18「復興祭」
サミトスの街の復興には時間を要するものだった。
破壊された家のブロックを積み直し、一から家を建て直す。
穴の空いた防壁も以前より強固なものに仕上げなければならない。
この仕事には街の男達の手が必要だった。
もちろん、私やガルドも男達を手伝う。
「肉体労働なんて久しぶりだな」
「ガルドは剣士になる前は、どこかで働いていたのか?」
「おうよ。俺はクラルスの街で家や橋を建てていたぞ。あの時は面白かったな。朝から汗水流して働いて、夜は酒を飲む。そんな毎日の繰り返しだった」
ブロックを肩に担ぎながらガルドがしみじみと言って来る。
その表情からも楽しさが伝わって来るようだった。
「へぇ~、ガルドも苦労して来たんだな。それで何で剣士になろうと思ったんだい?」
「俺はただ強くなりたかっただけさ。強くなって街のみんなを見返してやりたかったんだ。ただ、それだけだよ」
そう言ってガルドはブロックを積み上げた。
背景に何かあることは伝わって来たが、ガルドが話さないのなら聞くのも無粋だ。
私もブロックを積み上げると、次のブロックを取りに行った。
防壁の修復には一ヶ月も費やした。
そのおかげで立派な城壁が出来上がった。
私達が防壁を修復している間に女性陣達は祭の準備をしていた。
畑から農作物を採って料理をこしらえたり、装飾品で街を飾ったり。
サミトスの街の復興祭を見据えての準備だ。
「随分、出来上がっているな」
「あら、タクト。城壁の修復は終わったの?」
景気良い声で話しかけて来るエリザはシェフのようないでたちで料理をこしらえていた。
その横でせっせと働いているプリシアも料理と格闘していた。
「防壁も家も修復できたよ。後は祭だけかな」
「それなら先に汗を流して来ていいわよ。温泉も出来上がっているし」
暴れ猿を倒した時の要領でエリザ達が温泉を用意してくれていた。
これは思っても見ない歓迎だ。
私とガルドはさっそく手拭いを持つと、温泉へ汗を流しに向かった。
「これが温泉ってやつか。俺ははじめてだぞ」
「イイ湯加減だ。ガルドも入ってみろ」
タオル一枚でガルドは興奮しながら湯船に足をつける。
「おぉぉっ、こっ、これは!」
聞いたこともないような声を上げながら湯船につかるガルドははじめての温泉を味わう。
そして肩までつかると寝そべりながらしみじみと温泉を満喫していた。
「おい、タクト。温泉があるってことはエリザ達も後で入るんだろ?ちょっと覗いて見ようぜ」
「止めておけガルド。エリザの魔法で黒焦げにされるだけだぞ」
冗談か真剣かわからないようなテンションで言って来るガルドに、私は釘を刺した。
すると、湯船の向こうから布切れを一枚羽織ったルーンが桶を持ってやって来た。
「あら、タクトさん達も入っていたの?お背中でも流しましょうか?」
「ル、ルーンもいたのか!ご、ごめん気づかなくて」
顔を赤くしながらタオルで前を隠す私とガルドは慌てて湯船から飛び出す。
しかし、ルーンは顔色一つ変えることなく湯船に浸かっていた。
「そんなに照れなくてもいいですよ」
「そ、そう言う訳にはいかない。ガルド、上がるぞ」
ルーンの甘い誘いを断腸の想いで断ると、私とガルドは逃げ帰るように温泉を飛び出した。
「しかし、タクト。ルーン、色っぽかったよな。俺なんだか惚れちゃったよ」
「何、馬鹿なこと言っているんだガルド。この事がエリザに知れたらどうなることか。」
「それもそうだな。この事は二人だけの秘密にしておこう」
私とガルドはお互いの手を握りしめると男の誓いをたてた。
今夜はサミトスの街の復興祭。
街はきらびやかな装飾が施され、街の人達は宴を催す。
まるでクリスマスがやって来たかのような賑わいだ。
ガルドはいつものように街の男達と酒の飲み比べ。
どこに酒が入るのか、浴びるように酒を煽っている。
プリシアは街の子供たちと街の散策。
後で街の子供たちとプレゼント交換をするそうだ。
私とエリザとルーンの三人は宿のテラスから街の様子を眺めていた。
「あんなにも荒廃していた街がこんなにもきらびやかになるなんて、まるで魔法のようね」
「そうだな。街の人達の思いがそう見せているんだよ、きっと」
「あら、タクトさん。随分、ロマンチックなことを言いますわね」
エリザと並びながら話している私に、ルーンが顔を寄せて来て囁くように言って来た。
その仕草に思わずドキッと胸が鳴る。
「ルーン、酔っぱらっているのか?」
「酔っぱらってなんかいませんわよ。タクトさんがそうさせているだけですわ」
ルーンは恥ずかしそうに頬を赤らめながら上目使いで誘うように言って来た。
その様子を見たエリザがムッとしたように私に問い詰めて来た。
「タクト、どう言うこと?ルーンと何かあったんじゃない?」
「べ、別に何もないよ。ルーンは酔っているだけさ。そうだよなルーン?」
「それはどうかしら……」
私の心中を無視してルーンは意味深な言葉を残して、部屋を出て行った。
気まずい空気が辺りを包み込む。
私は顔を引きつらせながらエリザの怒りが収まるのを待っていた。
「ったく、何だか苛々する!」
「まあ、エリザ。酒でも飲んで落ち着いてよ。ルーンは悪酔いしていただけだからさ」
エリザはグラスを握りしめると酒を一息で飲み干した。
しばらくするとエリザの頬が赤らんで来る。
そして酒が回って気分が良くなったのか、饒舌で話して来た。
「タクトは私のことをどう思っているの?好き?それとも嫌い?」
「なっ、何だよ急に。そんなの答えれらる訳ないじゃないか」
「あー、やっぱりルーンと何かあったんでしょ。隠しても無駄よ」
エリザは目を虚ろにしながら私の顔を指でなぞりながら問い詰めて来る。
すっかり酒が回ってしまっているようだ。
意外と酒に弱いんだな。
「エリザ、今夜はもう休もう」
私はエリザに肩を貸しながら部屋まで連れて行く。
そしてベッドに座らせると、急にエリザが覆いかぶさって来た。
「タクト、もう逃がさないわよ」
「おい、エリザ!離せ。みんなに見つかったら誤解されるぞ」
「私は誤解されてもいいもん。タクトのことが好きだから」
エリザはろれつの回らない声で囁きながら私に迫って来る。
完全に酔っ払っているようだ。
私はもたれかかって来るエリザを避けるとベッドから立ち上がった。
「エリザ、こういう事は意識がハッキリている時にしないと意味がないよ。エリザ?」
私の緊張もよそにエリザは小さな寝息を立てて眠っていた。
私は毛布をエリザにかけると、部屋を出る。
すると、扉の横でルーンが立っていた。
「ど、どうしたルーン?」
「聞いちゃった。エリザはタクトのことが好きなのね」
ルーンはここぞとばかりにしたり顔をしながらムフフと笑って来る。
秘密を知ったことで優位に立ったと思っているのだろうか。
「エリザは酔っ払っていた……」
私の反論を遮って、ルーンがいきなり唇を合わせて来た。
その柔らかい感触にしばらくの間、浸ってしまった。
「ルーン!いきなり何をするんだよ」
「私の気持ちを表しただけですよ」
そう言いながらルーンは軽い足取りで部屋に戻って行った。
廊下にひとり残された私は、ポツンと佇んでいた。




