156「魔獣キマイラ戦③」
次の高粒子砲でとどめを刺すつもりでいたのだが。
その考えは甘かった。
魔獣キマイラも対抗するようにエネルギーを収束しはじめたのだ。
「あいつも高粒子砲を放つ気だぞ」
高粒子砲対高粒子砲。
エネルギーが大きい方が勝つのだが、どちらの方が大きいのかわからない。
お互いにぶつかり合えば大爆発を起こす恐れもある。
私はルーン達にプロテクションをかけるよう指示を出す。
「ルーン、プロテクションで防御壁を築いてくれ!」
「わかりましたわ」
谷底にいるルーン達プリ―スト300名は魔法の詠唱に入る。
プロテクションは高粒子砲の軌道を挟むように左右に展開させる予定。
もちろん魔獣キマイラの高粒子砲を防ぐのではなく、大爆発をした時の爆風を防ぐことが目的だ。
私の見積もりでは高粒子砲と高粒子砲が直撃すれば大爆発を起こすはず。
プロテクションでどこまで防げるのかはわからないが、ないよりマシだ。
念のためおとり部隊を安全圏内まで下がらせる。
「他の者達は安全圏内まで後退せよ!」
「ルーン達をおいて俺達だけ下がるなんて出来ないぜ」
「そこに残っていても何も出来ないだろう。念のための処置だ」
ガルドはしぶしぶと100メールほど後ろまで後退して行く。
「おい、ガルド。ふざけているのか?もっと後ろに下がれ。後ろに下がったら崖際に身を隠せよ」
たとえプロテクションで爆風を防げたとしても高粒子砲の軌道から爆風が漏れだす。
そのため中央に部隊が待機していれば爆風の餌食となってしまうだろう。
それを回避するためにガルド達を後ろへ下げさせたのだ。
結局、ガルド達は1キロメートル先まで後退し、崖際に身を隠した。
そしてお互いの高粒子砲がエネルギーを蓄積して行く間にルーン達の詠唱が終わる。
「「天より降り注ぎし光、星光の束となりて、かの者を守らん『プロテクション!』」」
私達の足元に白銀色の巨大な魔法陣が浮かび上がると光の壁が競り立って行く。
私の指示通り高粒子砲を挟み込むように左右に展開して光の壁を創った。
強度的には1×300倍のプロテクションだ。
高粒子砲は防げなくても爆風ぐらいなら抑え込むことが出来るだろう。
あくまで爆風による被害を最小にとどめるための方法だ。
「タクト。高粒子砲のエネルギーが充填されたわ。いつでもいいわよ」
「わかった。プリシア、照準はいいか?」
「OK.だよ。魔獣キマイラを捉えているわ。じゃあ、次は私の番ね……てっ!」
プリシアが嬉しそうにしているのをよそに私は射撃の合図を送った。
「放て!」
高粒子砲で圧縮されたエネルギーが臨界点を突破して一気に解放される。
エネルギーは眩い光を放ちながら閃光となって魔獣キマイラ目がけて飛んで行く。
魔獣キマイラも同時に高粒子砲を放った。
お互いの閃光は中間地点でぶつかり合うと激しい爆風を巻き起こす。
その風圧で地面を抉りクレーター状に広がって行った。
爆風がプロテクションに当たり激しく光の壁を揺らす。
「も、もつのか……」
お互いのエネルギーは押し合い一点に収束して行く。
そしてパッと点滅したかと思えば凄まじい勢いで膨張しはじめ大爆発を起こした。
爆風が放射状に広がって行き、大地を丸くえぐり取る。
プロテクションは限界点まで爆風を耐え凌いだが、脆くも粉々に崩れ去る。
私達は爆風に巻き込まれてガルド達の所まで吹き飛ばされた。
爆風が治まるとそこには丸く抉られた巨大なクレーターが姿を現した。
大地は黒焦げになっており爆発の衝撃を表しているかのようだった。
移動式大砲は方々に散らばり転げ落ちている。
しかし、大地にしっかりと固定してあった高粒子砲だけは無事だった。
「タクト、大丈夫か!」
ガルドが私の所へ駆け寄って来る。
「私は大丈夫だ。それよりみんなは?」
「他の奴らが確認しに行っている。けど、見たところ怪我人も出ているようだ」
「あれだけの爆風に巻き込まれたのだ。仕方がないだろう」
「これも計算のうちだったのか?」
ハッキリ言えば計算外だ。
高粒子砲のエネルギーは想像以上の破壊力だった。
それが衝突しあって大爆発を起こしたのだからな。
1001人の魔力を収束させたのだから無理もない。
1×100倍のエクスプロードの比ではないのだ。
「それよりも怪我人の救出を急がせろ!補給がないから少しでも戦力は必要だ」
「わかったぜ」
ガルドは方々に散らばっている魔術師達の救出にあたった。
エリザ達も運よく擦り剥いた程度の怪我ですんだようだ。
ルーンはプリ―スト達を率いて回復作業にあたっている。
プロテクションを張っていたおかげで被害は最小にすることが出来た。
しかし、これで私達の陣形が崩れてしまった。
崖上の魔術師達は無事だが指揮をとる者がいない。
まずは谷底に入る私達の体制を立て直すことが優先される。
魔獣キマイラの追撃はそれからだ。
私達はお互いに協力し合いながら怪我人の救出にあたる。
土砂に埋もれた者を助けたり、移動式大砲を立て直したり。
安全圏内まで下がっていた騎士団が率先して活動してくれた。
そのおかげで思っていたよりも早く体制を立て直すことが出来た。
その間、魔獣キマイラと言うと高粒子砲を放ったおかげで沈黙していた。
エネルギーを放出し過ぎたのが原因だろうと思われる。
けれど、こちらの体制を立て直す時間を稼げた。
これで魔獣キマイラも高粒子砲の第三射はそうそう撃てないはずだ。
その上で戦術を組み立てなければならない。
こちらはいつでも高粒子砲を放てる準備は整っている。
いきなり第三射目を放つ戦術も考えられるが、まずは魔獣キマイラを弱体化させておく必要がある。
あくまで高粒子砲はとどめを刺す時のために温存しておこう。
先ほどのガルド達の攻撃で魔獣キマイラの体には斬撃の痕が残っている。
そこを狙ってさらに大ダメージを与える方法が有効だ。
今度は攻撃に特化した戦術を立てる。
まずはプリシア達砲撃手の煙幕弾で魔獣キマイラの視界を奪う。
次いでルーン達プリ―ストのスピカの魔法で魔獣キマイラの耐性を無効化させる。
そこへガルド達の必殺技とプリ―スト達にサザンクロスを放たせる。
追い打ちをかけるように魔術師達の天空の雷で大ダメージを与えるのだ。
天空の雷は麻痺効果も期待できる。
次の高粒子砲を放つまでの時間を稼げる。
そして高粒子砲でとどめを刺すと言う算段だ。
これで魔獣キマイラ確実に殲滅させることが出来る。
私はプリシア達砲撃手に指示を出した。
「プリシア、煙幕弾で魔獣キマイラの視界を奪え!」
「もう、人使いが荒いんだから。みんな煙幕弾を装填して」
プリシアの合図で砲撃手達が煙幕弾を移動式大砲に装填する。
そして照準器で魔獣キマイラに狙いを定める。
「それじゃあ行くわよ!撃て!」
砲撃手達が放った煙幕弾は真っすぐに飛んで行き着弾すると煙幕を放つ。
あっという間に魔獣キマイラは煙幕に包まれて、その姿を消して行った。
これで無闇矢鱈と反撃は出来ないはず。
私は続いてルーン達プリ―ストに指示を出す。
「ルーン、スピカで魔獣キマイラの耐性を無効化せよ!」
「任せてください。みなさん行きましょう」
おとり部隊のルーン達プリ―スト300名は魔法の詠唱に入る。
崖上のプリ―スト達1000名はサザンクロス要員として残しておく。
プリ―ストも強力な攻撃魔法は習得しているのだ。
すると、白い煙幕の向こうがオレンジ色に輝き出す。
「あれは!」
魔獣キマイラが予想外にも高粒子砲の第三射目を放て来たのだ。
私達は慌てて、その場から退避する。
魔獣キマイラの放った高粒子砲は私達がさっきまでいた地点で着弾し大地を大きくえぐり取った。
あいにく反応が素早かったので人的被害は最小に抑えることができた。
しかし、移動式大砲はドロドロに溶けて使い物にならなくなってしまった。
「ああっ、私の大砲ちゃん達が……」
プリシアは見るも無残に変わり果てた移動式大砲を見やって項垂れる。
それも無理はない。
何日も何時間もかけてアイデアを捻り出して開発して来たのだから。
これではデルマト達に何と言えばいいのかわからない。
きっと変わり果てた移動式大砲を見たらプリシアのようにショックを受けるだろう。
すると、プリシアが右手の大砲を構えて言い放った。
「よくも私の大事な大砲ちゃん達を壊してくれたわね。あなただけは許さないわ!エリザ、高粒子砲の準備よ!」
「何を勝手なことを言っているのよ。作戦の指揮をとるのはタクトでしょう」
「タクトもいいよね?敵をとるんだもの。嫌だと言ってもウンと言わせるわ」
プリシアの剣幕を見ると全く引かないだろう。
目が血走っていて今にも食らいつきそうだ。
戦術的に、ここで高粒子砲を放っても問題はない。
高粒子砲で大ダメージを与えてから総攻撃でも魔獣キマイラを倒すことは出来る。
ここはプリシアの顔を立てて高粒子砲を放つことにしよう。
「わかった。エリザ、高粒子砲に魔力を注いでくれ!」
「本当にいいの?私は知らないからね」
そう言ってエリザ達魔術師1000名は高粒子砲に魔力を注ぎはじめる。
同時にルーン達プリ―スト300名が再度、スピカの魔法の詠唱に入る。
ガルド達は体制を整え魔獣キマイラの近くまで進軍する。
いつでも攻撃をしかけられるように準備をしておくためだ。
私は時間を稼ぐために崖上の弓部隊1000名に指示を出す。
「弓部隊、一斉射撃を行え!」
私の合図で崖上にいた弓部隊1000名が一斉に爆弾のついた矢を放つ。
爆弾のついた矢は魔獣キマイラに着弾すると小さな爆発を起こした。
魔獣キマイラはひとつになった双頭の龍で毒ガス攻撃をして来る。
しかし、100メートル上の崖までは届かず空を切るばかりだった。
弓部隊の矢の先端に爆弾を装着できるのならば酸倍弾あたりも装着できるはず。
新たな攻撃手段の確保のためグルンベルグ王都に戻ったらデルマトにお願いしてみよう。
そしてルーン達プリ―ストが1×300倍のスピカの魔法を放つ。
「「宇宙の星々より生まれし光、神聖なる清流となりて、かの者を結びを解き放て『スピカ!』」」
魔獣キマイラの足元に白銀色の巨大な魔法陣が浮かび上がると巨大な泡が魔獣キマイラを包み込む。
そして泡が圧縮して行くと魔獣キマイラを象ってコーィングされた。
すかさずガルド達を進軍させる。
「ガルド、思う存分暴れてくれ!」
「おうよ、その言葉を待っていました。みんな、行くぞ!」
ガルドは騎士団を率いて魔獣キマイラに立ち向かって行く。
今度こそ100連爆裂剣を決めるためにも気合は十分だ。
魔獣キマイラも双頭の龍で反撃して来るが、それをもろともしない。
今のガルド達には100連爆裂剣のこと以外、頭にないのだ。
ガルドは頭上高く飛び上がると爆裂剣を魔獣キマイラに放つ。
「決めるぜ、決めるぜ。『100連爆裂剣!』」
続くようにレイムが二発目の爆裂剣を放ち、騎士団が後へと続く。
ガルドも考えているようで魔獣キマイラの左足の傷口を狙っている。
その傷は遠征時につけた斬撃の傷痕だ。
散り積もの原理で魔獣キマイラの傷口はどんどん大きくなって行く。
今では左足の3分の1ぐらいまで深く裂いていた。
魔獣キマイラもたまらずに暴れ回るが爆裂剣の雨は止まない。
すでに100連爆裂剣は大台の50連に達していた。
これならば100連まで行くのもあと僅かだ。
一方で槍部隊を率いているラクレスは魔獣キマイラの右足を狙って必殺技を放つ。
「奥義『次元裂波!』」
ラクレスが構えた槍先に覇気の波が生まれ出す。
そして刺突を加えると同時に覇気は渦となって魔獣キマイラの肉を抉りだした。
続くように槍部隊が入れ替わりながらラクレスの傷つけた痕に水渦衝を放つ。
ラクレスも先ほどつけた傷跡を狙って攻撃をしている。
傷痕は大きく広がり深く肉を抉りだした。
さすがに両前足を傷つけられた魔獣キマイラも黙っておらず蛇のような尻尾を振り回して反撃する。
魔獣キマイラの奥の手でもある攻撃にガルド達の攻撃が止む。
結局、100連爆裂剣は70で止まってしまった。
「畜生。70連まで行ったのによ」
ガルドは攻撃を避けながら、ひとり悔しそうにしている。
ガルドが長い時間をかけて修練して来ただけにショックも大きいのだろう。
私は崖上の魔術師とプリ―スト達に次の指示を出す。
「崖上の魔術師は天空の雷をプリーストはサザンクロスを放て!」
私の合図を受けて崖上の魔術師とプリ―スト達は魔法の詠唱に入る。
その間を埋めるようにガルド達が再度、100連爆裂剣を放つ。
しかし、魔獣キマイラの尻尾攻撃に阻まれて続かない。
1000名いた騎士団も魔獣キマイラの攻撃によって800名まで減らされていた。
ラクレス率いる槍部隊は900名に減っている。
時間をかければかけるほどこちらの被害が大きくなって行くようだ。
すると、エリザ達の魔力注入が臨界点を迎える。
「タクト。いつでも高粒子砲を放てるわ」
「よし……って」
私が発射の合図をしようとするとプリシアが前に出て来て叫んだ。
「あいつを殲滅するのよ!」
プリシアの合図で高粒子砲を放とうとした時、高粒子砲に亀裂が入りはじめる。
そして亀裂の合間からオレンジ色の光が漏れだすと同時に。
高粒子砲が大爆発を起こした。
爆風で私達は吹き飛ばされて激しく壁に撃ちつけられる。
高粒子砲の一番近くにいた砲撃手達は跡形もなく消え去った。
「おいおい、どういうことだよ?高粒子砲が爆発しっちまうなんて」
ガルド達は呆気にとられて立ち尽している。
「これでは魔獣キマイラにとどめを刺せる場合ではない」
しかし、非常にも崖上の魔術師とプリ―スト達の詠唱は終わる。
魔術師達は1×1000倍の天空の雷を放つ。
「「空かける声は神の声、地を走る声は悪魔の声、天と地の旋律は、冥府の理なり『天空の雷!』」」
魔獣キマイラの足元に黄色い巨大な魔法陣が浮かび上がると空に稲妻を走らせる雲が立ち込めて来る。
そして空の中央に稲妻が収束されて行くと眩い光を放ちながら一筋の雷が魔獣キマイラを貫いた。
同時にプリ―スト達の1×1000倍のサザンクロスが放たれる。
「「宇宙に瞬く無数の星々よ、我の祈りに答えて、この惑星を浄化せよ『サザンクロス!』」」
魔獣キマイラの足元に金色の巨大な魔法陣が浮かび上がると宇宙が紫紺色に染まって行く。
そして宇宙の果てから光り輝く十の星がやって来ると魔獣キマイラに雨あられのように降り注いだ。
スピカの効果もアリ魔獣キマイラの体はズタボロに傷ついていた。
しかも、麻痺効果で完全に沈黙している。
とどめを刺すならば今がチャンスだ。
ラクレスは現場の状況を見極め私の代わりに指揮をとる。
「全員、総攻撃だ!魔獣キマイラを討ち取れ!」
ガルド達は再び武器をとると魔獣キマイラに向かって行く。
今度こそ確実に100連爆裂剣を決めるために。
そして私達の敵をとるために。




