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148「ガルドの想い」

砲弾開発小屋ではデルマトとプリシアが籠りっきりで砲弾の開発に勤しんでいた。

プリシアは魔獣キマイラ戦の状況を元にして創意工夫を凝らしている。

デルマトにとっては驚くほどの情報で目を輝かせていた。


「デルマト、いるかい?」

「タクトさん」

「タクト!私に会いに来たの?」

「砲弾の開発の進捗状況を確認しに来ただけだ」


目を輝かせながらすり寄って来るプリシアを押しのける。

そんな私とプリシアのやり取りを見ながらデルマトは進捗状況を報告する。


「新たに開発出来た砲弾は、爆裂弾、氷塊弾、疾風弾、粉砕弾と毒霧弾です。毒霧弾は魔獣キマイラ戦の戦況を聞いて開発しました。プリシアの協力がなかったら開発できなかったでしょう。しかし、毒ガスの扱いが難しいのが難点です」

「そうか。でも、これで全ての属性をカバーできたことになるな」

「エリザ達ばっかりに美味しい所を持って行かせないわ」


魔法には詠唱時間がかかるが、砲弾ならば直に攻撃できる。

属性を持っていれば状況に応じて使い分けられるだけでなく、付加効果も期待できる。

これで戦術の幅が広がると言うものだ。

私は不意に小屋の奥を見やると何やら怪しげな機械が顔を覗かせていた。


「あれは何だい?」

「エッヘン。よくぞ聞いてくれました。あれは開発中の新兵器だよ。まだ、仕組みがわからなくてとん挫しているけれど、絶対に完成させてみせるわ」

「何を開発しているんだ?」

「プリシアが言うには魔獣キマイラが放った高粒子砲だそうです」

「そんなものを造っているのか!」


確かに高粒子砲が完成できれば大幅に戦力を上げることが出来る。

しかし、一度しか見たことのない高粒子砲を開発できるものなのか。

あれは膨大なエネルギーを圧縮させているように見えたのだが仕組みがわからない。

何がエネルギー源で、どうやって放出させたのか。

それに圧縮させる作業は一筋縄では行かないだろう。

デルマトもプリシアの話を聞いただけでは理解できていなかった。


「それと弓部隊の火力を上げるため砲弾を加工して矢じり型にしてみました。この矢じりを矢の先端に着けて放てば着弾した時に爆発する仕組みです」

「それは凄いじゃないか!」


弓部隊の火力不足は前から思っていたことだ。

騎士や槍兵のように必殺技がないので攻撃力が弱くなってしまう。

それを補う目的で矢じりに魔鉱石をコーティングして魔法を帯びさせる方法を考えていたのだ。

しかし、それには魔法を放つと言うひと手間がかかる。

戦力に余裕がある時はいいが、余裕がない時は魔術師部隊の戦力を削がなければならない。

それは戦況に大きく影響することだけに安易には決められないのだ。

だが、爆弾付き矢じりが開発されたことでその心配もなくなる。

デルマトはいい仕事をしてくれる。

伊達にダウスの元で修業をしていた訳ではないようだ。


「次の戦闘までに潤沢に用意しておいてくれ」

「わかりました」

「私も高粒子砲を開発しておくね」

「無理はするなよ」

「心配してくれているんだ。クスッ」


労を労う私の言葉を都合よく解釈してプリシアは頬を赤らめる。

まあ、いつもの反応のようだから少し安心した。

プリシアも熱中するタイプだから根を詰めてしまわないか心配していたのだ。

この感じならば大丈夫だろう。


「私も時間を見て高粒子砲のエネルギー源になりそうなものを調べてみるよ」

「期待しているね」


私はデルマト達と別れるとグルンベルグ城へ戻った。





翌朝。

私はガルドと二人で街まで来ていた。

目的はガルドと騎士団に休息を与えるため。

こうでもしなければガルドは倒れるまで100連爆裂剣の開発に勤しんでいただろう。


「タクトと二人ってのも久しぶりだな」

「そうだな。だいたいはエリザ達と一緒に動いていたからな」

「それでタクト。わざわざ俺を誘った訳は何だ?」


ガルドは急に足を止めて私に尋ねて来る。

理由を隠すこともないので正直に答える。


「このところガルドが100連爆裂剣の習得に根を詰めていたようだから気分転換を兼ねて誘ったんだよ。それにレイムたちの休息も必要だろう」

「タクトは案外、俺達のことも見ているんだな」

「それはどう言う意味だ?」

「ラクレス達と作戦会議で忙しそうにしていたからな。それに戦術だけでなく最近は政治的な部分にも参加するようになっただろう。タクトは俺達よりも忙しくなっているからな」


これまでの戦歴が認められてダゼル国王から助言を求められることが多くなっていた。

政治のことには疎いから、その辺は大臣達に任せているが軍事部門のことでは意見を言うようにしている。

何せ戦闘に大きく関わって来ることだけに無視は出来ないのだ。

まあ、軍事費のことはさておき、兵士の配属や訓練などは率先して意見している。

部隊を指揮するだけに細かなところも把握している必要があるからだ。


「まあ、私の場合は必然的にそうなっただけだよ。しかし、ガルド達は自主的にだろ。その方が凄いよ」

「タクトは相変わらずだな。自分の頑張りを隠して俺達に気を使うところ。指揮官だからなのか、性格なのかわからないが何かと助けられているぜ」


ガルドは少し照れながら私を労う。

こうしてガルドとお互いのことを話すのは初めてかもしれない。

ガルドもガルドでいろいろと見ているようだ。

はじめて出会った時とは打って変わっての成長度合い。

剣術はもちろんのことだがリーダーとしての素質も備わって来たようだ。

これも今までの戦闘の経験がガルドを大きく成長させたのだろう。

もしかしたらガルドも近いうちにグルンベルグ王国の騎士団長に昇格するかもしれない。


「それでこれからどうするんだ?二人でショッピングでもするのか?」

「まさか。エリザ達じゃあるまいし。酒場へ行って酒を飲みながら話すつもりだ」

「昼間から酒か。いいぜ」


ガルドの了承を受けて私達は街の酒場へ足を運んだ。

さすがに昼間からは客もいないだろうと思っていたが、酒場は冒険者達で賑わっていた。


「結構、人が集まっているな」

「私達と同じで息抜きに来たのだろう」


私とガルドはカウンター席に腰を下ろす。


「マスター、この店で一番うまい酒をくれ」

「うちの酒はどれもうまいぜ」


そう言いながら酒場のマスターは棚から高そうな酒瓶を持ってくる。

そしてグラスに氷を入れて並々と注ぐと私達に差し出して来た。

さっそくガルドはグラスを手に取って酒の香りを楽しむ。


「芳醇な果実の香りがするな」

「それは柑橘系の果実を発酵させて造った果実酒だよ。酸味が強いのが特徴だ」

「香りはいいが少し酸味が強いな」

「これを一緒に食べるといいよ」


酒場のマスターが差し出して来たのは甘い果実。

酒を飲んでから食べると口の中でまろやかに変わると言う。

実際に試してみると酒の酸味が和らいでまろやかに変わった。

これはこれでうまい。

しかし、ガルドの口には合わなかったようで別の酒を頼んでいた。


「ガルド、最近は実家のお袋さんと連絡をとっているのか?」

「手紙のやり取りと仕送りだな。うちは母さんが病気がちだから、ぜんぜん収入がないんだ」

「それは心配だろう。一度、実家に戻ったらどうだ?」

「大丈夫だ。妹が母さんの面倒をみているからな」

「妹がいたのか」

「俺に似て可愛いぞ」


それは恐ろしい。

ガルド似なのならば厳つい妹なのだろう。

それでは婿の貰い手がなさそうだ。


「何なら紹介してやってもいいぞ」

「遠慮しておくよ」


ガルドと兄弟にはなりたくない。

仲間としては頼もしいが兄弟としては問題だ。

それにガルド兄さんと呼ばなくてはならなくなる。

それだけは勘弁してもらいたい。

そんなことを頭の中で考えていると急にガルドが振って来た。


「それよりタクト。もう決めたのか?」

「何を?」

「エリザ達のことに決まっているだろう。で、本命は誰なんだ?エリザか?プリシアか?まさか、ルーンじゃないよな?」


ガルドは身を乗り出してがっつくように尋問して来る。

本名と言われてもエリザ達のことは仲間としか思っていない。

だから誰が好きかなんて決められない。

エリザは焼きもち焼きだけど素直になれないところなんてカワイイと思う。

それに対してプリシアは積極的だ。

人前でも構わずに好きと言って私に迫って来る。

それはそれで嬉しいがたまに困ることもある。

ルーンはいつも冷静で私を助けてくれる。

年下だけど頼れるお姉さんって感じかな。


「本名なんていないよ。私はみんな好きだしな」

「おい、何だよ。三又か。食えないヤツだな。そんなことだとみんなに嫌われるぞ」

「そんなんじゃないよ」


こんな状況で誰かなんて決めたらパーティーが崩壊する。

エリザ達の好意は嬉しいが今は誰かなんて決めないほうが無難だ。

ガルドの嫉妬は買うことになりそうだが。


「それよりガルドはどうなんだ?前にルーンがいいと言っていなかったか?」

「ルーンは美人だし胸も大きいからな。俺のタイプだ」


そんなエロ目線で決めつけるのはガルドらしい。


「タクトがルーンを諦めるなら、ルーンにアタックしようかと思ってる」


爆弾発言じゃないか。

ガルドの目を見ると真剣な眼差しだ。

これは本気でそう思っているらしい。

しかし、私がルーンを諦めることを条件にするとは。

まあ、ガルドとルーンの付き合いの方が長いし、私にはわからないこともあるのかもしれない。

けれど、ルーンはまだ心の奥底でクロースのことを引きずっているようにも見える。

もし、あの時、ルーンがリザレクションを覚えていたらクロースを死なせずに済んだ。

そう、ルーンは思っているのかもしれない。

それは私がそうさせてしまったことにも負い目も感じている。

もっとうまく指揮をとれていたらクロースは。

今さら後悔しても遅いが、今だからそう思えることも事実だ。

ガルドが本気でルーンにアタックしても玉砕する方が可能性が高いな。


「私はどちらでもいいよ。ガルドが本気でルーンのことを想っているなら応援する」

「そうか。賛成してくれるか。なら、この戦いが終わったらルーンに告白するぜ」


ガルドは嬉しそうな顔で私とグラスを合わせた。

これで楽しみが増えたな。

ガルドの恋の行方がとうなるのか。

ルーンはどんな返事を返して来るのか。

もしかしたらルーンの本心を聞けるかもしれない。

そんなことを考えていると隣の冒険者達の会話が聞えて来た。


「魔獣ポセイドンが討伐されたらしいぞ」

「本当かよ!誰が殺ったんだ?」

「噂ではサンドリア軍が殺ったらしい」

「マジかよ。あの弱小国家のサンドリア王国がか」

「俺も聞いた時は信じられなかったけどな。何でも優秀な指揮官がいたらしいんだ」

「誰だよ、そいつ」


私は噂話に聞き耳を立てる。

すると、ガルドが隣の冒険者を捕まえて尋ねた。


「その話は本当か?」

「おい、いきなり何だよ」

「魔獣ポセイドンが殺られたってことだよ」

「本当だよ。けど、噂話に過ぎないけどな」


噂話でも聞き捨てならない。

魔獣ポセイドンを討伐できたこと自体が驚きだ。

ヴェズベルト軍でさえ手間取っていた魔獣ポセイドンを討伐したなんて。

サンドリア王国は世界の中でも一番軍事力が少ない弱小国家だ。

それなのに魔獣ポセイドンを討伐出来るほどの軍事力を有していたとは考えにくい。

聖女と魔水晶はすでにないのだ。

噂話では優秀な指揮官がいたと言うことだが。

サンドリア王国の第一騎士団長はクロードと言う男だ。

クロードの指揮が優秀だったから魔獣ポセイドンを討伐出来るまでに至ったのか。

それにしても納得がいかない噂話だ。


「タクト、どう思う?本当にサンドリア軍が魔獣ポセイドンを討伐出来たと思うか?」

「あくまで噂話だからな。サンドリア王国がわざと流したデマとも考えられる」

「だよな。俺達だって魔獣キマイラを討伐してないのにサンドリア王国に出来るとは思えない」


これは噂話の出所を探る必要があるかもしれない。

サンドリア王国が国家の威厳を高めるために流しているデマなら注意しないといけない。

なぜならば何かを企んでいることが予想できるからだ。

サンドリア王国はヴェズベルト王国に侵攻した事実がある。

また、戦争をはじめるために準備しているとも考えられる。


「やっぱりサンドリア王国は何かを企んでいると見るべきだよな」

「その可能性が高いな。ダゼル国王に報告して対策を考えないといけない」

「なら、俺は噂話の出所を探すぜ」

「任せた。私はダゼル国王に報告して来る」


私とガルドは残りの酒を飲み干して立ち上がる。


「せっかくの休日が台無しだな」

「俺は動いる方が生にあっているからな」

「この戦いが終わったら、また二人で酒でも飲もう」


ガルドと次の約束をして私はグルンベルグ城へ向かった。





グルンベルグ城に着くと周りが慌ただしくなっていた。

騎士や文官たちが廊下を駆け回り会議の準備をはじめている。

私も騎士団長に呼び止められて会議室へ向かった。

会議室にはダゼル国王をはじめラクレス、各騎士団長、魔導士部隊の団長達、大臣達が集まっている。

私が下座に座ると会議がはじまった。


「皆に集まってもらったのも他でもない。魔獣ポセイドンの討伐に関することだ」


既にダゼル国王の耳に入っていたのか。

まあ、王都で噂話が持ち上がるくらいだから知っていても当然と言える。


「私達が知りえた情報では魔獣ポセイドンはサンドリア軍に討伐されたと言うことだ」

「それは本当の話なのか?弱小国家であるサンドリア王国に魔獣ポセイドンを討伐できるだけの軍事力を持っているとも思えない」

「サンドリア王国が流したデマではないのか?」

「その可能性も否定できない」


ラクレスは顔を曇らせて黙り込む。

やはりまだラクレス達が押さえている情報は噂話程度に過ぎないようだ。

私達も知ったばかりだし、それは無理もないことなのだ。

ガルドが集めて来る情報を確認してからでも遅くはない。


「しかし、逆を言えば人間にでも魔獣は討伐出来ると言うことではないのか」

「噂話が本当であった場合ならな」


すると、黙って話を聞いていたダゼル国王が私に尋ねて来る。


「それで策士タクトよ。魔獣キマイラ討伐の準備はどうなっておる?」

「兵士の強化も移動式大砲の開発も順調に進んでいます。この調子ならば3ヶ月後には再戦できます」

「そうか。ならばその調子で進めておくんだ」

「魔獣キマイラの討伐はグルンベルグ王国をかけての戦いになる。皆の者、気を引き締めてとりかかれ!」


ダゼル国王の言葉を受けて騎士団長達は立ち上がって敬礼をした。

ダゼル国王はそれほど噂話に囚われていないようだ。

どのみち魔獣キマイラと戦わなくてはならないし、噂話が本当ならばグルンベル軍にも勝機があると言うこと。

しかし、サンドリア王国の企みを知るためにも噂話の出所の調査はするようだ。

ガルドの調査状況も気になる。

私は会議室を後にするとガルドと落ち合うため酒場へ戻った。


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