクが大きく手を振って叫んでいる。
「遅かったな」
「ちょっと寝坊してな」
「まあ、いいや」
「それでお前はこんな早くから市場に来て何をやっていたんだ?」
あたり前の質問をして来るガルドを冷ややかな目で見やるとダルクは得意気に説明する。
「そんなの決まっているだろ。品物を選んでいたのさ。マルセイの街で売るんだ。値がはりそうな品物を選ばないとな」
ダルクは市場に並べてある品物をじっくりと眺めながら品定めをする。
「おい、そんなの何だっていいだろ。早く行くぞ」
「わかってないな、お前は。ちゃんと小魚を食っているのか。図体ばかりでかくてもダメだな」
バツが悪そうな顔をするガルドの横でルーンはクスクスと笑っていた。
「それで何に決めたんだ?」
「この金ぴかの装飾品がいいんだけど元金がないからな。こっちのリンゴにするよ」
「何だ。デカい口叩いた割にはただのリンゴじゃないか」
「仕方ないだろう。元手がないんだ」
馬鹿にしてくるガルドをよそにダルクは仲買人にお金を払った。
箱詰めにされたリンゴ一箱で10ゴールド。
子供のお使いにしてはちょうどいい価格だ。
「おい、お前。この箱を持ってくれ」
「何だよ。俺は荷運びじゃないぞ」
「後は馬車だな」
「馬車も自分で用意するのか?」
「あたり前だろ。これは行商なんだ」
普通なら商品だけ準備して馬車とかは予め用意されたりするものだが。
学校もより実際に近い環境で訓練をさせるため計画したのだろう。
まあ、学問だけでは実際に社会に出た時に役に立たないからな。
馬は一頭だての小さめの馬車を用意できた。
もちろん商品を運ぶための馬車だから私達は歩きだ。
「何だよ。歩いて行くのか?」
「あたり前だろ。こんな馬車に5人も乗ったら馬がヘバっちゃうよ」
「いい運動になっていいじゃないか。ガルド最近、お腹が出て来たって言っていたしな」
「食べ過ぎと飲み過ぎね」
ガルドはポッコリと出たお腹を凹ませてみせる。
その様子を見てルーンはクスクスと笑っていた。
「それじゃあ出発だ!」
私達とダルクは馬を引きながらマルセイの街へ向けて旅立った。




