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171「最終決戦の前夜」

アラジンの要求は以下のものだった。

1.アラジンとタクトとの決着をつけること

2.戦の準備のため決戦は明後日に行うこと。

3.勝者は世界の覇権を握ること。


1番と2番はわかるとは言え、3番は頂けない。

世界の覇権をかけて戦うなどブラッド・ウォーの再来ではないか。

アラジンはブラッド・ウォーを起こすことが目的なのか。

そう考えれば納得できる。

魔獣フェンリルを倒したのも人類の脅威をなくすため。

人類の脅威がなくなれば強化した軍事力を持て余す。

そうすれば各国は世界の覇権を握るため争いをはじめるのだ。


この戦いを受けること自体がアラジンの思惑通りの展開になることは間違いない。

仮に拒否をしたとしてもアラジンは受け入れないだろう。

そればかりかあの槍の力を使って戦争を仕掛けるはずだ。

そうなってしまえばますますアラジンの思惑通りになってしまう。

どの道、私達に残された選択肢は戦うこと以外にないのだろう。


「それで、タクト。あいつ等とどう戦うつもりだ?」

「以前に死神と戦った時と同じ戦い方をする」

「ああ、あの物理攻撃が効かない相手ね」

「あの時は苦労したよね。武器に魔法を帯びさせたりなんかして」

「けれど死神は光の魔法に弱かったから勝てたようなものですわね」

「アラジンの率いている亡霊となれば話は変わるということか」


ラクレスは難しい顔を浮かべながら腕を組む。

おそらく亡霊は死神と同じく物理攻撃が効かない。

魔法なら効くかと言えば効果はないだろう。

ただ、攻撃を仕掛けるときは実態を持つはずだ。

でなければ攻撃は出来ない。

となれば戦い方は必然とカウンター攻撃になって来る。

魔獣フェンリル戦と同じように相手の攻撃を誘発させてから攻撃を仕掛ける方法になるだろう。

それは今までにやったことがない戦い方故、うまく行くとも限らない。

しかし、それしか方法がない以上、やるしかないのだ。


「戦い方はカウンター攻撃で行く」

「それでうまく行くのか?」

「確証はない。ただこちらに攻撃を仕掛けるなら実体化するはずだ」

「そこを狙うと言う訳だな」


ラクレスは確かめるように私を見やる。

私はテーブルに広げてある地図を眺めながら戦術を考える。


「アラジンの兵力は1万6000強。こちらの兵力は2万強だ。兵力ではこちらが上だ」

「問題は相手が亡霊ってことだけね」

「そう言うことだ」


アラジンの亡霊兵士の部隊構成はざっと見て騎馬隊300、騎士団8900、槍部隊1000、弓部隊1000、銃撃隊3600、魔術師部隊9800、プリ―スト部隊6100の計1万6100だ。

こちらの部隊構成は各国合わせて騎馬隊2700名、騎士団2700名、槍部隊2000名、弓部隊1000名、銃撃隊1400名、魔術師部隊5200名、プリ―スト部隊3900名の計2万900名だ。


機動力がある騎馬隊で軍を抜いているが、騎士団の数が圧倒的に少ない。

その上、魔術師部隊やプリ―スト部隊を見ても約半数しかいない。

兵力では相手より優っているが攻撃力を見れば劣ってもいる。

ただ亡霊兵士が既存の必殺技や魔法を使うと言うことはわからない。

もともとが兵士達の死者だから使えるようにも思えるが魔法は詠唱をしなければ発動は出来ないのだ。

そう考えると何かしら新しい必殺技や魔法を習得していると見た方が無難だ。

まずはこちらの有利な点から戦術を考えて行く必要がある。

攻撃スタイルは受け身型とは言え奇襲をかけられる騎馬隊を支点に組み立てるのがいいだろう。


ならば陣形は必然的に『仁王の構え』になる。

『仁王の構え』は仁王が立っているように部隊を配置する陣形だ。

右手にあたる部分は騎馬隊の3部隊を。

左手にあたる部分は弓部隊と銃撃隊を。

胸にあたる部分には騎士団の3部隊と槍部隊の2部隊を。

胴にあたる部分には魔術師部隊の5部隊とプリ―スト部隊の4部隊をそれぞれ配置する。

攻守ともに優れた陣形で奇襲攻撃をしても陣形が崩れないのが特徴だ。

アラジンの部隊がいかなる陣形で来ても対応できる。


後は戦術だ。

受け身で戦う以上、こちらからは攻撃を仕掛けられない。

ならば『チャクラ』で身体能力を上げておく必要がある。

『アシットレイン』や『グラシス』の攻撃補助魔法は効果が期待できないだろう。

『プロテクション』に至ってもすり抜けられる可能性がある。

その代り時間をコントロールする『スロウ』や『ディレイ』は使えるはずだ。

問題はエリザ達魔術師の扱い方だ。

普通に魔法を放っても効かないだろうから、無暗に最上級魔法を放つのは危険だ。

そこで考えられるのが下級魔法だ。

攻撃力こそ劣るが詠唱時間が短いから使いようによっては連射も可能だ。

ガルド達騎士団がカウンター攻撃をとった時に魔法を発動させればダメージは与えられるはずだ。

プリシア達弓部隊も銃撃部隊も同じように攻撃させればいい。


そう考えるとまずは『チャクラ』で身体能力を上げる。

カウンター攻撃をとって相手を実体化させる。

そこへ『スロウ』や『ディレイ』を放って時間をコントロールする。

そして『ファイヤーボール』などの下級魔法と弓部隊や銃撃部隊の攻撃で仕留める。

機動力の高い騎馬隊も追撃にあたらせればバッチリだ。

私は頭の中で組み立てた戦術をみんなに説明する。


「難しい戦い方が要求されるんだな」

「だが、戦術通り戦えば確実に勝利は掴める」

「プリム様はどうするのだ?」

「プリムはこの戦いでは使わない」


私の言葉にマリアーヌはホッと安心したような顔を浮かべる。

その横でプリムが不服そうな目で私を見て来る。


「何で私だけ外すのよ。私だって戦えるわ」

「『聖女の力』は強力だ。しかし、相手が亡霊となれば話は変わって来る。力を発動させても効果がないだろう」


プリムはシュンとしてガックリと肩を落とした。

それにプリムにはさきほどの戦いの件もある。

無闇に戦闘に参加させることは出来ない。

私と共に指揮役に回ってもらう。


「しかし、なぜアラジンは私達に猶予を与えたのだ?勝利を掴むのならば、そのまま戦った方が得だったろうに」

「それは私にもわからない。だが、アラジンは以前のアラジンと人が変わっていた。おそらくあの槍がそうさせているのだと思う」

「あの槍が聖槍グングニルってこと?」

「そうなると思うが、聖槍とは言えない形をしていたな。まるで悪魔の槍だ」


いずれにせよ決戦は明後日だ。

それまで兵士達に十分な休息をとらせて体力を回復させよう。

私はラクレス達と調整を済ませると兵士達に休息をとらせた。





辺りはすっかり暗くなり焚火の明かりが鮮やかに見える。

軽めの夕食をとると他のみんなは先に休んだ。

私はひとり焚火に薪をくべながら火の番をしていた。


アラジンは、この戦いに何の意味を見出すと言うのか。

私達に勝ったところで世界の覇権はいずれ握るだろう。

負けたとしても戦争を起こすためならば何でもしそうだ。

やはりあの槍の力の影響か。

私がひとり難しい顔をしながら考え事をしているとプリシアが傍に寄って来た。


「どうしたプリシア。眠れないのか?」

「タクトったら、またひとりで難しい顔をしている」

「ちょっと考え事をしていただけだ」

「いつもそうやって難しいことばかり考えていて、たまには私のことも考えてよ」

「考えているさ」


私は後ろに仰け反って夜空を見上げる。

空には満天の星々が夜空を彩っていた。


「あの一番輝いている星がタクト。その隣にちょこんといるのが私だよ」

「何だよ急に?」

「だって星が綺麗だからロマンチックな気分になっちゃって」

「ロマンチックね~」


呆れたように私が言うとプリシアはむくっと起き上がって頬を膨らませる。


「何よ。私がロマンチックじゃいけない?私だって女の子なのよ。好きな人といっしょにいたらロマンチックになるんだから!」

「好きな人か……」


私はふ~っと息を吐いて目を細めた。

こんな風に素直な気持ちを言えるプリシアが羨ましい。

私はいつも戦術のことばかりで頭がいっぱいになっていた。

だから自分の素直な気持ちなど考えたこともない。

今は特別、好きな人はいない。

だが、仲間のことは大事に思っている。

ガルドもエリザもルーンもプリシアも、もちろんプリムのことも。

みんな同じぐらい好きだ。

それは恋愛としての感情ではないのだけれど。

それがプリシアには不満なのかもしれない。


「もういい!」


プリシアはむくれてひとり寝袋へ戻って行った。

入れ違うようにエリザがコーヒーを持ってやって来る。


「タクト、お疲れさま。はい、コーヒー」

「あ、ありがとう」


エリザは私の隣にぴったりとくっついてコーヒーを啜る。


「温かい」

「少し寒いか?」

「大丈夫」


私は焚火に薪をくべて火を強くする。

と、エリザが私の肩に頭をちょこんと乗せて来る。


「休むなら寝袋へ行った方がいいぞ」

「今はこうしていたいだけ」


エリザは猫撫で声を出しながら頬を少し赤らめる。

エリザもプリシアと同じようにロマンチックな気分になっているのか。


「タクト。この戦いが終わったらどうするの?」

「私は旅立とうと思っている。まだ策士としても大成していないからな」

「そう。なら、一緒に行っていい?」

「二人だけでか?」

「うん」


まあ、エリザは魔術師としての経験が豊富だ。

それに気心も知れているし仲間にいたら心強い。


「わかった。二人で行こう」

「本当に?」

「ああ、本当だ」

「ありがとうタクト」


エリザはぎゅっど私を抱きしめて来る。

そこへ今度はルーンがやって来た。


「あらあら、お邪魔だったかしら?」

「「ルーン!」」


私とエリザは慌てて離れる。


「何だよ、ルーンも眠れないのか?」

「私はタクトさんとお話がしたくて来たのですわ」

「なら、私行くから」


エリザは気を利かして逃げるように寝袋へ戻って行った。

ルーンは私の向かいに座ると焚火の火を見つめる。

そしておもむろに口を開いた。


「タクトさん。本心を聞かせてください。この戦いに意味はあると思いますか?」


ドキドキしながらルーンの言葉を待っていると真面目な話をして来る。


「この戦いには意味はないよ。アラジンの自己満足のためだけの戦いだ。しかし、私達はこの戦いからは逃れられない」

「もし、私達が勝ったらタクトさんは世界の覇権を掴みますか?」

「そんなものを掴んでも何もならないよ。強すぎる力は混乱を招く。戦争の火種になるだけだ」

「その言葉を聞いて安心しましたわ」


ルーンの顔から緊張が解けると優しく微笑んで来る。

ルーンはこれまでの冒険の中でいつも冷静に情勢を見守って来た。

だからこそ絶対的な信頼を寄せられる人のひとりだ。

ルーンも、この戦いに意味はないことははじめからわかっていた。

だから改めて私に質問することで確信を得たかったのだろうと思う。


「それよりタクトさん。どちらに決めたんですか?」

「何が?」

「エリザさんとプリシアさんのことですよ」

「ど、どっちでもないよ」


私が慌てて応えるとルーンはクスクス小さく笑う。


「さっき、エリザさんと一緒に冒険をする話をしていましたよね」

「聞いていたのか?」

「プリシアさんがそのことを知ったらどうしますかね」


おそらく一緒に着いて行くって言うだろう。

まあ、プリシアがいても問題はないし別に構わないのだが。

エリザとプリシアで火花を散らしそうなことは見えている。

やっぱりひとりで旅立つべきかな。


「いつまでもタクトさんが曖昧な態度をしているのがいけませんのよ。どっちかひとりに決めたらどうです」

「どっちに決めるって言われたって二人とも大切な仲間だし……」

「私は恋愛の話をしているんです。心から愛せるのはどちらですか?」


ルーンの最もな質問に私は言葉を詰まらせる。

しばらく沈黙しているとルーンは呆れた様子で立ち上がる。


「いつまでもどっちつかずでいますと二人から見放されますから!」


ルーンはそう捨て台詞を吐くとツカツカと怒って行ってしまった。

ここで決めなければならないのか。

だけど私に恋愛感情は全くない。

プリシアは素直でいい子だし、エリザはギャップ感がいい。

どちらに決めると言っても決め手に欠ける。

戦術は思うように考えられるが恋愛はからっきしダメだ。

このままどっちつかずで二人から見放された方がいいのかもしれない。

と、そこへガルドがやって来た。


「タクト、交代だ」

「なっ、何だよ」

「何そんなに慌てているんだ」

「べ、別に」


ガルドは私の向かいに座ると焚火に薪をくべる。

そして私をジッと見つめながら思わぬことを聞いて来た。


「で、エリザとプリシアとルーンの誰に決めるんだ?」

「何だよ急に?」

「わかってるんだよ。タクトが誰にしようか迷っていることはな」

「そんなことある訳ないだろ」


俺は慌ててガルドの質問を否定する。


「ルーンは胸が大きくて優しい。エリザは可愛くてギャップに萌える。プリシアは素直で大胆だ。男なら誰にしようか迷うのが普通だ」


ガルドも意外とよく見ているんだな。

関心する。

だが、視点がちょっといやらしい。


「俺のおススメはやっぱりルーンだ。ルーンと結婚したらいいお嫁さんになってくれるぞ」

「けっ、結婚だなんて!」

「ガハハハ。タクトはシャイだな。たまには俺のようにガッツかないとみんなに逃げられるぞ」

「余計なお世話だよ」


私はムカムカしながら立ち上がるとガルドを残して寝袋へ向かった。

だけど、この戦いが終わったら答えを出さなければならないことは自覚していた。

そしてアラジンとの決戦の日を迎える。


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