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163「魔獣ヒュドラ戦②」

ガルド達近接攻撃ではダメージを与えるまでには至らない。

スピカで耐性を無効化すれば魔法攻撃はある程度効くようだが。

ならばガルド達にはチャクラをかけて身体能力を飛躍的にアップさせる。

その上で奥義を放たせる。

エリザ達魔術師には付加効果のある最上級魔法だ。

プリシア達弓部隊には絶えず酸倍弾を放ってもらおう。

酸倍弾の繰り返しでも塵も積もれば山となると言うもの。

下手に攻撃に特化させるよりも支援攻撃の方が効果的だ。

今はまだ魔獣ヒュドラは沈黙したまま。

スピカの効果も聞いている。

私はすぐさま次の指示を出した。


「ルーン、チャクラでガルド達の身体能力を上げてくれ!」

「チャクラですね」


ルーン達プリ―スト2000名はチャクラの詠唱に入る。

同時にエリザ達に指示を出す。


「エリザ、ドラゴンブレスで魔獣ヒュドラの動きを止めてくれ!」

「わかったわ」


エリザ達も魔法の詠唱に入った。

ドラゴンブレスで魔獣ヒュドラを凍らせてから爆裂剣を放てば温度差で破壊力が増すはずだ。

チャクラで身体能力を上げれば、さらにダメージを与えることが出来るだろう。

ルーン達は詠唱を終えてチャクラをガルド達にかける。


「「神樹より生まれし果実、緋色の甘き雫となりて、かの者に力を与えん『チャクラ!』」」


ガルド達の周りに光の粒子が集まると吸い込まれるように体の中に溶けて行く。

そして光り輝きながらガルド達の神経に働きかけた。


「う、うおぉぉぉ。来たー!」


ガルド達は湧き上がるエネルギーに興奮をはじめる。

これで攻撃の準備は整った。

後はエリザ達のドラゴンブレスだけ。

すぐにエリザ達も詠唱を終えて1×2000倍のドラゴンブレスを放つ。


「「古より戻りし蒼き龍、時の川を遡りて、空間の海を渡る、その力で永遠の約束を『ドラゴンブレス!』」」


魔獣ヒュドラの頭上に黒い雲が立ち込めて来と雲の切れ間から蒼いドラゴンが顔を出す。

同時に全てを凍てつかせる冷気を放ち一瞬で魔獣ヒュドラを氷像と化した。


「よし、ガルド。100連爆裂剣をぶち込め!」

「来た来た来た!行くぜ『100連爆裂剣!』」


ガルドは魔獣ヒュドラの首を目掛けて爆裂剣を放つ。

すると、氷が激しく砕けて肉片と共に斬撃の痕を作った。

そこへレイム達騎士団の爆裂剣がリズムよく炸裂して行く。

チャクラの効果のおかげで先ほどよりも斬撃は深く切り込んでいる。

爆裂剣が100連を迎える頃になると3分の1ほど深く抉れていた。


「効いている、効いている」


続いて、プリシア達弓部隊が一斉に酸倍弾を放った。


「みんな一か所を狙うのよ!溶けちゃえ『酸倍弾!』」


プリシアの酸倍弾を筆頭に弓部隊の酸倍弾をつけた矢が魔獣ヒュドラを捉える。

着弾と同時に爆発すると酸をまき散らせながら氷を破壊して行く。

それは狙い通り一か所に集中し、部分的に溶かした。


「次いでラクレスだ!」


ルーン達プリ―ストはラクレス達にチャクラをかける。

そしてラクレス達もガルド達がつけた傷跡を狙って奥義を放った。


「今度こそ仕留める!奥義『次元裂波!』」


チャクラの効果でラクレスの槍先に渦巻く覇気の勢いも増して大きな渦となる。

そして魔獣ヒュドラに突き立てると肉片を抉りながら深く突き刺さって行った。

それに続いて槍部隊達が次々と水渦衝を放つ。

ラクレス達の追撃によって魔獣ヒュドラの首のひとつを落とすことに成功した。


「やるじゃないか、ラクレス!」

「まだ、頭をひとつ落としたに過ぎない。気を抜くな、ガルドよ」

「わかってるぜ。けど、これを繰り返して行けば全部の頭を狩れるはずだ。そうだろう、タクト?」

「もちろんだ。魔獣ヒュドラの頭を狩って消滅させるぞ!」


すると、魔獣ヒュドラのスピカ効果が切れて再び動き出す。

体を覆っていた氷もすべて砕き、その姿を現した。


「魔獣ヒュドラが目覚めた。体制を立て直せ!」


ガルド達は再び漣の隊列を組み直す。

再びプロテクションを展開させて魔獣ヒュドラの攻撃を防ぐことからやり直しだ。

プロテクションを展開しつつ攻撃圏内まで近づく。

そこへ耐性を無効化させるスピカを放ち、天空の雷で麻痺させる。

そうしたらチャクラでガルド達の身体能力を上げ、ドラゴンブレスで凍らせる。

とどめはガルド達の100連爆裂剣だ。

この攻撃パターンを繰り返して行けば魔獣ヒュドラの首を狩れることが出来るだろう。

そうしたら私達の勝利だ。

すると、魔獣ヒュドラの目が真っ赤に光り出し悶えはじめた。


「何だ?」


魔獣ヒュドラはエネルギーを一点に集中させるように体をよじる。

そして次の瞬間、捥げた首から新しい首が生えて来た。


「再生させただと!」

「そんなのありかよ。せっかくやっとのことで首をひとつ落としたのによ」


ガルドの不満も最もだ。

やっとの思いで首をひとつ落としたのだ。

魔獣ヒュドラには苦戦を強いられている。

魔獣キマイラ戦の比ではない。

高粒子砲でもあればもっと楽に勝てたのだが。





落胆はアルタイル軍も同じであった。

魔獣ヒュドラの首を落とした時は歓声に包まれていたのだが。

それが一瞬で絶望へと変わる。

魔獣ヒュドラが再生したことで戦況は振り出しに戻ってしまった。

一方でアルタイル軍のダメージは計り知れない。

第三部隊が到着したことで兵力は2万5000になったが、魔獣ヒュドラとの戦闘で5000名も犠牲になってしまった。

回復を任せられている補給部隊では対応できないほど犠牲者が多いのだ。


「グラン様、これ以上戦いを続ければもっと多くの犠牲者が出ます。撤退の指示を」

「何を言うのだ!貴様はそれでもアルタイル王国の兵士か!グルンベルグ軍は戦っているのだぞ!」

「しかし、再生できる魔獣ヒュドラにどう対抗するのです?」


それはグランが一番よく理解していた。

アルタイル軍は数が多いとはいえグルンベルグ軍のように優秀な策士がいない。

なので戦術もグルンベルグ軍を真似るしかない。

しかし、部隊の構成も技量もグルンベルグ軍に劣っているので真似ても同じにならないのだ。

いっそうのことこのままグルンベルグ軍に合流して策士の指揮下に入るのがいいのだろうが。

それではアルタイル王国の面目が立たなくなる。

アルタイル軍を指揮している者として最後まで投げ出すことは出来ないのだ。


「魔術師部隊をメインにしつつプリ―スト部隊で支援を。銃撃手部隊は後方支援をしつつ騎士団を先行させろ!」


この戦術でどこまで食い下がれるのかはわからない。

だが、グルンベルグ軍が戦っている以上、アルタイル軍は引けないのだ。

白旗を上げる勇気があるのならば魔獣ヒュドラに立ち向かうべき。

それこそがアルタイル軍の誇りなのだ。





そこへ遅れて到着したヴェズベルト軍が姿を現す。

部隊は騎馬隊3000、騎士団1000、魔術師4000、プリ―スト2000の構成。

マリア―ヌは騎馬に跨りながらヴェズベルト国旗をなびかせて宣誓をする。


「我らはヴェズベルト王国の騎士なり!アトス国王の要請を受けて参った!貴公の戦いに尽力をしよう!」

「それな何より心強いことだ!我らと共に魔獣ヒュドラを討伐しよう!」


マリア―ヌの宣誓にグランが笑みを浮かべながら応えた。

マリア―ヌは東側に部隊を展開していたグルンベルグ国旗を見やる。


「タクト達も来ていたのか。それは心強いことだ。よし、皆の者、我らは西側から進撃を開始する!」


マリア―ヌの合図でヴェズベルト軍は魔窟の西側に移動する。

そして部隊を櫓の陣形に組み直させる。

最前列に騎馬隊1000名ずつの3つを山形に配置。

そのすぐ後ろに騎士団1000名を配置。

魔術師部隊は1000名ずつ四方に配置し、両脇を埋めるようにプリ―スト部隊1000名ずつを配置する。

これで中央にいるプリムの護衛は完璧となる。

マリア―ヌは最前列で騎馬隊を指揮する。

プリムの護衛はエミリアに任せてある。


「これで魔獣ヒュドラの包囲網は出来た。東にグルンベルグ軍、南にアルタイル軍、西にヴェズベルト軍と。後はどう戦術を立てるかだけだ」


マリア―ヌはタクト達と共に旅を続けて来たことで戦術を身に着けた。

タクトまでとは及ばないが、それでも部隊を勝利に導くだけの戦術は立てられる。

マリア―ヌはタクトが立てそうな戦術を予想しながら戦術を組み立てる。

まず、策士タクトならば魔獣ヒュドラの動きを止める一手を討つはずだ。

ならばこちらはその次のパターンを予想して攻撃を仕掛けることが有効だ。

魔術師達を攻撃範囲内まで進軍させて最上級魔法を放たせる。

同時にプリ―スト達にプロテクションを展開させてプリム様の護衛を行いつつ進軍させる。

プリム様の攻撃圏内まで近づいたら聖女の力を発動させる。

そうすれば魔獣ヒュドラは身動きがとれなくなるだろう。

そうしたら騎馬隊と騎士団が総攻撃を仕掛ける。

これでイケるはずだ。


「まずはグルンベルグ軍が仕掛けたら攻撃を開始する!」


マリア―ヌが指示を出すとヴェズベルト軍はその場で待機した。





その様子を見ていたガルド達は歓声の声を上げる。


「ヴェズベルト軍まで来たのかよ。これなら楽勝で勝てるぜ」

「プリムがいるんだから百人力ね」

「それにしてもプリムさんを戦場に投入するなんて」

「それだけヴェズベルト王国も危機感を抱いているのよ」


ここに来てプリムの投入は何よりも心強い。

あの幻獣麒麟の動きを封じこめるぐらいの力を持っているのだ。

聖女の力は魔獣ヒュドラにも有効だろう。

とするならばヴェズベルト軍がどう戦術を展開して来るかだな。

指揮をとっているのはマリア―ヌ。

ならば、いきなりプリムを投入して来ることはないだろう。

マリア―ヌは何よりもプリムの身の安全を確保することを優先させて来た。

だから、危険な真似はさせないはずだ。

となれば、こちらの動きを見てから攻撃を展開するはず。

マリア―ヌとのこれまでの戦いの中で見せて来たこと。

それはまず魔獣ヒュドラの動きを封じることだ。

ならば、まずルーン達にプロテクションを展開させてエリザ達を攻撃圏内まで移動させる。

そこへエリザ達に天空の雷を放たせ魔獣ヒュドラを沈黙させる。

そうすればマリア―ヌ達も攻撃を開始するはずだ。


マリア―ヌ達の部隊構成を見ればプリムを主力であることは間違いない。

その次に魔術師部隊と騎馬隊がメインとなる。

騎士団とプリ―スト部隊はプリムの護衛がメインだろう。

それを考慮して考えるとマリア―ヌ達は魔獣ヒュドラが動きを止めた後、魔術師部隊で攻撃をさせる。

そして騎馬隊で総攻撃を仕掛けるはずだ。

しかし、マリア―ヌ達が手練れとは言えチャクラをかけていない状態で攻撃してもたかが知れているだろう。

だから、マリア―ヌ達にチャクラをかける要員が別で必要になる。

それを任せられるのはアルタイル軍のプリ―スト部隊だ。

あいにくアルタイル軍は第三部隊が合流したことで総勢2万の兵力となっている。

部隊構成は騎士団が5000名、銃撃隊が4000名、魔術師部隊が5000名、プリ―スト部隊が6000名。

その内の2000名ほどのプリ―スト部隊をマリア―ヌ達の支援役に回せれば問題は解決できる。

私はすぐさま使者を呼びつけアルタイル軍を指揮しているグランまで伝令を伝えさせた。

グランからの返事はOKだと言うことでアルタイル軍のプリ―スト部隊2000名がヴェズべルト軍の支援に向かった。


後はアルタイル軍の戦術だ。

これまでの戦い方を見ていてもアルタイル軍の中に戦術に長けた者はいないのだろう。

その証拠にこれまで5000名ほどの犠牲者が出ている。

それは撤退を考えるほどの惨事だ。

アルタイル軍の部隊構成から見れば主力は騎士団と魔術師部隊になる。

プリ―スト部隊が一番人数が多いのだが支援と回復がメインになるだろう。

その上で戦術を立てるとなれば……。

まずはヴェズベルト軍と同じで私達グルンベルグ軍が魔獣ヒュドラの動きを止めてから部隊を展開させるのが打倒だろう。

ならばプリ―スト部隊2000名にスピカの魔法をかけさせ魔獣ヒュドラの耐性を無効化する。

そこへ魔術師5000名を投入して最上級魔法を放たせる。

魔法はエクスプロードでも天空の雷でも何でもいい。

付加効果のついた魔法は戦い慣れているエリザ達任せるから十分だ。

そしてプリ―スト部隊2000名達で騎士団にチャクラをかけさせる。

チャクラで身体能力が上がった騎士団で総攻撃を仕掛けさせるのだ。

それでもチャクラは随時かけ続けなければならない。

残るは銃撃隊だが、こちらは支援攻撃に特化させる。

魔獣ヒュドラの装甲は貫けないから目を狙って攻撃を仕掛けるのだ。

弓と違って直線で飛んで行く銃の弾丸ならば効率的に攻撃出来るはずだ。

4000名もいれば魔獣ヒュドラの目を全て潰せるだろう。

私は戦術を記した文章をグランの所まで使者に届けさせた。





タクトからの戦術を受け取ったグランはニンマリと笑みを浮かべる。

それは思ってもいなかったことだからだ。

まさか、グルンベルグ軍の策士がアルタイル軍のために戦術を書き下ろすなど考えもしなかった。

その一方で自分の統率力のなさを呪う。

これまで出してしまった5000名の犠牲者も全てグランの技量のなさからなのだ。

この戦術はそのまま受け入れてもいいのだろうか。

グランは一瞬迷う。

しかし、これもそれもすべては魔獣ヒュドラを討伐するためのものなのだ。

アルタイル軍の第一騎士団長としてのプライドが邪魔をするが、グランは素直に受け入れた。


伝令書の中には戦術だけでなく陣形もかかれてある。

間接攻撃がメインのアルタイル軍にあわせた陣形だ。

前面に騎士団1000名ずつを5部隊配置。

そのすぐ後ろに魔術師1000名ずつを5部隊配置。

両サイドに銃撃隊1000名ずつを4部隊配置。

最後部にプリ―スト部隊1000名ずつを4部隊配置する三傘の構えの変形版だ。

説明によれば前面攻撃に特化した陣形だと言う。


「さすがはグルンベルグ軍の策士。戦術に無駄がない」


この戦術通りにすれば魔獣ヒュドラを討伐出来るだろう。

何せアルタイル軍、グルンベルグ軍、ヴェズベルト軍が揃っているのだ。

魔獣ヒュドラが強力だと言えども引けをとらないだろう。

これで勝機も見えたものだ。

グランは各部隊長を集めて作戦を伝える。


「この戦術はグラン様が立てたものですか?」

「いや、違う。だが、この通りにすれば間違いなく勝利出来るはずだ」


グランもタダでは起きない。

この戦いを通して戦術を身につけるべきだと考えていた。

アルタイル軍の弱点は戦術を立てられないこと。

いくら新兵器を開発出来ても、それをうまく使える戦術がなければ無駄に終わってしまう。

鉄壁のアルタイル軍を復活させるためにも戦術は必要なのだ。

すべてはアルタイル軍の軍事力を高めるため。

そして何よりアルタイル王国のために。


「よし、お前達、気合を入れて行け!」


グランの掛け声で士気を高める各部隊長。

部隊に戻ってからもグランの言葉を伝えて部隊の士気を高めた。

戦術を手に入れたことでアルタイル軍に怖いものはなかった。

それはグランだけでなく兵士達も同じだった。

戦いの準備は整った。

後は戦術通りグルンベルグ軍が仕掛けるのを待つだけ。

グラン達は三傘の構えに陣形を組み直すと戦闘開始の合図を待った。


次の投稿は月曜日になります。


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