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161「支援要請」

魔獣ヒュドラが目覚めてからすぐ、アルタイル王都は限界態勢が敷かれた。

王都の門は高く閉ざされて何人たりとも出入り出来ない処置が施される。

全ての民衆達がアルタイル城に逃げ込ればいいのだが、あまりの人の多さに断念。

その代り王都の防壁の周りにはアルタイル軍の兵士が配備された。

その数、2万。

今持っているアルタイル軍の兵力は全部で5万。

その半分弱を占める兵士が王都を守っているのだ。

しかし、それでも民衆達の不安は拭えない。

何せアルタイル王都から50キロメートル北へ行った先では魔獣ヒュドラとアルタイル軍1万が戦闘しているのだ。


「戦況はどうだ?」

「アルタイル軍の第一部隊が魔獣ヒュドラと交戦中ですが多数の犠牲者が出ている模様。時間をかければかけるほど我々が不利になります」


アトスは自分の手はずの遅さに憂いていた。

もっと早く算段をとれていれば、こんなにも不利な状況になることはなかった。

あの魔窟での地震は魔獣ヒュドラが目覚める兆候だったのだ。

それはもっと早い段階で予想は出来ていた。

しかし、確信と呼べるものが他になかったので調査を優先したのだ。

その判断が謝りであったことに今気づく。

調査に向かったグランは戻らず仕舞い。

恐らく魔獣ヒュドラに殲滅させられてしまったのだろう。

右腕のグランがいなくなった損失は大きい。

過激派時代から共にして来た仲間だ。

マクミニエル政権の打倒時には身を粉にして働いてくれた。

そのおかげでこうして政権をとるまでに至ったのだ。

今さら後悔しても遅いがグランがいなくなった分まで負わなければならない。


「新兵器の六連式機関砲を準備させろ!第二部隊に所持をさせて魔獣ヒュドラ討伐に向かわせるんだ!」


密かにドワーフ達に開発させていた六連式機関砲は銃を六丁つなげた機関砲だ。

弾の装填は自動で出来てかつ、一度に六連射出来る汎用性の高い銃に仕上げた。

先のアルタイル城攻略戦で銃は活躍したのだが命中性は劣っていた。

ただの銃だと撃ち手の技量が何よりも重要視される。

寸分の狂いで弾の軌道が逸れて外れる恐れがあるからだ。

過激派の面々はそれなりに銃を使いこなしていたが精度を上げる必要性があったのだ。

ドワーフ達はアトスの注文通りの武器を仕上げてくれた。


「新兵器を持ってすれば魔獣ヒュドラの進撃を止められるかもしれない。しかし、油断は禁物だ」


アルタイル軍は設立して間もない。

戦力もマクミニエル政権時の7万から5万に減少している。

そのことも考慮して作戦を立てなければならない。

今、王都の防衛に2万裂いている。

魔獣ヒュドラと交戦中なのが第一部隊の1万名。

応援に向かわせる第二部隊が1万名。

残りの1万名は補給と救護に回らせる。

それで全ての兵が手一杯になってしまう。

もし、第一部隊が全滅でもしたら魔獣ヒュドラの進撃を止められなくなる。

アルタイル王都まで辿り着かれれば間違いなくアルタイル城は陥落してしまうだろう。

そうなればもっと多くの犠牲者が出る。

やはりグルンベルグ王国とヴェズベルト王国に救援を頼むのが吉か。


「使者を寄こせ。グルンベルグ王国とヴェズベルト王国に走らせて支援を頼むのだ」

「しかし、そんなことをすればアルタイル王国の面目が……」

「そんなことを言っている場合か!アルタイル王国は滅亡の危機に晒されているのだぞ」


アトスの叱責に傍付きの騎士は顔をしかめる。

今は何よりも魔獣ヒュドラの進撃を止めることが最優先だ。

あいにくグルンベルグ王国はあの魔獣キマイラを消滅させた実績がある。

その力を持って魔獣ヒュドラを止めてくれれば、なお心強いと言うもの。

それにヴェズベルト王国の聖女の力も見逃せない。

噂に聞いたところによれば魔獣ポセイドンの動きを封じこめたとか。

いずれにせよ両国からの支援はこの上ない力となるであろう。


「間に合ってくれ。間に合ってくれよ」


アトスは足を震わせながら祈るように小さく呟いた。





魔獣ヒュドラが目覚めたことはアラジンに都合がいい。

何せブラッド・ウォーの再来を望んでいるアラジンからしたら魔獣など邪魔な存在でしかないのだ。

アラジンはニックス国王に進言しアルタイル王国への派兵を提案した。

それは今後のサンドリア王国と他国との関係にも影響を与える事柄だ。

故に大臣達からの反論の声は上がったがニックス国王の命として承認させた。

アルタイル王国に派兵する軍隊は1万程度。

残りの2万はサンドリア王国の防衛にあたらせる。

進行ルートは対立関係にないグルンベルグ王国を経由する形になる。

アラジンはすぐに派兵の準備をさせるとサンドリア王国を旅立った。


「これでアルタイル王国に貸しを作れる」


アルタイル王国にはドワーフ達の技術がある。

軍事力の過小なサンドリア王国には手が伸びるほど欲しいものだ。

戦後はドワーフ達の技術提供を受ける締結をする予定だ。

サンドリア王国とアルタイル王国は隣接している。

しかし、高い山脈が国境を隔てているので人の行き来は出来ない。

そのため地理的な要因から軍事協力も結び易い関係なのだ。


「後はアルタイル軍がどこまで持つかが問題だな」


ドワーフの高い技術を持っていると言っても扱う人間の質に問題がある。

前マクミニエル政権が打倒されたことでアルタイル軍の戦力は大幅に減った。

しかも、今のアルタイル軍の母体は過激派が大半だと言いう。

ろくすっぽ訓練もして来なかった軍隊ではたかが知れていると言うもの。

おまけに魔獣ヒュドラが相手だ。

今のアルタイル軍では魔獣ヒュドラを止めることすら難しいだろう。

新兵器の開発にも余念がなかったようだが、それもどこまで効果が見込めるか。

残りの手段はグルンベルグ王国とヴェズベルト王国に支援を頼むことだな。

まあ、両国にとっても隣国の一大事をほってはおけないだろう。

もし、魔獣ヒュドラを見逃したら今度は自分達の所に火の粉が降りかかるようなものだ。

それにその後のアルタイル王国との関係にも影響して来る。

なのでグルンベルグ王国もヴェズベルト王国も支援をするだろう。


「アラジン様、グルンベルグ王国の国境です」


見るとグルンベルグ王国の警備兵が睨みをきかせて待ち構えていた。

アラジンは警備兵の前に近づいて行くと宣誓をする。


「我はサンドリア王国の参謀アラジン。此度はアルタイル王国への支援のためここを通らせてもらう」

「ダゼル国王様からは何も聞いていない。ここを通す訳には行かない」


所詮、いっかいの警備兵などそのようなものか。

隣国の危機など微塵も知らないようだ。

まったく呑気なものである。

アラジンは馬から降りて警備兵にニックス国王のサインの入った伝令書を見せる。


「今、アルタイル王国は魔獣ヒュドラの危機に陥っている。我らサンドリア王国は人道的支援のためアルタイル王国を目指している。ここを通してもらいたい」


それを見たグルンベルグ王国の警備兵達は集まって話し合いをはじめた。

そしてしばしの話し合いの後、警備兵達は国境のゲートを開ける。


「事情はわかった。人道的な目的ならば仕方がない。しかし、グルンベルグ王国内では武力の行使は行うなよ」


端からそのような暴挙はしない。

サンドリア王国も舐められたものだ。

まあ、これまでのブレックス政権が暴挙を振り撒いて来たのだから仕方がないが。

アラジン達サンドリア軍は速やかに国境を超えるとアルタイル王国を目指した。





時を同じくしてグルンベルグ城にもアトスからの伝令書が届いた。

ダゼル国王は要人達を緊急招集し会議をはじめる。

もちろんその席に私達も呼ばれた。


「此度、アルタイル王国のアトス国王から緊急支援の要請が入った」

「緊急支援って?」

「アルタイル王国に魔獣ヒュドラが現れたようだ。今、アルタイル軍が交戦中とのことだ」

「魔獣ヒュドラだって!」


ガルド達は目を見開いて驚きの表情を浮かべる。

それは会議に集まっていた大臣達も同じだったようでみんな青い顔をしていた。


「ラクレス、私達の使った高粒子砲に反応したと見るべきなのか?」

「そう見て間違いないだろう。それに魔獣キマイラが消滅したことも関係していると思われる」


ラクレスは平然な顔を浮かべながら淡々と語る。


「また魔獣かよ。ツイていないな」

「しかし、このまま放置してもおけませんわ」

「そうだな。アルタイル王国は隣国だ。私達は同士として立ち上がらなければならない。それにアルタイル王国にはダウスをはじめとしたドワーフ達もいるんだ。無視は出来ない」

「そう言うと思っていたよ。策士タクトよ、アルタイル王国へ向かうぞ」


会議は満場一致でアルタイル王国の要請を受けることに決まった。

さっそくラクレスはアルタイル王国へ派兵するメンバーの構成を考える。

私達はログ達の所へ向かい高粒子砲と移動式大砲の搬出の準備にとりかかる。

しかし、高粒子砲も移動式大砲も製作途中の段階で持ち出せる状況にはなかった。


「おい、高粒子砲も移動式大砲もなしかよ。どうするんだ。こんなので魔獣ヒュドラに対抗できるのか?」

「仕方ないだろう。まだエネルギーが安定しないんだ」

「移動式大砲はどうなの?」

「試作機は出来ていますが量産体制には至っていません」


ログは顔を曇らせて申し訳なさそうにする。


「ログ達は頑張ってくれているよ。それは私が保証する。今回は仕方ないが高粒子砲と移動式大砲はなしで行く。だけど、ログ達も開発の手は緩めないでくれよ」

「タクトさんの期待に沿えるように努力します」


私がログ達の頑張りを労うとログ達の緊張が解けた。

その足で会議室に戻りラクレスと調整を済ませる。

ラクレスが構成したメンバーは騎士団3000名と槍部隊3000名の近接戦闘要員6000名。

それに弓部隊2000名、魔術師2000名、プリ―スト2000名の間接戦闘員6000名の合わせて1万2000名だ。

魔獣キマイラ戦と同じだけの兵力を揃えていた。

今回は砲撃手はいないが、その分魔術師達を増やして対応している。


「以上が今回の派兵部隊の構成だ。何か意見のある者はいるか?」

「ちょっと少な過ぎやしないか?今回は高粒子砲も移動式大砲もないんだぞ」

「その代りアルタイル軍がいるから問題はないだろう」


恐らくアルタイル軍も同じだけの兵力を投入しているはずだ。

どのような構成なのかまではわからないが、新兵器も持ち込んでいるはず。

アルタイル城攻略戦で見せた銃と言う武器を使っていると予想できる。

対人戦では力を発揮しそうだったが、魔獣ヒュドラ相手にどこまでやれるかが課題だろう。


「それで戦術はどうするつもり?魔獣キマイラ戦の時のように罠にはかけられないのよ」


問題はそこだ。

魔獣キマイラ戦では地形をうまく使い有利に戦闘を進めることが出来た。

しかし、今回はアルタイル王都近くの魔窟での戦闘になることが予想される。

魔窟近くは広大な盆地になっていて地形をうまく使うことは出来ない。

なのでそのままの戦力をぶつけることになる。

そこで求められるのが陣形だ。

陣形をどう組むかによって戦闘の対応がわかって来る。

あいにく私は陰派の策士ではないので陣形に詳しくないがラクレス達よりは精通している。

なので陣形を考えることにする。


テーブルに広げられたアルタイル王国の地図を眺める。

魔窟はちょうどアルタイル王都から50キロメートル離れた所にある。

私達が攻め込むのは魔窟の東側からになる。

アルタイル軍は王都側に部隊を展開していることを考慮すると魔獣ヒュドラの側面をつくことになる形だ。

ならば漣の陣形が打倒だろうか。

漣の陣形とはその名の通り2部隊と4部隊の隊列を並べる陣形だ。

最前列は2部隊。

第二裂は4部隊。

第三列は2部隊。

最終列は4部隊と言った配置だ。

この陣形の最大の特徴は波状攻撃が仕掛けられることだ。

攻撃を仕掛けた部隊は両サイドに分かれて最終列まで後退する。

入れ替わるように次の部隊が攻撃をしかけて両サイドに分かれる。

それを永遠と繰り返せる陣形となっている。

ちなみに第二列と最終列の両脇の4部隊は移動しない。

ここにはプリ―スト部隊や魔術師部隊をを配置するのが打倒だ。

そう考えると1部隊1000名の構成にするのがバランスがいい。

最前列は騎士団1000名ずつの2部隊を。

第二列は両脇に魔術師1000名の部隊を2つ。

その内側に騎士団と弓部隊の混成部隊を1000名ずつ2部隊を。

第三列は槍部隊1000名ずつの2部隊を。

最終列は両脇にプリ―スト1000名部隊を2つ。

その内側に槍部隊と弓部隊の混成部隊を1000名ずつ2部隊を配置する。

これで対応できるはずだ。


魔獣ヒュドラも魔獣キマイラと同じで堅牢な装甲と耐性を持っていることが予想される。

ならばアシットレインやスピカが効果的に働くはずだ。

それにプロテクションやチャクラなどの支援魔法も大いに役に立つだろう。

そこへ付加効果のついた最上級魔法をぶち込めば大ダメージは期待できる。

波状攻撃を仕掛けてジワジワと戦力を削ぎ落して行くことが有効だ。

ちなみに火力の弱い弓部隊には酸倍弾などの爆弾を備えた矢を用意してある。

なので魔獣キマイラ戦の時よりも活躍出来るだろう。

私はラクレス達に頭の中で組み立てた戦術を伝えた。


「さすがは策士タクトだ。これで魔獣ヒュドラに後れを取ることもないだろう。よし、準備ができ次第出発をする!」


私達は速やかに準備を済ませてグルンベルグ城を後にした。





アトス政権からの伝令書はアンナ女王の元へも届いていた。

アンナ女王はマリア―ヌ達を招集し派兵の会合を設ける。

集まった要人は各騎士団長だけに限定していた。

それは既にアンナ女王の中で答えが決まっていたからだ。

事実上この会合は派兵するための作戦会議となっていた。


「アルタイル王国への派兵は我が国も応じることに決めました。今や世界は魔獣の脅威に晒されています。しかし、グルンベルグ王国が希望の光を灯してくれました。魔獣は人間の力でも殲滅出来るのです」

「では、リムル様も同行させるつもりなのでしょうか?」

「無論、プリムにも働いてもらいます。聖女の力は我が国に伝わる神聖な力なのです。聖女の力で魔獣ヒュドラを退けるのです」


アンナ女王の力強い訴えに集まった騎士団長は同意の意を示す。

誰も反対者を出すことなく満場一致で会議は終結した。

この会議はある意味茶番であったと言える。

アンナ女王がこの会議に各大臣達を招集しなかったのも反対者が出るからだ。

騎士団長達と違って大臣達は政治的な視点から発言をする。

アルタイル王国の要求に応じて貸しを作ることも大事なのだが、それよりも民衆達の声が大事だ。

戦争となれば民衆達も他人ごとではいられない。

日常の平穏が非日常の不安に置き換わり苦しい生活を強いられる。

税金は間違いなく上がるだろうし、食料や鉄の没収もはじまる。

戦争に勝つために少なくとも民衆達が犠牲になるのだ。


「アンナ女王様、プリム様への報告はいかがいたしましょう?」

「それは私がするわ。私の言葉ならプリムも無下に反対することもないでしょう」


アンナ女王は会議と終結させるとプリムの部屋へ向かった。

プリムはテラスで夜空の星を眺めながら風に吹かれていた。

アンナ女王はプリムの部屋の扉をノックして中に入る。

そして神妙な面持ちでプリムの所へ近づいて行った。


「プリム、お話があります」

「それなら、もう知っている。アルタイル王国に行くのよね?」


プリムの想いもかけない返事に驚くアンナ女王。

何でもプリムに事情を聴いて見れば魔獣の存在を感じ取っていたのだと言う。

魔獣ポセイドンが目覚めた時も、魔獣キマイラが目覚めた時も心の中にモヤモヤができて苦しかったらしい。

聖女と言う特別な力を持っているプリムだからこそ感じ取れたことなのだろう。

アンナ女王は改めてことの重さを実感した。


「プリムは怖くないのですか?」

「怖いけど、私がやらなくては多くの人が犠牲になる。そんなことは無視出来ないもの」


プリムはアンナ女王の胸に抱き着く。

その小さな方は小刻みに震えていた。

もし、アンナ女王が変わってやれるのならば変わってやりたい。

だけど、レイチェルの血を引くプリムだからこそ出来ることもあるのだ。

アンナ女王はそっとプリムを抱きしめて、そして耳元で囁いた。


「この戦いが終わったらマネチェの村へ帰りましょう。プリムのお母さんと一緒に過ごすのです」

「いいの?」

「もちろん」

「ありがとう」


プリムは目に一杯涙を浮かべて感謝の言葉を告げた。

その笑顔にアンナ女王の胸が締め付けられる思いがしたのだった。


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