42「ドワルグの死」
翌朝、私達はマルクの叫び声で目を覚ました。
「タクト。大変だよ。ドワルグの船が海で行方不明になったって!」
私は飛び起きてマルクを部屋の中へ入れる。
「ドワルグの船が行方不明になったって本当か?」
「本当だよ。今朝、港にドワルグの船の乗組員がボートで漂着してさ。話していたんだ」
「こうしてはいられない。マルク、案内してくれ」
「わかったよ」
私達は身支度を整えるとマルクの後に着いて乗組員が搬送された病院へ向かった。
乗組員は病院のベッドに横たわりながら点滴を受けている。
その周りを取り囲むように他の船員達が並んでいた。
「船長。助かった乗組員の容体は?」
「命はとりとめたが衰弱が激しくてな。飲まず食わずで漂流していたのが原因だろう」
助かった乗組員は青い顔をしながら痩せこけていた。
「それでドワルグの船は?」
「ドワルグの船は北のノースブルー辺りで遭難したらしい。こいつは運よく海流に乗ってヴェールズまで戻って来たそうだ」
「なら、探しに行かないと」
「出航の準備は整っている。準備が出来たら出航だ」
私達は準備を整えるとチャーターした大型船に乗ってヴェールズの港を出航した。
昨日の天気とは打って変わって今日は晴天に恵まれ海は穏やかな様相を見せていた。
「船長。ノースブルーは危険な場所なのか?」
「ノースブルーの辺りは海流の流れが複雑でな。潮の流れを読み間違えると遭難しやすい場所なんだ」
「ドワルグは何でそんな場所へ向かったんだ?」
「おそらく近道を行ったのだろう。本来ならノースブルーを迂回して北西の航路を行くのが普通だが、それだと時間がかかってしまう」
船長は海路図を眺めながら説明する。
「あいつがやりそうなことよ!自分のことしか考えていないんだから」
エリザがイラつきながらドワルグの行動を否定する。
その剣幕に周りの空気がピリつく。
私はその空気を割るように船長に質問をした。
「それで、この船でノースブルーに行っても大丈夫なのか?」
「今日は天気に恵まれているからな。潮の読み間違いも少ないだろう」
「本当に大丈夫なのかよ?」
「俺はこの海を知り尽くしている。ドワルグとは違うよ」
自信たっぷりの船長の言葉に少し安心をする。
何せ航海は二度目だから何かと心配が多いのだ。
けれど、今回チャーターした船は大型船。
波の揺れも少なく船酔いに弱いガルドさえピンピンしている。
「マルク!何か見えるか?」
「親方。何も見えません!」
マルクは見張り台に立ち周辺の海を監視している。
船乗りっぷりも板について来たようだ。
船は順調に進みノースブルーまでやって来た。
「ここからがノースブルーだ。潮の流れが複雑だから揺れるぞ」
「おいおい。また、揺れるのか」
ガルドは青い顔をしながら柱に抱き着く。
「安心しろ。揺れるって言ってもこないだのような揺れはない。なんて言ったって大型船だからな」
船長の言葉通りノースブルーに侵入したが船の揺れは小さい。
全長が長い大型船だけに波の揺れを打ち消すのだろう。
私達は安心しながら航海を続けた。
すると、見張りをしていたマルクが何かを見つける。
「親方。北東の方角に機影が見えます」
「北東の方角だな」
親方は見張り台へ登ると望遠鏡で北東の海を確認する。
「あれはドワルグの船だ。船縁にドワルグの紋章が刻まれている」
「でも、親方。何かおかしくありません。船が傾いているような……」
見ると船が中央で裂け浅瀬に座礁していた。
「よし、横づけに船を近づけるんだ」
私達は船の座礁を避け、100メートルぐらい離れた所に船を停泊させる。
そして小型ボートに乗ってドワルグの船に近づいて行った。
「これは酷いな。どうやったらこんな風になるんだ?」
「こいつはもしかしたらクラーケンの仕業かもしれない」
「クラーケン?」
「巨大イカだ。全長30メートルぐらいはある海の悪魔だ」
私達はドワルグの船にボートを横づけすると船梯子でよじ登って行った。
「おーい、誰かいるか?」
船長の叫び声が虚しく空に響きわたる。
しかし、帰って来る返事もなく辺りが沈黙で包まれる。
「お前達、辺りを探してみろ」
船室の中は激しく乱れており、その時の衝撃を現しているかのよう。
倉庫の荷物も、そのままで激しく散乱していた。
「こっちには誰もいないぞ」
「こっちもだ」
船を調べに行った乗組員たちが次々に返事をする。
船の中は誰も残ってはおらず荷物もそのままだった。
クラーケンと戦った形跡も残ってはいない。
護衛についていた冒険者達の姿さえ見えなかった。
嵐の中だ。
みんな海に放り投げだされてしまったのだろう。
船長は両手を合わせて黙とうをすると船に戻って行った。
「これ以上、捜索を続けても無駄だ。ドワルグ達は遭難したと言うことで片づけよう」
「あいつにはいい終わり方よ」
エリザは吐き捨てるように言葉を吐いた。
「エリザ……」
「これでいいのよ。大好きな仕事をして死んだのだから」
船室を出て行くエリザの背中は心なしか泣いているように見えた。




