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26「クルの街」

クルの街は標高1300メートルにある小さな町。

交易路の経由地になっており大きな市場がある。

周辺に出没するモンスターも少ないせいかギルドはなく冒険者はほとんど見かけない。

もっぱら酒場で盛り上がっているのは行商人ばかりだ。


「小さい街にしては発展しているな」

「交易で儲かっていますからね」


グラハム地方の田舎町と比べても発展状況がだいぶ違う。

石造りの街並みは同じだが道路が石畳で整備されている。

馬車が走りやすいように配慮しているみたいだ。


「宿屋に到着しましたぜ」

「ありがとう」

「出発は明日の朝ですぜ。また、その時に迎えに来ます」

「頼むよ」


私達は宿屋の前で馬車から降りてヨゼフを見送った。


「やっとフカフカのベッドで眠れるのね」

「何日ぶりでしょうか」

「その前に腹ごしらえしようぜ」


ガルドはお腹を摩りながら食堂を探す。

私がクルの街へ着た時は急いでいたから街の様子を見ている時間もなかった。

だから、どこに何があるのかわからない。


「人通りの多い通りで探してみよう」


街を行き交う人たちは暖かそうなコートを身に纏っている。

標高が高いだけに夜になると冷え込むからだろう。

空を見上げると西の空が赤く染まりはじめていた。


「あそこに食堂があるぞ」


ガルドが指を指した方を見やるとこじんまりとした大衆食堂があった。

私達はさっそく店の中に入りテーブルにつく。

メニューと言ったものはなく、店主のおまかせコースしかなかった。


「メニューがないのかよ。しけてるな」

「ガルド。そんな大きな声じゃ聞えちゃうわよ」

「いいんだよ。こう言うのはちゃんと言ってやらないと」


店員はおらず恰幅の良い女店主が水を持ってくる。

おずおずと尋ねるルーンに。


「おまかせって何でしょうか?」

「今日は珍しい食材が入ったからね。期待しておいてくれよ」


そう言うと恰幅の良い女店主は厨房へ戻り調理をはじめる。


「珍しい食材って何かしら?」

「おおかた山で採れた山菜なんじゃないか」

「それもそうね。人里離れた山奥だから自然の幸が多そうだしね」


私達は雑談をしながら料理が出て来るのを待った。

しばらくすると厨房から香ばしいいい匂いが立ち込めて来る。

すると、恰幅の良い女店主が料理を運んで来て。


「はいよ、おまち。ジャイアントアントの胃袋のスープだよ」


そう言って大皿に乗ったジャイアントアントの胃袋のスープをテーブルに置いた。


「珍しい食材ってジャイアントアントなの?」

「そうさ。今日、市場に大量に入荷されてね。新鮮だったから仕入れて来たのさ」

「それにしたって……ウプッ」


エリザは口に手をあてながら嗚咽する。

私が売ったジャイアントアントの胃袋の料理が出されるなんて皮肉なものだ。

しかし、見た目はともかくうまそうな匂いがする。


「さあ、食べてみな。美味しいから」


私は恐る恐る胃袋を掴み口に放り込む。

すると、ほどけるような肉の柔らかさと肉汁が口いっぱいに広がった。


「うまい!」

「でしょ。ジャイアントアントなんて滅多に食べれるものじゃないからね。たんとおあがり」

「タクト、本当に美味しいの?」


エリザは嫌そうに料理を見つめながら私に尋ねて来る。

その横でモリモリと美味しそうに食べるプリシアとガルドの姿があった。

この二人は何を出しても美味そうに食べるだろう。


「エリザさん。見た目はグロイですけれど美味しいですわよ」

「ルーンがそう言うなら食べてみようかしら……」


エリザは胃袋を細かく切ると一切れを口に運ぶ。

口の中で何度か咀嚼してゴクリと飲み込んだ。


「どうだ?うまいだろ?」

「美味しいと言えば美味しいけれど、お腹いっぱい食べたいとは思わないわね」

「まあ、味覚は人それぞれだ。お嬢ちゃんにはこっちのカモ鍋をあげるよ」


恰幅の良い女店主は厨房からカモ鍋を運んでくるとエリザの前に差し出した。

できれば私もそっちの方がよかったのだが、言うに言えない雰囲気だったため諦めた。

まあ、お腹が膨れれば何を食べてもいっしょだ。

私達は心行くまで食事を楽しんだ。


「食った食った。それじゃあ酒場へ行こうぜ」


ガルドはぷっくりと膨れたお腹を摩りながら満足気な顔を浮かべる。

ジャイアントアントの料理はほとんどガルドとプリシアの胃袋へ消えて行った。


「ガルド、そんなに食べた後に飲めるの?」

「もちろんさ。酒は別腹だからな」


大衆食堂を出て少し言ったところにクル街の酒場があった。

中は行商人達で賑わっている。

旅の疲れを癒すかのように酒を煽っていた。


「おい、マスター。うまい酒を頼む」

「うちの酒はどれも美味いよ」


そう言って酒場のマスターが差し出したのは地元で仕込んだ地酒。

透き通るような透明な酒に少しとろみがかかっている。

ガルドはグラスを取るとグラスを揺らしながら酒の香りを楽しむ。


「こいつはいい匂いだ。どれ」


酒を一口含むと舌で味を確かめる。

そして、ゴクリと飲み干してマスターを見た。


「こいつは上物だ」

「だろ。この酒は山で採れる水を使っているからな。特別なんだよ」

「タクト達も飲んでみろ」


私はグラスに注がれた酒を一口飲み干す。

少し酸味のある味に後から甘さが追いかけて来る。

そして、喉を通すとカーっと喉が焼けるように熱くなった。


「こいつは美味い」

「まだまだいっぱいあるから楽しんで行ってくれ」


そう言うと酒場のマスターはカウンターに戻って行った。


「私も飲みたい」

「プリシアは酒に弱いんだから少しだけにしておけよ」

「わかってるって」


プリシアはグラスに並々酒を注ぐとゴクリと飲み干した。


「おい、プリシア。この酒は味を香りを楽しむものなんだ。そんな一気に飲んだらうまさも何もないだろ」

「それより、そんな飲み方をしたら悪酔いするぞ」

「だいりょうぶだって……」


もう、できあがってやがる。

後の始末が大変そうだな。

と、ひとりの行商人がテーブルに近づいて来た。


「あれ?お嬢さんってドワルグさんのところのお嬢さんじゃないかい?」

「ひ、人違いです」


エリザはあからさまに動揺しながら否定する。

ドワルグとはエリザの父親の名前だろうか。

そう言えばエリザのことは何も聞いてなかったな。


「おかしいな。とても似ているんだけどな」

「他人のそら似ですよ」


小首を傾げながら行商人は向こうへ去って行った。

私は気になったのでエリザに吹っ掛けてみた。


「エリザのお父さんってドワルグて言うのか?」

「ド、ドワルグなんて知らないわ」


怪しい。

見るからに聞かれたくないことを聞かれた様子だ。

もっと酒を飲ませて酔わせてから聞き出そうか。

私はエリザのグラスに酒を並々と注ぐ。


「まあ、いっぱいやれよ」

「私、気分が悪いので宿へ戻るわ」

「なら、私も行きますわ」


ルーンはエリザと一緒に宿屋へ戻って行った。

作戦失敗。

エリザは何か隠してることは確かだ。

日を改めてエリザに聞いてみよう。


「たゃくと。のんでりゅ?」

「おい、プリシア。飲み過ぎだ」

「つゅれないこといわないでぇりょ」


私はプリシアのグラスを取り上げる。

その横でガルドはいびきをかいて眠っていた。

こいつら……。


「マスター。しばらく休んで行ってもいいかい?」

「好きにしてくれ」


酒場のマスターの言葉に甘えてガルド達が目を覚ますまで酒場で休んでいった。


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