149「各国の動向」
ガルドが集めて来た情報によれば噂の出所はサンドリア王国と言うことだった。
サンドリア王国の行商人達を通じてグルンベルグ王国まで届いたらしい。
それ以上のことはわからずじまいだ。
「やはりサンドリア王国が意図的に流したデマと捉えるべきか」
「しかし、サンドリア王国もしょうもないことをするよな。嘘なんていずれバレるのにな」
「それだけサンドリア王国が追い詰められていることなのだろう」
聖女と魔水晶を奪われヴェズベルト王国への侵攻作戦も失敗した。
今のサンドリア王国には頼れる力ががない。
だからデマを流して世界を混乱させようとしたのだろう。
情報戦は戦略的には有効に働く。
各国もこぞって力を入れているくらいだ。
しかし、そうなるとサンドリア王国の意図が気にかかる。
デマを流して世界を混乱させた後にすること。
再びヴェズベルト王国へ侵攻するつもりなのか。
はたまた別の目的があるのか。
いずれにせよサンドリア王国の動向には注視しなくてはならない。
「ガルドは、これからどうするんだ?」
「せっかくの休日も台無しになったからな。城へ戻って飲み直しだ」
「そうか。なら、私は調べごとがあるから王立の図書館へ行く」
「タクトも大変だな。休みなしで仕事か」
「まあ、そんなところだ」
私はガルドと別れて王立の図書館へ向かった。
図書館には世界各国から集められた蔵書が保管されている。
魔法に関するものをはじめ政治、軍事、貿易、工芸、民族など様々な書物がある。
もちろん、私はプリシアが開発している高粒子砲のエネルギー源を調べるために来たのだ。
高粒子砲が現実のものとなれば、この上ない戦力アップに繋がる。
魔獣キマイラ戦でも引けをとらないだろう。
「あれ、タクトさんも調べごとですか?」
「ルーン。どうしてここに?」
「私は新しい料理のレシピを探しに来たんです。毎日、お城の料理ばかりを食べていたら料理を忘れてしまいますから。タクトさんは?」
「私はプリシアが開発している高粒子砲のエネルギー源について調べに来たんだ」
ルーンに事情を説明するといっしょに探してくれることになった。
ひとりよりもふたりの方が仕事が捗る。
まずは魔法関連の書物から調べるのがいいだろう。
この世界では当たり前のように魔法が使ええるが、そのエネルギー源は魔力だ。
魔力と言うものは人間の体に流れているもので誰にでもある。
魔術師やプリ―スト達は訓練によって魔力を自在に操ることが出来るようにしている。
魔法の詠唱は魔力を最大限まで高めるための呪文となっているのだ。
高粒子砲のエネルギー源が魔力であるのならば話は早い。
理論的には魔術師達を集めて魔力を集中させればよいことになる。
しかし、魔法に関する文献にはそれらしい情報が記載されていなかった。
「高粒子砲のエネルギー源は魔力ではないと言うことか」
「あれだけのエネルギーを放出できるくらいです。もっと強力な何かだと思います」
「次は鉱物に関する文献を調査してみよう」
そう見当をつけたのは魔水晶の存在があったからだ。
魔水晶は聖女の力にしか反応しない。
しかし、膨大な力を秘めていることはわかっている。
あの幻獣麒麟でさえ封じることが出来たのだ。
高粒子砲はそれ以上のエネルギーだったが。
すると、ルーンが古い文献を持って私を呼んだ。
「タクトさん、この文献に魔水晶に関する記事が書かれています」
見ると魔水晶に関する説明が長々と記載されていた。
説明によれば魔水晶と言う鉱物は魔力が圧縮された珍しい鉱石だと言うことだ。
原石であるよりも加工することでより魔力が強くなるのだ。
限られた鉱山でしか採掘されず、現在ではヴェズベルト王国のダルタウロ鉱山でしか発見されていない。
聖女が持つ魔力に反応すると膨大なエネルギーを放つ。
その触媒になるのが白銀の十字架だ。
白銀の十字架は太陽石と呼ばれる希少な鉱石で造られたもの。
現在は太陽石は発見されておらず、現存するだけのものに限られると言う。
「説明通りならば魔水晶が有力ですね」
「しかし、魔水晶は聖女と白銀の十字架がないと反応しないのだぞ」
「また、プリムさんにでも頼みますか?」
「それは出来ない。プリムはもうヴェズベルト王国の人間なのだ。それに私達の戦いに巻き込むことは出来ない」
「タクトさんらしい判断ですね」
しかし、魔水晶は検証のためにも入手しておきたいところ。
ダルタウロ鉱山でしか採掘出来ないのならばアンナ女王に頼むべきか。
プリムのことで貸しもあるし魔獣キマイラを討伐する目的ならば協力してくれるだろう。
さっそく私はグルンベルグ城に戻りダゼル国王に協力を要請する。
ダゼル国王はアンナ女王あての書簡を書き記し、ヴェズべルト王国へ向けて使者を派遣した。
直接、私が出向くのが筋であろうが、魔獣キマイラ戦へ向けて準備もあると言うことで断念した。
その頃、ヴェズベルト王国でも魔獣ポセイドンが倒されたと言う情報が流れていた。
情報戦に長けているヴェズべルト王国は、より詳細な情報を掴んでいる。
誰がサンドリア軍を指揮していたかも、どうやって倒したのかも承知していた。
「魔獣ポセイドンはアラジンとサンドリア軍によって討伐されました。詳しくはアラジンの持っていた聖槍グングニルの力で討伐されたようですが」
「聖槍グングニルはエルフ王が所有しているのではないのか?」
「詳しくはわかりませんが、アラジンが聖槍グングニルを奪取したと思われます」
マリア―ヌが事実を告げると大臣達の顔が曇った。
「それは脅威だぞ。聖槍グングニルは魔獣を封印させるほどの力を持っているのだ」
「サンドリア王国が新たな力を持った今となっては手遅れだ」
「再び我が国に侵攻して来るかもしれない」
大臣が青い顔をしながら口々に弱音を吐き出す。
その可能性は否定できない。
サンドリア王国は二度に渡ってヴェズベルト王国への侵攻に失敗しているのだ。
聖槍グングニルを手にした今、三度攻めて来ることが予想される。
その為にも何かしら対策を考えておく必要がある。
すると、沈黙していたアンナ女王が口を開いた。
「我が国には聖女と魔水晶があります。聖槍グングニルにも引けをとらないでしょう」
「しかし、あんな子娘に何が出来ると言うのです?」
「貴様、プリム様への暴言は許さんぞ」
マリア―ヌが剣に手をかけて暴言を吐いた大臣を叱責する。
大臣は油汗を流しながら椅子にもたれかかった。
「恐れることはありません。プリムはレイチェルの血を引く立派な聖女です。我がヴェズベルト王国のために力を貸してくれます」
「女王様はサンドリア王国と渡り合うつもりですか?」
「ブレックス国王が、そう判断したのならば避けられないでしょう。その為にも今から戦争の準備をしておくのです」
アンナ女王の言葉に大臣達はどっとため息をこぼす。
ヴェズベルト王国とサンドリア王国の対立は今にはじまったことでない。
長い歴史の中で繰り返し対立して来たのだ。
その全てがサンドリア王国の侵攻がはじまりだ。
ヴェズベルト王国は防衛のために立ちあがったのだ。
そしてまた三度、サンドリア王国の侵攻に脅かされている状況だ。
有事に関しては抜かりがないほど軍備を整えているが、戦争となると民衆達もタダでは済まない。
大臣達は民衆達からの反発を恐れているのだ。
「戦争は避けられないのでしょうか。民衆達の不満も高まっています。いずれ爆発するでしょう」
「そうなれば内戦が起こるかもしれません。民主たちが武器をとり政府に反発するかもしれません」
「アンナ女王様。ここは平和的解決を模索するべきでは?」
アンナ女王は大臣達の悲痛な叫びを受けて熟考に入る。
戦わずして勝つのが理想ではあるが、現実的ではない。
サンドリア王国が新たな力を得た今、ヴェズベルト王国には脅威でしかない。
歴史的に見てもサンドリア王国が侵攻してくるのは目に見えている。
平和的解決を模索すると言うことは言葉で表すよりも簡単ではない。
我々が繰り返して来た歴史を塗り替えることなど出来ないのだ。
サンドリア王国とヴェズベルト王国の間には火種がくすぶっている。
それが何をきっかけで爆発するのかはわからないほど緊迫しているのだ。
交易は行っているが、それは自由貿易によるものだ。
経済活動と軍事行動には関係がないと取りまとめたことによる。
なので民衆レベルで対立はしていないのだが快くは思っていないだろう。
民衆同士で対立するようになってしまえば取り返しがつかなくなる。
それだけは避けなければならない。
未來の両国の関係のためにも。
「それならばどんな解決法を考えているのでしょう?」
「それは……」
アンナ女王の問いかけに大臣達は口を噤んで俯く。
大臣達にも、これと言った解決法は持っていないことはわかっていた。
ブレックス国王がもっと理解のある人物ならば平和的解決も模索できるが。
それは天地をひっくり返してもないだろう。
議論は膠着状態に陥り、話がまとまらないまま会議を終えた。
議題は明日の会議に回すと言うことで大臣達は会議室を後にした。
「マリアーヌ。戦争の準備を整えなさい。大臣達は納得しないようですが戦いは待ってくれません」
「畏まりました。速やかに対処します」
「それとプリムにも話をしておきなさい。プリムはこれから前線に立ってもらわなければなりませんから」
「はっ!」
出来ればプリムを戦争に巻き込みたくないのが本音だ。
レイチェルの忘れ形見であるプリムに辛い想いをさせるのは心苦しい。
しかし、ヴェズベルト王国は聖女の力に頼らないと成立しないのだ。
アンナ女王は窓から覗く月明りに照らされながら想いを馳せた。
アルタイル王国は思っていたよりも早くに纏まりを見せた。
それもアトス政権が打ち出した政策によることが大きい。
マクミニエル政権とは違って民衆の声に特化した政策を打ち出す。
そんな謙虚な姿勢が民衆の心を掴んだのだ。
「アトス様。サンドリア王国が魔獣ポセイドンを討ち取ったとのことです。あくまで噂話なので、どれほど信ぴょう性があるものではありませんが」
「それは歓迎するべきことだ。人間の脅威となる魔獣を討ち取ったのだからな」
だが、魔獣を討伐できるくらいサンドリア王国が力を得たことを表している。
新生アルタイル王国はまだ出来たばかりだ。
軍事力も過激派時代に積み上げたものに頼っている状況だ。
ドワーフ達に新兵器の開発を頼んであるが、いつになるのかわからない。
サンドリア王国がアルタイル王国に侵攻してくることはないが、今後のサンドリア王国の動向には注視する必要があるだろう。
「グラン、サンドリア王国に使者を派遣し新たに得た力について調べさせろ」
「畏まりました」
サンドリア王国がどうやって魔獣を倒したのかは知らなければならない。
それはアルタイル王国にも魔獣ヒュドラが封印されているからだ。
今でこそ沈黙を保っているが、いつ目覚めるかはわからない。
魔獣ヒュドラ対策のためにも今から準備しておくひつようがあるのだ。
「それと近隣国の状況も調べろ。サンドリア王国が力を得た今、グルンベルグ王国もヴェズベルト王国も黙っているとは思えない。対抗するように新たな軍事力を確立するはずだ」
今はまず状況を正確に把握することが最優先事項だ。
新生アルタイル王国は若いだけに他国からの侵攻を許しやすい。
それを未然に防ぐためにも各国の状況を把握しておく必要がある。
とりわけ軍事力に関しては。
あいにく新生アルタイル王国はどの国とも対立がない。
それが唯一の救いでもある。
戦争に陥る前に平和的解決をしやすくなるからだ。
とりわけアルタイル王国は農作物の自給率が低い。
そのため食料を隣国から輸入しなくてはならない。
いわば隣国に頼った状況に陥っているのだ。
代わりにドワーフの技術を輸出している。
ドワーフの高度な技術は他国にはない。
故に持ちつ持たれつの関係性が築かれているのだ。
「私は世界の覇権を掴むことよりも民衆達の生活を豊かにすることを優先させている。それはアルタイル王国の未来に関わることだからな」
「アトス様のお考えには民衆達も納得してくれています。我々で新しいアルタイル王国の未来を創りましょう」
アトスの言葉を受けてグランが宣言する。
きれいごとのように聞こえるが、それがアトスが描いて来た未来の形なのだ。
マクミニエル政権に虐げられて来たからこそ望めたこと。
それでも軍事力の強化には余念がない。
力を持たずして平和など築けないと考えているからだ。
民衆の信頼を買った今だからこそ、アトス政権に怖いものはない。
思うがままに政策を進めることが出来るのだ。
サンドリア王国に戻ったアラジンは次の作戦のため情報を流した。
サンドリア軍が魔獣ポセイドンを討ち取ったと言うことにして世界の関心を集めるためだ。
情報を得た各国はサンドリア王国が新たな力を得たと考えるだろう。
そうなれば自国の軍事力を強化させる。
そこがアラジンの狙いだ。
力を得た各国は脅威を取り除くため再び戦争をはじめるだろう。
ブラッド・ウォーの再来だ。
「また人間の生き血を啜れる」
アラジンがひとり悦に浸っているとブレックス国王が尋ねて来た。
「アラジンよ。魔獣ポセイドンを打ち倒したことは認めるが、我が軍が全滅とはどういうことだ?」
「それだけ魔獣ポセイドンが強力だったと言うことだ」
「しかし、これでは我が軍の損失が計り知れない。もう既に1万の兵力が削がれているのだぞ。残り2万の兵力でどうやって戦うつもりだ?」
「それなら心配することはない。この魔槍ヘルスピアがあるのだからな」
アラジンは魔槍ヘルスピアを掲げながら呟く。
魔槍ヘルスピアは月明りに照らされて怪しく光った。
「で、次は何をするつもりだ?」
「魔獣狩りをする」
「魔獣狩りだと!ここへ来てそんな無茶な作戦を実行するつもりか!これ以上、軍は派遣出来ないぞ」
「はじめからそのつもりだ」
「どう言うことだ?」
アラジンは意味深にニヤリと笑うと自室に戻った。
ブレックスはもう使えない。
と言うよりも、もういらないと言った方が正しいか。
ブレックス国王は求心力をなくした。
今、サンドリア王国に残っている大臣達も国外脱出を計画している始末。
ほとんどの騎士団長がいなくなり統括する者がいなくなったのだ。
これではブレックス国王を見限る者が出て来てもおかしくない。
ブレックス政権は滅んだとも同じだ。
だが、サンドリア王国は使える。
国と言う形を保っていれば戦争を仕掛けることもできるからだ。
まあ、アラジンが従えるのは戦士達の亡霊だが。
「ブレックスの命は他国にとらせよう」
その方が歴史的に汚点を造れる。
ブレックス政権は独裁国家だから国民は納得するだろう。
しかし、国は混乱を極める。
多くの国民が難民となり隣国へ押し寄せる。
そうなれば隣国も対応をせざるを得ない。
無闇矢鱈と国境を封鎖すれば世界から反発を買うことになる。
一国家として、それは受け入れられないだろう。
どの道、世界が混乱してくれれば願ったり叶ったりだ。
「さて、しばし各国の反応を楽しむか」
アラジンはサンドリア王国の使者を各地に派遣し情報を収集させた。
それは魔獣狩りの後の作戦を実効するために必要な作業だったからだ。
アラジンが魔獣を狩ってくれれば各国は無駄な犠牲を出さずに済む。
その余剰分が軍事力に回されると算段している。
アラジンが望むのはブラッド・ウォーの再来。
世界を混乱に貶め世界戦争を誘発させるのだ。
戦いを望むアラジンにとって願ったり叶ったりの未来がやって来るのだ。
もちろん前線に立つのはアラジン率いる亡霊軍団。
どの国と戦っても敗北はあり得ない。
百戦錬磨の最強軍隊なのだ。
アラジンは魔槍ヘルスピアを撫でながら酒を煽る。
「しかし、この肉体は中々のものだ」
策士と言う知略に長けた頭脳とたぐいまれなる肉体と。
若さも相まって魔槍ヘルスピアにエネルギーを与えてくれる。
長きに渡ってエルフ王に囚われて来たから解放された気分だ。
この肉体はしばらくは持つだろう。
肉体が滅びるまで酷使させるつもりだ。
「せいぜい私のために頑張ってくれよ、アラジン」
アラジンは自分の体を撫でながら、そう呟いた。
次の投稿は月曜日になります。




