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16「雪の降る街サミトス」

北東のサミトスの街へは馬車で一週間。

人里離れた街道には真っ白な雪が積もっていた。

息を切らせて馬車を引く、馬の息も白い。

はじめて見る雪に、プリシアはひとり興奮していた。


「タクト、あの白いのが雪?」

「そうだ。触るととっても冷たいんだぞ」


空から舞い落ちて来る雪を掴みながら、プリシアははしゃいでいた。


「雪なんて久しぶりね。子供の頃、以来かしら」

「エリザは雪を知っているのか?」

「子供の頃、両親と旅に出掛けた時に見ただけよ」


馬車の背にもたれながらエリザは寂しそうに遠くを見やって答えた。


「お客さん、そろそろサミトスの街ですぜ」

「わかった。みんな降りる準備をしろ」

「おや?あの煙は何だ?」


馬車の運転手がおでこに手をあてて街の方を見やる。

すると、灰色の煙がモクモクと空へ立ち上っていた。


「これは酷い・・・。東側の城壁が破られ街の中央まで崩れ去っているじゃないか。雪崩でも襲って来たのか?」

「雪崩じゃないわ。雪がないもの」

「おそらく依頼書にあったモンスターの仕業だろう」


ギルドからもらった依頼書には”暴れ猿出現により街が脅威にさらされている”との内容だった。

暴れ猿と言えば、北東地方の寒い地域にしか生息していないモンスターだ。

小規模な群れで行動し、家畜や畑を襲っては食料を確保している。

群れには必ずボス猿がおり、群れを指揮しているのだ。


私達は馬車を降りるとゴーストタウン化しているサミトスの街の中を探索した。


「どの家も壊れていて、人の気配は全くないな」

「街の人達みんな殺されてしまったって言うこと?」

「それはないな。死体がどこにも見当たらない」


辺りを見回しながら不安げに呟くエリザに、私は街の様子からわかった見解を示した。


「では、街の人達はどこかに逃げたと言うことですね。安心しましたわ」

「そう見て間違いないだろう。おそらくこの街の近くにいるはずだ」


しかし、手がかりは残っていない。

辺りにあるのは逃げ纏ったであろう無数の人々の足跡。

縦横無尽に走っており、どの方向へ逃げたのかはわからない。

その形跡からはその時の混乱状況だけ読み取れた。


「タクト、これからどうするの?ここで待ち構えてモンスターと戦う?それとも街の人達を探す?」

「街の人達を探そう。街の人達から暴れ猿の情報を聞いて、それから作戦を立てる」


エリザの挙げた選択肢に私は決断を下す。

周りのみんなも納得した表情を見せた。


「あら、雪が降って来ましたわ」


ルーンの言葉に空を見上げると無数の雪がヒラヒラと舞い降りて来た。


「どうりで冷えると思ったぜ。タクト、街人の捜索は早めに澄ましてしまおう。でないと、こっちが凍えてしまう」

「そうだな、ガルド。とりあえず人が潜んでいそうな西側の森を探してみよう」


体をブルっと震わせながら催促して来るガルドに、同じリアクションをして私は告げた。



木々がなぎ倒されている東側の森とは違い、西側の木々は真っすぐ聳え立っている。

おそらく針葉樹だろうか、枝葉に雪を乗せていた。


「思っていたよりも雪が浅いな。これなら楽に歩ける」

「枝葉が傘代わりになっているのだろう。さっき降っていた雪も森の中には舞い降りて来てないし」


ガルドは大股で雪を踏みしめながら意気揚々と足を運ぶ。

その姿はまるで森に迷い込んだ雪男のよう。

後を歩いていたエリザ達はそれを見て小さくクスクスと笑っていた。


「話は変わるが、ガルド、剣術は強化して来たか?」

「もちろんよ。必殺技を習得して武器も強化して来た。抜かりはないぜ」


ガルドは大剣を掲げると得意気になって自慢して来る。


「暴れ猿との戦いは肉弾戦になりそうだから、ガルドの強化がカギを握っている。で、必殺技は何を習得したんだい?」

「もちろん紅蓮剣だ。あの炎を纏う所がカッコイイからな」


大剣を振り回しながら必殺技の型を見せるガルドの顔は嬉しさがにじみ出ていた。

死神との戦いではだいぶ苦労していたようだから、次の戦いは有利に進められそうだ。

それに寒い地域に住んでいる暴れ猿は炎にめっぽう弱い。

紅蓮剣ならば大ダメージを与えられるだろう。


そうこうしているうちに私達は森の奥深くまでやって来ていた。

すると、競り立つ壁際から白い煙が立ち込めていることにプリシアが気づいた。


「タクト、あれを見て!」


見れば人らしき姿もちらほら見て取れた。


「街の人達がいるぞ!生きていたんだ」


私達が荷物を掛け捨て駆け寄ると街の人達は驚いた表情を見せた。


「あなた達は?」

「私達はニーズの街からやって来た冒険者だ。ギルドで情報を聞いてな」


すると、洞窟の中からやって来た白髭の老人が、まるで神でも見るかのような目で言って来た。


「じゃあ、そなた達が死神からニーズの街を救ったと言う勇者様達かい?」

「そうだジイさん。俺達がその勇者だ」


ガルドは一歩前に競り出ると得意気に胸を張って見せた。

周りにいた街の人達の不安げな表情も一気にほころんだ。


「それで老人。いったい何があったんだ?」

「あれは忘れもしない十三日の夜。突然、東の山から暴れ猿が襲って来てな。まるで雪崩のように木々を踏み倒しながらやって来て、街を破壊して回ったんじゃ。離れで飼っていた家畜がやられてしまってな。ワシ達は命からがら逃げて来たんじゃ」


老人は目を細め思い出しながら語ると悔しそうに拳を握りしめた。


「街の人達は全員無事なのか?」

「ああ、ワシ達はみんな無事じゃ。暴れ猿は家畜だけを襲って行ったのじゃ」


街の人達が全員、無事だったことは不幸中の幸いだ。

しかし、暴れ猿が街を襲うなんて聞いたことがない。


「暴れ猿が行商人を襲うと言うことはよく聞くが、街を襲うなんてはじめてのことじゃないか。いったい何が背景にあるんだ」

「聞く所によれば、北東の山奥にが魔獣キマイラ現れたらしいと言うことじゃ」

「キマイラ⁉」


私は老人の発した言葉に耳を疑った。

魔獣キマイラと言えば、かつてこの世界を支配していたモンスターのひとつだ。

蛇と虎の顔を持っていて、火を吐き、毒を吐くと言われている。

この世界の覇権をかけた聖戦により、勇者達の手で追いやられたが、過疎の地域で生き残っていたようだ。


「キマイラが現れたと言うのは厄介な話だ。おそらく暴れ猿達も追いやられて街まで降りて来たのだろう」

「そんな近くにキマイラがいるなら街まで降りて来るかもしれないと言うことでしょうか?」

「その可能性も捨てきれないが、今のところは大丈夫だろう。キマイラは知性の高いモンスターだ。むやみやたらと街を襲うことはない」


私の言葉を受けて、ルーンはホッと胸を撫で下ろす。

今の私達では到底、キマイラに対抗する力は持っていない。

この事はダゼル国王の耳に入れておくのが一番だ。


私は紙に走り書きをすると、伝書鳩を空に放った。

伝書鳩は頭上を一周すると、グルンべルグ王国目指して飛んで行った。


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