159「再開発」
ブレックス国王の亡命はグルンベルグ王国でも話題になっていた。
ダゼル国王の計らいでブレックス国王は安全な施設に保護されている。
常時警備兵が警備をしているのでほぼ軟禁状態であるのだが。
たとえ亡命したとしても元サンドリア王国の国王と言う肩書はこれからもついて回る。
なので何かと命を狙われやすいのだ。
「ダゼル国王様、これでサンドリア王国は変わるでしょうか?」
「独裁政権は終わりを告げたが新国王はよわい12歳の子供だ。政権運営とまでは行かないだろう」
「噂ではアラジンが参謀役に就任したらしいようで」
「アラジンと言えば策略に長けた策士だ。サンドリア王国の実権はアラジンのが握っていると言っても過言でないだろう」
ダゼル国王は両手を組み顔を曇らせた。
アラジンは聖槍グングニルを手にしたばかりでなく、サンドリア王国の実権も握った。
これからアラジンが企んでいる策略に悩まされることになるだろう。
もしかしたらブレックス元国王の命を狙って来るかもしれない。
警備は厳重にしておいた方がよさそうだ。
「して、ラクレスよ。国民達の様子はどうだ?」
「国民達も一様にブレックス元国王の亡命には反応しています。ただ、これといったデモがないことが救いでしょうか」
歴史的に見てもグルンベルグ王国とサンドリア王国にはこれと言った対立はない。
ヴェズベルト王国への侵攻時にはグルンベルグ軍を派遣したが、到着前に終結していた。
交易も自由に行われているし、隣国と言うこともあり文化的にも似た部分もある。
国民同士の対立もなく比較的良好関係が築かれている。
だからブレックス元国王もグルンベルグ王国に亡命して来たのだ。
「左様か。しかし、これからのサンドリア王国との関係が問題だな。アラジンがどう出て来るか」
「今のところ目立った動きはしておりませんが、注意は必要でしょう」
「ラクレスよ、サンドリア王国に使者を派遣し、逐一アラジンンの動向を報告させよ」
「はっ」
ラクレスはダゼル国王に敬礼するとさっそく使者の派遣を手配した。
ログ達の工場には魔獣キマイラの鱗が運び込まれていた。
新たな武具と兵器の材料にするため試行錯誤が行われている。
しかし、魔獣キマイラの鱗は非常に硬くのこぎりですら敵わなかった。
「こいつは固いですね。のこぎりの刃がボロボロです」
「こんな面倒なものを持ち込んでくれて、どうするつもりだ」
「何かに使えるんじゃないかと思って持って来たのよ」
「持って来たって言ってもな。加工できないんじゃゴミと同じだ」
サイムは魔獣キマイラの鱗を見ながらぼやく。
積み上げられた魔獣キマイラの鱗は全部で10個ほど。
加工できれば残りの鱗も、いつでもとりに行くことが出来る。
しかし、ドワーフであるログ達もお手上げとは。
「何とかならないか」
「出来る限りのことはしてみます。けれど、うまく行くかはわかりません」
「頼むよ」
私はログの肩に手を当てて労を労った。
魔獣キマイラの鱗が武具や兵器になればこの上ない戦力アップに繋がる。
魔法や剣術を弾くだけの堅牢な鱗なのだ。
高粒子砲のエネルギーにも対応できるだろう。
「それで高粒子砲の状況はどうだったのですか?」
「高粒子砲は3発目で壊れてしまったよ」
「エネルギーに対応出来なかったのだろうな」
「魔鉱石を持ってしても対応出来なかったことは問題ですね。魔鉱石以上の固い鉱石はありませんから」
「だから魔獣キマイラの鱗があるんじゃない。魔獣キマイラの鱗は剣術も魔法も弾くのよ。高粒子砲の材料には適しているわ」
結局のところ最後はそこへ行きつく。
高粒子砲を再開発するにも魔獣キマイラの鱗を加工できなければ進まないようだ。
すると、プリシアが思わぬことを口にした。
「酸で溶かすってのはどお?」
「酸で溶かしても爛れるだけだよ。加工するなら炎で溶かさないと」
「そうか。いいアイデアだと思ったんだけどな」
炎で溶かすつもりなら高炉が必要になる。
この工場にある高炉は魔鉱石を溶かすだけのものでしかない。
魔獣キマイラの鱗を溶かすには、それ以上に温度を上げる必要がある。
ならば新たな高炉を造らなければならない。
「まずは高炉の準備だな」
「そうですね。今の高炉の火力じゃ足りませんから」
「しかし、温度を上げるにも限界があるぞ。石炭だけじゃそこまで上がらない」
石炭より火力があって温度を上げられるもの。
するとまたまたプリシアが思いもかけないことを口にする。
「なら、魔水晶と太陽石を使ってみたら?高粒子砲のエネルギーになるくらいだから大丈夫じゃない?」
「それはいいアイデアだ!魔水晶と太陽石を合わせれば高エネルギーを作り出せる」
「なら、さっそく準備に取り掛かりましょう」
ログ達はさっそく高炉を改造しはじめた。
魔水晶と太陽石をエネルギーに使えば新たな高炉の建設はしなくてもすむ。
私はエリザ達魔術師達に説明し、高炉のエネルギー注入時に立ち合えるよう調整を済ませた。
高炉の改造は一週間程度で終わった。
あとはエネルギーを注入するだけ。
まずは石炭を燃やし高炉の温度を上げる。
その後でエリザ達魔術師の出番だ。
サイムはどんどん高炉に石炭を入れて行く。
しばらくすると高炉内の温度は最高点に到達する。
「それじゃあ、お願いします」
「この太陽石に魔力を注ぎ込めばいいのね?」
「そうだ。高粒子砲を放った時の要領でな」
エリザと魔術師100名が集まり両手を翳して魔力を注入して行く。
すると、太陽石がオレンジ色に光り出し一筋の光を魔水晶に伸びる。
エネルギーを受けた魔水晶はどんどんエネルギーを蓄えて行く。
そして臨界点まで達するとエネルギーを高炉へ放出させた。
「その調子だ。どんどん温度が上がっているぞ」
「高炉は持ちそうですか?」
「大丈夫みたいですよ、ログ兄さん」
「それなら魔獣キマイラの鱗を入れてみよう」
私とプリシアとデルマトは高炉の中に魔獣キマイラの鱗を放り投げる。
しばらくすると魔獣キマイラの鱗は灼熱色に変わり高熱を蓄えて行った。
「溶けるかな?」
「うまく行くさ」
それにしても工場内は熱い。
魔鉱石で出来た高炉なので熱を放出しないはずだが、近づけないほど高温になっている。
魔力を注入しているエリザ達も汗まみれになっている。
もちろん高炉を調整しているログやサイムはもっと汗だくになっていた。
すると、高炉内に変化が現れる。
「おい、魔獣キマイラの鱗が溶けはじめたぞ」
「本当だ。溶けてる」
「やったな」
私はログと両手を合わせて喜びを分かち合う。
「それじゃあ、もっと魔力を注入してくれ。ドロドロになるまで熱を加えないと加工出来ない」
「もう、人使いが荒いんだから。この貸しは高くつくからね」
「わかってるよ、エリザ。だから頼むよ」
エリザはブツクサ文句を言いながらも魔力の注入を続けた。
これでようやく高粒子砲の再開発に着手できる。
まずは高粒子砲の砲身造りだ。
ログ達はドロドロになった魔獣キマイラの鱗を高粒子砲の砲身の型に流し込む。
そしてもう一方の型にも流し込んで形状を自然冷却をさせる。
水を流し込んで覚ます方法もあるが、それだとひび割れの原因になたりする。
なので、時間はかかるが自然冷却をさせるのだ。
「どれくらいで固まりそうだ?」
「そうですね。3日はかかるでしょう」
「3日か。それなら移動式大砲の砲身もいっしょに造ってしまおう」
私達は移動式大砲の型を準備して魔獣キマイラの鱗を流し込んだ。
5時間ほどかけて全ての作業が終了する。
造ったのは高粒子砲の砲身1門と移動式大砲の砲身10門。
とりあえず実験も行わなければならないので、これだけにしたのだ。
後は冷えて固まるのを待つだけ。
とりあえず解散をして3日後に集まることになった。
ガルドはグルンベルグ王都の教会でルーンを待っていた。
普段の格好とは違いきっちりと身なりを整えて。
手には赤いバラの花束まで用意している。
そしてポケットの中にはダイヤの指輪がケースに入っていた。
「ルーンのやつ、遅いな。何だか緊張して来たぜ」
ルーンが来る前に頭の中でシュミレーションしておこう。
ルーンが来たらバラの花束を渡す。
ルーンは花が好きだから喜んでくれるだろう。
そして告白だ。
なんて言えばいいだろうか。
「ルーン、俺と付き合ってくれ」
いいや違うな。
「ルーン、結婚しよう」
ちょっとストレート過ぎるかな。
「毎朝、ルーンの顔が見たい」
デヘへへ。
ガルドは妄想を膨らませて顔を真っ赤にさせる。
そこへルーンが静かに入って来た。
「ガルドさん、私に用って何ですか?」
「デヘへへ」
ガルドはひとり妄想に耽る。
「ガルドさん?」
「おっ、おう!ル、ルーン、来たのか!」
ルーンが覗き込むように顔を近づけて来たのでガルドは我に返った。
もしかして今の聞かれたのか?
ルーンはきょとんとした顔をしながら小首を傾げる。
いいや、聞こえてなかったようだ。
ガルドはほっと安心して胸を撫で下ろす。
「こんなところへ呼び出して何の用ですか?」
「ゴホン。んんっ、んんっ。きょ、きょっ」
あまりの緊張で声が裏返るガルド。
さっきから変な汗が噴き出して来て心臓もバクバクだ。
すると、状況を察したのかルーンが尋ねて来た。
「大事な話があるんですね」
「そ、そうだ。まずはこれを」
「わあ、バラですか。綺麗。ありがとうごさいます」
ガルドは大きく深呼吸をして準備を整える。
そしてポケットから指輪ケースを取り出し片膝をついて告白をする。
「ルーン、俺と結婚してくれ!」
「えっ!冗談はよしてください」
「俺は本気なんだ。ルーンとはじめて会った時からビビと来ていたんだ。だけど、その頃はルーンはクロースと付き合っていたから気持ちを隠していたんだ。だけど、今ならいいだろう」
ルーンは薄紅色に頬を染めて俯く。
そして暫しの間、沈黙が二人を包んだ。
すると、ルーンが顔を上げて静かに返事を告げる。
「ガルドさんの気持ちは嬉しいのですけれど、私にはやらなければならないことがあります。私は孤児で両親はおりません。教会に育てられて来ました。両親がいないので学校でイジメられもしました。けれど、神父様やシスターさんが幼い私を守ってくれたのです。教会は孤児にとって我が家です。世界には私と同じ孤児がたくさんいます。私は、そんな子供達を助けたいのです」
「そ、そうか……」
ガルドはガックリと肩を落として項垂れる。
最初からわかっていた。
ルーンが首を縦に振らないことは。
しかし、気持ちを伝えずに終わらせることはガルドには出来ないことだった。
だから勇気を振り絞って気持ちを伝えたのだ。
「ルーンの気持ちはわかったよ。でも、俺はルーンが好きだ。それは変わらない。だから、これからもよろしくな」
目頭がじわっと熱くなるのをぐっと堪えながらガルドは想いを伝える。
そして、ニコリと笑うと駆け出して教会を後にした。
どこをどう走って来ただろう。
ガルドはグルンベルグ王都の公園に辿り着いた。
公園の噴水の縁へドカリと腰を下ろす。
掌には渡せなかった指輪のケースがひとつ。
パカリと蓋を開けてダイヤの指輪の眺める。
ダイヤは太陽の光を浴びて悲し気に輝いていた。
こんな気持ちになるのははじめてだ。
やるせないと言うか割り切れないと言うか。
心の奥がやり場のない気持ちで大渋滞だ。
ルーンの目指していることは立派なことだ。
孤児を助けたいだなんて。
それに比べガルドは強くなることばかりだった。
毎日、レイム達を特訓に付き合わせて、陽が暮れるまで特訓をしていた。
「俺と住む世界が違うんだな、ルーンは……」
ガルドは目に涙を溜めながら藍色に染まりはじめた空を見上げた。
空はこんなに広くてきれいなのに俺ってやつは……。
ひとり想いに耽っているとドンと誰かがぶつかって来た。
「痛っ!」
振り向くとニヤニヤといやらしい顔をしたプリシアいた。
「ガルド、何をひとりで黄昏ているのよ。似合わない。そう言うのはね、タクトみたいなイケメンじゃないと似合わないものなのよ」
「うるせーやい。俺だって黄昏たい時があるんだよ」
「あれ?ガルド、涙を流していない?」
「そ、そんな訳あるか!」
ガルドは慌てて服で涙を拭う。
「それにしても、その格好、笑える。ガルドには似合わないよ」
プリシアはお腹を抱えながら爆笑する。
「俺だって、たまにはおしゃれをするんだ」
「で、どこへ行ってきたの?」
「どこでもないさ」
「怪しい……」
半目になったプリシアの視線がガルドに突き刺さる。
本当のことは言わない。
ルーンに告白をしたと言ったら馬鹿にされるだけだ。
”ガルドが告白?ウケる”とか言って。
すると、プリシアがガルドの手から指輪のケースをはぎ取った。
「何これ?」
「お、おい。それはっ!」
「指輪だ。綺麗」
「か、返せよ。それは俺のだ」
プリシアはニヤニヤしながらガルドにお願いする。
「これ、私にちょうだい。どうせ誰かに告白してフラれたんでしょ?」
全てお見通しか。
ちびっ子だと思っていたが女の勘は鋭いようだ。
まあ、ガルドが持っていても仕方ないものだしプリシアにあげてもいいかな。
「わかったよ。その代りうまい酒と交換だ」
「いいよ。んじゃあ、酒場へ行こう」
ガルドとプリシアはうまい酒を飲みに酒場へ向かった。
酒を浴びるほど飲んで今日のことを水に流すために。




