174「アラジン戦③」
エミリアとグランの亡霊の快進撃にはタクトも予想外だった。
明らかに生前の時よりも強くなっている。
『チャクラ』をかけたマリア―ヌ達を凌ぐほど。
おまけに無詠唱で放てる『悪魔の叫び』の前では成すすべもなく。
こちらの陣形は崩されてしまった。
「戦局は一気に悪くなって来たな」
ざっと見てこちらの被害状況は騎馬隊800名、騎士団1000名、槍部隊700名、弓部隊200名、銃撃隊300名、魔術師部隊500名、プリ―スト部隊100名の計3600名だ。
圧倒的に近接攻撃部隊を大幅に潰されたのは痛い。
カウンター攻撃をする際も主力になっているだけに戦術を大幅に修正しなければならないようだ。
一方でアラジン側の被害状況は騎馬隊300、騎士団2500、槍部隊1000の計3800だ。
近接攻撃を中心に削れたことはいいことだ。
しかし、間接攻撃部隊はまるまる残っている。
無詠唱で魔法を放てる亡霊魔術師と亡霊プリ―ストの数は減らしておきたい。
そのためにはアラジン側の近接攻撃部隊を殲滅する必要がある。
そこへプリシアが駆けつけてラクレスからの伝言を伝えて来た。
「ラクレスがグランの亡霊を引きつけておくから、その間に亡霊兵士達の数を減らしてくれだって」
「あまり時間はかけられないな」
時間をかければかけるほどラクレスが不利になって行く。
何せグランの亡霊は疲れ知らずなのだから。
カウンター攻撃をしかけることに変わりがないが、もっと効率的な手段をとらなければならない。
厄介なのは亡霊兵士ではなく亡霊魔術師の方だ。
無詠唱で放てる魔法を先に何とかする必要がる。
一度目の『サイレンス』で3分の1の亡霊魔術師達の魔法を封じることには成功しているが。
まだまだ1万強の亡霊魔術師達がいる。
『サイレンス』で全ての亡霊魔術師達の魔法を封じこめるには時間がかかり過ぎる。
その間にこちらがやられてしまう。
ならば、亡霊兵士達を無視して亡霊魔術師達をメインに攻撃をしかける必要がある。
そこで役に立つのが機動力の高い騎馬隊だ。
騎馬隊ならば亡霊兵士達の追撃をかわして内部に入り込めるだろう。
しかし、指揮官であるマリア―ヌがいない。
マリア―ヌは今、エミリアの亡霊との戦いの最中だ。
統率する指揮官がいなければ作戦もうまくはいかない。
ならば、ガルドに指揮をとらせるが打倒か。
だが、そもそも馬に乗れるのかはわからない。
訓練で一度も馬に乗っている姿を見たことはない。
私はプリシアにどことなく尋ねてみた。
「プリシア、ガルドは馬に乗れるのか?」
「乗れないよ。ガルド、不器用だし」
やはりガルドでは無理か。
でも、こうなると誰を指揮官にあてればいいのかわからなくなる。
エリザやルーンでは相性が悪いし、そもそも魔術師部隊やプリ―スト部隊を率いてもらわなければならない。
レイムは?
ダメだ。
経験が浅すぎて騎馬隊の統率など出来ないだろう。
私がひとり頭を悩ませているとプリシアが尋ねて来た。
「馬に乗れる人を探しているの?」
「そうだ」
「私、乗れるよ」
「へ?」
「だから私は馬に乗れるって言っているの」
プリシアか……。
悪い選択でもない。
プリシアは遠近どちらでも対応可能だ。
このまま支援攻撃に徹している弓部隊を率いてもらうよりも前線に出した方が活躍出来る。
それに何より相手の裏をつけるだろう。
まさか、爆弾使いが騎馬隊を率いるなんて考えもしないだろうからな。
そうと決まればさっそく具体的な戦術を考えよう。
まずはプリシアに騎馬隊を率いさせて敵の内部に進軍させる。
そうすれば敵の亡霊魔術師達はすぐさま無詠唱魔法で対抗して来るだろう。
機動力で魔法攻撃をかわしつつ実体化している亡霊魔術師達を殲滅するのだ。
念のため銃撃隊による援護射撃も忘れない。
銃撃隊は弓部隊よりもはるかに長い射程を誇る。
なので、その場から援護射撃は可能なのだ。
ガルド達には亡霊兵士の殲滅に引き続きあたってもらう。
亡霊騎士達も引きつけておかなければプリシア達の作戦がうまく行かない。
ガルド達がカウンター攻撃を仕掛けて亡霊兵士達を実体化させる。
そこへエリザ達魔術師の魔法でとどめを刺す。
その手順は変更なしだ。
弓部隊は支援攻撃に徹しさせる。
ルーン達プリ―ストにも『チャクラ』と『スロウ』で支援だ。
とりわけラクレスやマリア―ヌへの支援は忘れてはならないだろう。
もし、ラクレスやマリア―ヌが打ち取られた日には形成は逆転してしまうのだから。
私はプリシアに作戦を説明すると騎馬隊を統率してもらうことにした。
「やっと私の出番が来たのね。しかも奥の手で。やっぱ私くらいになると期待されちゃうんだな~」
プリシアは満足気な表情で頭を掻く。
「プリシア。この作戦はプリシアにかかっているんだからな。しっかりやってくれよ」
「わかってるって」
プリシアは馬に跨ると騎馬隊の所へ向かって行った。
多少不安は残るが今はこれしかない。
亡霊魔術師達の数を減らさなければ、こちらがやられてしまうのだから。
そしてプリシアは所定の場所についた。
私はルーン達プリ―ストに『チャクラ』をかけるように指示を出す。
すぐさまルーン達プリ―ストは魔法の詠唱に入った。
プリシア達騎馬隊の身体能力もあげておかないと敵内部には進軍出来ないだろう。
仮に入れたとしても亡霊魔術達の『悪魔の叫び』の前にひれ伏すだけだ。
ルーン達プリ―ストはプリシア達に『チャクラ』を発動させた。
「「神樹より生まれし果実、緋色の甘き雫となりて、かの者に力を与えん『チャクラ!』」」
プリシア達騎馬隊の周りに光の粒子が漂いはじめる。
その粒子はキラキラと輝きながらプリシア達の体の中へ浸透して行った。
「これ、最高!」
プリシアはほんのり頬を染めて幸せそうな顔を浮かべた。
「よし、プリシア。進撃開始だ!敵の魔術師部隊を殲滅せよ!」
「みんな。私について来て!」
プリシアは手綱を引くと馬の腹を蹴って騎馬を走らせた。
それに続くように騎馬隊も騎馬を走らせる。
ガルド達騎士団が戦っている戦場を迂回する形で進軍する。
追撃しようとして来る亡霊兵士達には銃撃隊の援護射撃がさく裂した。
騎馬隊の高い機動力と銃撃隊の援護射撃で追撃の手を切り抜けられる。
そして敵の内部へと入り込んだのだ。
すぐさま亡霊魔術師達はプリシア達騎馬隊に『悪魔の叫び』を放つ。
しかし、『チャクラ』で身体能力を上げたプリシア達騎馬隊は寸のところで魔法攻撃をかわす。
「そんな攻撃じゃ当たらないわよ」
プリシアは騎馬を巧みに操りながらハンドバツーカに爆弾を装填する。
そして攻撃体制に入っている亡霊魔術師へ向けて『氷塊弾』を放った。
「固まっちゃえ『氷塊弾!』」
プリシアが放った爆弾は実体化している亡霊魔術師を捉える。
着弾すると爆発を起こしながら氷の飛礫を放出した。
冷気にやられて亡霊魔術師の体が凍結してしまう。
そこへ援護射撃をして来た銃撃隊の銃弾がさく裂し亡霊魔術師を粉々に打ち砕いた。
「一丁あがり!」
続いてプリシアは二発目の爆弾を装填する。
そして同じように攻撃体制に入っている亡霊魔術師へ向けて『氷塊弾』を放ったのだ。
プリシアはこれまで弓部隊や銃撃隊を率いて来たので攻撃のリズムはバッチリ。
プリシアが亡霊魔術師を凍結させて銃撃隊が仕留める。
その流れが絶妙でものの数分で十数体の亡霊魔術師を仕留めていた。
同じようにして騎馬隊も『五月雨』で亡霊魔術師達を打ち破る。
さすがにマリア―ヌが率いて来た騎馬隊だけあって実力は折り紙つきだ。
指揮官であるマリア―ヌがいなくとも、その力を存分に発揮していた。
こちらの急な作戦変更で形成が立ち直りはじめる。
内部へ進軍を許したのだ。
陣形が崩されるのも無理はない。
それでも攻撃の手は一切緩めない。
アラジンの指示のもと亡霊兵士達は戦う軍事兵器となり下がっていた。
一方でラクレスはグランとの戦いで追い詰められていた。
ルーン達プリ―ストの『チャクラ』で身体能力は上げていたが、グランの強さはそれを勝る。
グランの『雷虎招来』を『次元裂波』で打ち消すので手一杯だった。
「くぅ、このままでは……」
プリシアに伝言は伝えたが、それは覚悟の言葉でもあった。
時間稼ぎのつもりが逆にいいようにグランに遊ばれているのだ。
タクト達が亡霊兵士の数を減らすよりも早く討ち取られてしまうだろう。
しかし、グルンベルグ軍の第一騎士団長の誇りとしてただでは沈まない。
刺し違えてでもグランの亡霊を止めなければ。
「グランよ。私はお前と戦えたことを誇りに思うぞ。お前は過激派からアルタイル軍の第一騎士団長に登り詰めた。それは普通では出来ないことだ。お前が優秀であったことと努力の成果だ。私はお前を認めている。騎士団長としてな」
「……」
ラクレスの言葉にグランの亡霊は動きを止める。
「たとえお前が亡霊と成り下がったところで騎士団長としての誇りは失われない。お前は今でもアルタイル軍の第一騎士団長なのだ」
「お、俺は……」
急にグランの亡霊が頭を抱え出し苦しみはじめる。
その様子を見てラクレスは悟った。
まだ完全に支配されていないと。
もしかしたら説得出来るかもしれない。
ラクレスはグランの亡霊に語りかけた。
「グラン、目を覚ませ。お前はアラジンの僕に成り下がるような男ではない。騎士団長の誇りを見せてみろ!」
「くぅ……」
「グラン。アルタイル軍の兵士達はお前を待っているんだ!戻って来い!」
「うわぁぁぁぁー」
グランの亡霊はうめき声をあげながら地面にのた打ち回る。
そして一瞬だけ元のグランの表情を見せた。
「私はアルタイル軍の第一騎士団長のグラン・シュタインだ」
しかし、すぐに正気を失い亡霊へと戻ってしまった。
「やはりあの槍を破壊しなければグランの魂は解放されないようだ」
ラクレスは武器を握りしめるとグランの亡霊と戦闘を開始した。
その変化はエミリアの亡霊にも現れていた。
マリア―ヌの度重なる呼びかけに答えるようにエミリアの亡霊は苦しみ出す。
「わ、私は……」
「エミリア、しっかりしろ!」
それでもエミリアの攻撃は止まない。
苦しみから逃れるかのように剣を振りかざす。
マリア―ヌは剣で攻撃をかわしながら呼びかけ続ける。
「お前の使命はなんだ?プリム様を護衛することではなかったのか?」
「くぅ……」
「エミリア、想い出せ。お前はヴェズベルト軍の第二騎士団長なのだぞ!」
「う、うわぁぁぁぁー」
エミリアの亡霊は叫び声をあげながら剣を振り下ろす。
それはアラジン支配から逃れるような暴れっぷりで。
しかし、魔槍ヘルスピアの支配力はそう簡単には壊せない。
すぐにエミリアは正気を失い亡霊兵士と成り下がってしまった。
「説得は無理なのか……」
マリア―ヌが一瞬、焦りの表情を見せる。
これまでのエミリアの亡霊との戦いで体力が消耗していたからだ。
今、何とか立っていられるのも『チャクラ』の効果のおかげ。
これで魔法の効果が切れたとなっては立ち上がるのも困難だろう。
魔法が切れる前に決着をつけなければならない。
マリア―ヌは剣を握りしめると切っ先をエミリアの亡霊へ向ける。
「これは私とお前との真剣勝負だ」
「……」
「エミリア、お前の本気を見せてみろ!行くぞ!」
マリア―ヌは切っ先をエミリアの亡霊に向けながら懐に入り込む。
そしてエミリアの攻撃を誘発させて攻撃をかわすと奥義を放つ。
「冥府に帰れ『紫電一閃!』」
マリア―ヌの剣に紫色の稲妻が絡みつく。
そしてチリチリと震える空気を裂くように鋭い刺突を放った。
エミリアの亡霊は直撃を受けてわき腹に丸い穴が空く。
しかし、その傷はすぐに再生されて元の姿に戻った。
「これではキリがない」
エミリアの亡霊は間髪入れずに反撃をして来る。
マリア―ヌは剣で攻撃を受け流しながら間合いをとった。
説得もダメ。
ダメージも受けない。
これでは手の打ちようがない。
戦闘が長引けばこちらの勝機がなくなる。
やはりアラジンを先に倒さなければならないのか。
辺りを見回すと戦局が変わっていることが伺えた。
タクトの送り込んだ騎馬隊が順調に亡霊魔術師達の数を減らしている。
おかげで敵の魔法攻撃も減ってガルド達も戦いやすくなっていた。
後はマリアーヌがどれだけエミリアの亡霊を引きつけておけるかだな。
マリア―ヌは覚悟を決めると再びエミリアの亡霊に剣を向けた。
ガルド率いる騎士団は前線で奮闘していた。
亡霊魔術師の魔法攻撃が止んだことで戦いに集中出来ている。
あれだけ苦手だったカウンター攻撃も様になってきたようでリズムよく亡霊兵士を消滅させている。
今ではレイムと競うかのように『氷霜剣』を放っていた。
「レイム、お前はいくつ狩った?」
「私は30です」
「30か。まだまだだな」
「先生はいくつです?」
「俺は50だ」
「いつの間に……」
レイムは驚きの表情を見せながらガルドを見やる。
それもそのはず。
出だしはレイムが20でガルドが5と圧倒的にリードしていたからだ。
それがいつの間にか抜かされていたのだから驚くのも無理はない。
「これが俺とお前の実力の差だよ。ガハハハ」
ガルドが大剣を降ろして気を抜いていると亡霊兵士が切りかかって来た。
「先生、危ない!」
レイムの叫びを裂くようにガルドの『氷霜剣』がさく裂する。
亡霊兵士は凍結されて粉々に砕け散ってしまった。
「玄人ともなるとこういう芸当も出来るのだ。覚えておけ、レイム」
「今、ちょっと焦っていたでしょう」
「なんか言ったか?」
「何でもありません」
「よし、行くぞレイム!」
「はい、先生!」
ガルド達は再び剣をとると亡霊兵士達に向かって行った。
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