28「港町ヴェールズ」
ヴェールズの街は見た目、要塞のような姿をしている。
モンスターの襲撃を防ぐためか、城壁が高く設けられていて街をグルリと覆っている。
街の中央に集まるようにタワー状の建物が立ち並ぶ。
かたや西側は海で覆われていて巨大な港が見える。
砂漠に浮かぶオアシス。
そんな雰囲気さえ漂っていた。
「ここがヴェールズか。バカでかいな」
「ノーベン地方の最大の都市ですからね」
巨大な門には警備兵が配置され荷物検査と通行書のチェックをしてる。
私達は行商人達の行列に並び順番を待った。
「ヨゼフ。通行証は持っているんだよな?」
「大丈夫ですぜ。グルンべルグを出る時に用意しておきました」
「それにしてもやけにチェックが厳しくないか?これじゃあ何かに警戒しているみたいだ」
ガルドの言う通り警備兵達のチェックは厳しい。
荷物の蓋を開けさせ中身まで細かくチェックしている。
普通の荷物検査とは明らかに違う様子を呈していた。
「次!通行書を見せろ」
ヨゼフは警備兵に言われるがままに通行書を差し出す。
「グルンベルグからだと。何しにヴェールズまで来た?」
「俺は旦那達を運んで来ただけですぜ」
他の警備兵が荷台を覗く。
「ハハハ……」
気まずそうにエリザが手を振って応える。
「荷物はありません」
「まあ、いいだろう。行け!」
ヨゼフは通りすがりに警備兵に尋ねた。
「何かあったんですか?」
「お前達には関係ない。さっさと行け!」
警備兵はあからさまに声を荒げて不機嫌になる。
その態度からヴェールズで何か問題が怒ってることはわかった。
私達は検問を抜けると街の大通りを抜けて宿屋を目指した。
「外から見た時はわからなかったが、中は凄い賑わっているな」
行商人ばかりでなく、観光客も行きかっている。
貿易都市とも観光都市とも言えるぐらいの賑わいだ。
通りに立ち並んでいる商店にはたくさんの人だかりが出来ている。
ここで商売をしたらすぐに稼げそうな雰囲気だ。
「旦那。宿屋に着きましたぜ」
「へっ?これが宿屋?私の知っている宿屋とは違うんですけど」
エリザは宿屋を見るなり驚きの声を上げて尻もちをつく。
エリザが驚いたの無理はない。
宿屋と言うよりは高級ホテルとでも言えばいいだろうか。
建物は10階建てのタワーのような造り。
装飾が施された造りはまるで城を思わせるかのようだった。
「それじゃあ、俺はこれで失礼します。ヴェールズを楽しんで行ってくだせえ」
ヨゼフはラクダの馬車を引いて駅舎へ向かって行った。
「とりあえず宿部屋に荷物を置いたら、街を散策してみよう」
「その前に私、お風呂に入りたい。汗でべとべとして気持ち悪いから」
「なら、一時間後。ここに集合だ」
私達は部屋に荷物を置くと風呂で汗を流した。
部屋の割り付けは私とガルド。
エリザ、ルーン、プリシアと二つに分かれた。
みんなが泊まれる大部屋もあったのだが、部屋に余裕があったので二部屋に分かれた。
まあ、その方が何かと気を使わなくて済むメリットの方が大きいだろう。
一時間後、私達は宿屋の前で集合した。
「ガルドは?」
「すぐ来るって言ったけどな」
「悪い悪い。湯船に浸かってたら気持ちよくなって眠ってしまった」
「時間はちゃんと守ってよね」
文句を言うエリザにガルドは申し訳なさそうに頭を掻く。
「で、どこへ行くの?」
「とりあえず港を見てみよう」
私達は雑談をしながら港へ向かった。
港には巨大船が何艘も着艦している。
ちょうど荷下ろしをしている最中でたくさんの作業員達で賑わっていた。
さすがはノーベン地方最大の港と呼ばれるだけのことはある。
「これがヴェールズの港か」
「すごく大きな船ね。どこから来たのかしら」
私達が巨大船籍に見とれていると近くにいた子供の船乗りが話かけて来た。
「この船はサラーニャ地方のシグから来たんだ。あっちのはブラム地方のラギトスからだ」
「サラーニャから来たの。すごい」
「だろ。この港に来る船は世界中から来るからな。世界中の品物が集まるんだぞ」
目を輝かせているプリシアに自慢するように子供の船乗りが腕を組む。
見た感じプリシアと同じくらいの年頃だろうか。
この若さで船乗りをしてるなんて感心なことだ。
「お前達、ヴェールズははじめてかい?」
「そうよ」
「なら、俺が案内してやるよ」
すると、荷下ろしをしていた船乗りが叫ぶ。
「おい、マルク。そんなところで油を売っているんだ。こっちに来て手伝え!」
「悪いな。呼ばれちゃったから。また、いつでもここに来てくれれば案内するよ」
「おい、マルク!早くしろ!」
「はいよ!」
マルクは慌てて巨大船に戻って行った。
「慌ただしいやつだったな」
「それじゃあ次はギルドへ行こう」
ギルドへ向かう私達をよそにプリシアはマルクの背中を見ていた。
「どうしたプリシア?」
「ううん。何でもない」
気のせいだろうか。
プリシアのマルクを見る目は好機を抱いている目の様だった。
もしかして、マルクに一目ぼれしたのか?
「どうしたのタクト。急に立ち止まって」
「いや、何でもない。ちょっと考えごとをしていただけだ」
ギルドもギルドで巨大な建物だった。
グルンベルグ王都のギルドの三倍はあるだろうか。
掲示板には見たことのない依頼がたくさん掲示されていた。
「ハンマーヘッドにクラーケン、オクトパスか……海のモンスターが多いな」
「どれも強そうだぞ。俺達に倒せるのか?」
「まあ、海上戦ははじめてだから小物狙いで行こう」
私は掲示板の依頼を消去法で選びながら選定して行く。
なるべく報酬の安いモンスターが狙い目だ。
すると、ちょうど良さそうな依頼を見つける。
「これにしよう!」
「どんなモンスターだ?」
「マリンクラブだ」
「クラブってカニよね?」
「そうだ」
ギルドの情報によるとマリンクラブはヴェールズの西の海サイドブルーに生息しているらしい。
日中は海底で生活しているが、夜になると近くの無人島に上陸する。
体長は7メートルほどで群れをなすそうだ。
「いきなり海上戦も厳しいから、まずは海岸戦を試してみよう」
「相手はカニか。とっ捕まえて食べてやろうぜ」
ガルドは腕まくりをしながら肩を回す。
「それはいいけど報酬はいくらなの?」
「一匹あたり3万ゴールドだ」
「3万ね。まあまあじゃない」
「まあ、報酬より海上戦へ向けての訓練が目的だから報酬は二の次だ」
「なら、船がいるわね」
依頼が決まっても船がなければ海に出られない。
しかし、ヴェールズに来るまでに資金は使い果たしてしまった。
船をチャーターするにもお金がかかる。
まずは、別の依頼をこなして資金を集めるか。
そんなことを考えているとプリシアが口火を切った。
「さっき港で会ったマルクって子に頼んでみたら?船乗りをしていたみたいだし力を貸してくれるかも」
「しかし、子供の船乗りだぞ。船なんか持っていないだろう」
「それはダメ元よ。他にあてがないんだから試してみてもいいんじゃない」
私達はプリシアの意見に乗っかるしかなかった。
けれど、マルクは顔が利くようで親方に掛け合ってくれ。
小型ではあるが船を一艘用意してくれることになった。
「マルク、助かったよ」
「まあ、俺にかかればこんなもんだ」
マルクは胸を強く叩いてゲホゲホ咳き込む。
「その代り俺も着いて行くからな」
「それはいいが戦闘になるんだぞ」
「俺は海の男だ。そのくらい平気だ」
まあ、プリシアも戦闘をしているくらいだから男のマルクを連れて行かない訳には行かないだろう。
船を用意してもらった借りもあるし、出会ったのも何かの縁だ。
「それじゃあ出航するぞ。船に乗れ!」
顎鬚を豊かに蓄えた親方もとい船長が号令をかける。
船乗り達はロープをほどき船を出す。
私達を乗せた小型船はサイドブルーを目指して出航した。




