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17「陽動作戦」

街の人達が隠れていた洞窟の中で作戦会議をはじめる。


―暴れ猿ー

種類:群れで行動する大型の猿

全長:5メートル

知性:高い

耐性:なし

弱点:温泉

特徴①:ボスを中心に動く

特徴②:森の中では動きが素早い

倒し方:ボス猿を先に倒す


「これがワシ達の住んでいる街の見取り図じゃ。ワシ達は西側の森にいて、その反対側の森に暴れ猿がいる」


白髭の老人はテーブルに見取り図を広げると、駒を置きながら説明をはじめた。


「暴れ猿は何匹ぐらいいるんだ?」

「五匹じゃ。数は少ないが、その大きさが半端じゃない。ボス猿クラスになれば五メートルはくだらないだろう」

「五メートルか……死神より大きいな」


ボス猿の大きさを知ってガルドは思わず息を飲み込んだ。


「森の中での戦いは暴れ猿の方が有利だ。まずは、暴れ猿をおびき寄せる必要があるな」

「どうやって?」


私の言葉を受けて、プリシアが不思議そうに質問して来た。


「エサを撒くんだよ。雪原に家畜を解き放って、暴れ猿を誘う。そして暴れ猿がやって来たところを一斉に襲うんだ」

「じゃが、暴れ猿は賢い。そう、うまく行くか心配じゃ」


白髭の老人の心配は最もだった。

モンスターの中でも暴れ猿の知性は高い方だ。

だが、どのモンスターにも弱点はある。


「温泉を使って暴れ猿を油断させる」

「温泉!?」


私の突拍子もない発言に、周りにいた一同が声を揃えて言った。


「暴れ猿は温泉好きだ。寒い地域だけに暖がとれる温泉は暴れ猿にとっても楽園そのもの」

「じゃが、そんなに大きな温泉なんかないぞ」

「造るんだ!」


さらに私の発言を聞いた周りの一同が驚きの顔を浮かべた。


「温泉を造るったって、どうやって造るのよ?」

「簡単だ。炎の魔法と氷の魔法を使えばすぐにできる」


まじまじと見つめながらエリザが尋ねて来るので、私は自信たっぷりにアイデアを話した。


「魔法をそんな風に使うなんて、はじめてだわ」

「エリザにかかっているんだ。任せたよ」


信じられないような顔をしているエリザの肩をそっと叩いた。


「では、作戦を整理しよう。まずは準備としてエリザの魔法で温泉を造る。その脇に家畜を放して暴れ猿を誘う。暴れ猿がやって来て温泉で一息入れている所を襲撃するんだ。暴れ猿の中には必ずボス猿がいる。ボス猿を集中的に狙って倒せば、残りの暴れ猿達は混乱する。そして一匹残らず倒すんだ」

「わかった。タクトに従うよ」


私達はさっそく戦いの準備をはじめる。

私とエリザ、プリシアの三人は温泉造りに。

ガルドとルーンは家畜の準備に取り掛かった。



「プリシア、まずは爆弾でこの辺りの地面を吹き飛ばしてくれ。なるべく大きくだぞ」

「任せてよ」


プリシアは私の言う通りに爆弾を丸く円を描くように地面に仕掛けて行く。

その数は数十。

そして、一通り爆弾を仕掛け終わると、私達の所へ駆けて来た。


「じゃあ、スイッチを入れるから、みんなは下がっていて」


プリシアに言われるまま後ろに下がると、プリシアは爆弾のスイッチに手をかけた。

そして、次の瞬間、轟音を立てながら爆弾が大きく破裂する。

地面を吹き飛ばしながら、空高く土煙で覆われた。


「どう?うまく行った?」


土煙が風に流され姿を現すと、雪原の中に大きな茶色のクレーターが出来上がっていた。


「プリシア、成功だ。やるじゃないか」


私が興奮しながら言うと、プリシアはへへへと嬉しそうに笑いながら頭を掻いた。


「次はエリザだ。まずは氷の魔法で巨大な氷を作ってくれ」

「わかったわ。蒼白の海よりいでし青色の、瞬間に凍てる氷柱となりて、その雪白の吐息で凍てつくそう、『死のつらら!』」


エリザが詠唱をはじめ、巨大なクレーターに向かって死のつららの魔法を放つ。

すると、空から巨大なつららが降りて来て、地面を凍らせて行った。

あっという間にクレーターに氷がはって、まるで氷柱ような姿に変わった。


「完璧だ、エリザ。次はメテオストームで氷を焼き尽くせ」

「漆黒の闇よりい出し赤色の、永遠に燃え尽きぬ暁となりて、その深紅の瞳で見続けよう、『メテオスォーム!』」


エリザが詠唱を終えると、空が赤く染まり、裂け目から焼けた隕石が降り注ぐ。

急に襲って来た夕立のように激しく地面を叩きつけた。

そして氷はすっかり姿を消し、ゆで上がった巨大な温泉が目の前に広がった。


「完成だ。エリザ、プリシアありがとう」

「こんなことでタクトにお礼を言われるなんて何か照れるわね」

「照れる照れる」


私が改めてお礼を言うと、エリザとプリシアはまんざらでもない様子で笑って答えた。


「おーい、タクト。家畜を連れて来たぞ。ヤギしかいなかったからヤギだけだけど」

「こら、暴れないでよ」


ヤギを連れて歩いて来るガルドの後ろで、ルーンがヤギと葛藤していた。

どうやらルーンはヤギと相性が悪いらしい。


「おっ、温泉もできているじゃないか。後で入らせてもらおう」

「その前にガルド、家畜をその木に繋いでおいてくれ。逃げられでもしたら作戦が失敗になる」

「わかったよ、タクト。その代り俺達が入る温泉も後で造っておくれよ」


冗談を言うガルドの目は輝いていた。

どうやら本気で言っているらしい。

まあ、人間用も造れないことはないのだが、魔法の火力調整が必要だ。


「後は、暴れ猿を待ち構えるだけだ。私達は雪室に入って様子を伺っていよう」


私達は温泉の近くに造った雪室に入ると、暴れ猿達が来るのを待った。



雪室に入ってから、既に一時間。

辺りはすっかり静まり返っていて、暴れ猿の気配も感じられない。

木に繋がれたヤギ達の鳴き声が虚しく空に響いていた。


「タクト、ぜんぜん暴れ猿達が来ないじゃないか。作戦は失敗したんじゃないか?」

「慌てるなガルド。暴れ猿は必ず来る。もう少し、待つんだ」


その言葉通り、しばらくすると暴れ猿達が東の山から降りて来た。

ボス猿を先頭に一匹、二匹と姿を現しながら、こちらに近づいて来る。

しかし、温泉の前で足を止めると、辺りの様子を気にしはじめた。


「暴れ猿達が警戒しているぞ。気づかれたんじゃないか?」

「ガルド、声を出すな。気づかれたら終わりだぞ」


私達は息を潜めながら暴れ猿達の動向を見守った。

すると、ボス猿が家畜の所へ行き、おもむろにヤギを丸呑みした。

悲痛なヤギの悲鳴がボス猿の口の中から聞こえて来る。

その光景にエリザとルーンは思わず目と耳を塞いだ。


それも無理のない。

バキボキと骨を砕くような咀嚼音を立てながらヤギを食しているボス猿の姿は、まるで悪魔。

生々しい現実に誰もが嗚咽を覚えるだろう。


「おい、タクト。ボス猿が温泉に入ったぞ」

「お腹いっぱいになって満足したのだろう。気が緩むまで待つんだ」


私とガルドは雪室からボス猿の様子を伺いながら機会が来るのを待った。

体が温まって来た暴れ猿達は目を閉じながら、のんびりと温泉に使っている。

毛繕いをする暴れ猿もいれば、温泉で泳いでいる暴れ猿もいた。


「よし、みんな準備はいいか?行くぞ!」


私達は雪室から一斉に飛び出すと、暴れ猿に向かって構えた。

暴れ猿もこちらに気づき威嚇をはじめる。

ただ、ボス猿だけは悠然と構えていた。


「みんな全力で行くぞ!まずはルーン!ディレイの魔法で暴れ猿の動きを止めるんだ!」

「わかりましたわ。時の輪廻は無へと帰る、かの者の時も無へと帰らん、『ディレイ!』」


ルーンが詠唱を終えると、暴れ猿の周りに光の輪が広がり、一気に締め付けた。

まるで光の拘束が暴れ猿の時を奪うかのよう。


「次はガルドだ!紅蓮剣をボス猿にぶち込め!」

「待ってました!ここぞとばかりに鍛えて来た我が剣技を受けて見よ。必殺の『紅蓮剣!』」


ガルドが大剣を降り翳し飛び上がると、大剣に炎が纏わり紅蓮の剣となって、ボス猿の体を切り裂いた。

時が止まっているため、ボス猿の裂けた体からは鮮血が溢れ出して来ない。

しかし、その傷口はパックリと大きく開いていた。


「ガルドさん、魔法が解けますわ。離れてください」

「了解」


ガルドが地面に降り立つと同時にボス猿の傷口から真っ赤な鮮血が溢れ出した。

グキィィィーとボス猿は悲痛の唸り声をあげながら地面に倒れ込んだ。

周りにいた暴れ猿達は一瞬で凍りつく。


「今がチャンスだ!エリザ、メテオストームで暴れ猿達を焼き尽くせ!」

「わかったわ。漆黒の闇よりい出し赤色の、永遠に燃え尽きぬ暁となり……」


エリザが詠唱をはじめるとボス猿が体を起こす。

そして、エリザ目がけて突進して来た。


「まずい、エリザが狙われる。プリシア、爆裂弾でボス猿をかく乱するんだ!」

「それよりいい方法があるわ、タクト。ここは私に任せて。このために新しい武器を新調して来たんだから」


プリシアはエリザの前に立ちはだかると、ロケットランチャーを両肩に担ぎ構えた。


「見せてあげるわ!私の必殺技を。全火力解放、『一斉掃射!』」


無数のロケットミサイルがボス猿に向かって飛んで行く。

そしてボス猿に触れると一斉に破裂した。

爆音とともにボス猿の聴覚が奪われ、混乱をはじめる。

そしてエリザが魔法を放った。


「『メテオストーム!』」


空が赤く染まり、亀裂から真っ赤に燃えた隕石が降り注ぐ。

急なにわか雨のように激しい轟音を立てながら暴れ猿達を飲み込んで行った。

そして、白い煙が風にさらわれると真っ黒焦げになった暴れ猿の亡骸が姿を現した。


「作戦は成功だ!みんなやったぞ!」

「ひゃっほーい。俺の必殺技を見たか、タクト。すごい威力だろ」


ガルドははしゃぐ子供のように飛び上がって喜ぶ。

はじめて必殺技をまともに食らわせることができたのだから仕方がないのだが。


「私の必殺技も見たでしょタクト。ガルドなんかより迫力があって凄かったんだから」

「何だとプリシア。俺の方がカッコよかったぞ」


プリシアとガルドは睨みあいながら自負している。

どっちもどっちだとそう思っていた私に、ガルド達は判定を求めて来た。


「タクトはどっちが凄いと思ったんだ?」

「もちろん私よね?」

「どちらも凄かったよ。暴れ猿に勝利できたのは、みんなのおかげさ」


そう言う私に周りのみんなが賛同してくれた。


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