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173「アラジン戦②」

アラジンは開戦と同時に戦局を見守りながら分析をはじめる。

タクトのとって来た陣形は『仁王の構え』。

攻守ともに優れた陣形だ。

こちらの実態を持たない亡霊兵士達に対応させて来たのだろう。

さすがは策士タクトと言うべきか。

しかし、こちらはこれだけではない。

まだ後ろに控えている亡霊魔術師達もいる。

魔獣フェンリルと同じで無詠唱で魔法を放てる。

しかし、既存の魔法は使えないのがオチだが。

それでも強力な魔法であることには変わりがない。

さて、策士タクトよ、どう対応するのだ。


「魔術師達よ、攻撃を開始しろ!」


アラジンの合図を受けて後ろに控えていた亡霊魔術師達が進軍をはじめる。

そして魔法圏内まで近づくと『悪魔の叫び』を発動させた。


『悪魔の叫び』


亡霊兵士を巻き込みながら漆黒の雷が大地に降り注ぐ。

それは無数の稲妻となりて合同軍の兵士達を襲った。

亡霊兵士達は幽体になったので魔法の直撃は受けていない。

しかし、合同軍の兵士達は直撃を受けて消滅していた。

一撃で死に至らしめるほどの威力を持った魔法に合同軍も怯んでいる。

そこがつけ入る隙となる。

戦場で心を折られた方が敗退を帰する。

それは戦いの中で常識だ。

だから、強大な力を示すことが必要なのだ。

アラジンは亡霊魔術師達に絶えず『悪魔の叫び』を放つように命じた。


亡霊魔術師達の進撃により合同軍が押されはじめる。

統制のとれていた兵士達もリズムを失い後退を余儀なくされている。

さすがの策士タクトでもこの状況を変えることは出来ないか。

いいや、私の考えの上を行くタクトならばこの状況を変えるはずだ。

すると、タクトがプリ―スト達に新たな指示を出した。

恐らく『サイレンス』を発動させるつもりだろう。

魔法を封じられれば亡霊魔術師達はただの亡霊に成り下がる。

その状況はこちらとしても分が悪い。

次の一手をとる必要がある。

アラジンは後ろで待機していたエミリアとグランの亡霊に指示を出した。


「さて、お前達の力を見せてみよ!」


エミリアとグランの亡霊は剣を掲げると前線へ駆けて行く。

そして迎え撃つ合同軍の兵士達を次々となぎ倒して行った。

エミリアとグランの亡霊は他の亡霊兵士達とは一段違った強さを見せる。

使える必殺技も生前使っていた技をそのまま使用できる。

それに魔獣フェンリルの力が加わって比類なき力を発揮してみせた。

そこに反応して来たのがマリア―ヌだった。

エミリアと剣を交えて説得をはじめる。


「エミリア、私だ!マリアーヌだ!もう、止めろ!お前の魂は私達がちゃんと葬ってやる!だから止めるんだ!」


マリア―ヌの言葉を無視するようにエミリアは剣を振り下ろす。

マリア―ヌは剣で受け止めながらエミリアの懐に入る。


「エミリア!目を覚ませ!お前はそんな呪いにやられる奴じゃないだろう!」


すると、エミリアの亡霊は暴れるように頭を抱えて唸り出す。


「マ、マリア―ヌ様……」

「エミリア!しっかりしろ!」


マリア―ヌは剣を投げ出してエミリアの亡霊を抱きとめる。


「まだまだ呪縛が不十分だったようだ」


アラジンは魔槍ヘルスピアを掲げると魔力を注ぎ込む。

すると、エミリアの亡霊に漆黒の稲妻が走り呪縛が浸透をはじめる。

エミリアの亡霊はもがき暴れるようにのた打ち回った。

そして真っ赤な瞳を光らせながらマリア―ヌの前に立ちはだかる。


「エミリアの魂を冒涜しやがって。許さん!」


マリア―ヌがエミリアの亡霊を避けてアラジンに立ち向かおうとするとエミリアの『烈風炎刃』が火を吹いた。


『烈風炎刃』


エミリアの翳した剣に煉獄の炎が纏わりつく。

それは炎の衝撃波となってマリア―ヌを襲った。

マリア―ヌは瞬間、後ろにバックして衝撃波をかわす。

しかし、マリア―ヌの腕を掠めて傷をつけた。


「さすがはエミリア。亡霊になったところでその腕は落ちていない」


マリア―ヌは傷跡を抑えながら後退して距離をとる。

すかさずエミリアの亡霊は『烈風炎刃』をマリア―ヌに向ける。

マリア―ヌは攻撃を受け流しながら体制を立て直した。

そこへガルドの一撃がエミリアの亡霊を襲う。

エミリアの亡霊はすぐさまに幽体化してガルドの攻撃をかわした。


「これは私達の戦いだ。お前は邪魔をするな!」

「何を言っているんだ。手負いなくせに」

「掠っただけだ。大したことはない」


ガルドの心配を無視するようにマリアーヌは剣を構える。

すると、ガルドの大剣を構えてマリア―ヌの隣についた。


「お前だけにいいところを持っていかれる訳には行かない。俺も助太刀するぜ」

「勝手にしろ」


マリア―ヌはエミリアの亡霊の攻撃を誘発させるため懐に入り込む。

エミリアの亡霊はすぐさま反応して斬撃を放って来た。

寸のところでマリアーヌは剣の腹で攻撃を受け止める。

そこへ背後に回ったガルドがエミリアの亡霊を一刀両断にした。

エミリアの亡霊は黒い血飛沫を上げながら片膝をつく。

しかし、すぐさま立ち上がると傷を再生させて行った。


「こいつ再生するのかよ!」

「亡霊だ。仕方ないだろう」

「だがよ。再生されたんじゃやりようがない」


マリア―ヌ達の間に諦めが漂いはじめる。


「私は最強の僕を得たようだ。さあ、どう出る?」


実体を持たない上に再生能力つき。

その上、生前の技を使いこなせて身体能力も高い。

他の亡霊兵士達よりも明らかに強力に仕上がっている。

エミリアの亡霊一体でも二、三千の騎士団を相手に出来そうだ。


「畜生。どうする……」


ガルドが大剣を構えて迷っているとマリア―ヌが告げた。


「お前は他の亡霊兵士達を殲滅しろ。エミリアは私が相手をする」

「何を言っているんだ。お前ひとりでどうにでもなる相手じゃないだろう」

「お前がエミリアに引きつけられている間に合同軍が押されているのだ。助太刀に向かえ!」

「だがよ」

「ここで敗北したら私達は終わるんだぞ」


マリア―ヌの指摘にガルドは言葉を噤む。

そして頭の中を整理すると「死ぬなよ」と言葉を残して助太刀に向かった。


「そうそう私が死ぬわけないだろう。エミリア、いざ!」


マリア―ヌは剣を構えながらエミリアに立ち向かって行った。





その一方でグランの亡霊はラクレスを対峙していた。

グランの亡霊は迷うことなくラクレスに『雷虎招来』を放つ。


『雷虎招来』


グランの翳した剣に無数の稲妻が走る。

それは雷虎の衝撃波となってラクレスに襲いかかる。

ラクレスはすぐさま『次元裂波』を放って攻撃を打ち消す。


「くぅ……やる。しかし!」


ラクレスの体に無数についた傷から血が溢れ出す。

ラクレスは体をよろけさせながらも槍を持って身構えた。

こちらの亡霊もエミリアに引けはとらないくらいに強い。

やはり魔獣フェンリルの力を受け継いでいるからか。

奥義にも磨きがかかっているようだ。

ラクレスは完全に追い詰められていた。


「ここで私が殺れたら作戦は失敗に終わるだろう。それだけは避けなければならない。アラジンのいいようにさせてはならないのだ」


ラクレスは自分にそう言い聞かせるとグランの亡霊に立ち向かう。

グランの攻撃を誘発させてカウンター攻撃に徹する。

その度にグランは『雷虎招来』を放ってラクレスに襲いかかる。

さすがのラクレスでも奥義に対してカウンター攻撃をするのには無理がある。

なので『次元裂波』で攻撃を打ち消していた。


「あの槍使いも奮闘しているようだが体力が持たないだろう。こちらは疲れ知らずの亡霊なのだからな」


ラクレスは大きく肩で息をしながら呼吸を整えている。

周りを見渡しても亡霊兵士達に手を焼いている兵士達ばかり。

先ほどまでの快進撃が嘘のようだ。

明らかに形成はこちらに向いている。

もう打つ手はなくしたのか。

面白くない。

もっと楽しませてくれ。

そこへプリシアの爆弾がグランに襲いかかる。

グランはすぐさま幽体化して爆弾をかわした。


「ラクレス、大丈夫?」

「すまない。助かった」

「これじゃあ手の打ちようがないね」

「グランの亡霊は強力だ。生前よりも強力になっている。これもアラジンの槍のせいだろう」

「あの槍、魔獣フェンリルを飲み込んだものね」

「アラジンの持っている槍を何とかしないと終わらないのかもしれない」


ラクレスの読みは確かだった。

魂の呪縛を解放させるには魔槍ヘルスピアを破壊する必要があるのだ。

しかし、それがわかったところでラクレス達に手の打ちようがないのは事実。

この戦況を乗り越えない限りタクトが勝利することはないのだから。


「私がグランの攻撃を誘発させるからプリシアは『氷塊弾』でグランを凍結させてくれ」

「わかったわ。けれど無茶はしないでよ」

「わかっている」


ラクレスは再びグランの懐に入り攻撃を誘発させる。

その瞬間、プリシアの放った『氷塊弾』がさく裂してグランの亡霊を凍結させた。


「もらった『次元裂波!』」


ラクレスの掲げた槍に激しい覇気が渦上に絡みつく。

その槍をグランの亡霊に突き刺すと丸い穴が体に空いた。


「やった!」


プリシアの喜びも束の間、グランの亡霊は傷跡を再生させて行く。

みるみるうちに傷が塞がると元のグランの亡霊に戻った。


「そんなのあり!卑怯よ!」

「再生能力か。厄介だ」


再びラクレスの顔に焦りが見えはじめる。

ただでさえ手強い相手の上、再生能力だなんて最悪の組み合わせでしかないだろう。

面白くなって来た。

グルンベルグ軍の第一騎士団長はどう出るのだ?


「プリシア、策士タクトに伝えてくれ。このままでは我が軍が敗退してしまう。私がグランの亡霊を引きつけておくから、その隙に亡霊兵士達の数を減らしてくれと」

「わかったわ。けど、それじゃあラクレスはどうなるの?」

「どうなるかこうなるかは私次第だ。まあ、安心しろ。ただで死ぬことはない」

「信じているからね」


プリシアはラクレスをその場に残してタクトの元へ急いだ。


「さあ、来い。グランよ。そなたの魂は私が解放させてやる」


律儀なものだな、騎士団長と言う奴は。

自らの命を犠牲にして勝利にかけるとは。

まあ、そう言う僕が増えてくれた方がこちらにとっては都合がいい。

ヴェズベルトの騎士団長もグルンベルグの騎士団長も時間の問題だ。


「さあ、亡霊魔術師達よ。合同軍に追い打ちをかけろ!」


亡霊魔術師達は『悪魔の叫び』を連発しながら合同軍を削って行く。

タクト達の『仁王の構え』は徐々に崩されて行きほころびを見せはじめた。





ピンチは前線で戦っているエリザ達にもはっきりと伝わって来た。

タクトの考えた戦術通り『サンダーボルト』を連射しているが、亡霊魔術師達の『悪魔の叫び』には敵わない。

攻撃力がまるで違うのだ。

戦術も崩されれば意味を持たない。

下級魔法の連射でじわじわと攻めているつもりが逆に追い詰められているのだ。

こちらは無詠唱で魔法を放ているのに対しあちらは詠唱が必要だ。

その時間の差が命取りになる。

それが戦場だと言うものだ。


「さて、どうする?」


『サイレンス』を使おうにもすでに魔術師達の差は歴然。

こちらは1万5000に対しあちらは4000しかいないのだ。

たとえ『サイレンス』を発動させたことでこちらの進撃は止められない。

続けざまに『サイレンス』を唱えた所で結果は目に見えている。

そこへルーン達プリ―ストが『サイレンス』を発動させた。


「「永遠の契りは楽園への誘い、無情の約束は冥府への誘い、混沌の海は沈黙の理なり『サイレンス!』」」


亡霊魔術師の体に無数の呪文が浮かび上がると白銀色の光を放つ。

そして全ての呪文を唱えるが如く、亡霊魔術師達の魔法を封じこめた。

しかし、アラジンの予想通り魔法を封じこめられたのは3分の1程度。

作戦続行になんら問題もない。

アラジンは亡霊魔術師達に敵プリ―ストを狙うように指示を出す。

すぐさま亡霊魔術師達はプリ―スト部隊を目掛けて『悪魔の叫び』を放った。


みるみるうちに合同軍のプリ―スト達が消滅して行く。

それを避けるように合同軍の騎士団も立ち上がるがなしの飛礫。

無詠唱で放てる『悪魔の叫び』の前では近接攻撃の騎士団でも歯が立たない。

これまでの戦いですでに合同軍側の騎士団は半減されていたのだ。

合同軍はほぼ3分の1程度消滅させてある。

こちらの被害も相当なものだが、亡くなった合同軍の兵士達を召喚すればよいだけの話。

半永久的に兵力は増強できるのだ。


これで策士タクトの打つ手はなくなっただろう。

自信を持ってとった陣形『仁王の構え』もほぼ半壊している。

こうなってしまえば陣形は意味を持たない。

新たな陣形をとるにも戦闘状態では難しいものだ。

それならば戦術を変えて来るかしか方法はないだろう。

しかし、部隊を統率する騎士団長達はエミリアとグランの亡霊が抑えている。

これではどんな戦術をとったところで結果は目に見えている。

統制のとれない部隊程厄介なモノはない。


「さあ、タクトよ。もっと私を楽しませてくれ」


アラジンは不敵な笑みを浮かべると好転した戦況を見守った。

頭に勝利のビジョンを描きながら。

目の前に浮かぶのは戦乱に巻き込まれて行く世界。

それはアラジン、いや、魔槍ヘルスピアが望む世界だ。

全ては魔槍ヘルスピアの元に帰すのだ。

しかし、そのおごりが墓穴を掘ることに繋がるのだ。

そのことに気づくのはすぐのことだった。


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