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32「仲間の印」

キャンプは山の高台の所にあり、マリンクラブは登って来れない。

マリンクラブに襲われることもないので船長達は酒を飲みながらのんびり過ごしていた。


「はあはあはあ。戻ったぞ」

「おお、戻ったか。お前達も一杯やるか?」

「何だよ、こいつら出来上がってるじゃないか」


ガルドは呆れ顔で船長達を見やる。

船長達はすっかりできあがっていてマルクがいなくなったこともわかっていないようだった。


「おい船長。マルクを何で見ていなかったんだよ!もう少しの所で殺されるところだったんだぞ」

「マルク?マルクならテントで寝ているよ」


船長は赤ら顔でテントを指さす。

その手には酒瓶が握られていた。

緊張感の欠片もない。

本当にさっきまで航海していた連中なのか。

海の男は豪快って聞いたことがあるが、ここまで呑気だと逆に心配になる。


「とりあえずマルクは助かったんだ。よしとしようじゃないか」

「けどな」


私の言葉にガルドは納得していないようだったがとりあえず諦めた。


「マルク。こんなことはこれっきりだからな」

「わかったよ」


マルクはしぶしぶ頷いて答える。

私達は夜が明けるまでキャンプでひと休みすることにした。



翌朝、小鳥たちの鳴き声で目を覚ます。


「おう、起きたか。それでマリンクラブは倒したのか?」

「8匹は倒した」

「そうか、8匹もか。いいぞ、いいぞ」

「何がいいんだ?」


ひとりにんまりと笑みを浮かべている船長に尋ねた。


「マリンクラブの甲羅は高く売れるんだよ」

「売るのか?」

「そうだ。マリンクラブの甲羅は装甲や防具に加工できるからな」


モンスターから採れる素材は市場で取引されている。

その多くが冒険者達からもたらされたもので、市場は賑わう。

貿易都市であるヴェールズの港では世界各地から集まったモンスターの素材を見られるのだ。


「しかし、あんなデカいのをどうやって運ぶんだ?」

「一気に全部は運べないが船に縛り付ければ運べる」


船長は何回もここへ来るつもりでいるようだ。

お宝を目の前にして手を引くことはできない。

まあ、人間とはそう言うものだが。


「しかし、解体しないとダメじゃないか?」

「解体なら任せておけ。船乗りだったら当たり前のように身に着けている技能だ」


それは頼もしい。

私達はモンスターを倒すのが専門だから解体の技術は身に着けていない。

旅先でもモンスターを倒しても、モンスターごと市場へ持って行く必要があるのだ。

そんなことをしてまでモンスターの素材を売るよりも、素直にギルドで報酬を頂いたほうが得だ。



「それじゃあ案内してくれ」


私はみんなを起こして荷物をまとめると海岸線へ向かった。

海岸には昨夜、倒したマリンクラブの死体が転がっていた。

まだ、時間もそんなに立っていないので新鮮さが保たれている。


「よし、お前達。解体をするぞ」

「私達にできることはないか?」

「そうだな。手足の取り外しを任せようか」


船長はそう言って大きなのこぎりを渡して来た。

普通の小さなカニならば手足の関節を逆に曲げて手足をもぎとるが、マリンクラブのサイズになるとのこぎりで切断しなければならない。

そればかりではなく身を掻き出して取り出さなければならないのだ。

デカい鍋でもあったらカニ鍋でもしたいところだが。


解体作業は3時間ばかり続いた。

全てのマリンクラブの手足がもぎ取られ甲羅と手足の殻だけが残った。

後はこれを船で運ぶだけ。


「よし、お前達。船に戻るぞ」

「また魔法で海を凍らせるの?」

「いや、海を凍らせたら、こいつが運べない。海に浮かべて泳いで戻るぞ」

「泳ぐの?私達、服を着たままよ」


エリザが不満そうな顔を浮かべて船長に訴える。

しかし、船長は首を横に振って却下した。


「仕方ありませんわ、エリザさん。下着になりましょう」

「えー。みんなの前で下着姿になるなんて恥ずかしいわ」

「私も恥ずかしいですけれど、それしか方法はありませんから」


ルーンとエリザは恥ずかしそうにしながら服を脱ぎ出す。


「ちょっとこっちを見ないでよ」


エリザはニヤニヤ涎を垂らしながらいやらしそうな目つきで見ているガルドに文句を言う。

普段は服を身に纏っている女性が下着姿になるなんて興奮するのはあたり前。

私は紳士的に振る舞いながらもチラ見して楽しんだ。


「私は裸でも平気!」

「プリシアはちょっと羞恥心を持て!」


その場で裸になろうとするプリシアに私は注意しながら服を着せた。


「女ってやつはめんどくさい生き物だな」

「何よ、船長。聞き捨てならないわね。そのセリフ」


エリザが船長に詰め寄り問いただす。

その剣幕に押されて船長が白旗を上げた。


「いや、何。女性ってのは準備が必要だっていいたかっただけだ」

「そう言う意味ね」


エリザは納得していない様子だったが、それ以上問い詰めなかった。

そして、私達はマリンクラブの甲羅に手足を乗せて泳いで船へと戻った。

マリンクラブの甲羅にロープを巻き付けて船の後方に括り付ける。

準備が終わるとヴェールズへ向けて出航した。


航海は順調に進み二日でヴェールズに辿り着いた。

船長達はさっそくマリンクラブの甲羅を市場へ出荷する。

久しぶりの採れ物に市場の関係者達は歓喜の声を上げていた。

甲羅の価格はひとつ1万ゴールドで手足はまとめて5千ゴールドにもなった。

船長達はさっそく残りの甲羅を取りに引き返すことに。


「これでお別れだな」

「みんなと旅ができて楽しかったよ」

「マルク。私……」


プリシアが頬を赤らめながら話しずらそうにしている。

私は気を効かせてガルド達を連れて距離をとった。


「どうしたんだよ、タクト?」

「ガルドは鈍感ね」

「鈍感って何だよ?」


ガルドは訳が分からずにきょとんとしている。

そんなことも気にせずプリシアはマルクに告白した。


「私、マルクと出会えてよかったわ」

「な、何だよ、急に」

「マルク……私」


頬を赤らめながら俯くプリシアを見てマルクの心臓がドキドキ高鳴る。


「私、マルクのこと弟みたいに思っていたわ。私には血の繋がっていない弟がいたの。けれど、病気でなくなっちゃってさ。まだ5歳だったのよ。神様ってズルいわよね」


マルクは何だよと言わんばかりの顔でプリシアを見やっていたが何も言わずに話を聞く。


「マルクは私とひとつ違いだけれど、亡くなった弟が重なっちゃってね。勝手にごめんね」

「謝るなよ。俺達は仲間だろ」

「仲間か……そうだね」


プリシアは目じりに浮かんだ涙を拭きとる。


「マルク、ありがとう。代わりにこれをあげるわ」

「ブレスレッド?」

「そう、仲間の印」

「ありがとう。大切にするよ」


マルクはプリシアからもらったブレスレッドを腕にはめる。

銀色に輝くブレスレッドには旅の安全を願う気持ちが込められている。

プリシアが旅立つときに両親からもらったものだった。


「おい、マルク!出航するぞ!」

「わかったよ、親方!」

「じゃあね」

「またな」


マルクはプリシアと別れると船長の船へ乗り込んだ。

そしてアトルーゼの無人島へ向けて出航して行った。


「プリシア、いい友達が出来たな」

「うん。けれど、タクトは恋人だけどね」


プリシアは嬉しそうに私に飛びかかって来る。

その様子を見ていたエリザが顔を真っ赤にさせて怒りだす。

いつもの日常が戻って来た。


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