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37「襲撃」

そろそろオーダーメイドした服が出来上がる頃。

私達は揃って服飾店へやって来ていた。


「オーダーメイドした服は出来ているかい?」

「ああ、ちゃんと出来ているよ。ほれ」


恰幅の良い女店主は店の奥から注文したオーダーメイドの服を持ってくる。

仕上がりはバッチリで注文通りのモノが出来上がっていた。

私はさっそく新しい服に袖を通してみる。

思っていたよりもしっくりと体に馴染む。

鬼蜘蛛の糸で製法されている割にはしなやかだ。


「どうだい?気に入ったかい?」

「気に入ったよ。けど、鬼蜘蛛の糸で作っている割にはしなやかだな」

「特殊な方法で製糸しているからね。まあ、これもドワーフ様様ってところだけどね」


もともと製糸技術はミッドガル地方に住んでいるドワーフからもたらされた技術だ。

ドワーフは他の人種と交流することを避けて独自の文化を形成して来た。

それが故にドワーフの築き上げた技術は他に類を見ないほど優れている。


100年ほど前にミッドガル地方を探査していた調査団がドワーフと接触した。

もちろん最初はドワーフ達から相手にもされていなかった調査団だったが、モンスターに襲われていたドワーフの子供を助けたことでドワーフと交流を持つようになった。

その時にドワーフの築き上げた技術に触れ、いたく感動したのだった。

その技術を国に持って帰ろうとした調査団はドワーフに懇願する。

しかし、門外不出の技術をそう簡単に渡す訳には行かないとドワーフ達は反対する。

そこで調査団たちはしばらくの間、ドワーフの村に滞在して親睦を深めることに。

それは自分達を信用させる目的と、技術を見て盗むためだ。

物理的に盗むのは反発を買うが、見て盗む分には後めたさもない。

調査団は3カ月間、ドワーフの村に滞在して製糸技術を学んだ。

そして母国に戻り、身に着けた製糸技術を参考に製糸機械を開発した。

ドワーフのそれと違うものだったが製糸には問題なかった。

その技術は瞬く間に世界に広がり発展して行ったのだった。


「どう、タクト。似合う?」

「何言っているんだエリザ。前と変わりないじゃないか」

「どこを見ているのよ。新しい服に変わったのよ。違いくらい気づくでしょう、普通」


呆れたようにガルドを見やるエリザの気持ちはわからないでもない。

服のデザインはまったく変わっていないが新しい服に変わったのだ。

やっぱり新しい服ってものはテンションがあがる。

以前よりも耐久性が上がっていて防御力がアップしたし。

それに耐水性も備わっていてある程度、濡れても水を弾く。

これで戦力アップも見込めるものだ。


「俺にはさっぱりわからん」


ファッションセンスのないガルドに何を言っても無駄だろう。

ガルドは着られればそれでいいタイプだから。


「で、全部でいくらだい?」

「一着2万で4着だから全部で8万ゴールドだよ」

「俺の武具より高いじゃないか!」

「オーダーメイドだからね」


私は財布から8万ゴールドを取り出し、カウンターに乗せる。

恰幅の良い女店主は秤に金を乗せて重さを確かめた。

たくさんの金貨を一枚一枚数えるのは大変だから重さで量るのが主流だ。


と、店の外から騒がしい声が聞えて来る。


「ん?何だい?何かあったのかい?」


恰幅のよい女店主が店の扉を開くと街の人達が聖堂へ逃げて行く。


「ちょっと、あんた。何かあったのかい?」

「盗賊団だ!盗賊団が襲撃して来たんだ!ここにいると危ない。お前達も聖堂へ逃げるんだ!」


街の人はもつれる足を踏み出して聖堂へ向かって駆け出して行く。

恰幅のよい女店主は慌てて店仕舞いをすると私達を店から追い出す。


「あんた達も逃げるんだよ。ここにいたら巻き込まれてしまうからね」

「どうするのタクト?」

「とりあえず様子を見に行ってみよう」

「あんた何を言っているんだい。殺されっちまうよ」

「私達は冒険者だ。戦いには慣れている」

「好きにしな」


恰幅のよい女店主は重そうな体を揺らせながら聖堂へ逃げて行った。

私達は反対方向へ駆け出して東門へ急いだ。

盗賊団と言ってもどれほどの規模のものなのか知る必要がある。

小規模なのか大規模なのかで対応を変えなければならない。

まあ、ヴェールズにはサンドリア王都から派遣されている警備兵がいるからそう簡単には落ちないと思うが。


東門の前にはサンドリア王都から派遣されてきた警備兵達が集まっていた。

総勢300人ぐらいはいるだろうか。

盗賊団相手の警備にしては人数が多すぎるのが気になったが。

盗賊団は小高い丘に陣取っていてこちらの様子を伺っている。

ざっと確認しただけでも数十はいるだろう。

数の上ではこちら側が有利だ。

しかし、あんな小規模の集団でヴェールズを襲撃しようとするなんてとんだ命知らずだ。


「お前達!こんなところで何をしている!民間人は聖堂へ避難しろ!」

「俺達は冒険者だ。民間人とは違う」

「冒険者も民間人だ。さっさとあっちへ行け!」


強い剣幕で怒りをあらわにする警備兵に掴みかかろうとするガルド。

それを制して一歩前に出た。


「私は策士だ。いくら小規模の盗賊団とは言え戦いには戦術が必要だろう。力を貸そう」

「これは国の問題だ。どこぞの馬の骨ともわからん奴の手を借りるつもりはない」


梨の飛礫だった。

警備兵はイラつきながら私達を追い返した。

あのくらいの盗賊団相手に他の奴の手を借りるのは警備兵としてのプライドが許さないのか。

それとも内政に干渉されるのが嫌なのか。

いずれにせよ、私達の出番はないようだ。


「仕方がない。私達は高みの見物と行こう」


私達はヴェールズの街を見渡せる時計塔に登り戦況を見守ることにした。

ヴェールズの西側は海に面しており出入口は東門だけ。

北と南は高い城壁に囲まれていて侵入者を寄せ付けない。

盗賊団も東門から侵入をするようで小高い丘に陣取っている。

数では警備兵に劣るが戦力はどうだろうか。

戦いは必ずしも数が多い方が勝つと言うことはない。

戦い方次第では数が少なくても勝利を収めることができるのだ。


「盗賊団は剣士が50と弓使いが30ばかりね。警備兵達は鎧を着た槍兵が100に剣士が200。これじゃあ私達の出番はなさそうね」

「そうとも言い切れないぞ。街から一歩出たら砂漠地帯だ。重装備では足が取られやすい。返って戦いにくいだろう」

「それに地獄アリもいるしね」


プリシアの言葉通りヴェールズの街の周りには地獄アリの巣が網の目を縫うかのように幾つも出来ている。

条件は盗賊団も警備兵達も同じだが戦い方次第では有利に働くかもしれない。

盗賊団を監視しはじめてから一時間。

盗賊団はまったく動く気配を見せない。


「全然、動かないわね。どうしたのかしら?たくさんの警備兵を前に臆したのかしら?」

「他の仲間の合流を待っているのかもしれませんね」

「仲間が増えたからって、あの警備兵達の壁を突破できないだろう。300もいるんだぞ」


エリザ達の言う通り他の仲間の合流を待っているのかもしれない。

しかし、私は不可解な疑問を抱いていた。

それはリーダーらしき人物の不在だ。

大抵、盗賊団や山賊には必ずリーダーがいる。

リーダーが部隊を指揮するから力を発揮できるのだ。

これはもしやおとりなのではと言う疑念が頭をよぎっていた。

その答えはすぐにわかった。


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