151「密かな企み」
1ヶ月後。
クロード達、サンドリア軍の生き残りはアンナ女王の計らいでサンドリア王国へ送還された。
処罰されることなく済んだのが幸いだが、手放しで喜んでもいられない。
今やサンドリア王国はアラジンの傀儡となり果てているからだ。
「クロード様、このままサンドリア王都へ戻られますか?」
「戻っても私達の居場所はないだろう。すでにアラジンが処分しているはずだ」
「それではもうサンドリア王国はアラジンの手に落ちたと言うことでしょうか?」
「だとしてもアラジンの手からサンドリア王国を取り戻さなければならない。私達はサンドリア王国の騎士なのだからな」
とは言っても具体的にどうするべきかが問題だ。
今やブレックス国王はアラジンの傀儡でしかない。
聖槍グングニルを手に入れたアラジンに怖いものはない。
世界を敵に回すことすら躊躇わなく行えるだろう。
しかし、クロード達はいっかいの騎士に過ぎない。
サンドリア王国を取り戻すには象徴が必要だ。
その役目はブレックス国王にしか果たせない。
「ブレックス国王に全てを話してアラジンを追い出すんだ。それしか方法がない」
クロードの考えがどこまで通じるのかはわからない。
ブレックス国王は信じてくれないかもしれない。
しかし、黙って見ている訳にも行かないのだ。
クロード達はヴェールズを出てサンドリア王都へ急いだ。
サンドリア王都に戻るとクロード達は思いもよらぬ歓迎を受けた。
魔獣ポセイドン戦で全滅したと思われる生き残りが戻って来たからだ。
民衆達も歓迎ののろしを上げ王都はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
「クロード、よくぞ戻った。して、今までどうしておったのだ?」
「戦いの後、我々はサウスブルーを漂流しヴェズベルト商船に助けられました。敵国の商船に助けられるのは不甲斐ないことですが、ヴェズベルトの者達は私達に情けをかけて来たのです。1ヶ月ほど王立の病院で診療を受けていました」
「随分と都合のいい話だな。サンドリア王国の騎士としての誇りはどうした?」
ブレックス国王の前で跪いているクロードにアラジンが冷ややかに言う。
「もちろんサンドリア王国の騎士としての誇りは忘れていません。ヴェズベルト王国の尋問には応えずにおりました」
「おかしいな。私の聞くところによるとお前らはアンナ女王に取り入ったと言う話だが」
「本当なのか、クロードよ」
アラジンの奴、ここで追い詰めるつもりのようだ。
アンナ女王に取り入ったことがバレれば間違いなく処罰されるだろう。
クロードだけではない。
生き残った者達全て処刑される。
裏切り者は許さないのがサンドリア王国の掟だ。
クロードの背中にどわっと汗が溢れ出す。
しかし、どこにも証拠はない。
アラジンが勝手にほざいているだけだ。
それよりもブレックス国王に全てを話して理解を得るのだ。
「我々はサンドリア王国を裏切ったりはしていません。裏切り者はアラジンの方です!」
「それはどう言う意味だ?」
「アラジンは我々サンドリア軍を見捨てて行きました。サンドリアの兵士達が溺れているのにも関わらず見て見ぬふりをしたのです。アラジンは悪魔のような奴です。ブレックス国王様、目を覚ましてください。アラジンにサンドリア王国を渡してはなりません!」
「本当なのか、アラジンよ」
「まあ、遠からず近からずと言ったところだな」
不審がるブレックス国王をよそに飄々と言ってのけるアラジン。
何の悪気もないような態度をとる。
「クロードの話が本当であればただでは済まされないぞ」
「どうするってんだ?まさか私を処刑するつもりか?そんなことをすればサンドリア王国が潰れるぞ。力なき国は滅びるのが常だ」
「くぅ……」
クロードは拳を握りしめて怒りを抑える。
ここでアラジンに飛びかかっても何にもならない。
ただ単にアラジンをつけあがらせるだけになる。
アラジンから聖槍グングニルを奪い取るのがいいのだが現実的ではない。
アラジンは聖槍グングニルを肌身離さず持っているのだから。
「聖槍グングニルを手にした今、我々に恐れるものはない。このままアラジンの指揮のもと世界を支配するのだ」
「しかし、それでは再びブラッド・ウォーが再来するかもしれません。新たな力を手に入れた今、他国達も軍事力を強化させるはずです」
「たとえそうなったとしても頂点に立つのは我々サンドリア王国でなければならない」
ブレックス国王の意志は固いようだ。
アラジンの手の平で踊らされていることにも気づかずに。
こうなってしまってはもう手の打ちようがない。
サンドリア王国はアラジンの思うがままに暴走するだけ。
そんなことはさせない。
させてはならないのだ。
クロードは剣を静かに引き抜くとアラジンに向かって構えた。
「クロード。何を!」
「アラジン。お前にはここで死んでもらう。お前がいなくなればサンドリア王国は元に戻るのだ」
「病み上がりの病人が無理をするなよ。剣先が震えているぜ」
アラジンは余裕気な様子でニタリと笑う。
次の瞬間、クロードは一気に間合いを詰めてアラジンに切りかかった。
しかし、あっさりとかわされて足を引っかけられ転ばされてしまう。
「だらしないな。それでもサンドリア軍の第一騎士団長か?」
「くっ、舐めるなよ」
クロードは勢いよく立ち上がるとアラジンに掴みかかった。
「剣が効かなければ今度は殴るのか?がめついな」
「その口を聞けないようにしてやる!」
すると、ブレックス国王が大声を出して制する。
「二人とも止めい!ここは玉座の間だ。決着をつけたいのなら闘技場で行え」
「私はどちらでもいいがな」
「し、失礼しました、ブレックス国王様」
クロードはアラジンから手を放すと跪いて敬意を示す。
今のアラジンと渡り合っても負けは目に見えている。
聖槍グングニルの力を得て何倍も強くなっているのだ。
ここで無茶をして命を落としてもアラジンのいいようにされてしまう。
今はただ機会を伺いながらじっと待つのが得策だ。
必ずチャンスは巡って来る。
それまで影に身を潜めながら外堀を埋める作戦をとる。
地道だが、それが一番の戦術なのだ。
アラジンは自室でひとり思慮を巡らせる。
クロード達が戻ったことは計算外だったからだ。
あんな状況で生きて帰って来るとは運が良い。
普通ならば漂流して力尽きて死んでしまうものだ。
助かったのが30名だけだからあながち外れてもいないのだが。
「しかし、ヴェズベルトが何もしなかったことは意外だったな」
敵国の兵士を捕まえたら普通は尋問をして投獄をする。
それをしなかったのはアンナ女王の落ち度と言ってもいいだろう。
敵に情けをかけても何も生まれないのだ。
まあ、クロードが全てを話したとも考えられるが。
そうだとするならばヴェズベルト王国が侵攻して来ることはない。
魔槍ヘルスピアの力は承知しているはずだからな。
返ってクロードが全てを話したことでヴェズベルト王国に恐怖感を植え付けられたのかもしれない。
どちらにせよ都合がいいことに変わりがないのだが。
クロードはほっておいても大丈夫だろう。
今やサンドリア王国にはアラジンに反抗をする者はいないのだ。
全てアラジンが根回しをして要人達をたきつけていた。
ブレックス国王ですら傀儡となり果てている。
実質、サンドリア王国を統制しているのはアラジンなのだ。
「さて、グルンベルグ王国の動きはいかに」
アラジンは諜報員がまとめた資料に目を通す。
グルンベルグ王国に派遣した諜報員達の報告によればグルンベルグ軍は魔獣キマイラ討伐に向けて準備を整えていると言う。
騎士達そのものの強化はさることながら新兵器の開発にも勤しんでいるとのこと。
アルタイル王国からドワーフ達を受け入れて開発に取り組むほどの腰の入れよう。
それだけ魔獣キマイラに危機感を抱いているのだろう。
情報によれば魔獣キマイラと戦って敗北して来たらしいのだ。
「まあ、魔獣相手だから、そんなところか」
策士タクトはと言うとグルンベルグ軍の指揮官となって動いているようだ。
既に魔獣キマイラを仕留めるための戦術も考えられているらしい。
その上で軍事力を強化させるに至っている。
魔獣キマイラが勝つかグルンベルグ軍が勝つか見ものだな。
出来れば間近で観戦したいところだが、動くのはまだ早い。
策士タクトには頑張ってもらう必要があるのだ。
「グルンベルグ軍をしっかりと鍛え上げてくれよ」
一方でアルタイル王国にはこれと言った動きは見られない。
民衆に向けた政策を実行していることに夢中のようだ。
その背景で新兵器の開発には余念がない。
ドワーフ達を抱き込み夜な夜な新兵器の開発をさせている。
マクミニエル政権を打倒した時に持ち出した銃なる武器は量産体制が整っている。
一般の騎士でも扱えるように簡略化させたモノを普及させている。
攻撃力は落ちるが汎用性が高いのが特徴とのことだ。
対魔獣戦でどれだけの効果が期待できるのかは疑問だが、対人間戦で威力を発揮する。
そのことから考えてもアトス政権は隣国の動向に注意を向けているようだ。
ヴェズベルト王国は聖女と魔水晶を手に入れ。
グルンベルグ王国は移動式大砲と新兵器を手に入れようとしている。
両国が軍事力を強化させれば必然と軍事力を強化せざるを得ない。
何せアトス政権は生まれたばかりの若い政権だからなおのこと。
より強い力を求めてしまうのだ。
「世界の動向はいい方向へ向かっているようだな」
後は魔獣ヒュドラの動向だ。
今だ沈黙を保ったまま目覚める気配すらない。
魔獣ポセイドンが消滅したことで何らかの動きを見せると思ったが。
まあ、そちらが目覚めないのならば目覚ましてやるだけ。
人間達が強力な力を得れば反応して目覚めるだろう。
魔獣は人間を粛清するために蘇るものだ。
人間が人知を超える力を得たのならば消滅させようとする。
人類と魔獣との戦い、つまり聖戦はそうやって生まれたのだ。
グルンベルグ軍と魔獣キマイラとの戦いがきっかけになるかもしれない。
一方で魔獣フェンリルの情報は全く掴めない。
封印されている場所もわからなければ目撃情報も全くないのだ。
こればかりはいくらアラジンが知略に長けているからと言っても手の打ちようがない。
一説にはエルフ王国のキリスレア山の火口に封印されていると言わているが確かではない。
魔獣ヒュドラと同じように魔獣ポセイドンが消滅しても何も動きを見せないのだ。
「魔獣は全てを消滅させなければならない。でなければ人間の脅威は魔獣に向かったばかりだ」
諜報員を派遣する範囲を広げる必要があるな。
今はサンドリア王国、グルンベルグ王国、ヴェズベルト王国、アルタイル王国に限定している。
エルフ王国への立ち入りは禁止されているので侵入困難だが、それでも派遣する必要がありそうだ。
世界の全ての情報を得ていなければ素早く反応も出来ない。
戦争は情報戦がモノを言うものだ。
確かな情報を大量にかつ迅速に。
今やサンドリア王国へ侵攻して来ようとする勢力はない。
ならば戦力を削っても諜報活動に回す必要がある。
アラジンはブレックス国王の了承を得て諜報員を増員させた。
それに反論して来たのはもちろんクロードだが意見は却下させてもらった。
力をなくした騎士団長の言うことなど誰も聞かないのだ。
もはや第一騎士団長のクロードすらアラジンの傀儡となり果てていた。
一番、サンドリア王国の動向に気を留めていたのは他ならぬブレックス国王自身だった。
アラジンを迎え入れてからと言うもの、全てアラジンのシナリオ道理にことが運ぶことに気を留めていた。
既に騎士団長の多くは亡くなり、大臣すらサンドリア王国から逃げ出そうとする始末だ。
政権の状況としては最悪としか言いようがない。
しかし、それでも政権が維持できているのはアラジンの存在が大きい。
アラジンが強大な力を得ているから皆、従っているに過ぎないのだが。
「このままではアラジンにサンドリア王国を乗っ取られてしまう」
それだけは避けなければならない。
アラジンがサンドリア王国を乗っ取ったら間違いなくブレックス国王は処刑される。
国に二人の王などいらないのだ。
それにブレックス国王は今まで恐怖政治を敷いて来ただけに反発者も多い。
故にアラジンに国をとられたら間違いなくブレックス政権は終わるだろう。
ブレックス国王の顔から血の気が引いて行く。
死。
一国の王にとってそれは受け入れがたいものだ。
人間はいずれ死ぬとわかっていてもだ。
悪魔に魂を売ってでも不死身の肉体を手に入れたい。
さすればエルフ王のように何百年も生きられるだろう。
人間とは儚いものだ。
生に縛られているから自由をなくす。
死を受け入れれば全てのモノから解放される。
しかし、それは消滅を意味する。
己の存在をなくしてまでも解放されようとは思わないのだ。
縛られていることもある意味、生きがいを感じられることに繋がる。
それはみな同じなのだ。
「私はこのまま終わる訳にはいかない。アラジンの好きなようにはさせるものか」
ブレックス国王は王室から出るとクロードの部屋へ足を向けた。
もちろんそれはクロードの協力を取り付けるため。
クロードは根っからのサンドリア王国の騎士団長なのだ。
何よりサンドリア王国のことを一番に考えているはず。
ならばブレックス国王の考えにも同調してくれると踏んだのだ。
「クロード、いるか?」
ブレックス国王がクロードの部屋のドアをノックするとクロードが出て来た。
「ブレックス国王様、なぜここに?」
「話があって来た。入らせてもらうぞ」
ブレックス国王は押しつぶすように言うと静かに扉を閉めた。
これから話すことは重要なことだ。
アラジンに聞かれる訳にも行かない。
なのでここへ来たことは他の誰にも伝えていなかった。
「ブレックス国王様、話とは何です?」
「クロードはもうわかてっいると思うが、今やサンドリア王国はアラジンの傀儡となっている。私はアラジンの手からサンドリア王国を取り戻したいのだ」
「それは私も同じであります。アラジンが来てからと言うものサンドリア王国はすっかり変わってしましました。このままでは間違いなくアラジンが乗っ取るでしょう」
クロードも同じ心境であったことにほっと腕を撫で下ろす。
しかし、問題はアラジンだ。
何か手だてを打っておかなければ取り返しがつかなくなる。
ブレックス国王とクロードは議論を深めて行く。
「アラジンは聖槍グングニルを得てつけあがっている。何とか聖槍グングニルを奪うことが出来ればいいのだが」
「私もそれを考えましたが無理でしょう。今や聖槍グングニルはアラジンの片腕となっております。奪うことはできません」
「ならばどう対策をとるかだな」
アラジンの目的は世界の覇権を握ること。
それは世界各国に己の力を見せつけて従わせるものだ。
その為に魔獣狩りを申し出て来た。
魔獣を狩って力を見せつけることで各国の政府に恐怖を植え付ける。
さすれば各国はアラジンに脅威を抱いて軍事力を強化させるはずだ。
そしたらアラジンは各国に侵攻をはじめるかもしれない。
それは世界戦争を意味している。
ブレックス国王とてそんな無謀なことは望んでいない。
アラジンが力を得る前に阻止する必要があるのだ。
「クロードよ。サンドリア王国の要人達に話をつけておけ。アラジンは孤立させる。さすればアラジンは国として成り立たなくなり、世界戦争は避けられるはずだ」
「しかし、今のサンドリア王国の要人達の中に我々に従う者はいるでしょうか?」
「お願いするのではない、従わせるんだ。アラジンがいかに危険な存在であるのかを知らしめれば協力は得られるはずだ」
強引だがそうするしか他に道はない。
もはやブレックス国王の求心力は皆無となっている。
しかし、サンドリア王国の未来を掲げれば同士は集まるはず。
アラジンを支持している者も恐怖から、そうしているだけなのだ。
ならばつけ入る隙があると言うもの。
この作戦は極秘に行わなければならない。
間違ってもアラジンの耳には届けてはいけないのだ。
ブレックス国王とクロードは念入りに作戦を立て密かに実行に移すのだった。




