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3「策士タクト」

街から離れた岩場。

草木が一本も生えていない荒廃とした開けた地に、ピンチに追い込まれた冒険者達がいた。

左手には高い壁、右手にはウォーウルフの群れ、そして背後には底の見えない崖。

いわゆる背水の陣だ。

この陣形を得意とした策士もいたが、まだ、駆け出しの冒険者のガルド達には、ただのピンチでしかなかった。


「くぅ、こんなに手強いなんて」


ガルドは大剣の剣先をウォーウルフに向けながら、弱音を吐く。

グループで唯一の近接攻撃の戦士だが、腕があまり良くない。

剣を使うより、剣に使われている感じだ。


「もう、後がないわよ。私達、このままウォーウルフの餌食になっちゃうのかな」


ウォーウルフから距離をとっていた魔法使いのエリザが一歩後ろに下がる。

すると、カラーんと音を立てながら、小さな小石が底の見えない崖下へ落ちて行った。

唖然とするエリザの顔には恐怖と諦めが混在している。


「ガルドもエリザも何、弱気になっているんだ。まだ、手はある!」


そう断言したのは弓使いのクロース。

エルフ一族の末裔であるクロースは弓の名手。

しかし、プライドが高く、人の言うことを聞こうとしない部分がたまに傷だ。


「クロース、手って何よ?」


目の前の恐怖に顔を曇らせていたプリーストのルーンがクロースに聞き返す。

プリーストとしての腕はまだまだだが、誰よりも優しい。

すると、クロースが自信ありげに作戦を言って来た。


「俺が後方支援するから、ガルドが切り込む。突破口が開いたら、エリザとルーンは逃げるんだ」

「そんなの無茶よ。二人だけでウォーウルフの相手をするなんて。私たちも戦うわ!」


クロースの作戦に身の一番に反対して来たルーンは語気を荒げる。

しかし、クロースはルーンに言い聞かせるように言った。


「ルーン、作戦はこれしかないんだよ」


その言葉に、その場にいた誰もが覚悟を決めた。


「背水の陣で突破口を開く作戦か。面白い。その作戦とやらを見せてもらおう」


私は風下の崖の上に陣取りながら、ガルド達の戦いの行く末を見守った。



結果は言うまでもなく。

ガルド達はすっかり戦意をなくしていた。

せっかくのクロースの作戦も失敗に終わり、成す術もなくただ立ち尽くしていた。


「もうダメだ。俺達はここでウォーウルフに食い殺されるんだ」

「嫌なこと言わないでよガルド」

「でも、もう手がありません」


頭を抱えながら弱音を吐くガルドの横でエリザとルーンが手をこまねいていた。

ただひとりクロースだけは敵意をむき出しにしながらウォーウルフを睨んでいる。

気性の荒いエルフだけに追い詰められても戦意を失っていない。


「しかし、結果ははじめからわかっていたことだ。賭けもあるし、私が加勢してやろう」


私は風下の見晴らしの良い高台の上に立つと、戦術帳を開く。


ーウォーウルフー

種類:群れで行動する大型の狼。

全長:3メートル

知性:低い

耐性:なし

弱点:炎に弱い。リーダーがいなくなると統率がとれなくなる

特徴①:鋼の肉体を持っている

特徴②:嗅覚が鋭い

生息場所:荒廃とした岩場

倒し方:リーダーを先に倒す


そして、頭の中で戦術を組み立てるとルーンに指示を出した。


「ルーン、グラシスの魔法でウォーウルフの動きを止めるんだ!」

「えっ、誰?」


突然の私の言葉にルーンは辺りをきょろきょろと見回す。

そして高台の上にいた私を見つけると、驚いたような表情を浮かべた。


「ウォーウルフはリーダを狙えば勝てる!俺の指示に従え!」

「は、はい。大地よりいでし伊吹よ、漆黒の鎖となりて、かの者を絞殺せよ『グラシス!』」


ルーンが詠唱をはじめると、大地が輝き無数のツタが何本も伸びて来る。

そして、ウォーウルフの手足を捉えると、キツク締め上げた。

たまらずウォーウルフは暴れ回るが、もがけばもがくほど強く締まって行く。


「クロース!次はウォーウルフのリーダーの目を潰すんだ!」

「俺に命令をするな!」


人から指図されることが嫌いなクロースは私の指示を無視する。

ひとりで戦線から離れると大きな岩の上に腰を下ろして見物しはじめた。

仕方がないので私はエリザに指示を出した。


「エリザ!ファイアーボールでけん制するんだ!」

「わかったわ。爆炎より生まれし炎、灼熱の炎となりて、大地に降り注げ『ファイアーボール!』」


ウォーウルフの群れに炎の塊が降り注ぐ。

と、炎が苦手なウォーウルフは混乱しはじめた。

しかし、グラシスの魔法が効いていて一歩も動けない。


「最後はガルドだ!その大剣でウォーウルフのリーダーの首を落とせ!」

「任せろ!うぉぉぉー!」


猪突猛進で駆けて行くガルドは力任せに大剣を振り下ろす。

すると、ウォーウルフのリーダーの首が地面に転がり落ちた。

鮮血の中でガルドは唸るような雄たけびをあげる。


「リーダーを仕留めたようだな」

「残りのウォーウルフはどうするの?」

「ほおっておけ。リーダーを失ったウォーウルフなど何の脅威でもない」


私はウォーウルフのリーダーの頭を持ち上げると、ウォーウルフの群れに投げつけた。


「さあ、山に帰れ!」


ウォーウルフ達は混乱しながら、一目散に山へ逃げ帰って行った。


「タクトさん、ありがとうございます。おかげで助かりましたわ」

「タクトのおかげで助かったよ」

「いるなら、いるって言ってくれればいいのに」


興奮を抑えながらガルドがお礼を言う横で、エリザは安心したような顔を見せた。

しかし、クロースはひとり舌打ちして、そっぽを向いた。


「これでお前達も戦術の必要性がわかったな」

「タクトがいなかったら俺達、ウォーウルフの餌食になっているところだった」

「そうそう。タクトの作戦で戦況が大きく変わったようなもの。私達は歓迎するわ。クロースもいいわよね?」


エリザの提案にクロースは口を噤んでいたが、しばらく考えた後、小さく頷いて答えた。


「では、これからは私の指示に従ってもらうからな」


私とガルド達は新しい契約を交わすと、ニーズの街へ戻って行った。


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