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40「確執」

ギルドでは地獄アリを討伐したことで幾分かの報酬金をもらえた。

成り行きで倒したものだが、棚から牡丹餅感覚の報酬だ。

地獄アリ5匹で15万ゴールド。

倒した地獄アリの亡骸は街の解体屋の手にかかり市場へ売りに出された。

地獄アリのハサミは丈夫で武具類に加工される。

手足はこれといって価値がないのでそのまま破棄される。

胴体は食肉用に加工されて市場に並ぶ。

ジャイアントアントと同じで好き好んで食そうとも思わないのだが。


「また、お金持ちになったね」

「まあ、あれだけ苦労したんだ。これくらいは当然だよ」

「それよりこれからどうするんだ?」

「大型船をチャーターしに行く」

「いよいよ海上戦か。腕が鳴るぜ」


私達がギルドを出ようとすると一台の馬車が目の前に止まった。

中から鎧を着た物々しい雰囲気の騎士が降りて来る。


「お前が策士のタクトか?」

「そうだけど」

「アラジンの件についてブレックス国王から召喚状が出ている。サンドリア王都までご同行願おう」


騎士は召喚状を翳しながら命令をして来る。

断ることを許さないような物々しい雰囲気を醸し出す。


「また、国王から召喚かよ。これで二回目だぜ」

「私達はたまたまアラジンを払いのけただけだ。国王に話すことはなにもない」

「貴様。ブレックス国王に歯向かうつもりか!」


騎士はタクトの胸ぐらを掴みあげ激昂する。

ここで騎士について行こうものならブレックス国王に何かしら要求を突きつけられるだけだ。

噂によればブレックス国王は若くして国王の座についたらしく権力に飢えているそうだ。

おそらく私達を迎え入れて軍事力の強化を図るつもりだろう。


「私達にはやることがあるんだ。悪いが断る」

「くぅ……。従わなかったことを後悔するなよ!」


騎士は捨て台詞を吐くと馬車に乗ってサンドリア王都に戻って行った。


「断ってよかったのタクト?」

「いいんだ。どうせくだらない要求を押しつけられるだけだからな」


国王と言う者は権力を振りかざしては要求を突き付けて来るものだ。

対等な立場であれば交渉に持ち込めるが、まだ私達にはそれだけの力はない。

アラジンの手からヴェールズの街を救っただけの功績だけでは足りないのだ。

それに対魔獣戦に向けた準備もあるし、今は断るのが妥当だろう。


「で、大型船をチャーターするって、どの船にするんだ?」


ヴェールズの港には大型船をはじめたくさんの船が停泊している。

どの船も貿易船で大砲を備えた軍艦の様な船は見当たらない。

海上戦を想定した船だから軍艦のような船がちょうどよいのだが。


「おーい、タクト。また、会ったな」

「マルク。航海が終わったのか?」

「やっとマリンクラブの搬送が終わったところだよ」


マルクはすっかり小麦色の肌に染まり前よりも男らしくなっている。


「それでこんなところで何をやっているんだよ?」

「大型船をチャーターしに来たのよ」

「大型船?」


マルクは不思議そうな顔で私達を見やる。

私はマルクに事情を説明した。


「そう言う事情があるのか。なら、俺が力を貸してやるよ。親方に頼めば何とかしてくれるはずだからな」

「それは心強いな。頼むよ」


さっそくマルクは親方のいる船に戻り事情を説明する。

しばらくするとマルクは親方を連れて戻って来た。


「話はだいたいわかった。で、いくら持っているんだ?」

「30万ゴールドだ」

「30万か。なら、大型船を9日はチャーターできるな」


大型船のチャーターの相場は3日で10万ゴールド。

貿易船だけに仕事ができないと損失が多くなる。

そのためチャーター料金も破格になるのだ。


「9日もあれば十分だ。それで頼むよ」

「任せておけ。出航は明日になるから、それまでに準備をしておけよ」


金を渡すと親方はマルクを連れて大型船のチャーターへ向かった。


「さてと、後は出航の準備をするだけだな」

「準備って何を用意すればいいの?」

「とりあえず9日は海の上だから……」


私がプリシアに説明をしていると後ろから誰かがぶつかって来た。


「痛って」

「ああ、すまない。よそ見をしていたから……。エリザ?エリザじゃないか!」


ぶつかって来た中年の男はエリザを見るなり目を見開いて驚く。

エリザは顔を背けて知らない振りをする。


「私はエリザじゃありません」

「何を言っているんだよエリザ」

「探したぞ。こんなところで会えるなんて」


中年の男はエリザの肩をつかむとギュッと抱きしめた。


「エリザ。知り合いなのか?」

「し、知らないわよ、こんなおじさん。離してよ!」


エリザは勢いよく中年の男を突き放す。

中年の男は少し寂しそうな顔をしてエリザを見やった。

顔見知りであることはすぐにわかったが、エリザが頑として認めようとはしない。

何かしら事情があることを察した。


「あなたは誰なんです?」

「私はドワルグ・ムーベニングだ」

「ムーベニングって。もしかしてエリザのお父さんでしょうか」

「そうだ。私はエリザの父親だ」


エリザは顔を顰めてそっぽを向く。

そんなエリザを見てドワルグは寂しそうな目をした。

この二人に何があったのだろう。


「ドワルグさんは何をしにヴェールズまで来たんですか?」

「私は行商人をやっていてね。ヴェールズまで荷物を届けに来たんだよ」

「行商人ってことは船を持っているんですか?」

「私の船はあれだよ」


ドワルグの指を指した方を見やると立派な貿易船が停泊していた。


「立派な船ですね」

「まあ、自慢する訳でもないが、最近、手に入れた船だよ」


ドワルグは少し誇らしげに胸を張って見せた。

見た目の風貌は細身のおじさんで少し頼りなさそうだけど。

巨万の富を得ているような落ち着いた雰囲気があった。


「どこから来たんですか?」

「アキストレアだ。私はアキストレア出身でね」

「あれ?エリザってグラハム地方のミントス出身って言ってなかったっけ?」


ガルドの指摘にエリザは苦虫を噛み潰したような顔をする。

ただならぬ様子だ。


「エリザ。戻ってきてはくれないか。母さんも心配している」

「知らないわよ、そんなの!」

「お前が出て行った後、母さんは体を壊してな」

「そんなの父さんが仕事ばっかりしていたからでしょ!私のせいにしないで!」


エリザは激昂しながらそっぽを向く。

誰も寄せ付けないような雰囲気だ。

エリザが家を出た理由はわからないが、このままにしてもおけない。


「エリザ。私達は席を外すからお父さんと話しをしろ」

「私に話すことなんかないわ!変な気を使わないで!」

「エリザ……」


物欲しそうな目でエリザを見やるドワルグ。

その瞳には薄っすら涙が滲んでいた。


「ドワルグさん。ちょっと来てくれませんか。トラブルが発生したので」

「ああ。すぐに行く」


ドワルグの船の乗組員が慌てた様子で駆け寄って来る。

ドワルグは片手を上げて応えるとエリザに言葉を残す。


「エリザ。私達はいつでも待っているからな。気が向いたら帰って来ておくれ」


ドワルグは急いで自分の船へと戻って行った。


「エリザ、これでよかったのか?」

「いいのよ!あんな奴……」


普段は見せないエリザの様子にただ事ではないことを感じる。

エリザが嘘をついてまで出身地を隠していたのには何かしらの訳があるようだ。

だが、ここで問い詰めても雰囲気が壊れるだけ。

エリザから話してくれるのを待つのが正解だろう。


「それじゃあ宿に戻るか」


私達はどんよりとした気持ちのまま宿に戻った。

それはエリザの方が一番感じていたことだろうけど。


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