22「意外な盲点」
「これでもくらえ!」
ガルドは大剣を振りかざしてジャイアントアントに切りかかる。
しかし、キーンと甲高い音を出して吹き飛ばされてしまった。
「何だよ、こいつ。硬いじゃないか」
「ガルド。闇雲に攻撃しても無駄だ。背後から攻めるんだ!」
「背後っていっても、こんだけいたんじゃ的が定まらない」
大群との戦いはこれまでにも経験して来た。
その中で培ってきた戦術は、まず相手の動きを止めること。
「エリザ、ダイヤモンドダストでジャイアントアントの動きを止めるんだ!」
「わかったわ。零氷が紡ぎし雫、氷雪の飛礫となりて、空間を切り裂け『ダイヤモンドダスト!』」
ジャイアントアントを取り巻く空気中の無数の水滴が氷に姿を変える。
パチパチと小さな破裂音を出しながらジャイアントアントの体を凍らせて行った。
氷に阻まれてジャイアントアントは沈黙する。
「よし、みんな総合撃だ!」
「待ってました」
ガルドは力いっぱい大剣を振り下ろす。
しかし、硬い装甲に阻まれて吹き飛ばされてしまう。
「ダメだこりゃ。びくともしないぞ」
「ガルドのへなちょこな攻撃じゃダメね。ここは私の出番よ。粉々に砕け散れ『爆裂粉砕!』」
プリシアの渾身の一撃がジャイアントアントの体を打ち砕く。
爆発の衝撃に耐えきれなかったジャイアントアントの体が粉々に砕け散った。
「どう、見たでしょ。私の攻撃を」
「畜生。こんなはずじゃないんだけどな」
ガルドは奥歯を噛み締めて悔しがる。
ガルドの大剣が利かないほど硬かったジャイアントアントの体がプリシアの爆弾で砕けたのは、熱と氷の温度差が関係している。
極限まで冷やされた氷に炎を近づけると、溶ける前に氷にひびが入るように。
急激な温度差がパワーを生み出し破壊に至るのだ。
意外にエリザの氷の魔法とプリシアの爆弾は相性がいいことに気づいた。
よし、これならイケる!
「プリシア、どんどん爆破してくれ!」
「任せてよ」
プリシアは凍って動けないジャイアントアントに爆弾を仕掛けて行く。
その様子を尻目にガルドは手をこまねいていた。
「おい、タクト。俺にも何かやれることはないのかよ?」
「ガルド。紅蓮剣を覚えていたよな?それで攻撃してくれ」
「おうよ。やっと俺の必殺技のお披露目か」
ガルドは大剣を空に掲げながら空に舞い上がる。
そして、
「俺の渾身の一撃を食らいやがれ!『紅蓮剣!』」
炎で包まれた熱い大剣をジャイアントアントの体にぶち込んだ。
すると、氷に亀裂が入りジャイアントアントが裂けて崩れ落ちる。
ハンマーで氷を砕いた時のような爽快感。
「ひゃっほーい。こりゃクセになりそうだぜ」
この調子なら難なくジャイアントアントを討伐できそうだ。
と、戦況を見守っていたルーンが声を出した。
「タクトさん。氷が溶けはじめてますわ」
「タクト。私の魔法はもう持たないわよ」
ジャイアントアントが手足をカシャカシャ震わせながら動きはじめる。
時間切れか。
いかに強い魔法であっても、永遠に相手を凍らせておけるわけではない。
相手の動きを止めるなら、また、繰り返し魔法をかけ続けなければならないのだ。
しかも何度も魔法は使えない。
強い魔法ほど魔力の消費量が大きいからだ。
「仕方がない。ルーン、グラシスの魔法でジャイアントアントの動きを止めてくれ!」
「わかりましたわ。大地よりいでし伊吹よ、漆黒の鎖となりて、かの者を絞殺せ『グラシス!』」
大地がまばゆく光り出すと無数のツタが伸びて来てジャイアントアントを締め付ける。
ジャイアントアントがもがけばもがくほどツタはキツク締め上げた。
ルーンの魔法もいつまでも持つわけではない。
先の戦況を予想しながら戦術を立てる必要がある。
ジャイアントアントの装甲は硬くて歯が立たない。
ならば、
「ガルド、プリシア。ジャイアントアントの視覚を奪うんだ!」
「任せておけ!」
ガルドは得意の紅蓮剣をジャイアントアントの目玉に食らわせる。
ジャイアントアントの目玉は炎で焼かれ真っ黒焦げになった。
プリシアはプリシアで、もがくジャイアントアントの顔にへばりつき顔中に爆弾を仕掛ける。
そして、一気に爆弾を爆発させた。
ジャイアントアントは真っ黒焦げになって煙を上げる。
しかし、暴れている割にはダメージは受けていない様子を見せていた。
「タクトさん。私の魔法も切れそうです」
まだ半分も倒していないのに時間ぎれかよ。
次はどうする。
エリザの魔法の回復を待っている時間はない。
「仕方がない。ガルド、プリシア。ここからは肉弾戦でやるぞ!」
「はじめからそのつもりだぜ」
「任せてよ」
ガルドはジャイアントアントの背後から攻撃を仕掛ける。
しかし、別のジャイアントアントに阻まれてしまう。
ガルドは大剣を振り回しながらジャイアントアントの牙を弾く。
キーン、キーンと金属音が辺りに響いた。
かたやプリシアはジャイアントアントのお尻にへばりついて爆弾を仕掛けて行く。
けれどもジャイアントアントの長い手足に邪魔をされる。
「これじゃあいくらやっても私達が不利だ。エリザ、次の魔法は撃てそうか?」
「もう少し、時間がかかるわ」
「ルーンは?」
「私はなんとか大丈夫です」
「よし、ルーン。グラシスの魔法でジャイアントアントの動きを止めてくれ!」
「わかりましたわ。大地よりいでし伊吹よ……」
その時、ジャイアントアントの一匹がルーンを目掛けて突進して来た。
「ルーン、危ない!」
私は寸の所でルーンを弾き飛ばしてジャイアントアントの攻撃をかわす。
「ルーン、大丈夫か?」
「私なら大丈夫です」
ルーンを攻撃してくるなんて、ジャイアントアントもバカじゃないってことか。
しかし、これでは打つ手がなくなってしまった。
魔法が使えなければジャイアントアントの動きは止められない。
肉弾戦に任せてもこれだけの数を相手にするには不利だ。
ガルドもプリシアも大きく肩で呼吸を整えている。
体力の限界が見えて来たようだ。
「タクト、これじゃキリがないぞ」
「私の爆弾もあと少ししかないわ」
私はおもむろに戦術帳を握りしめる。
触……。
この謎が解ければ何とかなりそうなのだが。
触、触、触……。
虫で触と言えば……触覚のことか!
しかし触覚をどうすればいいんだ?
「タクト、どうするんだ?」
ガルドの問いかけに私は大声で叫んだ。
「ガルド!ジャイアントアントの頭に突いている触覚を切り取るんだ!」
「触覚?」
「そうだ触覚だ!」
私の推理が間違いでなければ、これでイケるはずだ。
ガルドは高く飛び上がると、ジャイアントアントの触覚に向けて大剣を振り下ろした。
サクッと触覚は地面に転げ落ちる。
すると、ジャイアントアントは激しく悶えながら暴れ出す。
周りが見えていないのか他のジャイアントアントと激しくぶつかり合った。
「やっぱり私の見立て通りだったな。よし、プリシア!ジャイアントアントの触覚を吹き飛ばしてくれ!」
「わかったわ」
プリシアはジャイアントアントの頭によじ登り触覚の根元に爆弾を仕掛ける。
そして爆弾を爆発させて触覚をもぎ取って行った。
触覚を奪われたジャイアントアントは暴れ回り仲間同士で攻撃しはじめる。
「同士討ちをはじめた。これならイケる」
「タクト、魔法が撃てるわ」
「私も大丈夫です」
「よし、エリザ、ルーン!ジャイアントアントの触覚を目掛けて魔法を放て!」
相手の弱点がわかればわざわざ動きを止める必要はない。
全て攻撃に回して一気にケリをつける作戦だ。
エリザはサンダーボルトでジャイアントアントの触覚を焼き払う。
ルーンはホーリーランスでジャイアントアントの触覚をはぎ取って行った。
「これで全部か」
ガルドは肩で大きく息をしながら辺りを見回す。
30体いたジャイアントアントも全て死に体となっていた。
「本当にジャイアントアントをやっちまうなんて」
「まあ、これが俺達の実力だよ、おやじ」
尻もちをついているヨゼフを見降ろしながらガルドが胸を張って見せる。
その行動も納得できる。
今までの戦いの中でも一位二位を争うぐらい苦戦した相手だ。
虫とは言え、侮れないモンスターだった。
「それでおじさん。ジャイアントアントの蜜ってどこにあるの?」
「腹の中だ。これをこうしてこやると……」
ヨゼフは小型ナイフを取り出すと手際よくジャイアントアントの腹を切り裂く。
そして中から粘液まみれになった胃袋を取り出した。
「これだ。この中に蜜が入っている」
「ウゲェ。何、その粘液。気持ち悪い」
あからさまに嫌な顔を浮かべて退くエリザとルーン。
私から見てもそれを口に入れるのは憚れる。
しかし、プリシアだけは涎を垂らしながら胃袋を見つめていた。
「ほれ、こうして穴をあけて舐めるんだ」
ヨゼフは胃袋を上に掲げると小型のナイフで胃袋に小さい穴の空ける。
そして、口を大きく開けて蜜を絞り出した。
蜜の一滴がヨゼフの口の中へ消えて行く。
すると、ヨゼフは満足そうな顔を浮かべてニコリを笑った。
「うまい。やっぱりジャイアントアントの蜜は生に限るな」
「私も欲しい!」
「ほれ、舐めてみろ」
プリシアは躊躇することなくヨゼフがやったように口に蜜を放り込んだ。
そして満面の笑顔を浮かべながら満足そうに笑う。
「これ、おいしい!タクトも舐めてみたら?」
「私は止めておくよ」
プリシアの感性は人と違っていることはわかっていたが、度胸も人一倍だな。
好奇心が強い年頃なのか。
それでも臆さないのは強みと言ったところだろう。
ヨゼフは他のジャイアントアントの腹も切り裂いて行く。
「おい、おやじ。まだ、蜜を舐めるつもりか?」
「何言っているんだよ。街へ行って売るんだ。高く売れるぞ」
ヨゼフはニコニコしながら次々とジャイアントアントの腹を切り裂いて行った。




