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30「罠」

どのくらいの間、嵐に巻き込まれていただろう。

私達を乗せた小型船は嵐を抜けて海に漂っていた。


「船長、ここはどこだ?」

「ここがサイドブルーだ。見てみろ。あそこに島が見えるだろう。あれがアトルーゼだ」


船長が指を指した方角を見やると無人島があった。

無人島と言う割には、かなり大きい島。

こんもりと小高い山に草木が生い茂っている。

遠目からでもわかるくらい椋鳥の群れが空の色を変える。

滅多に人が立ち寄らないから小動物たちの楽園になっているようだ。


「この船で島へは上陸できない。近くまで寄せるから、後は泳いで渡るぞ」

「えー。泳ぐの?」

「何で船では行けないのですか?」

「アトルーゼの周囲は浅瀬で占められている。下手に近づこうものなら船が座礁しちまう」


船長の言う通りアトルーゼの周りは海底が見えるほどの浅瀬が広がっていた。

エメラルドグリーンの海の中にはたくさんの珊瑚の森が広がっている。

手を伸ばせば捕まえられそうなほど、たくさんの小魚の群れ。

まさに、楽園と呼べるほどの光景だった。


「まあ、いいじゃないか。こんなきれいな海を泳げるんだ。楽しもうぜ」

「俺は早く陸にあがりたい……ウェッ」

「私達は水着を持ってきてないのよ。まさか、服を着たまま泳げなんて言わないわよね?」


そう言う問題があったか。

マリンクラブを討伐することばかりを考えて何も準備はしてこなかった。

私とガルドは服を脱げば済むが、エリザ達はそうはいかない。

どうするか……。


「エリザの魔法で海を凍らせればいいじゃない」

「その手があったか」


プリシアの思いもよらぬアイデアにポンと手を叩く。


「しかし、魔法で海水を凍らせられるかが課題だな」

「それは大丈夫だ。流氷があるくらいだから、海水でも凍るさ」


それでも水を凍らせる時よりは強めに魔法をかける必要があるだろう。

まあ、でも、海全部を凍らす訳ではないから問題はないな。


「エリザ、島に向かって魔法をかけてくれ。なるべく真っすぐにだぞ」

「真っすぐって言ったって氷の魔法は全体攻撃用なのよ。そんな簡単にはできないわ」

「何でもいいから早くしてくれ。もう、限界だ……ウェッ」


エリザは言われるがまま海面目がけて氷の魔法を放つ。

すると、辺り一帯が一瞬で氷と化した。


「これでいいんでしょ」

「すげえな、姉ちゃん。これならマリンクラブも倒せるかもな」


氷と化した海を見やって船長は驚きの声を上げる。

周りにいた船員達も目を丸くして立ち尽していた。


「それじゃあアトレーゼに上陸しよう」


私達は荷物をまとめてアトレーゼに向かって歩き出す。

足元に気をつけながら……。

と言っている傍からガルドが尻もちをつく。

氷と化した海は良く滑る。

波の形に氷と化しているのだが、滑らかな所は滑りやすい。

しかし、凍っているのは表面だけで海底では小魚達が優雅に泳いでいた。

小型船は漂流しないように碇を下ろして固定する。

そして、船乗り3名が残ることに決まった。


「これがアトレーゼか。デカいな」

「じゃあ、さっそく山に登るぞ」

「何でわざわざ山に登るのよ。テントを張るならここでいいじゃない?」

「何を言ってるんだ。夜になったらマリンクラブが上陸して来るんだぞ。こんな所にテントを張ったんじゃ巻き込まれちまう」


ギルドの情報通りマリンクラブは夜行性の甲殻類。

真っ暗でも見通せる暗視機能が目に備わっている。

そればかりか表面感覚も敏感で危険察知能力が高い。

まあ、真っすぐには歩けないところが玉に傷だが。


「なら、私達はマリンクラブ対策を考える。テントの方は船長達に任せるよ」

「わかったぜ。おい、マルク。遅れるなよ」

「わかってるよ、親方」


船長とマルク、そして残りの船員3名は草木を掻き分けて山を登って行く。

私達は砂浜に残り作戦会議をはじめた。


「マリンクラブ対策って何をするわけ?」

「罠を仕掛ける」

「罠?」


罠と言ってもネズミ獲りのようにエサでおびき寄せる訳ではない。

マリンクラブが歩く場所に目星をつけてロープを仕掛けるのだ。

ロープの端と端を木に結び付けておく。

そしてロープを張り砂の中に埋めて氷で固定しておく。

これで準備は完了。

後はマリンクラブがロープの上を通過しようとするタイミングでロープの固定を外す。

すると、パチンコが弾けるようにロープの張力でマリンクラブをひっくり返す作戦だ。


「そんなちまちました作戦を立てるより総攻撃した方が早くねえか?」

「マリンクラブの装甲は厚い。普通の攻撃ではノーダメージだ。魔法でさえ跳ね返すほどの固さなんだ」

「そんなの最強じゃない」


両手を広げて諦め顔のエリザに向かって私は人差し指を顔の前で横に振る。


「確かにマリンクラブの装甲は厚いが弱点はある」

「弱点って?」

「マリンクラブの腹は装甲が薄いんだ。普通の剣でも貫通できるくらい柔らかい。腹を狙えば大ダメージを与えられる」

「だから、マリンクラブをひっくり返す罠を仕掛けるのですね」


私の説明にエリザ達は納得したように大きく頷き返す。


「けどよ、マリンクラブは危険察知能力が高いんだろ?そんな罠でうまく行くのか?」

「それも考えてある。死神戦でプリシアが使った聖光弾を使う。マリンクラブが罠に近づいたら聖光弾でマリンクラブを混乱させるんだ」

「さすがタクト。それならうまく行くね」

「そんなものなのか……」


出番があることで浮かれ気味のプリシアを尻目にガルドは不安そうな顔を浮かべる。

確かにマリンクラブとは初戦だけに不安になるのも無理はない。

しかも陸の上とはいえ、海上戦を想定しての戦いになるのだ。

まあ、ガルドの心配はマリンクラブのことより船酔いのことの方が大きいだろう。


「それじゃあ準備に取り掛かるぞ」

「おー!」


私はガルドとロープの端と端を樹に括り付ける。

エリザの魔法でロープを固定し、ルーンとプリシアでロープを砂に隠す。

罠の準備は着々と進み西の空が赤く染まる頃には終わった。


後は夜を待つだけ……。


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