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164「魔獣ヒュドラ戦③」

タクトは組み立てた戦術に絶対的な自信を持っていた。

三つの国の軍隊が集結して共同戦線をとるのだ。

いくら魔獣ヒュドラが強いからと言っても総勢4万強の兵力の前には敵わないはず。

これで終わらせる。


「よし、まずは我々が先陣を切る!ルーン、プロテクションを展開せよ!」

「はい!」


私の指示を受けてルーン率いるプリ―スト部隊の2000名が魔法の詠唱に入る。

次いでプリシア達弓部隊に指示を与える。


「プリシア、煙幕弾を装填せよ!」

「煙幕弾ね。OK」


プリシアは煙幕弾をハンドバツーカに装填する。

同じように弓部隊2000名も矢じりに煙幕弾を装着。

ここで酸倍弾を使う方法もあるが前の戦いで効果が薄いことがわかった。

耐性を無効化させるスピカはアルタイル軍に任せた。

なのでこちらは魔獣ヒュドラの視覚を奪う煙幕弾にしたのだ。


「プロテクション展開後、進軍をはじめる」


魔獣ヒュドラは9つの頭で周りの様子を伺っている。

攻撃を仕掛けようにも三方を囲まれているので迷っているのだろう。

一方に攻撃を仕掛ければ敵に背を向けることになる。

いくら死角がない魔獣ヒュドラと言えども背後をとられることはしたくないのだろう。

それは知性が非常に高いことを表している。

もし、魔獣ヒュドラの知性が低ければ本能的に行動しているはずだ。

しばらくすると、ルーン達プリ―スト部隊の詠唱が終わる。


「「天より降り注ぎし光、星光の束となりて、かの者を守らん『プロテクション!』」」


最前列にいるガルド達騎士団の前に光の壁が競り立って行く。

それは左右に展開している部隊を覆い隠すようにプロテクションが展開された。


「よし、進軍開始!」


私の合図で全部隊が魔獣ヒュドラに向けて進軍を開始する。

すると、魔獣ヒュドラも反応し警戒態勢をとった。


「プリシア、けん制攻撃を開始せよ!」

「任せてよ。みんな行くよ!『煙幕弾!』」


プリシアが先陣を切ると続くように弓部隊が一斉に煙幕弾のついた矢を放つ。

矢は放物線を描きながらプロテクションを飛び越えて魔獣ヒュドラを捉える。

着弾した煙幕弾は爆発し白い煙幕をまき散らす。

みるみるうちに魔獣ヒュドラは煙の中へ消えて行った。

これで時間が稼げるはずだ。


「エリザ、天空の雷を頼む!」

「わかったわ」


エリザ達魔術師部隊は一斉に魔法の詠唱に入る。

魔獣ヒュドラは頭を動かしながら煙幕を晴らそうと動き回る。

しかし、プリシア達弓部隊からの第二射が襲いかかる。

すると、魔獣ヒュドラはデスブレスを吐き出し反撃をはじめた。

デスブレスを受けて光の壁が小刻みに震える。


「タクト、大丈夫なのか?」

「視界を奪われて闇雲に攻撃をしているだけだ。直撃を受けない限り、プロテクションは破れない。それよりもガルド、攻撃の準備をしておけ」

「おうよ。こっちはいつでもいいぜ」


ガルド達の攻撃はヴェズベルト軍のプリムが魔獣ヒュドラの動きを止めた後だ。

聖女の力は重力系の魔法の最たるもの。

相手にすざましい圧力をかけて押しつぶす。

その力からは誰とも逃れることは出来ない。

たとえ魔獣ヒュドラとて同じことなのだ。


「タクト、準備が整ったわ」

「よし、エリザ、天空の雷で魔獣ヒュドラを貫け!」

「「空かける声は神の声、地を走る声は悪魔の声、天と地の旋律は、冥府の理なり『天空の雷!』」」


魔獣ヒュドラの頭上に稲妻を走らせた黒い雲が立ち込める。

エネルギーを溜め込むように稲妻は縦横無尽に走り回る。

そして次の瞬間、まばゆい光と共に紫色の無数の稲妻が収束しながら魔獣ヒュドラを貫いた。

1×2000倍の天空の雷が直撃して魔獣ヒュドラの体から白い煙が立ち昇る。

魔獣ヒュドラは沈黙したまま微動だにしない。


「よし、これで第一段階は終わりだ」





戦いの様子を見守っていたマリア―ヌは魔獣ヒュドラの沈黙を確認する。

予想通りタクトは魔獣ヒュドラの動きを止める作戦に出て来た。

この戦い方はタクトの王道たる戦術だ。

マリア―ヌはタクト達との冒険の中で熟知したいたのだ。

そうとは言え魔獣ヒュドラは一時的に沈黙しているのかもしれない。

ならばプリム様の安全を確保することが最優先だ。

マリア―ヌはプリ―スト部隊に指示を出す。


「プリ―スト達よ、プロテクションを展開せよ!」


マリア―ヌの指示を受けてプリ―スト部隊は魔法の詠唱に入る。

タクト達もプロテクションの展開はプリ―スト部隊2000名だ。

それで魔獣ヒュドラのデスブレスを防いでいる。

本来ならばアルタイル軍からやって来たプリ―スト部隊2000名にもプロテクションを展開してもらいたいことろなのだが。

それはチャクラ要員として残しておけとのタクトの指示だ。

無視する訳にもいかないだろう。

マリア―ヌがそんなことを考えている間にプリ―スト部隊の詠唱が終わる。


「「天より降り注ぎし光、星光の束となりて、かの者を守らん『プロテクション!』」」


最前列にいるマリア―ヌ達騎馬隊の前に光の壁が競り立って行く。

それは2重に重なり中央に展開される。

あくまでプリムを守るための処置だ。


「プリム様を前へ!」


マリア―ヌの合図でプリムの壁になっていた騎士団が左右に分かれて行く。

そしてプリムを乗せた馬車が最前列までやって来た。

馬車と言っても屋根のついている人を運ぶための馬車ではない。

屋根のない5メートル四方の台車を2頭の馬が引いている。

中央に魔水晶が置かれ、その後ろにプリムが立つ。

プリムは白いドレスを纏い白銀の十字架を手に持っている。

どこから見ても聖女と思わせるような風貌だった。

マリア―ヌはプリムの前で跪くとプリムにお願いをする。


「プリム様、聖女の力をお願いします」


プリムはコクリと頷くと白銀の十字架を胸の前に翳す。

そして静かに目を閉じて魔力を白銀の十字架に注ぎ込んだ。

すると、白銀の十字架はキラキラと輝きながら魔水晶にエネルギーを伝える。

魔水晶はエネルギーを蓄えながら圧縮させて行く。

しばらくすると魔水晶は黒紫色に輝きはじめ小刻みに震え出した。


「私の前にひれ伏せ。魔獣ヒュドラよ!」


プリムの言葉に反応して魔水晶がエネルギを解放させる。

すると、押しつぶすような圧力が魔獣ヒュドラに襲いかかる。

その圧力で魔獣ヒュドラの体は地面に食い込んで行った。


「セイジョノチカラダト。ニンゲンメ」


魔獣ヒュドラは渾身の力を込めて跳ね返そうとするが圧倒的な重力の前にひれ伏してしまう。


「これで魔獣ヒュドラは動けまい。第二段階の終了だ」





グランは興奮していた。

目の前で押さえ込められている魔獣ヒュドラを見て。

鮮やかなグルンベルグ軍の攻撃もさることながら、聖女の魔力を使ったヴェズベルト軍に驚愕していたのだ。


「あれが聖女の力か……」


人知を超えた神なる力。

それをあの娘ひとりでやっているなんて。

話では聖女のことは知っていたが、その力を実際に見るのは初めてだ。

魔術師の何十倍、何百倍、いやそれ以上の魔力に空いた口も塞がらない。

同時に心の中からフツフツと湧き上がる喜びを感じていた。

それは勝利と言う名の太陽だ。

これならば魔獣ヒュドラとて恐るるに足らずと言うもの。

グランがひとり妄想に浸っているとタクトから催促がかかった。


「おっといかん。まだ勝った訳ではなかったな。プリ―スト部隊よ前へ!そして、スピカを放て!」


グランの合図で後方にいたプリ―スト部隊2000名が前列に移動し、魔法の詠唱に入る。

すでに魔獣ヒュドラは身動きがとれないのでプロテクションを展開しなくても済む。

そればかりか口も開けずにデスブレスで反撃も出来なくなっている。

聖女の力、恐るべし。

グランは考えていた。

聖女の力をアルタイル王国に取り入れることが出来ないかと。

ドワーフ達が造る新兵器に加え、聖女の力を手に入れたとなればアルタイル王国は無敵になれる。

しかし、その考えは妄想で終わる。

ヴェズベルト王国が聖女を、プリムを手放す訳がないのだから。

そんなことを考えているとプリ―スト部隊の詠唱が終わる。


「「宇宙の星々より生まれし光、神聖なる清流となりて、かの者を結びを解き放て『スピカ!』」」


巨大な泡が魔獣ヒュドラを包み込むと徐々に圧縮されて行く。

そして魔獣ヒュドラを象るようにコーティングされると艶やかに変わった。


「これで第三段階が終わったぞ」





タクトは魔獣ヒュドラの状態を確認するとプリシアに信号弾を撃たせる。


「プリシア、第四段階開始の信号弾を空に放て!」

「あいあいさー!」


プリシアは信号弾をハンドバツーカに装填すると空へ向かって砲撃する。

すると、信号弾は空高く舞い上がり爆発して三色の煙を放出した。


「よし、エリザ、天空の雷で魔獣ヒュドラを貫け!」

「今度こそ仕留めてあげるわ」


エリザ率いる魔術師部隊2000名は魔法の詠唱に入る。

同じようにしてヴェズベルト軍の魔術師部隊4000名が神の裁きの詠唱に。

アルタイル軍の魔術師部隊5000名がエクスプロードの詠唱に入った。

聖女の力で動けない上、スピカで耐性が無効化されている。

そこへ最上級魔法のオンバレードだ。

いくら魔獣ヒュドラが強いと言ってもタダでは済まないだろう。

注意しなければならないのはただ一つ。

再生だ。

せっかくダメージを与えても再生されてしまえば攻撃が無駄に終わる。

だから再生される前に一気にカタをつける必要があるのだ。


「タクト、こっちは準備が出来たわ。いつでも撃てるわよ」

「よし、エリザ!天空の雷で魔獣ヒュドラを貫け!」

「「空かける声は神の声、地を走る声は悪魔の声、天と地の旋律は、冥府の理なり『天空の雷!』」」


稲妻を走らせた黒い雲が空を覆い尽くすと膨大なエネルギーが集束されて行く。

そして大地を震わせるほどの轟音と共に、無数の紫電が巨大な雷撃となり魔獣ヒュドラを貫いた。

1×2000倍の天空の雷を受けた魔獣ヒュドラの体から白い煙が立ち昇る。

続いてヴェズベルト軍の魔術師達が神の裁きを放つ。


「「右手には聖剣を、左手には聖扇を、天秤に計られし正義の調べは、神が下した断裁なり『神の裁き!』」」


どこからともなく疾風が駆け巡ると重なり合って大旋風へと姿を変える。

その旋風は鋭い刃となって魔獣ヒュドラの体を切り刻んで行く。

それは嵐のような勢いで猛威を振るい魔獣ヒュドラの体から鮮血をまき散らした。

さすがは1×4000倍の神の裁きだ。

威力が半端ではない。

魔獣ヒュドラの堅牢な装甲すらものともしない。

私がひとり感心をしているとアルタイル軍の魔術師達がエクスプロードを放つ。


「「我に宿りし魔神の力、蒼き炎は空を燃やし、紅の炎は大地を焦がす、その力は根源成り『エクスプロード!』」」


赤色の雲が空を覆い尽くすと一閃の光が魔獣ヒュドラへ降り注ぐ。

その光は周囲のエネルギーを吸収しながら赤々と輝き一点に集束して行く。

そして臨界点まで達すると一気にエネルギーが解放された。

放射状に爆風が広がり大地を抉り取って行く。

私達は身を屈めて爆風を凌いだ。

煙が張れると真っ黒焦げになった魔獣ヒュドラと巨大なクレーターが姿を現す。


「なんて破壊力だ。エリザ達の比じゃないぞ」

「それはそうよ。あっちは私達2000名の1.5倍も魔術師がいるのよ。敵いっこないわ」


ガルドは興奮しながらボソッと呟いた。

ガルドとて悪気はない。

あまりの光景に本音が漏れただけだ。

エリザは不服そうな顔でガルドを睨んでいた。

私も1×5000倍のエクスプロードは初めて見た。

巨大な隕石が衝突したかのような破壊力だ。

魔獣ヒュドラも微動だにせず沈黙している。


「よし、最終段階へ移行する!」


私が宣言するとグルンベルグ軍の中に緊張が走った。

ガルドはまだかと言わんばかりに呼吸を荒げている。

それは他の騎士達も同じようで剣を握りしめる手に力が籠っていた。


「ルーン、ガルド達にチャクラをかけるんだ!」

「チャクラですね」


ルーン達プリ―ストは両手を胸の前で組み魔法の詠唱に入る。

最終段階はガルド達騎士団にチャクラをかけて身体能力を上げさせてから総攻撃を仕掛けるのだ。

いくらスピカをかけて耐性を無効化したとはいえ魔獣ヒュドラの肉体は堅牢だ。

しかし、第三段階で神の裁きを放ったことで魔獣ヒュドラの肉体には無数の斬撃の痕が残っている。

そこを狙って攻撃を集中すれば大ダメージを与えられると言う算段だ。

散り積も作戦は魔獣戦では横道な攻撃方法なのだ。


「タクトさん、いつでもいいですわよ」

「よし、ルーン。チャクラでガルド達の身体能力を上げてくれ!」

「「神樹より生まれし果実、緋色の甘き雫となりて、かの者に力を与えん『チャクラ!』」」


ガルド達騎士団の周りに光の粒子が現れるとキラキラと輝きながらガルド達の体に浸透して行く。

すると、ガルド達の体が輝き出してエネルギーを漲らせた。


「うぉぉぉぉ!来たぜ。こいつだよ、こいつ!」

「先生。これはクセになりそうですね!」


ガルドの横でレイムが溢れ出て来るエネルギーに興奮しながら叫ぶ。

グルンベルグ軍の騎士達も同じように湧き上がるエネルギーに興奮をしていた。

チャクラはプロテクションのように合わせることの出来ない魔法。

なのでひとりの魔術師に対してひとりの騎士と言った具合に魔法をかける必要があるのだ。

今の段階でチャクラをかけられたのは第一列目のガルド率いる騎士団2000名あまり。

まずはガルド達に先陣を切らせて、その間に第三列目のラクレス率いる槍部隊にチャクラをかける。

そしてラクレスが攻撃をしている間にまたガルド達にチャクラをかける。

その繰り返しで攻撃を仕掛けるのだ。

プリシア率いる混成部隊は絶えず酸倍弾を放たせて防御力を落とさせる作戦をとる。

もともと火力のない弓部隊にチャクラをかけてもたかが知れている。

チャクラは元の力を数倍、数十倍に引き上げる魔法。

だから元の力が大きいほど効果も高まるのだ。

かと言って弓部隊が使えない部隊と言うことではない。

ログ達とプリシアが共同開発した矢じりの先に爆弾をつける仕組みによって飛躍的に応用が効く部隊に変わったのだ。

支援攻撃部隊としては右に出るものがいないほど優秀な部隊となった。

これもそれもログ達のおかげである。

それに、まだまだ弓部隊は伸びる余地がある。

仮に必殺技を習得するまでに至れば、この上ない戦力になることは間違いないだろう。

アルタイル軍の六連式機関砲にも劣らぬ戦力になるはずだ。


「よっしゃー!行くぞ、レイム!俺達、グルンベルグ軍の底力を見せてやるぞ!」

「はい、先生!僕達、グルンベルグ軍が最強であることを証明しましょう!」


ガルドは大剣を振り上げて騎士団に気合を入れる。

それに応えるようにレイム達騎士団は剣を掲げて応えた。

そして最終段階に移行して行く。


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