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152「試行錯誤」

高粒子砲開発に着手してから1ヶ月。

ヴェズベルト王国から魔水晶の原石が届いた。

原石と言っても拳大の大きさだがエネルギー源としては十分だろう。

後は魔水晶のエネルギーをどうやって放出させるかが課題だ。


「セッティングはこんな感じでいいでしょう」

「後はどうやってエネルギーを放出させるかだな」

「魔力を込めるってのは?」

「魔水晶は太陽石と聖女の魔力に反応しますからね。ただ魔力を込めても反応しないんじゃないんですか」

「そんなのやってみなければわからないじゃない」


と、言うことでエリザ達を呼んで実験してみることにした。

エリザとルーンに事情を説明して高粒子砲に魔力を注ぎ込んでもらう。

しかし、うんともすんとも言わない。


「やっぱり聖女の魔力じゃないとダメなのかな」

「高粒子砲なんて現実的じゃないわ。タクトもプリシアの突拍子もないアイデアに乗っかり過ぎよ」

「そんなことを言って。私とタクトが仲良くしていることに妬いているんじゃない」

「そんなことある訳ないでしょ。お子ちゃまのプリシアになんか」


エリザはここぞとばかりに胸を突き出してプリシアのペチャパイを下目に見やる。

プリシアは悔しそうに顔を真っ赤にさせてエリザに食って掛かった。

そんな二人をほっておいて私はデルマトと話を進める。


「やはり触媒になる太陽石が問題のようだな」

「そうですね。魔力をエネルギーに変換する触媒がなければエネルギーの放出は無理でしょう」

「となると太陽石を探す必要があるな」

「太陽石は現存するものしか残っていないと言うことなので探すのが大変になりそうですね」

「見つかっても譲ってもらえるかわからないしな」


私とデルマトとルーンをお互いを見やって考え込む。


「そんなの簡単よ。正直に魔獣討伐のことを言えばいいのよ。魔獣は人類にとって脅威でしかないのだから協力を得られるんじゃない」

「プリシアにしてはいいことを言うわね。ダゼル国王の力を借りて太陽石を探すのよ」

「しかし、それはグルンベルグ王国に限定されるぞ」

「何でよ」

「魔水晶と太陽石を手に入れるってことは、それだけ軍事力を強化させるってことに繋がるんだ。他国がそれを黙って見ている訳がないだろう。ヴェズベルト王国も用意してくれたのは魔水晶だけなんだぞ」


移動記式大砲も軍事力の強化に繋がるが、それほど他国の反応は見られない。

それはあくまで予想の範囲なのだからであろう。

しかし、魔水晶と太陽石となれば話が変わって来る。

ヴェズベルト王国が手にした聖女と魔水晶に匹敵する軍事力強化に繋がる。

だからヴェズベルト王国もあえて魔水晶の原石だけに限定して来たのだ。


「この際、グルンベルグ国内だけでもいいのではないでしょうか。他にあてがある訳でもありませんし」

「それもそうだな。なら、私からダゼル国王に伝えておく。もしかしたら私達も太陽石探しに駆り出されるかもしれないからな」


さっそく私はグルンベルグ城へ向かいダゼル国王に相談を持ち掛けた。

もちろんダゼル国王は迷うことなく了承してくれて太陽石探しに人員を割いてくれた。

グルンベルグ王国に限定されるが1万の調査員達を各地に派遣させる。

同時に私は軍事力強化の進捗状況を報告を済ませた。


「武具類のコーティング作業および移動式大砲の準備は残りの1ヶ月で全て終了します。騎士達の戦力アップも順調に進んでおります」

「左様か。後は高粒子砲の開発だけだな」


ダゼル国王は感慨深げに私を見やる。


「高粒子砲は実現するかわからない兵器です。太陽石が見つかったとしてもうまく行くかはわかりません」

「策士タクトの知力を持ってしてもお手上げ状態なのだな」

「理論的には太陽石を触媒にすればエネルギーを放出させることは可能です。ただ、魔術師達の魔力に反応するかはわかりませんが」

「そこは聖女の魔力が必要になると言うことだな」


ダゼル国王は玉座に背を預けて大きなため息をこぼす。

やはりダゼル国王は聖女を手放したことを後悔をしているのだろうか。

暗殺者まで雇って聖女プリムを抹殺しようとしたくらいだ。

ヴェズベルト王国に渡すぐらいなら始末してしまおうと目論んで。

しかし、プリムは私達の仲間だ。

ヴェズベルト王国が軍事力を強化させてもプリムを帰すことが道理なのだ。


「しかし、高粒子砲は私達の力で完成させます」


今はそうとしか言い切れない。

高粒子砲の開発次第では魔獣キマイラ戦の戦況を左右しかねないくらい大きい存在なのだ。

必ず開発させると意志を示すことが何より大事。

それだけで開発者達を鼓舞させることにも繋がるのだから。

私はダゼル国王の期待に応えるためにもエネルギー放出の原理を調べるため図書館に籠った。





エリザとルーンは訓練を終えて客室でお茶を飲んでいた。

ガルドは相変わらずだけれど訓練に余念がない。

訓練時間を過ぎても100連爆裂剣の習得に励んでいる。

つき合わされている騎士達も悲鳴を上げるくらい根を詰めているのだ。


「タクトさんもガルドさんもプリシアさんも帰って来ませんね」

「みんな根を詰め過ぎよ。そんなんじゃ本番でひいひい言ってしまうわ」

「しかし、私達はのんびりしていていいのでしょうか。何だか皆さんに悪い気がしますわ」

「何言っているのよルーン。あいつ等はただの馬鹿なの。ほっておいてもいいわ」


エリザはカップを手に取ると優雅に紅茶を啜る。

それはどこぞの王族がお茶をしているかのようだ。

エリザはこのところルーンが入れた紅茶にハマっている。

ルーンがわざわざ新しいレシピを図書館で入手して来たので試飲しているのだ。


「しかし、ルーンは紅茶を淹れるのがうまいね」

「そんなことありませんわ。ただの嗜みです」

「ルーンならいいとこの貴族と結婚できそうよね」

「冗談はよしてください、エリザさん。私は結婚なんて考えたことはありません」

「やーね。例えよたとえ」


エリザは冗談なのか本気なのかわからない口調で言って来る。

ルーンは戸惑いながらもエリザに質問してみた。


「そう言うエリザさんはどうなんですか?」

「私?私は……もちろん意識しているわよ」


やっぱり。

プリシアさんと張り合うぐらいだから本気だとは思っていたけれど。

でも、タクトさんはいまいちはっきりしないからどっちつかず。

だから、ルーンにもつけ入るチャンスは残されているのだが。

ルーンもルーンで他人には本心を見せない。

それが返って神秘的な雰囲気を醸し出してもいる。


「それはタクトさんと結婚したいってことですか?」

「そうね。そうなるといいんだけどな」


ド直球のルーンの質問に対してエリザは急に他人事のように呟く。

エリザさんもタクトさんの性格を熟知しているからそう言う態度をしたのだろう。

タクトさんは誰に足しても公平に接しているからまるで本心が見えない。

嫌われていると言うことはないが、好かれているとも言い難い。

タクトさんの中ではエリザさん達はLOVEではなくLIKEなんだろう。

でも、それはズルいことでもある。

結論をはぐらかして傷つけることを拒んでいるような。

それは優しさではなく曖昧なだけ。

結局タクトさんは恋愛に関しては優柔不断な男なのかもしれない。

知略に長ける策士でも恋愛の攻略には手が上がらないようだ。

そんなことを考えていると部屋のドアが開きガルドが戻って来る。


「ただいまー。ふはぁー疲れたぜ。タクト達はまだか?」


ガルドはソファーにどっかりと腰を下ろすとだらしない格好で聞いて来る。

まるで休日のおじさんのような姿だ。


「タクトさんは図書館に籠っています。プリシアさんは高粒子砲の開発中です」

「あいつ等も懲りないな。高粒子砲なんてそう簡単に開発できるものじゃないぞ。そんなのに頼るくらいなら自分達の戦力をアップさせた方が何倍もお得だ」

「そんなことを考えているのはガルドくらいよ。力馬鹿なんだから」

「そう言うエリザはどうなんだ?特訓は順調に進んでいるのか?」

「あたり前じゃない。私を誰だと思っているのよ」


エリザは冷めた目でガルドを見やりながら豪語する。

すると、ガルドがとんでもないことを口にする。


「エリザ達魔法使いは楽でいいよな。魔法を合わせるだけで戦力を強化できるんだから。俺達なんか必殺技を覚えてから連撃の訓練を積まなければ戦力を上げられないのだからな」


ガルドの暴言にエリザが声を荒げて反論する。


「私達が楽をしているですって!魔法を合わせることがどれだけ大変なことか知らないでしょ!私達はガルド達のように力任せじゃ出来ないのよ!そこのところをわかってる!」


エリザの剣幕に押されてガルドはすぐに白旗を上げた。


「悪かったよ。俺が間違っていた。風呂でも入って頭を冷やして来るよ」


ひとり苛立っているエリザを横目にガルドはそそくさと浴場へ逃げて行った。

エリザはガルドに向かってクッションを投げて憂さを晴らす。

まあ、エリザさんが怒るのも無理はない。

みんなそれぞれに一生懸命になって戦力アップに取り組んでいるのだ。

それを茶化されたら誰でも怒る。

ガルドさんは何かと地雷を踏みがちだ。

もっと女性の繊細な部分に気を向けないと一生独り身だろう。





そんなガルド達のやり取りも露知らずタクトは高粒子砲のエネルギー放出の理論を調べていた。

物質の変化から魔力の発生理論に関する書籍を中心に独自の理論を組み上げる。

それは箸でゴマをつまむような難解で緻密な計算が必要なので頭がパンクしていた。


エネルギー発生時は主に高熱が生じることがわかった。

温度変化をする過程でエネルギーが生成され熱を放出させる。

その主な熱は空気中に分散されてい消えて行くのだが一部はエネルギー源に残るらしい。

それを総称して熱エネルギーと言うのだが。

炎が燃えるのは熱エネルギーが発生しているからなのだ。

しかし、熱エネルギーだけでは高粒子砲のエネルギー源にはならない。

熱エネルギーの密度が小さすぎて高出力にはならないと言う。


魔力はと言うと人間が本来持っているエネルギー源のひとつ。

気功を集めるように意識を集中させることで流れを生じさせる。

目には見えないが気功のように感覚としてわかるそうだ。

書物によっては気功のことを魔力と書いてあったが実際のところは違うだろう。

気功は人間の生態エネルギーを高めるもの。

そして魔力は人間の精神エネルギーを収束させたものなのだ。


魔水晶は膨大な魔力を圧縮させた鉱石だ。

それは精神エネルギーを収束させたものだとも言える。

ならば魔術師達の魔力は魔水晶の魔力と同質のもとのなる。

しかし、魔術師達の魔力では魔水晶は反応しない。

太陽石なる触媒を介さなければエネルギーを放出しないのだ。


ならば太陽石と言うものはいったいどういう鉱石なのかだ。

文献に記されていた文章によれば太陽の欠片とある。

言うなれば太陽のような高エネルギーを発生させる物質と言うこと。

抽象的な解釈で説明が難しいが、隕石と同等な物質であることが予想される。

地上に落ちて来る隕石の多くはただの石ころへと変貌している。

なので隕石を太陽石の代わりにすることは出来ない。


「やはり太陽石を見つけなければ話は進まないようだ」


高粒子砲のエネルギー放出の仕組みは魔力を集中させて太陽石に流し込む。

太陽石が反応し膨大なエネルギーを魔水晶に収束させて行く。

そして魔水晶が反応して高エネルギーを放出させるのだ。

言うなれば魔水晶は聖女の魔力に反応するのではなく太陽石に反応しているのだ。

故に聖女の魔力の正体は複数人の精神エネルギーを収束させたものだと言える。

その数は数百人、数千人におよぶかもしれないが。

いずれにせよ太陽石がカギを握ることには変わりがない。


私は調べ上げたことを参考に高粒子砲のエネルギー発生の理論を設計図に落とし込む。

それは高粒子砲を開発しているデルマトとプリシアにもわかるようにするためだ。

プリシアは要領を得ないかもしれないがデルマトはわかってくれるだろう。

これで少しでも開発に勢いがつけば何よりだ。





その頃、プリシアとデルマトはお手上げ状態に陥っていた。

高粒子砲のエネルギー放出の仕組みもわからなければ魔水晶をどこに置けばいいかもわからないのだ。

ログやサイム達も加わり議論を重ねていた。


「やはり魔水晶を加工した方がいいのではないか?原石のままじゃ力不足だ」

「それはいいが、どこに魔水晶を置くんだ?場所によっても変わるだろう」

「やはり奥じゃないのではないでしょうか。エネルギーを収束させる場所が必要ですし」


すると、ログ達の話に着いて行けないプリシアがごねる。


「ねぇ、ちょっと。私にもわかるように話してよ。さっきから何を言っているのかわからないわ」


ログ達は一斉にプリシアを見る。

そして素知らぬ顔で議論に戻った。


「とりあえず魔水晶を加工しよう」

「そうだな。ここで議論していても話は進まないし」

「それじゃあログに加工を任せます」

「わかった」


ログは魔水晶の原石を持ってひとり工場へ向かった。

魔水晶の加工はログ兄さんに任せておけば大丈夫。

後は高粒子砲のエネルギーの放出だが、それはタクトが調べてくれている。

デルマト達は高粒子砲のエネルギーに耐えられるだけの強度があるか調査する必要があるのだ。


「サイム兄さんの設計通りならば、これで高粒子砲のエネルギーに耐えられそうですけど実際はどうなのか確かめる必要があります」

「それをどうやって確かめるのかが問題だな」

「ぶっつけ本番では危険ですしね」


すると、黙って話を聞いていたプリシアが思いもよらぬことを発言した。


「なら、エリザ達の魔法で確かめたら?最上級魔法ならそれだけのエネルギーが発生するんじゃない?」

「しかし、最上級魔法を高粒子砲の砲身内に収束させることが出来るのか?」

「それは難しそうですね。最上級魔法は全体攻撃の魔法ですし、部分的に収束させるなんて」

「そんなのやってみなければわからないわ。私、エリザに頼んで来る」


そう言うとプリシアはデルマト達の了承も得ることなくエリザを呼びに行った。

十数分後、エリザはプリシアに連れられて開発小屋へやって来た。

今まで寛いでいたらしくさえない顔をしている。


「プリシア、私にさせたいことって何なのよ!」

「エリザの最上級魔法を高粒子砲の強度試しに使いたいのよ」

「何それ?」


エリザはおもむろに嫌そうな顔を浮かべる。


「エリザなら出来るでしょう?最上級魔法を圧縮させて高粒子砲の中で爆発させるぐらい」

「そんなの簡単に決まっているじゃない。私を誰だと思っているのよ」

「なら、お願い」


プリシアは要領よくエリザを乗せて罠にハメる。

こう言うプリシアさんの策略は見習うべきものがある。

直情傾向なデルマトには出来ない所業だ。


「この中で魔法を爆発させればいいのね?」


そう言うとエリザは両手を突き出して魔法の詠唱に入る。

そして暫しの詠唱の後、エクスプロードを圧縮させて高粒子砲の中で爆発させた。

ズドンと鈍い振動と共に高粒子砲は震え出す。

その後、白い煙を上げながら姿を現した。

デルマトはすぐに高粒子砲を確認するがどこにも亀裂は入っていない。

そればかりか高熱を反射して砲身の外は手で触れられるぐらい冷たかった。


「サイム兄さん。成功です!」

「ちょっとヒヤッとしたが成功で何よりだ」

「これで高粒子砲のエネルギーに耐えられるってこと?」

「プリシアさん、これは第一段階ですよ。高粒子砲のエネルギーは膨大でしょうから、もっと実験を重ねなければなりません」


デルマトはプリシアにもわかるように説明する。

そしてデルマトとサイムはエリザを見やる。


「何よ、その目は?」

「エリザさんにも実験に付き合ってもらいますよ」

「私は嫌よ」

「これもみんなタクトのためなんだから逃がさないわよ」


プリシアはエリザの背後に回り込み抑え込んだ。

そしてエリザの協力を得て高粒子砲の実験は続いた。

強度の調査は魔術師達の人数を徐々に増やしてエネルギーを高めて行く方法がとられた。

それならば無茶をすることなくスムーズに実験が行えるからだ。

予想通り実験は順調に進み最終段階を迎えた。

想定した魔術師の人数は全部で100人。

最上級魔法を一斉に放ち高粒子砲の強度を確かめたのだ。

見事、最終実験は終了した。

後は実戦で用いるだけの段階までこぎつけた。


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