24「キャンプ」
「旦那、着きましたぜ」
荷台から顔を出して辺りを見回すと見晴らしの良い広場へ来ていた。
雨はすっかりと上がり西の空が茜色に染まっている。
広場は草木もまばらで地肌がむき出しになっている。
モンスターが隠れそうな場所もなければ気配もない。
「よし、今日はここで野宿をするぞ」
「それはいいけど、その前にお風呂でも入ったら?」
「なら、エリザ魔法でちゃっちゃとやってくれ」
エリザは仕方なさそうに馬車から降りて来て準備をはじめる。
お風呂の作り方は暴れ猿戦でやった手順通り。
まず、プリシアの爆弾で地面に穴をあける。
その後、エリザの氷の魔法で巨大な氷を作り、炎の魔法で氷を溶かす。
湯加減は炎の魔法の強度で変えられる。
魔法をこんな風に使うのは私達ぐらいだろうか。
瞬きしているうちに温泉は出来上がっていた。
「湯加減はどうだ?」
「ちょうどいいよ」
「なら、入るぞ」
ガルドが上着を脱ぎながら温泉に入ろうとするとエリザが文句を言って来る。
「ちょっと待ってよ。何で男子が先なのよ」
「先って言ったって俺達は仕事をしたんだから当然の権利だ」
「私も魔法で温泉を造ったじゃない」
「なら、いっしょに入るか?俺は混浴でもいいぞ」
「な、何バカなことを言っているのよ」
ガルドの羞恥心のない言葉にエリザは頬を赤らめる。
そして訴えかけるような目で私を見て来た。
「私も混浴でもいいけどな」
「タクトまでガルドみたいなことを言って。ルーン、何とか言ってやってよ」
「私も混浴でもいいですわよ」
ルーンは少し頬を赤らめて恥ずかし気に言って来る。
それに乗じるようにプリシアが服を脱ぎ始める。
「混浴、混浴」
「俺達は一緒に冒険をして来た仲じゃないか。親睦を深めるためにも裸の付き合いもいいだろ」
ガルドはあからさまにいやらしい顔をしながらエリザを見やる。
すると、エリザはそっぽを向いて拗ねてしまった。
「エリザって意外とお子様なのね。私は混浴でも平気だよ」
プリシアは躊躇いもなく裸になると温泉へ飛び込む。
広いプールだと思っているのか温泉の中で泳ぎはじめる余裕っぷり。
エリザのように変に恥じらうと返っていやらしく映るものだが、プリシアのように堂々としていればそんなにもいやらしく感じない。
まあ、年頃の女子なのだから恥ずかしがるのが普通だ。
プリシアは特別なタイプなのだろう。
「旦那、俺も先にいただきますぜ」
ヨゼフはおもむろに服を脱ぐとゆっくりと温泉に浸かる。
ふはーと言う吐息をこぼしながらしみじみと温泉を嗜む。
私も服を脱いで温泉に浸かった。
「やっぱり温泉は生き返るな。こんな見晴らしのいい露店風呂なんてそうそう味わえないぞ」
「生きててよかった」
「本当、気持ちいいですわね」
ルーンは恥ずかしげもなくタクトの隣に座る。
それを遠目に見ていたエリザが悔しそうに奥歯を噛み締めた。
「ルーンの奴。タクトに色目を使っちゃって。悔しい」
「ルーン、ズルい。タクトを独り占めして。私にも分けてよ」
プリシアは私に抱き着いてペチャンコの胸を押しつける。
ふにゃんとした感触が伴わないのが少し残念だが。
それでも柔らかな肌が触覚を刺激する。
「おい、プリシア。離れろって」
「いいじゃない。私はタクトのことが好きなんだから」
「私もタクトさんことが好きだから真似してもいいわよね」
ルーンはおもむろに大きな胸を押しつけて来る。
そのふにゃんとした柔らかさに理性が持って行かれて……。
と、エリザが駆け寄って来てプリシアとルーンを引きはがす。
そして顔を真っ赤にさせながら強い剣幕で叫んだ。
「あなた達、何をやっているの!タクトが困っているじゃない!」
「エリザってば、妬いているんだ?」
「そ、そんなことないわよ!」
プリシアはしたり顔を浮かべながらジト目でエリザを見やる。
「エリザってわかりやすいんだから。でも、タクトは譲らないわよ。ねぇ、タクト」
「お、おい。プリシア、離れろって」
猫撫で声を出しながらすり寄って来るプリシアを押しのける。
その隣で羨ましそうにしているガルドがいた。
「何でタクトばかりモテるんだ。俺だって活躍しているだろ」
「旦那、仕方ありませんぜ。なんせあちらの旦那はイケメンですからね」
「それじゃあまるで俺がブサメンって言ってるようなものじゃないか」
ガルドは確かにイケメンと言うよりマッチョそのものだ。
黒髪で短髪の髪型から覗く小麦色の肌が男らしさを醸し出している。
男子の私から見ても憧れるような体系だ。
しかし、マッチョ好きの女子も多いが、やはり顔で判断している女子が大半だ。
大胸筋が好き、上腕二頭筋が好き、シックスパックが好きだの。
マッチョを好きはマッチョを語り出したら止まらないが。
それでも顔が筋肉をしのいでいるのは否めない。
それは男子でも同じことなのだ。
「畜生、タクトばかりいい想いしやがって。俺だっていつかタクトを見返してやるんだ」
「旦那、こう言う時は酒ですぜ」
ヨゼフはどこから持ち出して来たのかお盆に酒瓶を乗せている。
そしてグラスに並々、酒を注ぐとガルドに渡した。
「ぷはー。うまい。温泉で晩酌はいいものだな」
「そうですぜ。酒を飲んで忘れてしまうのが一番ですぜ」
ガルドとヨゼフは顔を真っ赤にさせながら心行まで酒を楽しんだ。
「それじゃあ飯の支度をしようか。プリシア、薪を集めて来てくれ。ルーンは食材の下ごしらえを頼む」
「わかった」
「ガルドさん達はどうします?」
ガルドとヨゼフは湯あたりをしてのぼせ上がっていた。
全身を真っ赤にさせ、まるでゆでだこのようだ。
まあ、一升瓶を二人で空けるくらい飲んだのだからしかたないだろう。
しばらくそっとしておくのがいいな。
一方で、エリザはひとりで温泉を楽しんでいた。
「私は火種の準備をするか」
こう言う時、エリザの魔法が役に立つのだが、わざわざ温泉から出てきてもらうのも悪い。
ここは英才教育で培ったキャンプ技術を見せる時だ。
策士の英才教育は学問だけでなく幅広く訓練を受ける。
キャンプや料理、サバイバル術、騎馬の訓練もしかり。
戦場で取り残されたことも考えており訓練に反映させているのだ。
だから、ちょっとやそっとのことじゃ屈しない。
私は棒に弓型にロープをつけて木片をしごく。
すると、キュルキュルと音を立てながら木片から煙が立ち上る。
そして、できた火種を綿上の塊に乗せると息を吹きかけながら火種を育てた。
あっという間に火種が育ち薪に火が移る。
こうなってしまえば後は薪をくべるだけ。
実に簡単なものだ。
「ルーン、料理の下ごしらえは出来たか?」
「一通り終わりましたわ。後は調理するだけです」
「後はプリシア待ちだな。あいつどこまで薪を拾いに行ったんだ」
その頃、プリシアは近くの森の中で薪を集めていた。
「ここにもある。あっ、ここにも。ふ~、これだけ集めればいいわよね」
プシリアが薪を抱きかかえて戻ろうとした時、パキッと枝を踏んだ音が聞こえる。
「何?」
息を殺して辺りを見回すプリシアだったが何も見つけられず。
そのまま気にせずタクトのいる場所へ戻って行った。
そんなプリシアの様子を伺っていた無数の黒い影があった。
「プリシア、遅かったな」
「あちこちに薪があるから夢中になっちゃってね」
プリシアは舌を出しておどけてみせる。
私はプリシアから薪を受け取ると、さっそく火にくべた。
「今夜のメニューは何?」
「獅子肉のスープとキノコの炊き込みご飯だ」
「キノコなんて、いつ集めて来たんですか?」
「火熾しようの薪を集めた時にな」
キノコも、もちろん食用のキノコだ。
その辺もちゃんと英才教育で学んで来たから安心だ。
「じゃあ、ルーンは獅子肉のスープを頼む。私は炊き込みご飯を作る」
「私は?」
「プリシアは火加減を調節してくれ」
小一時間もかからなうちに料理は出来上がった。
そしてガルド達を起こして食事をはじめる。
「う~。まだ少しだるいぜ」
「飲み過ぎだよ」
ガルドは気怠そうに項垂れる。
その横でヨゼフも同じように項垂れていた。
「この料理、タクト達が作ったの?」
「そうだ。まあ、これくらい朝飯前だけどな」
「美味しそう」
ルーンがスープを撮り分けてみんなに渡す。
そしていっしょにいただきますをした。
「うまい」
「本当、出汁が出ていてコクがあるわ」
獅子肉のスープは獅子肉と野菜から出汁が出ていて深みのある味わい。
硬い獅子肉もほどけるような柔らかさで食欲を誘う。
炊き込みごはんもうまく炊けていてキノコのほんのりとした香りが鼻をくすぐる。
米も粒だっていて程よい噛みごたえがお腹を膨らませた。
「ふ~、お腹いっぱいだ」
「ごちそうさまでした」
私達は食器を片づけると見張りの順番決めをはじめる。
いくらモンスターがいなさそうな環境だからと言っても見張りは必要だ。
もしもがあった時は命取りになりかねないからだ。
まだ、酒の抜けきれないガルドは後回しにして。
みんなの総意で私、エリザ、ルーン、プリシア、ガルドの順番に決まった。
見張りの時間は一時間刻みということで納得する。
「じゃあ、みんな休んでくれ。私が見張りをする」
「なら、お言葉に甘えて」
「タクト、任せたわよ。ふあ~」
エリザは風呂上がりでお腹が一杯になったからか眠気が襲ってきているようだ。
大きな欠伸をしながら焚火の近くで横になった。
プリシアは既に寝息を立てながら眠っている。
寝入りが早いのは若いせいなのからだろうか。
私は火に薪をくべながら辺りを警戒した。
30分も経つと眠気が急に襲って来る。
今日は力仕事をたくさんしたから、どっと疲れが押し寄せて来たのだ。
「ふあ~」
少し横になりたいな。
ちょっとぐらい横になっても大丈夫だろう。
私は静かに目を閉じると寝に落ちた。
ビクン。
寝落ちから覚めて辺りを見回しながら安全を確かめる。
辺りは静まり返っていてモンスターの気配すらなかった。
「やばいやばい。危うく寝落ちするところだった」
この眠くても眠れないもどかしさが何とも言えない。
寝落ちした時の一瞬はたまらなく心地よいのだ。
全ての緊張から解放されたみたいで大海原を浮かぶクラゲのよう。
私は眠気と葛藤しながら見張りを続けた。




