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35「強化」

ギルドの受付に調査報告を済ませる。

アラジンのアジトの場所、総員数、馬の数。

私が提供した情報にギルドの受付はさも知っているかのような反応を見せる。

恐らくだがギルドでもあらかた見当はつけていたのだろう。

それは国からもたらされた情報に違いない。

ギルドへ集まる依頼はモンスターの被害を受けている商人や民衆がほとんどだが。

まれに国から提供される依頼もある。

今回のような盗賊団関連や山賊、海賊なと対人間を相手にした依頼などが多い。

中には要人暗殺などの国家がらみの危険な依頼もあるのだ。

報酬の方は変わりなく5千ゴールドを受け取った。


「仕事も終わったし飲みに行こうぜ」

「そうだな。次の作戦会議も兼ねて飲むか」

「そう来なくっちゃ」


ガルドは私の肩に手を回すと意気揚々と歩いて行く。

辺りはすっかり暗くなって店からもれる灯かりが客を誘うかのよう。

時刻にして深夜0時を回ったところだが、酒場は大勢の客で賑わっていた。


「マスター、この店で一番うまい酒をくれ」


いつもの口癖でガルドがマスターに声をかける。

すると、マスターはいかにも高そうな酒瓶を持って来た。


「これがうちで一番うまい酒だ」


酒瓶には装飾が施されていて何かの紋章のようなものが刻まれている。


「これって?」

「気づいたかい。これは国へ献上する酒だ」

「そんなものを出してもいいのか?」

「国へ献上する酒は別に用意してある。それはレプリカと言ったところだ。だが、味は本物だぞ」


ガルドはグラスに酒を並々注ぐと香りを楽しむ。

そして、一口口に含むと舌で酒を味わった。


「こんなにうまい酒は初めてだ」


国へ献上するものは農産物や海産物、酒、装飾品、服飾品、武具など様々ある。

誰でも献上できるものではなく、国から認定された者しか献上できない。

なので生産者達は争うように品物の開発に勤しむ。

栄誉を手に入れるため最高の品質を生み出すのだ。

それがうまい具合にサイクルしてより良い物が生み出される仕組みになっている。


また、献上した者は一年間、税を下げられると言う規定もある。

それが故に生産者達はこぞって献上品を開発するのだ。


「タクトも飲んでみろ?」


ガルドが私のグラスに酒を並々注ぐ。

そして、香りを楽しんでから舌で味を楽しんで飲み込む。

フルーティーな香りに少しピリッとした辛みのある芳醇な味わい。

喉を通すと焼けるように熱くなった。


「こいつはうまい」

「だろ。エリザ達も飲んでみろよ」


ガルドがそれぞれのグラスに酒を注ぐ。

エリザ達は酒を飲み込むと私と同じ反応を見せた。


「「美味しい!」」


マスターは満足気な顔を浮かべてカウンターに戻って行った。

私達はしばらく雑談をしながら酒を楽しんだ。


「それでタクト。次はどんなモンスターを相手にするんだ?」

「次はいよいよ海上戦へ挑戦しようかと考えている」

「海かよ!俺は勘弁願いたいな」


ガルドは頭を抱えてテーブルに突っ伏す。

よほど船酔いが嫌なのか、赤ら顔も青く成りはじめていた。


「もう海上戦でしょうか?まだ私達には早いと思うのですが」


ルーンの心配も無理はない。

マリンクラブ戦は海岸線とは言え陸での戦いがメインだったから。

先の戦いでどれくらいの経験を積めたのだろうか。

私にも判断はつきにくい。

しかし、いつかは通らなければならない戦いだ。

ならば、早い方がいいだろう。

小型船でなく大型船をチャーターできれば問題はない。

波の揺れ方も小型船と大型船では比べ物にならないくらい違う。

船酔いに怯えているガルドも安心して航海できるだろう。


「その前に必殺技と魔法を強化しようと考えている。海のモンスターに対応できる必要があるからな」

「海のモンスターの弱点は何?」


私は戦術帳をパラパラとめくりながら確かめる。


「こぞって炎系の攻撃に弱いな」

「炎系の魔法なら既に覚えているわよ」

「俺も紅蓮剣を覚えているしな」


私は顔の前で人差し指を左右に振る。


「炎系の魔法でも最上級の魔法を覚えてもらう必要がある」

「エクスプロード?」

「そうだ。海系のモンスターは耐衝撃性に加え魔法耐性も持っている。これまでの魔法では大ダメージは期待できない」


私の言葉にエリザはゴクリと唾を飲み込んでから答えた。


「わかったわ。けれど、使いこなせるかわからないわよ」

「魔法が定着するまでは強敵とは戦わないから安心してくれ」


魔法や必殺技は熟練度が上がると覚えられる。

熟練度に数値的な要素はなく経験に応じて実感できるもの。

曖昧な指標なので多少レベルが低くても魔法や必殺技を覚える者もいる。

しかし、使いこなせるかは別の問題。

なので多くの冒険者は戦いの経験を積みことからはじめる。

そしてある程度の経験を積んでから魔法や必殺技を増やして行くのだ。


私達の話を横で聞いていたルーンが問いかけて来る。


「私はどのような魔法を覚えればいいのでしょうか?」

「長期戦のことを考えてキュアレストとアシットレインを覚えてもらいたい」

「回復魔法を強化して敵の防御力を落とす魔法ですね」


モンスターの弱点をついたエクスプロードも重要だが、何より耐衝撃性を持っているモンスターの防御力を落とすアシットレインも必須だ。

これからの戦いはルーンの魔法が鍵を握るかもしれない。


「私は何を覚えればいいの?」

「鉄鎖裂弾だ」

「爆発する時、無数の鉄の刃を放つ必殺技ね」

「耐衝撃性対策だ。斬撃ならば大ダメージを期待できる」


アシットレインで防御力を下げたとしても耐衝撃性の攻撃では大ダメージは期待できない。

プリシアの爆弾はほとんどが衝撃タイプのモノだ。

鉄鎖裂弾はレベル的には爆裂弾と同等の低い必殺技だが、斬撃が期待できるタイプ。

何も強敵だからと言って最上級の必殺技を覚えなくてもいいのだ。

それはガルドにも言えて。


「ガルドには大車輪を覚えてもらいたい」

「大車輪って回転剣舞のひとつじゃないか!」


回転剣舞とは剣技の奥義のひとつ。

奥義には剣舞と乱舞がある。

剣舞は剣を中心に主が舞う太刀で乱舞は主を中心に剣を舞わせる太刀だ。

どちらも剣士としての経験を積まないと使えこなせない。


大車輪と言う技はその名のごとく剣と一緒に剣士が回転する剣技。

剣の刃を立てるので斬撃を食らわせることが出来る。

はじめてのガルドには一回転が精一杯だろう。

奥義の錬度が上がれば連続で何回転も技を繰り出すことが出来るのが特徴だ。


「いよいよ俺が活躍する時が来たってことだな。腕が鳴るぜ」


ガルドは腕を回りながら満面の笑みを浮かべる。

これまでの戦いでは見せ場が少なかっただけに気合の入り方が違う。

まあ、ガルドはそれくらいじゃないと面白くない。


「それじゃあ必殺技と魔法の強化を頼んだぞ」


それから私達は心行くまで酒を楽しんだ。


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