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21「丘陵地帯」

グルンベルグ王都を旅立ってから5日。

これと言ったモンスターに出くわすこともなく順調に旅を進めていた。


「モンスターがいないってのも、つまらないものだな」

「いいじゃない。ガルドは命を危険にさらしたい訳?」

「そうは言っていないさ。ただ、暇で暇でしょうがないだけ」


ガルドは大きな欠伸をしながら荷台に寝ころんでいる。

ポリポリと尻を掻きながらほじった鼻くそを飛ばして。

休日のお父さんみたいな緊張感のない姿。

運がいいのはありがたいけど何もないのもつまらない。


「ちょっとガルド。鼻くそをこっちに飛ばさないでよ。汚い」

「運がつくぞ」


エリザは煙たがるようにガルドから離れた。


「タクトさん。このままモンスターに出会わずに無事にヴェールズまで行けるでしょうか?」

「それはないな。ヴェールズ辺りは発展しているからモンスターも少ないけど、国境辺りは人っ気がないからモンスターがわんさかいるだろう」


まだ、馬車はグラハム地方の西側あたり。

グラハム地方の西側はあまり開拓されていない。

広大な丘陵地帯で覆われていて雨もあまり降らない。

そのため植物はほとんど育たず赤茶けた大地が広がっている。

この環境で暮らせるモンスターも限られてくるのだ。

この環境で暮らせるモンスターと言えば……。


「旦那の言う通りですぜ。この丘陵地帯にはジャイアントアントの巣がたくさんありますよ」

「虫ですか?」


ヨゼフの言葉を受けてルーンが青い顔を浮かべて小刻みに震える。

それもしかたない。

たいていの女性は虫を嫌がる。

私は男だがやはりあの見た目に悪寒を覚える。

それが小さいならまだしも、ここに住んでいるジャイアントアントはバカでかいのだ。


「見た目はグロイが、ジャイアントアントの腹の中の蜜は格別なものだぞ。俺も一度舐めたことがあるけれど、とても甘くてうまいんだ」

「私も舐めてみたい!」


プリシアが目を輝かせながら足をバタつかせる。

その横でエリザとルーンが口を覆いながら嗚咽をしはじめた。


「この二人の前で虫の話は厳禁だな」


と、馬車が岩に乗り上げてバウンドする。


「うゎっ!」

「何?」


ヨゼフは馬から降りて荷台の車を調べはじめる。

荷台の下を覗き込んだり、車輪を押したりしながら。


「こりゃ参ったな。車輪が溝にハマっちまった」

「車輪が溝にハマっただと!?」


私とガルドは荷馬車から降りて車輪を覗き込む。

うまい具合に車輪が岩と岩の間の溝にハマっていた。


「こりゃダメだな」

「そのようだな」


荷台からエリザが顔をちょこんと覗かせて尋ねて来る。


「大丈夫なの?」

「ダメだ」


ガルドは両手を交差させて無理のサインを送った。


「とりあえず押してみよう」

「じゃ、俺が馬車を引くから、二人で押してみてくれ」


ダメでもともと。

何もしないよりかはマシだ。

私とガルドは力いっぱい荷馬車を押した。

しかし、馬車はうんともすんとも言わない。


「おい、エリザ達も力を貸してくれ!」

「何?押して動かそうっての?」

「やらないよりはマシだろ」


私達はタイミングを合わせて力いっぱい荷馬車を押した。

けれど、なしの飛礫だった。


「どうする。こんな所で足止めだなんて聞いていないぞ」

「馬車が動かないんじゃやりようがないな」

「他の馬車が来るまで待ってみる?」


この広大な大地で他の馬車が来るのを待つのは至難の業だ。

しかも食料も限られているし何日も野宿はできない。

来た道を戻るのも手だがグルンベルグ王都まで馬の足で5日。

歩いて帰ればそれ以上に時間がかかってしまう。

どうするか……。


「俺は引き返した方がいいと思うぞ」

「私も引き返す方がいいと思うわ」

「けれど、グルンベルグ王都まで歩けるでしょうか?」

「私は前に進みたい。引き返すなんて時間がもったいないわ。タクトは?」


みんなの意見はまちまちだ。

私の決断で全てが決まるようだから、判断は重要だ。


「私は……」


と、言いかかった時、ヨゼフが悲鳴交じりの声を上げた。


「ジャイアントアントだ!」


ヨゼフの所へ駆けつけると目の前にジャイアントアントが立ちはだかっている。

辺りを見回すとジャイアントアントの群れが集まって来ていた。


「こいつがジャイアントアントか。バカでかいな」

「気持ち悪い。こんなのと戦うなんて嫌よ」


呆気に取られているガルドの横でエリザとルーンは小刻みに震えている。

それは無理もない。

全長5メートルほどの大きな体に足が6本生えている。

ギョロリとした大きな目玉に私達の姿を映し出す。

固そうな体は無数の産毛に覆われていて。

小刻みに触覚を動かしながら獲物を探している。

が、プリシアだけはひとり違う反応を見せた。


「カワイイ!」

「どこが!」


プリシアの感性はどこかねじ曲がっているのだろう。

このグロイ顔を見てカワイイと言えるのは他にいない。

そんなことよりこのピンチをどう切り抜けるかだ。


「逃げ道はない。ここでジャイアントアントを討伐するしかないようだな」

「私は嫌よ。気持ち悪いもん」

「やらなきゃこっちが食われるぞ。あの大きなハサミを見てみろ。すぐに首ちょんぱだぞ」


ガルドは大剣を抜きジャイアントアントに向ける。


「戦いは旦那たちに任せたぜ」

「おう。おやじは隠れてろ。タクト、指示を頼む」


タクトは戦術帳を開いてページを捲る。


――ジャイアントアント――

種類:群れで行動する大型の昆虫。

全長:5メートル

知性:低い

耐性:なし

弱点:後ろに下がれない

特徴①:触覚で獲物を探す

特徴②:動きが早い

生息場所:丘陵地帯

倒し方:背後から攻撃する。触……


「背後から攻撃するって、これだけか……」

「どうしたタクト?」

「何でもない」


”背後から攻撃する”の後は……何て書いてあるんだ?

文字が掠れていてよく見えない。

代々受け継がれてきた戦術帳だけにどのページもくたびれている。

背後から攻撃しようにも大群じゃやりようがない。

片一方に気をとられているうちにもう片方から攻撃を受けてしまう。

先代はどんな戦い方をしてジャイアントアントに打ち勝ったのか。

これは私への試練なのか。

考えても仕方ない、やるしかないってことだ。


「みんな分散攻撃だ!」


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