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172「アラジン戦①」

最終決戦当日。

アルタイル王国北部にて。

私が率いる合同軍とアラジン率いる亡霊兵士軍とが睨みあう中。

私とアラジンは戦場の中央で落ち合った。


「逃げなかったようだな」

「逃げても追って来るだろう」

「ハハハ。わかってるじゃないか」


アラジンは余裕気な顔で笑みを浮かべる。


「勝敗はどう決めるんだ?」

「相手の大将を倒すか白旗を上げるまでだ」

「なら、速攻でお前を倒してもいいってことだな」

「出来ればの話だがな」


アラジンは絶対的な自信を持っているようだ。

それだけ自分の力を信じているのだろう。

アラジンは陰派の策士だ。

いったいどんな戦術で勝負して来るのか。


「それでははじめるぞ」

「ああ」


私は黒紫刀を手に取り、アラジンは魔槍ヘルスピアを手に取る。

そしてお互いの武器を合わせると戦いの開始の合図を告げた。





私は部隊がいる所まで戻り『仁王の構え』の陣形をとらせる。

兵士達はこれまでにない緊張をした面持ちで身構えている。


「この戦いはアラジンの余興と言っても過言でない。しかし、私達が負ければ世界はアラジンの思うがままになる。アラジンのいいようにはさせてはならない。私達は勝つためにこの戦いに挑むのだ」

「タクトの言う通りだ。俺達は勝つんだ。アラジンの鼻をへし折ってやるぞ!」


ガルドが兵士達に気合を入れると兵士達も武器を掲げて応えた。

この戦いで全てが決まる。

アラジンがどう出て来ても私達は私達の戦い方をするだけ。

組み上げた戦術で行けば勝てるはずだ。


「よし、進軍開始!」


私の合図で全部隊が『仁王の構え』の陣形を保ちながら進軍をはじめる。

それを確認するとアラジン率いる亡霊兵士軍団も進軍をはじめた。

亡霊兵士軍団は『扇の構え』の陣形を組んでいる。

前面攻撃に特化した陣形故、攻撃に絶対的な自信があるのだろう。

まあ、実体の持たない亡霊兵士なのだから防御を意識した陣形は必要でないのだが。

この陣形から推測するに、アラジンは先手を打って来るはずだ。

ならば私達は後手に回ってカウンター攻撃に特化させよう。


「ルーン、ガルド達に『チャクラ』をかけろ!」

「わかりましたわ」


後方にいるルーン達プリ―ストは魔法を詠唱しながらガルド達との間を詰めて行く。


「プリシア、『氷塊弾』の準備だ!」

「OK」


プリシア達弓部隊は歩きながら『氷塊弾』を矢の先端に装着する。

『氷塊弾』はその名の通り爆発すると氷の飛礫を放出する爆弾だ。

氷の属性があり一時的に相手を凍らせることが出来る。

実体化した亡霊兵士を一時的に凍らせることが狙いだ。


「エリザ、魔法は『サンダーボルト』で行け!」

「『サンダーボルト』ね」


『サンダーボルト』は雷系の下級魔法。

頭上から雷を落とす魔法なので後方にいても大丈夫だ。

『ファイヤーボール』や『ウインドウブレイド』は直進して行く魔法なので後方にいると前衛が邪魔になってしまう。

『サンダーボルト』ならその心配もないので安心だ。

その上、麻痺効果も期待できる。


「ガルドは『氷霜剣』だ!」

「『氷霜剣?』。『100連爆裂剣』じゃないのかよ」

「『100連爆裂剣』はカウンター攻撃には向かない。確実にダメージを与えられる必殺技を使うんだ」

「俺はド派手なのが好みなんだけどな」


ガルドはブツクサ文句を言いながら『氷霜剣』をレイムに確認する。

『氷霜剣』は火竜戦とマッドゴーレム戦で使っただけだから馴染がないのだろう。

まあ、『氷霜剣』ならば騎士団も扱えるから鬼に金棒だ。


「ラクレスは『水渦衝』を頼む!」

「了解した」

「マリアーヌは『五月雨』だ」

「任せておけ」


『水渦衝』も『五月雨』も氷の属性を持つ必殺技だ。

お互いに刺突を放つことは似ているが『五月雨』は連撃を放つところが違う。

ガルドの『氷霜剣』とは違い相手を凍らせる付加効果はない。

『水渦衝』も『五月雨』も普通の兵士達でも扱える必殺技だ。


戦場の半ばまで来るとルーン達プリ―ストの詠唱が終わる。


「「神樹より生まれし果実、緋色の甘き雫となりて、かの者に力を与えん『チャクラ!』」」


ガルド達騎士団とラクレス達槍部隊の周りに光の粒子が現れるとキラキラと輝き出す。

そして光の粒子はガルド達の体に浸透して神経を刺激する。

体の底から湧き上がるエネルギーに一種の興奮状態に陥った。


「来た来た来た!何回やってもクセになる!」


次いでルーン達プリ―ストは再び『チャクラ』の詠唱に入りマリア―ヌ達騎馬隊へ『チャクラ』をかけた。

これで準備は整った。

戦場の中ほどまで来ると両軍は立ち止まり、睨み合う。

そしてアラジンは私を見てニヤリと笑うと掲げた魔槍ヘルスピアを振り下ろす。

すると、亡霊兵士達が一斉に進撃して来た。


「ガルド、進撃開始だ!」

「待ってました!行くぞ、レイム!」

「はい、先生!」


ガルド達は迎え撃つように進撃をはじめる。

ラクレス達槍部隊も並んで続く。

マリア―ヌ達騎馬隊は外回りで側面から仕掛ける。

それに反応するように亡霊兵士達も動き出す。

すると、ガルドが先制攻撃を仕掛けた。


「オラオラオラ!食らいやがれ!『氷霜剣!』」


冷気を纏ったガルドの大剣で亡霊兵士を突き刺す。

しかし、ガルドの一撃は空を切りバランスを崩した。


「おいおい、何だよこいつら。攻撃が効かないぞ!」

「あちゃー。ガルドってバカだね」


プリシアは顔に手をあてて呆れ果てる。

散々、作戦会議で説明していたのにも関わらず先制攻撃を仕掛けるなんて。

ガルドにはまだ騎士団を統率するのは早そうだ。


「ガルド、カウンター攻撃に徹せ!」

「カウンター攻撃か。わかった」


ガルドは大剣を握り直して身構える。

そこへ亡霊兵士が攻撃を仕掛けて来る。


『海王剣!』


ガルドを覆い尽すように亜空間の大穴が広がる。

亡霊兵士は振り下ろす剣と一緒に亜空間ごとガルドを切り裂く。

ガルドはすぐさま反応して亡霊兵士の剣を受け止める。

そして亡霊兵士の剣を剣の腹で流すとくるりと大剣を翻して『氷霜剣』を放つ。

しかし、亡霊兵士は幽体と化してガルドの一撃を交わした。


「ちくしょう。外したか」

「剣士ガルドよ、攻撃を受ける瞬間を狙うんだ!」

「そうは言ってもな。振り被られたら普通、剣で受けてしまうだろう」

「そこがラクレスとガルドの違いよ。ラクレスの戦い方を見て見なよ。うまくカウンター攻撃をしているから」


プリシアの言う通りラクレスは攻撃を受ける直前でカウンター攻撃を仕掛けている。

おかげで亡霊兵士は実体化されプリシア達弓部隊の『氷塊弾』で凍結されていた。

さすがはラクレスだ。

はじめてやるカウンター攻撃にもすぐに対応している。

それに習うように槍部隊もカウンター攻撃に慣れはじめていた。

統率者が違うとこうも差が出るものなのか。

ガルド率いる騎士団は手をこまねいていた。


「ガルドがうまくやらないと私達も魔法が使えないの。もっとしっかりしてよ!」

「わかっているさ。わかっているけどな、タイミングがうまくつかめなくて」


エリザが苛々しながらガルドを捲くし立てる。

それの影響か、ガルドのリズムが悪くなりはじめた。

亡霊兵士の攻撃を一様に受けている。

すると、レイムが気を利かせたのかガルドにお手本を示す。


「先生、こうやるんですよ!相手の攻撃を直前まで引きつけてからカウンター攻撃を仕掛ける」


レイムは器用にもカウンター攻撃を見事にやってのける。


「何であいつに出来て俺に出来ないんだ!」


ガルドはすっかりリズムを失って防戦一方になっていた。

こうなってしまうとさすがのガルドもお手上げ状態。

亡霊兵士達のいいようにされている。

すると、ガルドがブチ切れて闇雲に『爆裂剣』を放ちはじめた。


「待っているなんて俺の生に合わない。やるならやる前にやるだけだ。食らいやがれ『爆裂剣!』」


ガルドの爆裂剣は幽体化した亡霊兵士を捉えられず、見事に空を切るばかり。

それでもガルドは『爆裂剣』を連発した。


「先生。そんなんじゃいくらやっても当たりませんよ」

「煩い。俺に指図するな!」


見かねた私はルーンに『スロウ』の魔法を放つように指示を出す。

『スロウ』で亡霊兵士の動きを鈍くさせることが出来れば、いくら下手くそなガルドでさえも亡霊兵士を捉えられることが出来るだろう。

要はタイミングの問題なのだ。

ルーン達プリ―ストは魔法の詠唱を終えると『スロウ』の魔法を放つ。


「「時の狭間よりいでし御霊、かの者を時空の歪みに引き落とせ『スロウ!』」」


亡霊兵士達の足元に紫色の魔法陣が浮かび上がると時の鎖が伸びて来る。

それは亡霊兵士の体を捉えると絡みつくようにキツク締め上げた。

亡霊兵士達の動きが鈍くなる。

これならいくら下手くそなガルドでも攻撃をあてられるはずだ。


「助かったぜ。これなら外さない。今までの借りを返してやるぜ。凍て尽せ『氷霜剣!』」


ガルドは幽体化しようとする亡霊兵士に冷気を纏った大剣を突き刺す。

すると、突き刺さった部分から徐々に凍結して行く亡霊兵士。

それを見たレイムが自分のことのように喜ぶ。


「やりましたね、先生!」

「俺にかかればこんなもんよ」


ガルドは誇らしげに鼻の下をこする。

ついさっきまでブチ切れていた奴の言う台詞じゃないな。

しかし、『スロウ』のおかげで手をこまねいていた騎士団も『氷霜剣』で亡霊兵士達を凍結させている。

そして間髪入れずにエリザ達魔術師部隊が『サンダーボルト』を放つ。


「「雷雲より生まれし雷、雷神の雷となりて、大地を切り裂け、『サンダーボルト!』」」


凍結した亡霊兵士の頭上に稲妻を走らせた黒い雲が立ち込める。

縦横無尽に走る稲妻は集束しながら亡霊兵士を貫いた。

亡霊兵士は白い煙を立ち昇らせながら身動きをとれずにいる。


「さすがに一撃では倒せないわね。けれど、これなら!」


エリザはすぐさま魔法の詠唱に入り続けて『サンダーボルト』を放つ。

すると衝撃で氷が粉々に砕け散り亡霊兵士が姿を消した。

この戦い方では時間がかかるが確実に亡霊兵士の数を少なくできる。

地道に数を減らして行く方が結果的に早いのだ。

ガルド達が亡霊兵士を凍結させエリザ達がダメージを与える。

この戦いのパターンがリズムよく進みはじめる。

そこへ機動力の高いマリア―ヌ達騎馬隊が駆けつける。


「私がいることも忘れるな。ここがお前の死に場だ『五月雨!』」


マリア―ヌの掲げた剣が冷気を纏い青白く光り出す。

そして豪雨の如く凍結している亡霊兵士に連撃を放った。

亡霊兵士の氷は粉々に砕け散り姿を消す。

鮮やかな一撃だ。

さすがはマリア―ヌ。

すると、ガルドが怒り出した。


「おい、マリア―ヌ。そいつは俺の獲物だったんだぞ。勝手に横取りをするな!」

「ボーっとしているお前が悪い」

「野郎、好き勝手言いやがって。おい、レイム。あいつ等に好き勝ってやらせるな!」

「先生。これは勝負じゃないんですよ」


レイムは冷静にガルドを諭すがガルドの耳には届かない。

マリア―ヌと張り合うように亡霊兵士に切りかかって行った。

まあ、それもガルドらしいと言える。

それに作戦上で何の問題もない。

張り合っていても亡霊兵士の数を減らしてくれるのだから。

その一方でラクレス率いる槍部隊は順調に亡霊兵士を消滅させていた。


「我が刃に沈め『水渦衝!』」


ラクレスが掲げた槍に渦上の水流が絡みつく。

そして渦潮の衝撃波となって亡霊兵士の脇腹を貫通させる。

亡霊兵士はすぐに幽体へと姿を変えるが貫通している脇腹はポッカリと穴が空いていた。

さすがにラクレスが放つ『水渦衝』だけのことはある。

他の槍部隊の『水渦衝』よりも破壊力も素早さも一段上だ。

それにリーチの長い槍はカウンター攻撃と相性が良さそう。

亡霊兵士が幽体となる前に『水渦衝』を直撃させている。

これで凍結の付加効果があれば鬼に金棒と言ったところだ。


銃撃隊はカウンター攻撃をしかけるラクレス達とタイミングを合わせて銃撃している。

ラクレス達がカウンター攻撃をしかけ、プリシア達弓部隊が凍結させる。

そこへ銃撃隊が一斉射撃をして亡霊兵士達を消滅させて行く流れ。

最短距離でしかも高速で飛んで行く銃弾には亡霊兵士達も対応しきれていない。

幽体化する前に次々と仕留められて行くのだ。

傍から見ていてもその光景は圧巻だ。

六連式機関砲が奏でる乾いた銃声は心地よささえ覚える。

これで必殺技でも使えたら間違いなく対モンスター戦でも通用する武器になるだろう。

まあ、機関砲の必殺技だ。

弓部隊の初歩の必殺技でもある『狙撃』あたりが打倒だろうか。

それでも属性を持ったり、付加効果もある必殺技を覚えたら向かうところ敵なしになるはず。

もしかしたら、アルタイル軍は最強の軍事兵器を開発したのかもしれない。


「いい感じだ」


今のところ戦局は私達の方に傾いていると見るべきか。

ガルド達の活躍もあり亡霊兵士の数を減らせている。

一方でアラジンは変わらずに戦局を見守っているだけ。

次の指示を出すこともなく、ただ悠然と構えている。

それは余裕の表れなのだろうか。

一抹の不安を感じるのは私だけではない。

戦場で戦っているラクレスはうまく行きすぎている現状を気にかけている様子。

そのためか体力を温存させるような無駄のない動きをしはじめた。

アラジンのことだ、何か奥の手を隠し持っていると見た方がいいだろう。

気になるのは、今だ動きを見せていない亡霊魔術師達だ。

亡霊兵士達の後ろで身構えたまま魔法を詠唱する動きすら見せない。

どんな魔法を放ってくるのか注意していた方がよさそうだ。


「アラジン、何を企んでいる」


私は戦局を見守りながらアラジンの次の一手を待った。


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