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2「弱小冒険者」

私が最初に目指したのは隣町のニーズ。

小さな街だが、ここにはギルドがある。


――ギルドとは

モンスター討伐や偵察、調査などの依頼が集まる場所。

依頼者はモンスターの被害を受けている人達が多いのだが、中には国からの依頼もある。

国からの依頼は報酬金が高く、冒険者がこぞって依頼を受けたがる。

しかし、報酬金が高いと言うことはそれだけ難しい依頼だと言うこと。

駆け出し策士の私にとってはそう言った依頼に安易に手を出すのは危険だと判断する。


まあ、さてよりギルドにはもうひとつ重要な役割があって、仲間を探す場所でもある。

報酬金目当てに集まって来た冒険者達がたくさんいるからだ。


「まずは、どんな面子が揃っているのか確かめよう」


ギルドの中はたくさんの冒険者達が集っていた。

剣士に戦士、魔法使い、プリースト、槍使い、弓使い。

小さなギルドにしては申し分ない面子だ。


「おい、兄ちゃん。新入りかい?まずは一杯やれよ」


半ば強引に酒を進めて来る酔っ払いのオヤジは執拗に絡んで来た。

私は絡みついて来た手を振りほどくと、カウンターに腰かける。


「お客さん、初顔だね。まずは駆けつけの一杯」


酒場のマスターは小さなグラスに酒を注ぐと私の目の前に置いた。

私はグラスを手に取り一口で酒を飲み干す。


「イイ飲みっぷりだね。もう一杯どうだい?」


マスターが次を進めて来るので、グラスの上に手を翳して断りの意思表示をした。


「マスター、ここには強い冒険者はいるかい?」

「勿論、いるとも。あの大酒を飲んでいる男は腕のたつ戦士で、この前はゴーレムを倒したそうな」


マスターの視線の先を見ると、見るからにがっちりした体形の大男が大酒を煽っていた。


「ゴーレームね」

「お客さんも冒険者なのかい?」


マスターの言葉を素通りして、私は酒瓶を持つと、大男に近づいて行った。


「おい、おっさん。ゴーレムを倒したと言うのは本当かい?」

「おう、お前さんも噂を聞いて来たのか。俺も有名になったもんだな」


大男はガハハと笑いながら胸を張って得意気に見せる。

ゴーレム程度で、どのくらい報奨金を得たのかわからないが。

大男は、嬉しいそうに他の酔っ払い達にも景気よく酒を分けていた。


「私は策士だ。おっさん、私に戦術を預けてみないか?」

「戦術を預ける?何だよ、それは。俺は戦士だぞ。自分の戦いくらい自分で作戦を決める。馬鹿にしているのか?」


私の誘いに大男は急に不機嫌になると、文句を言って来た。

どうやら策士と言う言葉すら知らないようだ。

これでは話にならない。

私は気を取り直して、他の冒険者達にも声をかけて見た。

しかし、聞く人聞く人、断りの返事ばかりだった。


「お客さんは策士なのかい?」

「ああ、そうだが」

「珍しいね。今時、策士がいるなんて驚きだ。昔は随分と栄えていたらしいけど、今はすっかりその名も聞かなくなった。今の冒険者達は自分たちで戦術を立てるから需要はないと思うよ」


マスターの言葉、その通りだった。

ここにいる冒険者は弱いも強いも関係なく、みんな自分たちで戦い方を身に着けているようだった。

先祖代々受け継いで来た戦術も役に立たなければ意味がない。

私は場所を変え、冒険者を探すことに決めた。


この街の冒険者は酒代稼ぎに依頼をこなす。

大都市から離れた辺境の地に現れるモンスターはレベルも低い。

それがゆえに、この街には緊張感がない。

時々、起こる小競り合いも、平和ボケしているためなのだ。


それを現すかのように街の出入り口にある門柱の前で小競り合いが起きていた。


「あの時、クロースがマウンテンコングを怒らせたから作戦が失敗したんだぞ!」

「何を言っているんだ。ガルドがいつまでもマウンテンコングに手をこまねいているから反撃されただけだ。俺が矢を射ってなかったら今頃、ガルドは大怪我をしていたんだぞ!」


大剣を背に携えた剣士ガルドと弓使いのクロースがお互いの胸ぐらを掴みながら言い争っている。

その脇で心配そうに見ていた魔法使いのエリザが止めに入った。


「もう、いいかげんにしてよ!無事に逃げて来られたんだからいいじゃない」

「そうはいかない。エリザ、これは男のプライドの問題だ!」


クロースは目をむき出しにしながらエリザに食ってかかった。


「エリザ、ガルド達はほっておいて私たちだけで宿まで戻りましょう。クエストは失敗したんだし、ギルドへ行ってもやることないから」

「ルーン、そうね。ガルド達は飽きるまでやらせておきましょう」


プリーストのルーンは冷めた態度を見せると、エリザに同意を求めて来た。

エリザも呆れたように両手を広げると、ルーンと一緒に宿へと向かおうとするが。

私はエリザたちの前に立ち塞がると、冷ややかな言葉をガルドとクロースに浴びせた。


「プライドか、くだらない。これはどっちもどっちだな」

「誰だ!?」


クロースがすぐに反応して私を睨みつける。

その目からは殺気のようなものが感じられた。


「そんなにも警戒するなよ。私は策士のタクトだ」

「策士?」


ガルドは不思議そうな表情を浮かべエリザと顔を見合わせる。

本当に、この街の人間は策士のことを知らないようだ。

この百年の間にすっかり廃れてしまったのだろうか。

私は一抹の不安を覚えながらも、ガルド達に提案してみた。


「お前達、私と組んでみないか?」

「組むって何だよ」


ひとり怒りをあらわにしているクロースが勢い任せに言って来る。


「私がお前達を勝利に導いてやろうと言うんだ」

「勝利って?」


私の言葉に不思議そうな顔を浮かべるエリザとルーン。


「早い話が、私のたてた戦術で戦えば、どんなモンスターでも倒せると言うことだ」

「どんなモンスターでも!?」


ガルドの心には刺さったようで興味深々な顔で聞き返す。

しかし、クロースだけは違った。


「そんなうまい話があるものか!こいつはペテン師だ。みんな騙されるな!」


まったく私の言葉を受け入れようとはしない。

そればかりかみんなをせかして、その場から立ち去ってしまった。


「ふー。まったく厄介な奴だ」


私は大きなため息をつくと、そのまま宿へ戻った。



―翌朝、ニーズの街のギルドに併設された酒場にて。

私は酒場の隅に腰かけながら、ひとり酒を楽しむ。

すると、昨日、出会ったガルド達が酒場に入って来た。


「見ろよ、弱小冒険者達のお出ましだ。今日は何を狩って来たんだい?」


酔っ払いの大柄な戦士がクロースに絡む。

その言葉を受けて酒場内にドッと歓声が湧き起った。

すると、クロースは酔っ払いの大柄な戦士の胸ぐらを掴んだ。


「コノヤロー、ふざけやがって!」

「クロース、相手にしちゃダメよ。私達は依頼を選びに来たんだから」

「わかっている」


エリザはなだめるようにクロースに言うと、クロースは仕方なく酔っ払いから手を離した。

少しは理性が効くようだ。

もし、喧嘩になったら周りの客に迷惑がかかるだけ。

ガルド達は酔っ払いを無視しながらギルドの掲示板の前まで来た。

掲示板には様々な依頼が張り出されてある。


「マウンテンコングに、ゴブリン・・・ウォーウルフまであるわね」

「マウンテンコングの討伐は失敗したし、ゴブリンは仲間を呼ぶから厄介だ。このウォーウルフってのはどうだい?」

「ウォーウルフね・・・」


ガルドの消去法の選択にエリザは顔を曇らせる。

と、その話をこっそり盗み聞きしていた小柄な男が叫んだ。


「おい、みんな聞いてくれ。コイツらウォーウルフを討伐するらしいぞ!」

「それはいい。お前らにおあつらえ向きのモンスターだ。ウォーウルフを狩りに行って、ウォーウルフに狩られて来い!」


酔っ払いの大柄の戦士がガハハと笑うと、さらに爆笑が湧き起る。

すると、暴言に耐えていたクロースが我慢しきれず啖呵を切った。


「やってやろうじゃないか!次の依頼はウォーウルフの討伐だ。後でほえ面をかくなよ」

「クロース!」

「エリザ、心配するな。俺達ならやれるさ」


心配するエリザをよそに、クロースは勝手にウォーウルフ討伐の依頼にエントリーをした。


「おい、みんな賭けようぜ。ウオーウルフか、弱小冒険者か」

「俺はウォーウルフに一票だ!」

「俺も!」


小柄な男が音頭をとると、酔っ払い達は次々に賭けをはじめる。

酔っ払い達のほとんどがウォーウルフに賭けている中、私はだだひとりガルド達に一票を入れた。


「おい、兄さん。弱小冒険者に賭けるのかよ?」

「ああ、そうだ」


素っ頓狂な顔を浮かべている酔っ払いに、私は自信たっぷりに答えて見せる。


「おい、みんな。この兄さんが弱小冒険者に賭けるってよ!」

「とんだ物好きもいたもんだ」

「賭けは俺達に決まりだな」


酔っ払い達は口々に好き勝ってなことを言う。

そんな酔っ払い達をよそに、私はひとりしたり顔を浮かべると、グラスの酒を飲み干した。


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