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25「夜襲」

夜もだいぶ更けて来て、ひんやりした空気に包まれる。


「ふあ~。眠い」


ガルドは薪をくべながらウトウトしはじめる。

酒がまだ抜けていないようでほんのり顔が赤い。

酒の酔いと日頃の疲れからガルドは寝落ちしてしまった。


しばらくして黒い影がタクト達に近づいて来る。

馬車の荷台の荷物を調べながら仲間に合図を送る。

そしてタクト達の周りを取り囲むとナイフとタクトの顔に当てた。


「ん?何だ?」


目を覚ますと棍棒を持った山賊達が辺りを取り囲んでいる。

武器を取り上げて、後ろ手に両手を縛ると私達をひとところに集めた。


山賊はその名の通り山岳地帯で根城をはっている盗賊の総称だ。

主に行商人を襲うことが多く交易路で待ち構えていることが多い。

交易を狙われるため各国の警備隊も力をいれて警備を行っているのだが、この山岳帯は未開拓地ため警備の手が行き届いていない。

ミッドガル地方から続く山脈がグラハム地方とノーベン地方を仕切るように伸びているためだ。


「タクト、何。こいつら?」

「山賊だ。こんな所で出くわすなんて。見張りはどうしたんだ?」


ガルドはまだ状況が飲み込めていないようでぼ~っとしている。


「お頭、こいつらジャイアントアントの胃袋を持ってますぜ」

「そうか。やっぱり俺の睨んだ通りだったな。よし、馬車ごと頂くぞ」


山賊のお頭は子分達に指示を出して準備にとりかからせる。


「おい、お前。私達をどうする気だ?」

「荷物を頂けばお前達に用はない。殺すだけだ」


必要のない相手は殺すなんて山賊の常套手段だ。

うかつに人質にとっても反撃されたら元もこうもない。

用済みは処分するに限るのだ。

そうは言ってもこのままでは殺されかねない。

私は思い切って山賊に取引を持ち掛けた。


「おい、お前。お前らがジャイアントアントの胃袋を持っていたとしても誰も買ってくれないだろう。だから、私達が代わりに売って来てやる」

「そんなことを言って俺達を裏切るつもりだろう」

「そんなことはしない。私達はヴェールズまで辿り着ければいいんだ。金はいらない」


山賊のお頭は腕を組みながら考え込む。


「お前の言葉は信用できない。証拠をみせろ」


証拠と来たか。

この山賊見た目は図体がデカくてゴツイが頭は切れるようだ。

たいていこの風貌の奴は頭が悪いものだが。

山賊のお頭をやっているだけのことはある。

しかし、証拠と言っても何を見せれば信用してもらえるか……。


「私がひとりで街へ行ってジャイアントアントの胃袋を売って来る。その間、仲間を人質にしておく」

「な、何言ってるのよタクト!私達が人質って!何考えているのよ!」


驚きの声を上げたエリザは二度見して私を見やる。


「エリザ達には悪いが、これしか方法がないんだよ」

「ルーンも何か言ってやってよ!」

「諦めましょう、エリザさん。タクトさんの言う通りみんなが助かるには、これしかないようですし」

「ルーンまで何を言っているのよ!人質になったら何をされるかわからないのよ!」


エリザの言う通り山賊達が人質に手を出さないと言う保証はない。

私が戻る前に皆殺しにされている可能性だってある。

しかし、この山賊の頭も馬鹿ではないだろう。

目の前のエサをとり逃すほど間抜けじゃない。

私の提案を飲んでくれるはずだ。


「いいだろう。だが、三日だ。三日を過ぎたらこいつらを処刑する」

「処刑って!私達が何をしたって言うのよ!」


エリザは食いつくように山賊の頭に突っかかる。

山賊の頭は煙たそうにエリザを押しのけると私の目の前に顔を近づける。


「いいな。三日だからな。それまでに金を持って戻って来い」

「わかった」


正直、三日は時間的に厳しい。

この先の街までどのくらいかかるのかわからないからだ。

闇雲に馬車を走らせても時間を潰すだけ。

帰りの時間も考えるとピンポイントで攻めた方が無難だ。


「おい、ここから一番近い街はどこだ?」

「それなら北にあるクルと言う街だ」


私は地図を広げながらクルの街の位置を確かめる。

ここが山岳地帯だからクルと言う街は山を下りた麓にあたる。

途中、山もなく大きな川もない。

これならば三日でなんとかなりそうだ。


「助けを呼んでも人質は殺すからな」

「わかってる」


さっそく私は馬車に乗り込むと馬を走らせた。


「タクトさん、任せましたからね」

「タクト、ちゃんと戻って来てよ」

「タクト、信じてるからね」


私が乗る馬車を見送りながらエリザ達が思いを口にした。


私は馬に鞭を入れながら勢いよく山を下って行く。

こんなスピードで山を下るのは危険な行為なのだが、時間がない。

地図で見たのはあくまで目安だ。

この先にどんな困難が待ち受けているのか想像しただけでも恐ろしい。

モンスターに遭遇でもしてしまったら私にはやりようがない。

私は戦術を立てるのが専門で戦いには疎い。

いちおう英才教育で武術は一通り身に着けているが。

今は武器も何も持っていない丸腰だ。


「もっと早く走れ!」


私は馬に鞭を入れて馬車を走らせる。

すると、馬車の車輪が岩に乗り上げて大きくバウンドした。


「うわぁ!」


その勢いで荷台の荷物が崩れ落ちる。

私は慌てて馬を止め引き返して荷物を拾う。


「畜生。こんな所で時間を潰している暇はないんだよ」


いっそのこと荷物を捨てて先に行こうかとも思ったが、山賊達が荷物の数を数えていた。

ちょろまかしたことがバレたらエリザ達の命が危うい。

この荷物を全て売って戻る必要があるのだ。


「よし、出発だ!」


この作業で一時間はつぶしてしまった。

夜通し走り続けたとしてもギリギリのラインだ。

私は馬に鞭を入れ続けて馬車を走らせた。



エリザ達は樹に括り付けられて磔にされていた。


「タクト、戻って来るかな?」

「プリシアさん、信じましょう」

「でも、タクトが遅れたりしたら私達、殺されちゃうんでしょ」


不安げな様子で呟くエリザの言葉に誰もが口を噤んだ。

ただ、ひとりだけ状況を掴めていないガルドが口火を切った。


「おい、エリザ。これはどう言いうことだよ?何で俺達が捕まっているんだ?」

「ガルドが見張りをしていなかったせいでしょ。何とかしなさいよ!」


ガルドは素っ頓狂な顔で辺りを見回す。


「何とかしたいのは山々だが、こうも括り付けられていちゃあな」

「旦那、お終いですぜ。山賊が俺達を見逃す訳ありませんぜ。あの旦那が戻って来なかったら……」

「弱気にならないでよ、おじさん。一番年上でしょ!」

「そんなこと言ったって俺はタダの馬車の運転手ですぜ」


ヨゼフは諦め顔でぼやいた。


「もう、誰も頼りにならないんだから。こうなったら色仕掛けよ」


エリザは片足で器用にスカートを捲りながら近くにいた見張りの山賊に挑発する。


「ねぇ、お兄さん。私と遊ばない?優しくしておくわよ」


見張りの山賊はハアハア鼻息を荒げながらエリザの所へ寄って行く。

そして舐め回すようにエリザを見やるとエリザの腰に手を回した。

瞬間、エリザは見張りの山賊の耳に被りつく。


「ギャア!」


見張りの山賊は悲鳴を上げながらエリザを突き飛ばした。


「痛っい。何すんのよ!」

「お前が耳を噛むからだ!」


見張りの山賊はエリザの頬を思い切り叩く。

すると、山賊の頭が近づいて来て見張りの山賊を片腕で持ち上げた。


「こいつらは大事な人質だ。手を出すんじゃねえ」

「す、すみません。お頭」


エリザはここぞとばかりに舌を出して馬鹿にする。


「お前も大人しくしていないと殺すぞ」


山賊の頭は脅しのひと言でエリザを黙らせた。



その頃、タクトはクルの街まで辿り着いていた。

馬車を市場の前で止めて関係者に話を進める。


「ジャイアントアントの胃袋だ。これを全部、買い取ってもらいたい」

「どれどれ」


関係者は荷台に上がるとジャイアントアントの胃袋に針を突き刺して蜜を絞り出す。

そしてぺろりと舐めて鮮度を確かめた。


「これは上物だな。お前さん、これをいったいどうやって手に入れたんだ?」

「どうって?ジャイアントアントを倒してだよ」


私の言葉を受けて関係者達は集まって何やら話をしはじめる。

何の話をしているのか聞き取れないが、あまり雲行きがよろしくないようだ。

しばらく関係者達が会議をすると私に問いかけて来た。


「あんた、これは盗んだモノじゃないよな?」


盗む?

もしかして私がこれを盗んで来たと思っているのか。

冗談じゃない。

こっちは命からがらやって来たんだ。

そんな冗談でも笑えないことを言われる筋合いはない。


「買い取るのか、買い取らないのか、どっちだ?」

「……わかった。買い取るよ。でも、これにサインをしてくれ」

「何だこれ?」



関係者が差し出して来た紙を見やると何か難しい文言が書かれていた。

身元保証と契約内容が記されている。

私がこれに違反したら処罰されると言うモノだった。

あくまで私を信用しないつもりだ。

だけど、背に腹は代えられない。

私は書面にサインを済ませるとジャイアントアントの胃袋を下ろしはじめた。


「みんな手伝ってやってくれ」


関係者達は仲間を呼んで来てジャイアントアントの胃袋を下ろすのを手伝う。

50センチくらいある胃袋はひとつでも20キロの重さはある。

大人総がかりで胃袋を全部下ろした。


「なら、胃袋30個で5万ゴールドだな」

「何言ってるんだよ。この手の取引の場合は重さで計るものだろ?勘違いするなよ」


関係者は舌打ちしながら胃袋を計りにかける。

私を素人だと踏んで吹っ掛けて来たのか。

残念だったな。

この手のことも英才教育で学習済みだ。

関係者達は、すべての重さを算出すると金額を打ち出した。


「全600キロで10万ゴールドだ」

「売った!」


私達は無事に取引を済ませ金貨の入った袋を荷馬車に詰め込む。

そして来た道を引き返して行った。

帰りは登り道。

しかも、金貨の重さで馬の足取りは重い。

私はしきりに鞭を入れながら馬を走らせた。



太陽の位置を確かめながら山賊の頭が時間を計る。


「そろそろ期限だ。残念だがお前達は見捨てられたようだな」


山賊の頭が右手を上げて合図をすると見張りの山賊達が武器を構える。


「おいおい、その棍棒で殴り殺しにするつもりかよ。どうせなら一思いにやってくれ」

「何言っているのよ、ガルド!私は死にたくはないわ!」


観念するガルドの横でエリザが手足をバタつかせる。


「タクトさん……」


誰もが諦めかけた時、タクトの馬車が勢いよく駆けこんで来た。


「待たせたな」

「金は?」

「馬車に積んである」


山賊の頭が他の山賊達に合図を出し確かめさせる。


「お頭、金はあります」

「よし、取引成立だ」

「ちょっと待て。金はやるが人質と交換だ」


タクトに棍棒を振りかざす山賊達を制しして山賊の頭が同意する。


「いいだろう。お前達、人質を解放してやれ」


さすがは山賊の頭をやっているだけのことはある。

取引って言うモノを理解している。

中には不意打ちを食らわせる輩もいるが。

それでは歩が悪いと踏んだのだろう。

何せこっちは行く戦の戦いを勝ち抜いて来た冒険者だからな。


「タクト、私は信じていたわ」

「タクトさん、ありがとうございます」

「やったね、タクト」


見張りの山賊達はエリザ達のロープをほどき解放させた。


「また、タクトにしてやられたって感じだな」

「仕方ありませんぜ。何せ山賊に捕まったのは旦那のせいですからね」


ガルドはバツが悪そうな顔をしながらヨゼフを見やる。

ヨゼフはガルドを慰めるように肩を叩いた。


「お前達、金を積み込め。ずらかるぞ」


山賊達は馬車から金の入った袋を担ぐと自分たちの馬に括りつける。

そして馬を連れながら森へ消えて行った。


「本当に俺達を解放したのか?」

「取引だからな」


まあ、金も荷物もなくなったが命はとりとめた。

それだけでも満足しなければならない。

それに私達に気を使ったのか金以外は何も持って行かなかった。

案外、あの山賊の頭は話が通じる奴なのかもしれない。


「旦那達、山を降りますぜ。馬車に乗ってくれ」


私達は馬車に乗り込みクルの街に向けて出発した。


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