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20「次の目的地」

グルンべルグ王都の駅舎。

私はダゼル国王からもらったメダルを眺めていた。


「私にも見せてよ」

「これはおもちゃじゃないんだぞ」

「わかってるよ」


私がひょいとメダルを上げるとプリシアは頬を膨らませてブー垂れる。

ダゼル国王は通行証代わりになると言っていたけど、価値を考えればそれどころじゃない。

売りに出しても値がつけられないほど高価なものだ。

まあ、曲がっても売りに出すバカはいないだろうが。


「きれいね。これ売ったらいくらになるかな?」

「お、おい、プリシア。まさか売ろうなんて考えてるんじゃないだろうな」

「冗談よ」


そうは言ったものの、プリシアは目を輝かせながらメダルを見つめている。

私が見ていなければきっと売りに出すだろう。

私は肌身離さずに身に着けていることにした。


「それよりタクト。これからどうするつもり?」

「それなんだがノーベン地方のヴェールズへ行こうかと考えている」

「ヴェールズって言ったら貿易が盛んな都市じゃない」


私の提案にエリザは驚きの表情を浮かべる。


――ヴェールズ――

ヴェールズはノーベン地方最大の都市。

貿易で発展した都市で商人が多いのが特徴だ。

ノーベン地方にはヴェールズの他にも港街がある。

どの港も海上貿易が盛んで発展している。

どの街も裕福でお金持ちが多い。


「そんなに凄いのか?」

「すごいってもんじゃないわよ。お金持ちばかりで金ピカの装飾品とか身に着けいるのよ」


エリザはどこからそんな情報を手に入れたのか。

あながち間違いではないが、街の人もファッションセンスぐらいあるだろう。

私の知っている情報では商人を育てる学校があると言うことだ。

子供の頃からきちんと育成していれば将来有望な商人になれる。

私が策士になったように。


「なら、一山あてられそうだな」

「一山ってもんじゃないわよ。二山も三山も期待できるわ」

「二人で盛り上がっているところ悪いが、私達は商売をしに行くわけじゃないぞ」


ガルドとエリザの腰を折るようにツッコミを入れる。


「目的は海でしょうか?」

「勘がいいな、ルーン。海には特有のモンスターがいる。経験を積むためにも海上戦には慣れておく必要があるからな」

「私、海ははじめて。楽しみだな」


プリシアは目をランランさせながら海を思い描く。

海を見ればきっと感動するだろう。


「それじゃあノーベン地方行きの馬車に乗るぞ」


私は駅舎にいた顎鬚を蓄えた細身の運転手ヨゼフに声をかける。


「この馬車はノーベン地方行きかい?」

「そうだ」

「5人頼む」

「あいよ」


私が見つけたノーベン地方行の馬車は馬が二頭立ての大きな馬車。

大人5人と荷物を積んでもまだまだスペースがある。

プリシアはひょいっと荷台に乗ると周りをキョロキョロと見まわしている。


「おい、おやじ。ノーベン地方までどのくらいかかるんだ?」

「そうだな。順調に行っても三週間はかかかる」

「三週間!?」


ヨゼフの言葉を疑うように大きな声をあげるガルド。

無理もないだろう。

三週間と言えばほぼ一ヶ月だ。

東に広がるグラハム地方とは反対の西側にノーベン地方が広がっている。

しかも、今いるグルンベルグ王都はグラハム地方の東側。


「そんなに馬車に乗っていたら骨になっちまうぜ」

「仕方ないだろう。ノーベン地方は陸路でしか行けないからな」


ガルドは呆れながら両手を広げて見せる。

私はたしなめるようにガルドに言った。


「三週間もお風呂に入れないなんてレディーとしては受け入れられないわね」

「川で水浴びぐらいできるだろ」

「川で水浴び!?タクトはわかってないわね。レディーは常にきれいじゃないといけないのよ」


エリザは少し興奮しながら私に詰め寄る。

後ろで話を聞いていたルーンも大きく頷いている。

ただ違ったのはプリシアただひとり。

川で水浴びと聞いて嬉しそうな顔を浮かべていた。


「私は川で水浴びでもいいわよ。なんか楽しそうだし」

「俺も川で十分だな。水風呂と思えばいっしょだし」

「あなた達に話しても無駄ね。私は反対だから。ルーンもそうよね?」

「私もお風呂がないのはちょっと……」


プリシアとガルド。

エリザとルーンが二手に別れる。

多数決ならば私も加えてプリシア、ガルド組の勝ちなのだが、エリザとルーンは一歩も譲らない。

まあ、気持ちはわからないでもないが、馬車の旅で風呂を要求されても……。

と、不意に閃いた。


「風呂ならエリザの魔法でなんとかなる。暴れ猿戦で使った手が使える」

「魔法でお風呂をつくるの?」

「そう言うこと」


私の大胆なアイデアに周りのみんなは大きく頷いて答えた。


「タクト、冴えてる!」

「そうだな。エリザの魔法があればどこでも風呂が入れるぞ」

「私の魔法はそんなものに使わないでよ」


エリザはひとりブー垂れながら納得できない素振りを見せる。

しかし、背に腹は代えられない。

すぐに納得した。


「話がまとまったようだな。それじゃあその荷物を積んでくれ」

「おう、これか?」

「三週間もの長旅なんだ。食料と水はちゃんと確保しておかないとな」


私とガルドは馬車の荷台に荷物を乗せる。

その荷物の中にひときわ重い木箱を見つけた。


「おい、おやじ。この箱、随分重くないか?何が入ってるんだよ?」

「それは売り物だ。せっかくヴェールズに行くんだからな。品物も持って行かないとな」

「ちゃっかりしてやがるぜ」


ガルドはブツクサ文句を言いながら馬車に荷物を乗せる。

そして馬車に乗ると出発の合図を告げた。


「それじゃあ、ヴェールズに向けて出発だ!」


青く腫れた空の下、ヴェールズに向けて馬車が走り出した。


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