157「魔獣キマイラ戦④」
ガルドは迷うことなく魔獣キマイラの左足の傷口に爆裂剣を放つ。
「その足をもぎ取ってやるぜ。『100連爆裂剣!』」
次いでレイム、騎士団と爆裂剣をつなげて行く。
今度は魔獣キマイラが動けないので爆裂剣は思うようにハマって行く。
そして魔獣キマイラの左足をもぎ取ると100連目の爆裂剣が決まった。
「これでコンプリートだぜ!」
「やりましたね、先生!」
「おうよ。これもお前達のおかげだぜ」
ガルド達は顔を合わせながら手をとって喜び出す。
戦闘中でもあるにも関わらず緊張感の欠片もない。
だが、念願であった100連爆裂剣を決めたのだ。
喜びもひとしおだろう。
これで100連爆裂剣の効力が証明されたと言うもの。
今度は爆裂剣だけではなく他の必殺技の連撃も開発するだろう。
「剣士ガルド。喜ぶのもいいがまだ戦闘は終わっていないのだぞ」
「わかってるぜ。今度はその頭を切り捨ててやる」
ガルド達は再び剣を握り直すと魔獣キマイラの首を目掛けて100連爆裂剣を放った。
一方でラクレス達は次元裂波と水渦衝で魔獣キマイラの右足に大穴を開ける。
魔獣キマイラは体重を支えられずに前のめりになって倒れ込む。
もう既に前足は使い物にならなくなっている。
魔獣キマイラを、ここまで追いつめるとはさすがは策士タクトが考えた戦術だ。
これで高粒子砲を放てていれば間違いなく魔獣キマイラを消滅させられていただろう。
しかし、ここまで追いつめれば人的力でも十分だ。
「あと一息だ。魔獣キマイラにとどめを刺せ!」
ガルド達は魔獣キマイラの首を狩ることに意識を集中させる。
ラクレス達は魔獣キマイラについた傷を狙って必殺技を繰り出す。
魔獣キマイラは麻痺効果が解けずに今だ沈黙を保ち続けていた。
それは無理もない。
なにせ1×1000倍の天空の雷を受けたのだ。
その付加効果も1×1000倍分の時間はかかる。
当分の間、魔獣キマイラは動けずにいるだろう。
その頃、高粒子砲で爆発に巻き込まれた私達は意識を取り戻す。
爆発の時、高粒子砲の近くにいた魔術師と砲撃手達は跡形もなく消えている。
エリザは運よく素早く退避していたので消滅せずにいた。
ルーン達プリ―ストもプリシアも無事だ。
しかし、魔術師900名と砲撃手100名が消失してしまった。
これでは魔獣キマイラに対抗する戦力は残されていない。
既に高粒子砲はないし、移動式大砲も破損してしまった。
ルーン達プリ―ストは怪我人の回復作業に手一杯だ。
私はおもむろに立ち上がると魔獣キマイラのいる戦場へ向かう。
すると、プリシアが私の肩を掴んで引き留めた。
「抜け駆けは許さないよ」
「プリシア」
「私達の仲じゃない。水臭いことはなしよ」
「エリザ」
後を振り返ると生き残った魔術師達と砲撃手達が並んでいた。
「私達もいることを忘れないでください」
「俺達は戦場へ行っても役に立たないから怪我人の救助にあたるよ」
「みんな、ありがとう」
こちらの戦力は魔術師100名とエリザ、プリシアの二名。
ルーン達プリ―ストと砲撃手達は怪我人の救助にあたっている。
回復が終了次第、駆けつけることになっているがそれまでに決着をつけておきたい。
戦場に戻ればガルド達がいる。
戦術は戦況を確かめてから立てることにしよう。
私達は急いで魔獣キマイラのいる戦場へ戻った。
すると、目の前には思いもかけない光景が広がっていた。
なんとガルド達が魔獣キマイラにとどめを刺そうとしていたのだ。
「ガルド、これは?」
「遅かったな、タクト。美味しいところは頂いたぜ」
「策士タクトよ、戻ったのか。戦術の指揮は私が受け継いだ。戦術通り魔獣キマイラを追い詰めるまでに至った。さすがは策士タクトだ」
魔獣キマイラはぐったりとしていて身動きをとれずにいる。
前足はもぎ取られ立ち上がることすら難しいようだ。
魔獣キマイラをここまで追いつめるとは我ながら恐れ入った。
しかし、まだとどめを刺すには至っていない。
下手に生き残しておくと厄介なのでとどめを刺すことにした。
既に瀕死の状態になっているが今だ高粒子砲を放とうと獅子の口をパクパクさせている。
ここで再度、高粒子砲を受けてしまったら間違いなく消滅させられてしまうだろう。
その前に確実にとどめを刺すことが必要になる。
まずは斬撃の痕を広げるため魔術師達に神の裁きを放たせる。
神の裁きは風系魔法の最上級魔法で、空を切り裂く旋風を放てる。
これで魔獣キマイラの斬撃の痕を広げられるはずだ。
そしてプリ―スト達のサザンクロスでさらに傷跡を広げる。
プリシアには火炎弾を魔獣キマイラの獅子の口の中に放り込んでもらう。
魔獣キマイラが高粒子砲のエネルギーを溜めようとした時に爆発させることが狙いだ。
そしてガルドとラクレス達にはそれぞれに奥義を放ってもらい確実にダメージを与えて行く。
そうすれば魔獣キマイラにとどめを刺すことが出来るはずだ。
「よし、エリザ達は神の裁きをプリ―スト達はサザンクロスを放て!」
「これで終わりにするわよ」
エリザ達魔術師100名と崖の上の魔術師1000名が一斉に魔法の詠唱に入る。
同時に崖の上にいるプリ―スト達1000名も魔法の詠唱に入った。
「プリシアは魔獣キマイラの獅子の口の中に火炎弾を放て!崖の上の弓部隊も同様に獅子の口を目掛けて矢を放つんだ!」
「OK。任せてよ」
プリシアは小さな体で魔獣キマイラの顔に近づくとハンドバズーカを構える。
そして距離を測定しながらハンドバズーカを調整すると火炎弾を放った。
火炎弾は魔獣キマイラの獅子の口の中に飛んで行き爆発を起こす。
同様に崖上にいる弓部隊達の矢も獅子の口の中を目掛けて飛んで行く。
私の狙い通り高粒子砲のエネルギーに反応し大爆発を起こした。
魔獣キマイラの獅子の口から黒い煙が立ち昇る。
「やった!」
プリシアはガッツポーズを決めて喜んだ。
「ガルド、ラクレス。個々の奥義で魔獣キマイラを攻撃せよ!」
「いい加減100連爆裂剣にも飽きたからな。見せてやるぜ、俺の奥義を。奥義『大旋風!』」
ガルドは大剣を水平に構えると自分の体を回転させる。
その遠心力で大剣を振り回しながら魔獣キマイラに旋風を浴びせた。
ガルドの大剣は魔獣キマイラの傷跡に直撃し、傷跡を大きく広げて行く。
「オラオラオラ!俺の奥義はこんなモノじゃない」
ガルドは回転力を高めてさらに肉片をえぐり取って行った。
その攻撃のおかげで魔獣キマイラの双頭の龍の首は半分捥げている。
そこへラクレスの奥義がヒットする。
「奥義『次元裂波!』」
ラクレスの槍の先端に覇気の波が生まれる。
そして刺突を加えると同時に覇気は渦となって魔獣キマイラの肉を抉り出す。
ラクレスの刺突は双頭の龍の首を貫き、首をもぎ落した。
「こっちは片付いたぜ」
「よし、後はエリザ達とプリ―スト達だ」
すると、エリザ達魔術師とプリ―スト達の詠唱が終わる。
エリザ達魔術師は1×1100倍の神の裁きを放つ。
「「右手には聖剣を、左手には聖扇を、天秤に計られし正義の調べは、神が下した断裁なり『神の裁き!』」」
魔獣キマイラの足元に緑色の巨大な魔法陣が浮かび上がると、どこからともなく風が吹きはじめる。
その風はやがて無数の旋風となり嵐のように魔獣キマイラの体を切り刻んで行く。
斬撃は魔獣キマイラの傷口を大きく開き、中から赤い鮮血をまき散らした。
続くようにプリ―スト達が1×1000倍のサザンクロスを放つ。
「「宇宙に瞬く無数の星々よ、我の祈りに答えて、この惑星を浄化せよ『サザンクロス!』」」
魔獣キマイラの足元に金色の巨大な魔法陣が浮かび上がると宇宙が紫紺色に染まって行く。
そして宇宙の果てから光り輝く十の星がやって来ると魔獣キマイラに雨あられのように降り注いだ。
魔獣キマイラの体は傷だらけになり見るも無残な姿へと変わった。
これで魔獣キマイラはもう立ち上がれないだろう。
魔獣キマイラは既に虫の息のようで小さく呼吸をしている。
その姿からは魔獣の貫録すら消え失せていた。
魔獣キマイラにとっては想定外のことが起こった。
人間達が高粒子砲を開発させたこと。
自分自身をここまで追いつめたこと。
かつての聖戦でも人間達と戦ったが、ここまで追い込まれることはなかった。
どんなに人間達があがいても魔獣に打ち勝つだけの力は得られないと踏んでいたのだ。
しかし、目の前にいる人間達は常識を覆して来た。
肉体の半分は消失し、体も傷だらけになっている。
このまま戦いを続ければ間違いなく殺されるだろう。
それは魔獣が人間に敗北をしたと言うことを意味する。
それだけは避けなければならない。
歴史を覆すようなことは起こしてはならないのだ。
「オロカナニンゲンタチヨ。オマエタチニハスギタチカラヲモッタヨウダ。ショウメツサセナケレバナラナイ」
「消滅させるだって。どの立場で言っているんだよ」
ガルドは倒れている魔獣キマイラを下目に文句を言う。
すると、ラクレスが魔獣キマイラに歩み寄り質問をした。
「魔獣キマイラよ。私の問いに答えよ。お前らは何故人間達を排除しようとするのだ?」
「カンタンナコトダ。オマエタチガスギタチカラヲモッタカラダ。オマエタチハミノタケニアッタチカラヲモッテイレバイイノダ」
かつての人間達もそうであった。
自国の軍事力を上げるため最終兵器の開発に勤しんだ。
それは戦場にいる者達を全て消滅させるほどの破壊力を持った兵器。
魔獣キマイラが持っている高粒子砲を凌ぐ程の殺戮兵器だったのだ。
しかし、それは実験の段階で失敗に終わった。
聖戦に用いられることはなかったが魔獣達にとって脅威となった。
過ぎた力は破滅しかもたらさない。
人間達は愚かで未熟な生き物だ。
誰かが制さなければ勝手に暴走して行く。
魔獣達はそんな人間達から力を奪うために目覚めたのだ。
「確かに人間は愚かだ。それは認めよう。しかし、お前達魔獣の存在は人間にとっては脅威でしかない。お前達が目覚めたことによって我々は力を高めて行ったのだ」
「タマゴトニワトリノリロンカ。ダガコレダケハイエル。ニンゲンニチカラハヒツヨウデナイ」
平和を望むのであれば武器を捨てるべきだ。
戦いからは憎しみと恨みだけしか生まれない。
それはかつての戦争で身に染みて実感したはずだ。
それにも関わらず人間達は自らの力を高めようとしている。
自国を守る名目を謳っているが、それは世界の覇権を掴むため。
見えない敵を作り出し見えない敵と戦わせる。
そうすることで自分達の業を正義と思わせているのだ。
「話はそこまでだぜ、ラクレス。こいつは時間を稼いで回復を待っているんだ。見て見ろ、傷口が小さくなって行っている」
「そのようだな。どんな理由があるからと言っても、このまま見逃す訳には行かない」
ガルドは大剣を高く掲げると力を溜め込む。
そして勢いよく魔獣キマイラの獅子の眉間を目掛けて振り下ろした。
魔獣キマイラはビクンと体を震わせるとバタリと倒れ込む。
そして永遠の沈黙に入って行った。
「終わったね」
「ああ。みんながいてくれたおかげだ」
「犠牲者は出てしまったけどな」
周りを見ると傷ついた兵士ばかりで鎧は傷だらけになっている。
爆発に巻き込まれた私達はすっかり泥だらけになっていて服はボロボロ。
すると、エリザの服がめくれて艶やかな胸が露わになる。
「おっおお!エリザ、なんてうまそうな格好をしているんだ!」
「何よ、ガルド。いやらしい顔をして?」
ガルドは顔を真っ赤にさせながらエリザの胸を指さした。
「って、何よこれ!」
エリザは顔を真っ赤にさせて胸を隠しながら蹲る。
その様子を見ていた他の男性の騎士達もガルドと同じ表情を浮かべていた。
すると、すかさずルーンが大きな布を差し出してエリザを包み込む。
「ガルドさん達はデリカシーがなさ過ぎますわ」
「そうよ。女の敵よ!」
エリザ達のところへ女性魔術師達が集まってガルド達男性騎士を非難する。
こればかりは弁解の余地が無いな。
ガルド達はしばらく女性魔術師達のお咎めをもらった方がいいだろう。
私はガルド達を尻目にラクレスの元へ歩み寄った。
「ラクレス、魔獣キマイラが言っていたことをどう思っているんだ?」
「魔獣キマイラが言っていたことは正しい。だがしかし、私達にも正義があるのだ」
「そうだな。魔獣が私達を滅ぼそうとするならば剣を手に取って戦う必要がある」
「私達は必然的に戦うことになったのだ」
人間の敵は人間だと言われるが、力を持った魔獣も脅威でしかない。
目の前に立ちはだかった時、剣をとって戦うことが自分達を守る唯一の方法なのだ。
私達はそうすることでしか未来を勝ちとれない。
武器を捨てる行為は破滅の道しか用意しないのだ。
「これは運命だ。我々が生き残るか、魔獣が生き残るのかのな」
「ならば私達は生き残らなければならない」
「そう言うことだ。策士タクトよ」
これで残る魔獣は2体。
今だ姿を現していないが、この戦いに反応して目覚めるかもしれない。
勝利の余韻に浸っている暇はない。
次の戦いに備えるためにも壊れてしまった高粒子砲と移動式大砲を造り直す必要がある。
移動式大砲はともかくとして高粒子砲はもっと強度を上げなければならない。
強力な魔力に耐えられるだけの耐久性を持っていなければ実戦では使えない。
あいにく魔水晶と太陽石は壊れずにすんだ。
デルマト達に、この状況を報告すればよりよい武器を造ってくれるだろう。
そのためにもグルンベルグ王都に戻らなければ。
すると、魔獣キマイラのの死体を見ていたプリシアが思わぬことを言って来た。
「ねぇ、タクト。魔獣キマイラの鱗、何かに使えないかな?」
「魔獣キマイラの鱗を使う?」
「だって魔法も弾くし必殺技も聞かなかったんだよ。何かに使えると思うんだけどな」
確かに魔獣キマイラの鱗を加工すれば武具に使えそうだ。
プリシアは時々思わぬことを言って来る。
それは時によいアイデアをもたらす。
私はさっそく騎士達に指示を出して魔獣キマイラの鱗を剥がさせる。
鱗は四方3メートルほどあり大人3人がかりでないと運びも出来ない。
作業は着々と進行し、馬車に積めるだけの鱗を確保することが出来た。
これだけあればしばらくは持つだろう。
もしかしたら高粒子砲の新しい材料にも使えるかもしれない。
残りの鱗はまた後で採りに来ればいい。
私達は犠牲になった兵士達を埋葬するとナスカ渓谷を後にする。
一応、魔獣キマイラが復活しないか見張りの兵隊を100名ほど残して。
いちおうグルンベルグ王国管轄にしておかないと盗賊団が襲撃しにやって来る恐れもある。
魔獣キマイラの鱗だ。
市場に出回らない代物だけに破格の値段がつくはずだ。
それはある意味、軍事機密と同等の扱いとなる代物。
なのでグルンベルグ王国で管理する必要があるのだ。
ラクレスはグルンベルグ王国へ向けて伝書鳩を飛ばす。
ダゼル国王への報告とサミトスの街へ兵士の追加派遣を要求した。
サミトスの街は今や壊滅状態にある。
復興させるにも人手が何よりも必要だ。
派遣される兵士達は1万ほどになるだろうとのことだ。
前線に立たない兵士でも復興支援活動には特化している。
なので時間をかければサミトスの街は復興させることが出来るらしい。
その辺のことはラクレスに任せて私達は次の戦いの準備に取り掛かった。




