153「高粒子砲」
捜索開始から数週間で太陽石が見つかった。
所有者はグルンベルグ王都から外れた森の中にある一軒家に住む老婆。
太陽石はペンダントに加工され代々受け継がれて来たものだと言う。
話を持ちかけた時、初めは断られたのだが、ダゼル国王からの手紙を読むと引き渡しに応じてくれた。
さっそく私達は書き下ろした設計図を元に高粒子砲の開発に着手する。
プリシアは相川らすちんぷんかんぷんのようだったが、デルマトはエネルギー放出理論を理解してくれた。
太陽石を高粒子砲の奥に。
ログが加工を済ませた魔水晶を中央に設置する。
砲身から魔水晶、太陽石の順番に並べてある。
魔力を砲身の後ろから注ぎ込み太陽石を介して魔水晶に集める仕組みだ。
「これで完成ですね」
「後は試射をして見てエネルギーが放出されるか確かめるだけだ」
「以前のように完成試射式をしますか?」
「ダゼル国王の協力も得ているからな。グルンベルグ王国の要人達にも参加してもらう予定だ」
試射式に集まってもらう要人は政権運営に関わる大臣をはじめとする官僚達。
それに軍部を司る各騎士団長、魔導士部隊団長にも集まってもらう。
実際に高粒子砲の威力を確認してもらい、実戦でどう運用するのか考えてもらうことも狙いだ。
戦術を立てるのは私の仕事だが、部隊を率いるのは各団長達。
現場の意見を集約して戦術に落とし込む必要があるのだ。
「みなさんで高粒子砲を訓練場まで運びましょう」
「精密だから慎重に運ぶんだぞ」
「わかってるわよ」
「なら、私はダゼル国王に報告を済ませて来る」
デルマト達は訓練場まで高粒子砲を運び、私はダゼル国王に報告を済ませ、試射式の準備に取り組んだ。
試射式当日。
訓練場には多くの観覧客が集まった。
ダゼル国王を中心に右手にグルンベルグ王国の大臣達。
左手に各騎士団長と魔導士部隊長達。
その後ろに騎士や魔同士達も集まっていた。
「これから高粒子砲の試射式を行いたいと思います。まずは開発者の紹介から」
ダゼル国王の前にログ、サイム、デルマト、そしてプリシアが緊張した面持ちで並んでいる。
私はログ達の横に立ち順番に紹介して行く。
「まずは加工をメインに行ってくれたドワーフのログです。次いで設計を担当したサイム、高粒子砲のエネルギー関連を担当したデルマト、そしてプリシアです。この四名は移動式大砲の開発にも携わった主要メンバーです。この面々が揃ったからこそ高粒子砲が開発出来たと思っております」
「それは頼もしいことだな。これからも頼むぞ」
ダゼル国王は満足気に頷きながらログ達に期待の意を示した。
「では、高粒子砲の試射に移りたいと思います」
私はエリザに合図を送って高粒子砲の後ろに控える100名の魔術師達に魔力を注ぎ込ませる。
魔力の注入は魔法を詠唱する時と同じ要領で行う。
魔法を詠唱することで魔法使い達は全身の魔力を一点に集中させて行く。
そして魔力を解放させる呪文を唱えて魔法を放つのだ。
エリザ達の魔力が高粒子砲に注ぎ込まれる。
すると太陽石がオレンジ色の眩い光を放ちはじめる。
そして太陽石から一閃の光が魔水晶に収束されて行き、魔水晶の中でエネルギーが圧縮されて行く。
「放て!」
次の瞬間、圧縮されたエネルギーは眩い光と共に膨張しはじめ臨界点まで達すると閃光となって一気に放出される。
そして轟音が鈍い地響きを起こしながらエネルギーを空の彼方へと消えさせた。
膨大なエネルギーを発するため目標は空に向けていたが空を割るほどの威力だった。
観客席からは唖然の吐息が毀れる。
「素晴らしい!この力があれば魔獣キマイラなど恐れるに足りない。策士タクトよ、よくぞ完成させてくれた」
「ご期待に沿えてなによりです」
ダゼル国王は喜びの表情を浮かべながら拍手で迎えてくれる。
観客達も一同にスタンディングオベーション状態になった。
「やったねタクト」
「これもみんなのおかげだ」
デルマトは頻りに高粒子砲を確認している。
あれだけのエネルギーに耐えうるのか心配だったからだ。
しかし、そんな心配は不要に終わるほど高粒子砲はその形状を保っていた。
「強度も問題ないようだな」
「ですね。これなら実戦に投入しても大丈夫でしょう」
「後は実戦でどのように運用するかが問題だな」
私は試射式の後、各騎士団長達を集めて作戦会議に入った。
まずは魔獣キマイラ討伐の戦術を振り返ることにする。
第一段階は魔獣キマイラをアレギスタ連山からおびき出す作戦だ。
それには3つの部隊で交互に攻撃と後退を繰り返しながらおびき出して行く。
第二段階は魔獣キマイラをナスカ渓谷で討ち取る作戦だ。
魔獣キマイラをポイントまで誘導したら崖を爆発させて土砂で埋もれさせる。
そうしたら一斉攻撃を仕掛けて討ち取るのだ。
高粒子砲を用いるならば第二段階のナスカ渓谷で運用することになる。
しかし、各騎士団長達もどのように高粒子砲を運用したらいいのか迷っているようだ。
何せ山を吹き飛ばすほどの膨大なエネルギーを発する武器だ。
扱い方次第では部隊を消滅してしまう心配もある。
「やはり高粒子砲は部隊と切り離す必要があるのではないか。あれは危険過ぎる」
「しかし、前線で用いらなければ魔獣キマイラを仕留めることなど出来ないぞ」
「谷底には部隊を配置しないで高粒子砲だけを配備させておくのはどうだ?」
作戦としてはそれもありだが土砂で足止めできなかった場合に対応できない。
高粒子砲を発するにも最上級魔法以上の時間がかかる。
魔獣キマイラの進軍を許せば高粒子砲など意味を持たなくなるのだ。
「魔獣キマイラの足止めは必要だぞ」
「崖を破壊して土砂で埋もれさせるからいいのではないのか?」
「魔獣だぞ。その程度で足止めが出来るものか」
あくまで土砂で埋もれさせる作戦は一時的に魔獣キマイラを止めるためのもの。
高粒子砲を放つまでの時間稼ぎにはならない。
「ならば崖上に待機させている魔術師達に任せるのはどうだ?ドラゴンブレスならば一時的に動きを止めることも可能だろう」
「それだけでは不十分だ。魔獣キマイラとて反撃して来るだろう。魔獣キマイラを惹きつけておく者達も必要だ」
騎士団と槍部隊を使って魔獣キマイラの注意を惹きつけておく作戦なのだが。
近接攻撃しか出来ない騎士団や槍部隊を魔獣キマイラにぶつけておくことは危険だ。
高粒子砲を放つにしても谷底を空けておかなければならなくなるからだ。
部隊がいたのでは危な過ぎて高粒子砲は放てない。
「ならば一撃離脱の作戦をとればいいのではないのか」
「魔術師達に魔獣キマイラの動きを止めつつ、騎士団達は一撃離脱で注意を惹きつける。その間に高粒子砲の準備を進めるという考えもあるだろう」
「しかし、離脱するにしてもどこへ逃げるのだ。崖上ならともかく谷底ならば意味がないぞ」
議論は膠着状態に陥る。
高粒子砲を安全に放つならば一番最初に持って来るべきだ。
魔獣キマイラを直視出来たら高粒子砲の準備に入る。
そして砲撃手達に崖を破壊させて魔獣キマイラを土砂で埋める。
その間におとり部隊を高粒子砲の後ろまで後退させ軌道を開けておくのだ。
これならば高粒子砲を安全に放てる。
問題はどこまで魔獣キマイラの動きを止めておけるかだ。
土砂程度ならばすぐに魔獣キマイラは押しのけてしまうだろう。
魔獣キマイラに進軍を許せば高粒子砲が放てない。
それを防ぐためにも魔獣キマイラの注意を惹きつけておく必要がある。
崖上に待機させている魔術師達にはあえて下級魔法を唱えさせる方法もある。
ダメージは皆無だが注意は惹きつけられる。
騎士団と槍部隊を突入させて注意を惹きつけておきたいところだがそれは後でだ。
私は頭の中で組み立てた戦術をみんなに説明をした。
「戦術はわかったが、もし高粒子砲が外れた場合はどうするつもりだ?」
ラクレスの唐突な指摘に私は応えに困る。
そこまでは思慮を巡らせていなかったからだ。
高粒子砲は魔獣キマイラに直撃することを前提に戦術を立てた。
しかし、ラクレスの言う通り外れた場合の戦術も必要だ。
結論から先に言えば、
「外さないように撃つしかない」
それだけだ。
あいにく的は大きい。
魔獣キマイラは50メートルほどある巨体だ。
どんなに下手な砲撃手でも的を外すことはないだろう。
それに魔獣キマイラが高粒子砲を避けることも考えにくい。
なのでラクレスの心配は不発に終わるだろう。
「最もな答えだな。よし、戦術は決まった。皆の者、戦闘の準備に取り掛かれ!」
作戦会議は無事に終え各騎士団長達は戦闘の準備に入った。
ログ達が仕上げた武器と交換し食料や水などの補給の準備もする。
本部隊とおとり部隊は1週間後に出発しナスカ渓谷へ向かう。
その後、おとり部隊はアレギズタ連山へ向かい作戦を実行する。
戦闘は1週間程度を想定しているが、魔獣キマイラの動き度合いによって前後する。
なので食料や水などの物資は多めに準備させておいた。
その夜、高粒子砲完成を祝してパーティーが行われた。
会場には大臣や騎士団長達が正装に身を包みお酒を嗜んでいる。
私達も身なりを整えて会場にやって来た。
ガルドは着慣れない格好に戸惑っていたがエリザ達はこなれたようにドレスを見に纏っている。
こうして見て見るとどこかの貴族のようだ。
「皆の者、今夜は大いに楽しんでくれ」
ダゼル国王がグラスを手に取ると乾杯の音頭をとった。
私達もグラスを合わせて乾杯をする。
持ち込まれたお酒は献上品のお酒で香りも味も一級品だった。
「このお酒、美味しいわね。これなら何倍でもイケそうだわ」
「エリザ、飲み過ぎるなよ」
「心配してくれるの、タクト」
「後の介抱が大変だからな」
「あっそう」
私のツッコミにエリザはご立腹したようでそそくさと他のテーブルに移って行った。
「邪魔者がいなくなったね。二人だけで乾杯しよう」
「プリシアも酔っ払っているのか?」
「酔っていなんかいないわ」
プリシアは頬を膨らませてブー垂れる。
すると、ログがサイムとデルマトを連れてやって来た。
「タクトさん。こちらでしたか」
「何だ、ログ達も来たのか?」
「ダゼル国王様から直々に招待されましたから」
「それにしてもこの酒うまいな」
「お前もそう思うか?俺も同じだ」
ガルドがグラスを持ちながらサイムの肩に手を回す。
二人はすぐに意気投合して酒を飲みに離れて行った。
「サイム兄さんは相変わらずだね」
「ドワーフのガルドみたい」
「面白いこと言うね、プリシアは」
「そうかな。へへへ」
デルマトに褒められてプリシアは急に照れだす。
さっきまでのふてくされ様が嘘のようだ。
高粒子砲の開発も移動式大砲の開発も一緒だったから一気に距離を縮めたようだ。
プリシアとデルマトは楽しそうにおしゃべりしながら会場へ消えて行った。
「サイムにもデルマトにもいい友達ができてよかったです。これもタクトさんがグルンベルグに呼んでくれたからです」
「こっちも助かっているよ」
「それでは三人で乾杯でもしましょう」
そう言ってルーンは私達のグラスにお酒を注ぐ。
そしてグラスを合わせると注がれたお酒を楽しんだ。
ログ達がグルンベルグ王国に来てくれたから課題だった騎士団達の戦力を強化出来た。
それに移動式大砲と高粒子砲の開発で大きく軍事力を上げられた。
それもこれもログ達のおかげだ。
私は改めてログに感謝の言葉を伝える。
すると、ログは照れくさそうに頭を掻いていた。
そこへラクレスがきれいな女性を連れてやって来た。
「策士タクトよ、楽しんでいるか?」
「もちろん」
「お隣の方はどなたでしょう?」
「ああ、紹介が遅れたな。こちらは私の婚約者のセレンだ」
「婚約者さんですか」
ラクレスの紹介を受けてセレンがコクリと頭を下げる。
それに応えるように私達も頭を下げて挨拶をした。
しかし、ラクレスにこんな美人な婚約者がいたとは驚きだ。
いつも会議室で難しそうな顔をしているだけではいのだな。
「策士タクトはまだなのか?」
「何が?」
「結婚だよ」
「わ、私はまだだよ」
ラクレスの質問に動揺しているとルーンが横でクスクスと笑っていた。
結婚だなんてまだ先の話だ。
私はまだ18歳なのだからな。
しかし、グルンベルグ王国の人間は割と早く結婚していると言う。
グルンベルグ軍の3分の1は結婚済みらしい。
まあ、危険な戦場に出て行くのだ。
いつ命が終わるかもしれない。
その為にも後継者となる子供を残しておきたいのだろう。
私達はそんなこんなで夜が更けるまでパーティーを楽しんだ。
翌朝。
私達は客間で出発の準備を進めながらモーニングティーを楽しんでいた。
ガルドは大剣を掲げて意気込みを言う。
「いよいよだな。ようやく俺達の特訓の成果が試させれることが出来るんだ。ワクワクするぜ」
「私達もそのために頑張って来たからね。魔獣キマイラを倒してみせるわ」
「みなさん準備はよろしいようですね」
ルーンはガルド達にニコリと微笑み紅茶を口に運ぶ。
「タクト、高粒子砲楽しみだね」
「高粒子砲が戦局を左右させそうだからな」
「発射の合図は私がしていい?」
「ダメだ。タイミングが肝心なんだ。私がする」
「ちぇ、ケチ」
プリシアは頬を膨らませて拗ねる。
まあ、こんなやりとりをしていられるのも今のうちだけどな。
いざ戦闘になれば笑顔を見せる余裕すらなくなるだろう。
そこへ廊下が騒がしくなりラクレスが慌てた様子で駆けこんで来る。
「策士タクト、魔獣キマイラが動き出したぞ!」
「魔獣キマイラが動いたって!何でだ!私達はまだ何もしていないぞ!」
「理由はわからないが今、サミトスの街へ向かって来ているらしい」
魔獣キマイラは何に反応して動き出したんだ。
今までは何をしても沈黙を保っていたのに。
まさか高粒子砲の試射に反応したと言うのか。
あり得ない話ではない。
歴史的に見ても魔獣は人間が強力な力を持った時に現れている。
人間達を粛清するために目覚めて襲撃するのだ。
いずれにせよ作戦の修正が必要だ。
魔獣キマイラを誘導することは変わらないが、その前にサミトスの街を守らなければならない。
「策士タクト、迷っている暇はない。サミトスへ向けて出発するぞ」
「戦闘の準備は間に合っているのか?」
「問題ない。いつでも出発できる」
「わかった。みんな行こう!」
私達はおとり部隊を引き連れてサミトスの街へ。
プリシアは本部隊と一緒にナスカ渓谷へ向けて出発した。
次回の投稿は月曜日になります。
次回はいよいよ魔獣キマイラ戦です。




