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158「亡命」

サンドリア城の一室でアラジンは酒を嗜んでいた。

テーブルに世界地図を広げチェスのポーンを魔獣がいる場所に置いてある。

アラジンはグルンベルグ王国に置いてあったポーンをとってチェス盤に戻す。


「魔獣キマイラの反応が消えた。これでグルンベルグ軍が勝利したことになったな」


これで人間にも魔獣が倒せることが証明された訳だ。

魔獣キマイラ消滅の話が世界中に広がれば各国は勢いづくだろう。

こぞって軍事力を強化させるはずだ。

ここまでは狙い通りにことが運んでくれた。

しかし、各国の注意が魔獣だけにそそがれるのはいただけない。

人間同士が争ってくれないと楽しみも減ると言うものだ。


「さて、次なる作戦は」


アラジンはアルタイル王国に置いてあるポーンを見ながら熟考に入る。

残りの魔獣はヒュドラとフェンリル。

魔獣キマイラの消滅を受けて目覚める可能性が高い。

しかし、今のアルタイル軍では魔獣と渡り合うのは難しいだろう。

出来たての国だし何より過激派で養った軍事力に頼りがちだ。

それではまともな戦闘は出来ない。

もし、アルタイル王国に魔獣が現れたとなったらアルタイル王国はグルンベルグ王国とヴェズベルト王国に支援を要求するだろう。

とりわけグルンベルグ王国は魔獣キマイラを消滅させたのだ。

その実績を買って要求も強くなるだろう。

グルンベルグ王国は移動式大砲と高粒子砲を。

ヴェズベルト王国は聖女と魔水晶を。

これだけの戦力が集まれば魔獣は消滅させられる。

だが、その前に示さなければならない。

我が亡霊軍団の強さを。

圧倒的な力を見せつけて策士タクト達の心を折るのだ。

そうすれば各国の注意を惹きつけられる。

各国は我々亡霊軍団を脅威と認識し排除しようとするはずだ。

さすれば戦争が起こる。

ブラッド・ウォーの再来だ。


「フフフ。面白くなりそうだ」


アラジンはグラスの酒を煽りながらニヤリと笑った。





その頃、クロードは大臣達の囲み込みに走り回っていた。

大臣達に金をチラつかせてこちらに引き込む。

金で応じない大臣達には処刑と言う罰を示して。

ほとんどの大臣達はブレックス国王側についた。

今やアラジン側についている大臣達はひとりもいない。


「ブレックス国王様、大臣達の買収が完了しました。これでアラジンは孤立します」

「そうか。では、次の会議でアラジンを吊るしあげるのだ。サンドリア軍を壊滅させたと言う罪を背負わせてな」


それなら十分にアラジンを問い詰めることが出来る。

サウスブルーから帰還した兵士達も証言者として召喚すれば。

アラジンとて証言者がいれば言い逃れは出来ないだろう。

アラジンはサウスブルーでサンドリア軍を消滅させたことは間違いない。

生き残りがいないので確かな情報だとは言えないが。

しかし、魔獣ポセイドン戦ではサンドリア軍を見捨てて帰還したのだ。

それだけは確実に証明できる。

クロードをはじめ30名の生き残りがいるのだ。

これで確実にアラジンを退けることが出来るはずだ。


「サンドリア王国が復興するのも時間の問題ですね」

「そのためにもアラジンを諮問会議にかけて断罪させるんだ」

「それは抜かりなく」

「けっしてアラジンに悟られてはならないぞ」

「畏まりました」


クロードはさっそく大臣達の所へ向かい諮問会議の通達をする。

次の会議はアラジンの諮問会議でアラジンには知らせないでおく。

そうすればアラジンとて対応できないはずだ。

アラジンは狡猾で緻密な戦術を立てるのが得意だ。

なので注意しなければならない。

会議は明後日に開かれる。

それまで極秘裏に動きアラジン包囲網を完成させておくのだ。


「アラジン、お前にサンドリア王国は渡さない」


クロードは拳を握りしめ固く誓った。





かくゆうアラジンもクロード達の動向はチェックしていた。

大臣達はすぐに裏切るだろうと言うことを予想していたので侍女達を味方につけた。

侍女ならば城の中を自由に動けるし、僅かばかりの報酬ですむのだ。

それに騎士達ほど力を持っていないので疑われることも少ない。

安全に確実に動ける人物は侍女の右に出るものはいない。

その侍女たちはクロードはもちろんのこと大臣達、そしてブレックス国王に張り付いていた。

そのためクロード達の内密な情報も逐一報告されて来たのだ。


「ブレックス国王達は次の会議でアラジン様を諮問会議にかけるようです」

「諮問会議と来たか。考えたな、ブレックスにしては」


アラジンがサウスブルーでサンドリア軍を見捨てて来たことを議題にするのだろう。

だが、それは魔獣ポセイドンの力が脅威だったからと言えばいい。

現にサンドリア軍は魔獣ポセイドンに滅ぼされたのだからな。

戦場ではサンドリア軍の兵士達を助けている時間はなかった。

それはまがりもない事実だ。

しかし、クロード達は追及の手を緩めないだろう。

アラジンが救助を求めるサンドリア軍を見捨てて帰還したと言うはずだ。

それを証言させるために生き残りの兵士達を召喚するだろう。

証言者の言葉ほど確かなものはない。

既に大臣達は囲い込まれている。

多数決に持ち込まれれば敗退も免れない。

そうなれば間違いなく処刑にかけるはずだ。


「さて、どうするか」


アラジンにとってサンドリア王国は既にいらないものだ。

サンドリア国王になるつもりもなければ政権をとるつもりもない。

だからいつでも出国できる。

ただサンドリア王国にはまだ価値がある。

サンドリア王国の国としての体裁を守っていれば各国に働きかけられるのだ。

サンドリア王国は世界各国の中で一番軍事力が低い。

そのため魔獣討伐を名目に各国から軍事協力を得る必要がある。

兵器を購入することが出来れば簡単に軍事力はあげられる。

そして世界のパワーバランスを僅少させて争わせるのだ。


「まだ、この国には価値がある。全て絞り出してから手放しても遅くはないな」


アラジンは諮問会議の反論材料を集めるため侍女達を走らせた。

侍女達にクロード達の部屋を調べさせたり色目を使って大臣達から情報を入手させる。

金で釣られる大臣達だ。

すぐに口を割って有力な情報をもたらせてくれた。

アラジンは集められた情報を元に作戦を組み立てた。





諮問会議当日。

アラジンをはじめブレックス国王、クロード、各騎士団長、大臣達が会議室に召集された。

ブレックス国王はみんなと顔を合わせるように上座に座る。

すると、クロードが会議の進行をはじめた。


「まず、ここに集まってもらったのは他でもない。此度のサウスブルーにおけるアラジンの行動についてである」

「おい、この会議は税金についての会議ではないのか?」


アラジンはすっとぼけたようにクロードに問いかける。


「税金についての会議はなくなった。それよりもサンドリア兵士を見捨てて来たお前の行動こそ問題なのだ」


クロードは続ける。


「先の魔獣ポセイドン戦の時に、ここにいるアラジンは救助を求めるサンドリア兵士を見捨ててサンドリア王国に戻った。この行動は人道的に見ても許される行為ではない。サンドリア王国としてはアラジンを断罪したいと考えている。みなの意見を聞かせてくれ」

「それはもちろん処刑にあたいする行為だ。けっして許されることではない」

「私も処刑に賛成だ。味方を見捨てることなどサンドリア王国の名を汚している」


おおかたクロード達に買われた大臣達が賛成の意見を述べる。

すると、ひとりの大臣から別の声が上がった。


「しかし、魔獣ポセイドンと戦っていたのなら救助する余裕はなかったのではいのか?」

「貴様、何を言い出すのだ!こいつは味方を裏切ったのだぞ!」

「そうだ、そうだ。裏切り者は処刑するのがサンドリア王国の掟だ」


別の意見を言った大臣は肩を竦ませて小さくなる。

その様子を見ていたブレックス国王が助け舟を出した。


「反対意見ももちろん歓迎だ。これは裁判ではなく諮問会議なのだからな」


アラジンは手を上げて反論する。


「私からも言わせてもらおう。魔獣ポセイドン戦の時は戦闘に夢中でサンドリア軍の兵士を救助する余裕がなかった。あれだけいたサンドリア軍の軍艦が全滅させられたのだからな」

「しかし、戦闘後には救助する余裕があったろう。どうして救助しなかったのだ?」

「意識が朦朧としていたのだ。魔獣ポセイドンとの戦いは死闘を極めるものだったからな」


アラジンの反論を受けて大臣達は黙り込む。

戦場に立っていない大臣達とて魔獣ポセイドンと戦うことの難しさは承知しているはずだ。

そこが狙いでもある。

大臣達は戦場には立たない。

故に想像でしか判断できないのだ。

戦場と言うものは理性を失うほど過酷な場所だ。

それを体験している騎士団長達は反論をして来ない。

魔獣と言う名を上げただけでも青い顔をしている大臣達だ。

それだけ魔獣が脅威であることを認識しているのだろう。

すると、状況を変えようとクロードが提案して来た。


「ここに証言者達を召喚したい」


クロードが合図を送ると扉を開けて証言者達が入って来た。


「ここに集まった証言者達は生き残こった騎士だ。この者達からの意見をもらおう」


すると、ひとりの証言者が前に出て発言をする。


「私達は魔獣ポセイドンとの戦いで軍艦を沈められました。海に投げだ出された騎士のほとんどが海の藻屑と化しました。身につけていた鎧が重しとなって枷になったのです。救命艇が用意されましたが全ての兵士達を乗せることは出来ませんでした。私達は運よく生き残れただけです。あの時、アラジンの母艦が救助してくれればもっと多くの兵士達が助かったでしょう」

「この発言を受けてアラジンはどう思うのだ?」


ブレックス国王がここぞとばかりに畳みかけて来た。


「私達の母艦もそれなりの損害を受けていた。あそこで救助活動にあたっていれば母艦も沈んだだろう」

「それは違います!母艦は傷一つありませんでした。私達はこの目で見たのです。信じてください」


もうひとりの証言者が縋るように訴えかけて来た。

泣き脅し作戦か。

まあ、この場にいる私以外の人間はみんなブレックス側なのだから滑稽に映る。

三文芝居もいいところだ。


「それをどう証明するつもりだ?」

「それは……」


アラジンの的確な指摘に証言者は口を噤ませる。

その様子を見ていたクロードはニヤリと笑うと騎士に資料を持って来させた。


「ここにある資料はアラジンが搭乗していた母艦に関する調査結果だ。それによると母艦の運航に支障を来すような損傷はなかったと言うことだ。これについてはどう反論するのだ、アラジン?」

「フッハハハ。やるじゃないかクロード。お前がそこまで策略家だとは思っていなかったよ。でもな、詰めが甘いんだよ。この会議は私を貶めるためのものだろう。そしてここいにる大臣達もお前達に金で買収された。ここに各大臣の署名の入った契約書がある」


アラジンは侍女達に集めさせた契約書の束をテーブルに叩きつけた。

すると、大臣達の顔が急に青くなる。


「な、なんでそんなものがここに……」


大臣達は油汗を流しながら縋るようにクロードを見やる。

クロードは奥歯を噛み締めてしかめっ面を浮かべる。

それはブレックス国王も同じで頭を抱えて項垂れた。

これでクロード達は終わりだ。

政治運営では買収することなどあたり前だが、それが表ざたになれば大問題だ。

買収の金は国民の血税が使われている。

なので買収は国民を裏切ったことにもなるのだ。

ここでの会議も議事録として残ることになる。

そしてそれはいずれ国民の目にも触れられることになるのだ。


「クロード、これはお前が考えた策略ではなのだろう?いっかいの騎士団長に考えられる策略でない。協力者は誰だ?」

「……」


助言をあたえたのはブレックス国王であることはわかっている。

しかし、ここで重要なのがクロードの口から証言させることだ。


「だんまりを続けるつもりか?お前が証言しないのならば今度はお前を諮問会議にかけてもいいのだぞ」

「くぅ……」


この様子だとクロードは口を割りそうにないな。

ならば諮問会議にかけるしかないだろう。

諮問会議では偽証は出来ない。

そんなことをすれば処罰の対象となってしまうのだ。

クロードとて我が身が可愛いだろう。

かつてはブレックス政権の打倒を考えていた身だ。

問い詰めれば証言をするはずだ。

証言を得られればブレックス政権は終わる。

ブレックス国王は反逆罪に問われ投獄されるだろう。

どの道、ブレックス政権はもう、終わりだ。

アラジンはクロードに変わって会議の終了を告げる。


「本日の会議はこれで終了だ。次回はクロードの諮問会議を行う。それまでに十分に準備をしおけよ。まがっても買収などするなよ。ハハハハ」


アラジンは高らかに笑いながら会議室を後にした。

その後を追うように大臣達がぞろぞろとついて行く。

買収の事実を公にしないように取り計らってもらうためだ。

しかし、その願いは叶えられることはない。

アラジンはブレックス政権の打倒と大臣達の一新を考えていた。

金で釣られるような輩は簡単に人を裏切る。

そんな輩を身近においておくほどアラジンは人が出来ていないのだ。





会議室に残ったクロードとブレックス国王は沈んでいた。

アラジンを問い詰めるつもりが逆に問い詰められてしまったのだから無理もない。

次の諮問会議で確実にブレックス政権は終わるだろう。

ブレックス国王はそれだけは避けたいと心から望んでいた。


「クロードよ。これではサンドリア王国は終わってしまう。どうするつもりだ?」

「私は決して証言はしません。なので安心してください」

「しかし、買収の事実は消えないぞ」

「それもこれもサンドリア王国のためなのです。説明すれば民衆達もわかってくれるはずです」


クロードの言葉は気休めでしかない。

民主達が本気で納得してくれるなど微塵も思っていないのだ。

クロードも諮問会議にかけられたらブレックス国王を裏切って証言するかもしれない。

たとえ証言しなかったとしても買収のことで民衆達の反感を買う。

もう、ここにはブレックス国王の居場所など残されていないのだ。


「クロードよ、後のことは任せた」

「それはどう言う意味です?」

「私は亡命する」

「この国を捨てるつもりですか?」

「生き延びるためには仕方のないことなのだ」

「考え直してください。まだ逆転のチャンスはあります」


クロードの叫びも虚しくブレックス国王は諦めたように小さく呟いた。


「アラジンに敵うものなどどこにもいないのだよ」

「国王様……」


そして数日後、ブレックス国王はグルンベルグ王国へ亡命をした。

今まで築いた全てを投げ捨てて。

民衆達からは突き上げが起こったが同時に独裁政権の終わりを素直に受け入れた。

クロードは諮問会議にかけられ買収に関わったとして投獄されることになった。

大臣達も一新され、新たな大臣達が迎えられた。

アラジンは国王の座を蹴って国王の参謀役として君臨する。

ブレックス国王に変わる国王は第一王子のニックスが就任することに。

しかし、ニックスはまだ12歳なので実質アラジンが政権を運営することになる。

そしてサンドリア王国は改新されたのだった。


次の投稿は月曜日になります。

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