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41「時化」

翌日、天候不良により出航は足止めされていた。


「船長。どうだい?」

「この天候じゃ出航は無理だな。下手に船を出したら遭難しかねない」


空は鈍色の雲で覆われて雨風が横殴りで叩きつける。

時折、ゴロゴロと音を立てながら稲光が空を駆けていた。


「一日無駄になったな」

「仕方ないですわ。こんな天気ですから」


エリザは昨日から何も口を聞いてはくれない。

ムスッと黙ったままで目をも合わせようとはしなかった。

よほど父親との確執が影響しているのだろう。


「それじゃあ今日は自由時間にしよう」

「やったー!私、行きたいところがあったんだ」

「行きたいところってどこだよ?」

「それは内緒よ」


プリシアは人差し指を立ててウインクをガルドに送る。

ガルドは苦いお茶を飲んだ時のような顔を浮かべた。

すると、港の方で人だかりが出来ていた。


「何だ?」


私達は親方の後に着いて港へ向かう。

港ではドワルグが強引に船を出航させよとしていた。


「今日、出航しなければ遅れてしまう。行かせてくれ!」

「何を言ってるんだ。こんな時化の時に出航したら遭難してしまうぞ」

「この大型船ならば大丈夫だ。心配はいらない!」

「しかし……」


親方は人ごみを掻き分けながらドワルグの所へ駆け寄る。


「何の騒ぎだ?」

「ドワルグが出航するってきかないんだ」

「こんな天気で出航か」

「私の船ならば大丈夫だ。それよりも時間通りに運航しなければ穴が空いてしまう」


ドワルグはずぶ濡れになりながら必死に他の船員達に説明をする。


「ドワルグ、考え直せ。こんな時に出航しても無駄足になるだけだぞ」

「船長は商人じゃないからわからないだけだ。時間ってのは待ってはくれないんだぞ」


すると、その様子を見ていたエリザが口を開いた。


「船長、行かせてやりなさいよ。どうせ仕事のことしか頭にないんだから。他の乗組員がどうなろうと考えていないのよ」

「エリザ……」

「気安く名前を呼ばないで!私とあなたとは関係ないんだから!」


エリザは捨て台詞を吐いて向こうへ行ってしまった。

私達は呆気にとられながらその場に立ち尽す。

ここでエリザにかける言葉もドワルグにかける言葉も見つからなかった。


「すぐに出航の準備をしろ!」


ドワルグは他の船乗り達の制止を振り切って荒れた海へと出航して行った。



ヴェールズの酒場にてエリザは浴びるように酒を煽っていた。


「エリザさん。もうお酒は止めましょう」

「いいのよ、ルーン。私はお酒が好きなの」


エリザは今を忘れれるかのように酒を口に運ぶ。

父親との確執がそうさせているのだが、それでも目に余る光景だ。


「エリザ。もう、酒は止めろよ」

「煩いな!私が飲みたいって言ってるんだから邪魔しないでよ!」


エリザはベロンベロンに酔っ払いながら机に突っ伏す。

これは何を言っても無駄だな。

ほっておくのが一番いい方法だけど、このまま一人にしておけない。


「ルーン。エリザは私が見ているからルーン達は休んでくれ」

「でも……」

「ルーン。タクトがそう言っているんだ。エリザのことはタクトに任せておこう」


ガルドが心配気なルーンの肩に手をあてる。

プリシアも心配げな顔を浮かべていたがルーン達と宿屋へ戻って行った。



相変らず激しい雨が窓を叩きつける。

その中でひとり酔っ払っていたエリザが机に身を投げ出していた。


「もう、飲めない……」

「エリザ。もう、帰ろう」

「タクト……。私ね……」

「何だ?」


エリザは何か言いたそうな顔で私を見やる。

そして私が尋ねると、顔を背けて口を噤んだ。


「エリザ?」

「何でもない。何でもないわよ」


エリザはおもむろに体を起こすと酒瓶に手を伸ばす。

まだ、飲む気でいるのか。

これ以上、飲ませたら記憶をなくしてしまうだろう。

エリザはそんなにお酒には強くないんだ。


「エリザ、帰るぞ」

「まだよ。あと少しだけ」

「いい加減にしろ。みんなも心配しているんだぞ」

「そんなの関係ないわよ」


エリザはグラスに酒を注いで酒を煽る。


「エリザもドワルグと同じだな。みんなの心配を振り切って自分勝手な行動をするところが」

「あんな奴といっしょにしないで!」


エリザは机をバンと叩いて勢いよく立ち上がる。

しかし、足元がふらついてよろけてしまった。

すかさず私はエリザの体を支える。


「エリザ。もう、帰るぞ」

「……」


それ以上、エリザは抵抗することなく私といっしょに宿へ戻った。


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